第三傷糸と、糸が事故を呼ぶ 第31話
「沙々と
「はあ⁉」
驚く利一にきいろは事の顛末を説明することにした。
「太刀川さんね、保健室の先生に手を出されているの。しかも誰にも助けを求めてないみたい。
そんなふしだらな子と沙々が一緒にいたら悪影響じゃない」
「それは……」
きいろの言葉に利一は絶句する。
まさかあの大人しい零が保健室の先生と――利一の背中に悪寒が走る。
「確かにそうだけど、それって本人に確認しなきゃわからないことだろ。
決めつけるのは……」
「でも、わたし見たのよ、この目で最中を」
「そんな……」
きいろに見つめられ、利一の言葉が詰まる。
「沙々はそのことを知っているのか?」
「知らないと思う。
けど、沙々が知る前に別れさせた方がショックを受けなくて済むんじゃないんかなって。
沙々のことを思うとわたし、ほっとけなくて……」
利一は自分の膝を見つめて、熟考したあとに答えを出した。
何よりきいろが悲しんでいるのが決めてだった。
「わかった協力する。あの二人が別れるように」
にやり、と内心きいろは勝ち誇った。
「ありがとう、利一。利一にしか頼めなかったの」
そう言われ、利一は顔を真っ赤にさせた。
「俺なりに頑張る、わ」
ぎこちなく返す利一は、例の話を思い出した。
話がひと段落いたところで、きいろは利一の分の皿も合わせてシンクに運ぶ。
「なあ、きいろ。返事を聞かせてほしい」
きいろは首を傾げるので、やっぱりか、と溜息を吐く。
「告白の返事、だ。こういうのは直接の方がいいだろ」
きいろは顔には出さないものの、マズいと冷や汗が背中を濡らす。
――沙々を別れさせるのが先だったのに……どうしよう。
沙々はわたしと利一が付き合ったらどう思うのかな。
そうポケットにあるスマホに手を忍ばせる。
すると、ナイスタイミングできいろのスマホに電話の着信がきた。
きいろと利一は跳ね上がる勢いで驚く。
――ちょうどいい、沙々に直接訊いてみればいいんだ。
「鳴ってるぞ」
「あ、うん。沙々からだ」
画面には沙々と名前が映っている。
「もしもし、どうしたの?」
電話に出ると、沙々が酷く息を荒げている声が聞こえてきた。
「待って、沙々走ってるの?
駄目じゃない。走っちゃ駄目って言われてるでしょ⁉」
「沙々が? スピーカーにしてくれ」
何事かと利一が身を寄せる。
きいろはスピーカーに電話を切り替える。
「どうしたの⁉」
きいろが必死に問いかける。
荒い息の中で、沙々がゆっくりと声を弾ませながら言う。
「き……きぃ……きいろ、利一に告白された?」
二人は目を合わせた。
――今、話してたことなのに、どうして⁉
沙々に言ったの? と利一に口パクで問いかけるが、かぶりを振られた。
「本当……なんだね」
「沙、沙々はどう思う?」
咄嗟にきいろから出た言葉だった。
きいろは息を呑む。
「僕は……ゴーン、ゴーン」
沙々が喋りはじめたと思ったら、駅前のオブジェの鐘が鳴り始めた。
十三時だから、十三回鳴るはずだ。
「待って、沙々、鐘が鳴って聞こえないの」
すると、「あ」と一言残し、切れた。
ツーツーと電話が切れた音が部屋に響く。
「な、何があったの……?」
「何かあったかもしれない。俺、見てくる」
「わたしもっ」
二人は手ぶらで家を出た。
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