第一傷初めて、初めての裏垢男子と鐘 第10話
電車に揺られ、夕陽が顔を出し始めた頃。少し離れた席に二人は座っていた。
「ねえ、映画ってどんな話なの?」
「えー聞いちゃう? もったいないよ」
沙々は気にせず、問いかけの視線を向ける。
「うん。心構えしたいから。そういうの見るの初めてだし」
「待ってね」零はスマホを取り出し、検索をかけた。
「これ」
そう言って、スマホに映った映画のポスターを見せた。
「ごめん、反射してよく見えない」
沙々は肩を寄せて、スマホを覗き込む。
紅茶が注がれるティーカップがメインで、下の方にチャンソーを持ち血を浴びた青年と、背景に数人の険しい顔をした人々と立派な館が写っているポスターだった。
「どんな話?」
「この写っているティーカップがボーンチャイナっていう人の骨を混ぜて作ったティーカップなんだけどね、その骨がなんと‼ ――」
零が映画について熱弁している間にショッピングモールがある駅に着いた。
零は口が巧くて、まるで落語の前座を聞いているみたいで楽しかった。
零のネタバレ無しの説明だけで、どんな映画か胸がわくわくした。
――こんなに喋るの上手なら、もっと普段から喋ればいいのに。もったいないなあ。
そのことを零に告げると、零は困った顔をして「そういう決まりだから」と言った。
沙々はなんて返せばいいか分からず、そっと話を畳んだ。
映画館に着くと、零がチケットを買ってきてくれると言ったので、お言葉に甘えてお金だけ渡した。
もちろん、零の分もだ。
なんとなく、こういうところは男が出す礼儀というイメージだけは知っていたからだ。
渡し過ぎたのか、お釣りがたくさん返ってきた。
高校生だと、映画は1500円で見れるらしい。
そんなに安かったのか、と沙々は感銘を受けた。
映画はもっと敷居が高く見えていたからだ。
売店でポップコーンが売っているので、買ってみたいと言ってみた。
けれど零は
「映画にポップコーンも炭酸ジュースもいらないのよ。作品の邪魔になるでしょ」
と却下された。
沙々の中での映画のイメージが大きく崩れた。
――映画館ってポップ&コークっていう売り文句を聞いたことがあるけど……無いい方がいいのか。なんか真剣に映画だけを楽しみに来た、ガチ勢ってやつみたい。
映画館の席に着くと、そこは二人掛けのペアシートだった。
「え、ここ二人で座るとこだけど……他は一人掛けなのに、どうして?」
「どうしてって、そりゃカップルだからカップルシートに座るに決まってるでしょ」
――カップルシートって言うんだ。二つ名かな。
沙々の知識レベルが上がった。
「そ、そういうモン?」
「そ。そういうモン」
そう頷いて、零は沙々を奥の席へと押し込んだ。
「なんか、近いね」
座ってみると、二人の肩があと一センチほどでぶつかってしまいそうだ。
「ね、でも恋人同士だからおかしくないでしょう?」
零はうす暗い中、にっこりと笑って沙々の顔を覗き込んだ。
「お、おかしくない、ね?」
謎の圧に押され、そう答えざる終えなかった。
きいろと同じ距離感の女子は珍しいので、とても不思議な体験をしているようだった。
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