第一傷初めて、初めての裏垢男子と鐘 第15話

 沙々は生唾をごくりと喉に流す。

 零は先と打って変わって、明るい無邪気な口調に戻った。


「裏垢を特定したのはね、戒田先生なんだ」


「え」


 慄いたせいか声を出すというよりも、空気がひゅっと喉に入ってきた。


「ど、どうして戒田先生が?」


「元々、この学校の生徒のSNSアカウントの特定が趣味らしくてね。

 なんか、生徒の弱みを握ってると思うと、気を強く保っていられるんだって。

 あの人らしいわ。

 特定した方法は秘密だから、絶対教えてくれないけど、沙々くんの弱みを握ったから、わたしと沙々くんの交際の背中を押されたの」


「じゃあ、先生に言われたから付き合ってるの?」


「違うっ違うっ」


 零が素早く手を横に振って否定する。


「傷を治せることは先生に言ってないから。あ、言わないでね。わたしが単に沙々くんを好きで丁度弱みをゲットできたって感じだから、こういうお付き合いしてるわけ。

 結果だけ見れば言いなりに聞こえるけど、わたしもわたしの意志あるの‼

 いい⁉」


 零の熱弁に沙々はうんうんと相槌を打つ。


「本当にわかってるの⁉」


「だから、うなずいたじゃん」


「なんか、ポケ~ってしてるからちゃんと通じてるかどうか不安になんの‼

 んで、次どこ治す⁉」


 半ギレしたまま次の話に移るようだ。


――やっぱり太刀川さんって面白い人だなあ。


「じゃあ、前やってない右腕と太もも」


「そっか、脚もやってるんだっけね。じゃあ、ズボン脱いで」


「へ?」


――待って、女の子がズボン脱げとか平気で言うの?


「だーかーらー、直接触らないと効果がないの。早いとこ脱いでよ。パンツも脱げって言ってるわけじゃあるまいし」


「パッ⁉ 履いたままに決まってるよ‼ 

 ……じゃあ、僕が手で誘導するから目つむってて」


「恥ずかしいの? 恋人同士なのに?」


「順序があるでしょ……脱ぐから後ろ向いてて」


「わかったわかった」


 零は呆れつつも後ろを向いた。



「ありがとう、太刀川さん。綺麗に治ったよ」


 施術後、綺麗になった肌に嬉々とする沙々に対して、零は痛みに悶え苦しんでいた。


「ちょっと、今喋り掛けないでっ。痛みに響くからっ」

 

「わかった」


 しばらく沈黙に席を譲ったあと、沙々が頃合いを見て疑問を口にした。


「どうして、太刀川さんはそんな痛い思いまでして、僕の傷を治してくれるの?」


「…………愛だよ、愛。ラブってこと」


「……そっか」


――僕、太刀川さんのことラブじゃないから、申し訳ないなあ。


「ねえ、さっきからさあ苗字で呼ぶけど、下の名前で呼んでくれない? 

 恋人同士が苗字で呼び合うなんておかしいよ」


「そういうモノなの?」


「そういうモノ」


「……じゃあ順序があるから、その手順を踏んでから、かな」


 そう照れながら頭を掻いた。


「手順って何⁉」


 そう訊かれたが、敢えて返事はしなかった。











【コメント】ここまでお付き合いありがとうございます<m(__)m>

 次から次章に入ります‼ 新キャラ登場の予感……。

 楽しんで頂けると光栄です‼

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