第14話 遅ればせながら



 三木たちの策略もあり、急遽婚約した2人だったが、蓮は休日に黎明をどこか良いレストランに連れて行きたいと思っていた。


東京も肌寒くなり、コートが必要になってきた頃、蓮は黎明を初めてデートに誘った。これまで、スイスでは2人で観光をしたり、日本でも食事に行ったりすることはあったが、休日は真木親子や、暁も一緒に過ごすことが多かったので、ただ丸一日デートに行くのは実は初めてであった。


蓮は、チャットアプリで黎明の休日の予定を確認した時に、黎明が全く何もわかっていないようなので、わざわざ「デートだよ」と送ったのがとても恥ずかしかった。


黎明は、普段夕食は真木親子の家で作ったり、家に暁が来て黎明が作った料理を一緒に食べることが多かったが、デートの前の晩家に来ていた暁に「何かあったのか?」と聞かれてしまうほど緊張して上の空だった。


当然ながら今更初デートに緊張していることを笑われたが、何を着ればいいかわからなくて悩んでいたというと、一緒に選んでくれた。服やメイクにやたら詳しい暁に疑問を持ったが黎明は怖いので聞かないことにした。その日の暁の服装はシルクの白いシャツに黒いパンツで、どこぞの映画のヴァンパイアかと思うような雰囲気でとても美しかったので、暁は女装をしても似合いそうだなと思ってしまったが、絶対に言うまいと思った。


暁は多少格式高い場所に連れて行かれても大丈夫なように黒のワンピースを選んだ。一見シンプルなデザインだったが黎明が着るととても華やかに見えるのだった。


暁は、「デート楽しんできてね」というと満足げに帰っていった。


黎明は、しっかりパックをして早めに寝ようと思ったが目が冴えてしまってなかなか眠れなかった。


小さな頃から憧れていた蓮が、自分を好きになってくれたことが今でも嬉しくて胸がいっぱいだった。布団を上にギュッと引っ張って微笑みながら眠りについた。


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初デートは、いろいろ迷った末小さな店が並び、若者に人気がある街を歩くことになった。

蓮は、カジュアルなシャツにトレンチコートを合わせていたがモデルさながらで、待ち合わせの時点で人目を引いていた。黎明は蓮があまりにかっこいいので隣で歩く自分は釣り合っているだろうかとたじろいでしまったが、歩き出した蓮が黎明の手を繋ぎ、優しく微笑むとそんなことはどうでも良くなってしまった。


昼時に待ち合わせたので、テラスのあるお洒落なレストランでランチを済ませてから街を歩くことにしたが、それが問題であった。


かなり頻繁に黎明も蓮も芸能関係者から声をかけられてお互い苦笑いであった。


服を見にお店に入っても店のSNSに試着写真を載せさせて欲しいと言われ、顔を写さないならと言うと、残念な顔をされたりした。


それでも2人のデートは楽しかった。蓮は黎明に似合う服やアクセサリーがあるとすぐに買おうとするので焦ったが、黎明も蓮によく似合うセーターをプレゼントした。今まで蓮に身につけられるプレゼントを贈りたいと思ったことは何度もあったが、選ぶのが難しかったので、一緒に見て選ぶことができて黎明は嬉しかった。それに、男性物を見る時には誠一郎に似合いそうなものを蓮に確認することも忘れなかった。来月のクリスマスには何か贈り物をしたいと思っていたからである。


また、街を歩いても声をかけられないようにする対策として、2人は芸能人のふりをすることにした。といっても、お忍びデート風に伊達眼鏡をかけただけであるが、少しだけ役に立った気がして2人は笑い合った。しかし黎明は眼鏡をかけた蓮もかっこよすぎてずっとドキドキしていた。


少し休憩をしようと入ったカフェで、黎明は蓮の高校時代について尋ねた。


「蓮は高校の時三木先輩とバンドをやったことがあるんでしょ?なんでやめちゃったの?」


蓮は気まずそうな顔をしたので、黎明は聞いてはいけないことを聞いてしまったかと思った。


「ちょっと、人が入りすぎたんだ…」

蓮は少し言いづらそうに話し始めた。


「前に、アスミが真木派とか三木派とか言ってたの覚えてる?」


「うん」


「前座だったのに、俺と三木が2人でボーカルやったら人が入りすぎてひんしゅく買ったんだ。そのあとは後ろでベースとかやるようにしたら、真木派と言われる人たちがいろいろとうるさくなって…ネットに動画とかもあげられたりしていろいろ面倒なことに巻き込まれて…」


