第三傷糸と、糸が事故を呼ぶ 第27話

 勉強会を終え、昼食の替わりにケーキを食べることにした。

 沙々の母親がつくったフルーツケーキを慎重に切り分ける。


 問題は利一が買ってきたカットケーキだ。

 誰が何を食べるのかが問題となった。

 なぜ全て同じ味にしなかったのか、ときいろが咎めたが、利一は好みが分からないからというのが言い分だった。


「じゃあ、せーので指さして、被らなかったらそのケーキを食べるでいい?」

 

 きいろの提案でそういう形式をとることになった。


「せーの」


 きいろはモンブラン、利一はチョコレートケーキ、沙々シャシャと零はショートケーキを指さした。

 余ったのはチーズケーキだ。


「「あ」」


 被った二人は見つめ合う。


「じゃあ、じゃんけんね」


「待って、きいろ。僕、チーズケーキ食べられない。

 そもそもチーズはお菓子にするべきじゃない」


「あ、わたしも同じ、です」


 零も控えめに手を挙げた。


「二人とも食べれないのー? じゃあモンブランは食べれる?

 わたしがチーズケーキ食べるから」


「いいってきいろ。今日は太刀川タチカワさんのために買って来たんだから、沙々が譲るべきだ」


「……でも、チーズケーキヤダ」


「じゃあ、俺のチョコを食べろ。それでいいな? 俺は何でもいける口だし。

 きいろは沙々のことを甘やかしすぎなんだよ」


「利一も例に漏れないけどー?」


「今回だけだ。誰にでも好き嫌いはあるし、主役が食べたいものを食べるべきだろ」


「確かにそうね」


 利一はチョコケーキを沙々に回し、チーズケーキを受け取る。


「…………ありがと、利一」


「どーいたしまして。チョコは食べれるよな」

 

 利一が小馬鹿にしながら訊く。


「食べれるって知ってるでしょ」


 沙々はむっと気色ばんだ。


「はい、利一、太刀川さんに言うことがあるでしょ」


 そう言ってきいろは利一の背中を突いた。

 利一は咳払いをする。


「えーっとみなさん、コップをお持ちください。

 太刀川さん、そして沙々。助けてくれてありがとう。

 そのおかげで市内の大会で優勝することができました。俺の奮闘と英雄二人に乾杯っ」


「かんぱーい」


 コップをチンと合わせる。零だけはコップを上げただけで、さっと手を引いた。


「じゃあ、頂きます」


 きいろが手を合わせ、ケーキのフィルムをフォークで器用に巻き取る。


「利一が音頭をとるとか似合わないねー」


「ね」さらりと沙々も便乗する。


「それ言うか?」


「あ、わたしちょっと席立つね」


 そう言い残し、きいろはトイレに立った。




 その背中を見送ったあと、利一はここぞとばかりに小声で二人に話しかける。


「なあ、ちょっといいか?」


 前のめりになる利一に合わせ、二人も前のめりになり耳を傾ける。


「あのさ、俺ときいろをちょっと二人きりにしてほしいんだけど、協力してくんね?」


「どうして?」


「それは……ちょっと二人でケンカをしたから謝りたいんだ。

 二人の前で謝ると、二人が気まずいだろ?

 だからちょっとだけ席を外してほしい。ちょっとしたケンカだけど、長引かせるのはよくないから」


「ケンカはよくないね。

 食べ終わったら、僕と太刀川さんで駅前のコンビニに行くから、謝りなよ。

 太刀川さんもそれでいい?」


 零はうんうんと頷いた。


――沙々に嘘を吐くのっていつぶりだろ。

  罪悪感が酷い。


「マジありがとー、主役なのにありがとな太刀川さん」


「いいよ……ケンカはよくない、し」


「うん、じゃあ俺頑張るから、二人は自然によろしく」


「任せて」沙々に合わせ、零も頷く。


 きいろがトイレから戻る音がしたので、三人は普通を装い、ケーキを食べ始めるた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る