第二傷重症、重症からの新たな絆 第16話
五月の憲法記念日当日。
沙々はきいろと自宅から一緒に市民体育館へ赴いた。
沙々は途中、零に遭遇しないか冷や冷やしていた。
「今日さ、きいろなんか服がお姉さんだよね。
雰囲気が違う、どうしたの?」
きいろはいつもよりフェミニンで大人の女性らしさを感じる印象の服装だった。
耳にはふわふわのタンポポの綿毛のようなイヤリングを付けている。
「そ、そう? いつもと同じだけど」
髪を指でくるくるといじるので、これはきいろが嘘を吐いている証拠だ。
髪も綺麗に巻いていて、ウェーブがかっている。
――オシャレしてきたんだ。まさか、きいろも利一が……。
「で、沙々から見て、どう?」
「え、僕?」
沙々はポカンとした顔で自分を指さした。
「そうよ、誰のためにオシャレしたと思ってんの⁉」
きいろがキレ気味になったので、ちゃんと査定しようと沙々はきいろをマジマジと観察する。
「ヤダ、そんな見ないでよっ」
きいろが頬を染めて、沙々を小突いた。
「え、どっちなの? 可愛いじゃない? お姉さんみたいだよ」
「そ、そう? こ、これ見て‼」
きいろは大きなバックから横断幕を引っぱり出した。
「これ、徹夜して作ったの。二人で持と‼」
そう言って広げた横断幕は、淡いグリーンの生地に「燃えろ 利一」と達筆で書かれていた。
流石きいろ、習字で段をもっているだけある。
「おー、すごいね。きっと利一が喜ぶよ」
「でしょ? 利一の学校の色が緑だから、その色に染めるのが大変だったんだから。もっと濃い色にしたかったけど、これが限界」
「これもいい色だと思うんだけど」
「ホント? それならいいんだけど」
「ね、君が九十九
体育館裏の水道で利一が足をアイシングしていた。
そこに子が現れた。
ちょうど水道のコンクリートの壁を隔てており、そこからひょっと顔を出した形だ。
ラフなラインのパーカーにジーンズで年齢も身分もわからない恰好をしている。
「誰――」
利一が言葉を発する前に、女の子に先手を打たれた。
「怪我してるのね。もし治したかったら、沙々くんのことを呼ぶといいよ。そうすればその怪我も治るよ。沙々ーってね」
女の子は叫ぶ真似をして、その場から月が沈むように消えていった。
「なんだったんだ……? 痛って……」
利一は女の子を追おうと地面に左脚を着く。
と、神経を刺すような強い痛みが走る。
この脚でバドミントンの軽快な動きと高いジャンプをするのは至難の業だ。
おまけに左脚をかばうと右脚に倍の負担がかかって、右脚も痛めている。
だが、脚を痛めているのがバレてしまったら、試合に出してもらえない。
そう思うと、左脚の靭帯を痛めていることは誰にも言えないのだ。
声と痛みを噛み殺し、先の女の子の言葉を反芻する。
――もし治したかったら、沙々の名前を呼べ? 沙々が頭いいからって、俺のを治せるわけないだろ。それに、なんで沙々の名前を知っているんだ? あいつ有名人すぎだろ。
「九十九ー、呼ばれてるぞー」
先輩に体育館内から呼び出され、行かざる終えなかった。
「うーっす、今行きますっ」
リイチは、今できる精一杯の元気な声を出した。
タオルで脚の水分を拭き取り、サポーターを巻いて、体育館へ戻った。
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