「要するに人気が出過ぎて困ったってわけね」

と、黎明が笑うと、蓮が


「あれは、本当に大変だった…」と少しげっそりしたような顔で言うので流石にかわいそうになった。真木派と三木派は仲が悪かったらしいがそんな経緯だったのだ。


「どんな曲歌ってたの?」と、黎明は明るい方に話を持っていこうと聞いてみた。


「三木が今みたいにマイナーなジャンル演奏するようになったのは留学してからだから、その頃は当時人気の海外のバンドの曲とか、80年代の洋楽とかもやったかな。」


「この曲とかこれもやったかな」と、蓮がプレイリストを見せてくれたが、これをあの声で歌ったらそれは凄いことになりそうだ、と黎明は想像がついた。はっきり、めちゃくちゃかっこいいだろうと。


当時、ヒットした曲が入ったアルバムの中の日本ではあまり知られていなかった曲を蓮が歌うと、ヒット曲以上にその曲が有名になったという。


「あと、三木がラップのパート、そして俺がコーラスを歌ったりもしたな。」蓮は懐かしそうに言った。


「それはまた大盛況だったんじゃない?」

と黎明がいうと


「あれはすごく盛り上がったな、一番ウケたと思う」と、蓮は嬉しそうに言った。


本当は歌うのが好きなんだろうなと黎明は思った。


「私も聴いてみたかったな、蓮の声とっても好き」

黎明は、蓮と同じ時代に自分が高校生でいられなかったことがとても残念だった。


「黎明が聴きたいならいつでも歌うよ」

蓮はそう言いながら、黎明がさらっと「好き」と言ってのけたことに、昔、山に連れていって「良い匂い」と言われたことを思い出して、無自覚すぎる言動にこちらの身にもなって欲しいと心で嘆いた。


黎明は黎明で、自分で言ったことには無自覚だったが、自分のためだけに歌うと言われているような気がして照れているのがバレないように必死だった。


そんなドラマの中から出てきたように整った顔立ちの2人の会話についつい聞き耳を立ててしまった周囲の客が赤面したのを2人は知らなかった。


黎明は照れてしまってつい話題を変えてしまった。

「蓮はベースもやってチェロとかもやってたんでしょ?吹奏楽部って似合わなすぎてびっくりした」


「吹奏楽部はほとんど身体がでかかったって理由だけでコントラバスとかチェロやらないかって言われたんだ。楽器は三木の家にいろいろあってよく行って楽器で遊んでるうちに覚えた。」


「男の子って友達の家に行ったら必ずゲームしてるイメージなんだけど蓮と三木先輩は楽器弾いてたんだ」


「はは、そうだね。三木の家は音楽好きで、すごくいいスピーカーとかあっておばさんがいつもいろんな音楽を流してたりしてね。自然とそうなった。」


「三木先輩のお母さんって何してる人?」


「料理研究家?みたいな感じ。本とか出してるよ。」


「ええ⁉︎そうなの⁉︎」


「料理教室とかもやってたから、いつも試作品って言ってお菓子とかご馳走になってたな。」

蓮は懐かしそうに言った。


「うちの母親とは親友だったみたいで、母親が亡くなってからは、いろいろ心配して気にかけてくれたんだ。」

黎明は蓮が母親について話したのが初めてだったので、少し戸惑った。それに気付いてか蓮は優しく微笑んで母親について話してくれた。


「俺の母親は、親父と体育大学で出会って新体操の選手だったんだ。亡くなったのは俺が7歳くらいの時、運転中に気を失ったドライバーが歩道に突っ込んで、その時に近くを歩いてた母は通学中の子どもを庇って亡くなったんだ。」


黎明は息を呑んだ。


「その子どもは…」恐る恐る黎明は聞いた。


「軽傷ですんだ。その時は俺も辛かったし、ドライバーに怒りを感じたりもしたけど、今では母親の行動を誇りに思うし、母の子どもで良かったと心から思うよ。」


咄嗟の自分の身を顧みない判断、決して誰にでもできることではない。本当に勇気のある行動だ。それにそんな小さな時に突然母親を失ってどんなに辛い思いをしただろうか。黎明は孤児院にいたので親を失った子どもも何人か見てきたので、心が痛かった。


「立派なお母さんだったんだな」そう思ったけれど、そんな一言で表せるようなものではないと思い、


「話してくれてありがとう」と言った。


「俺は本当に人に恵まれてるんだ。親父が頑張ってくれたのはもちろんだけど、三木や三木の母親そして黎明がいたから。」


黎明は驚いた顔をした。

「私は何もしてないよ?」


「親父は俺が黎明と遊ぶようになって明るくなったって言ってた」

そう言って少し照れたように笑った。


「そう言ったら私も本当にみんなに支えられてここまで来れたよ。私他の人から見たら可哀想って思う人がいるかもしれない境遇ではあるけれど人生で寂しかったことって一度もないの。ずっと幸せだった。そして今人生で1番幸せ。」

そう言って黎明はきらきらとした笑顔を浮かべた。


蓮はまた無自覚に…と思い、ソファに横並びに座っていたので肩を抱き寄せて頭にキスをした。


ここ日本だよ⁉︎と黎明は思ったけれど、嬉しくて胸が少しくすぐったくなった。


「夜、レストラン予約してるけどここから歩いても電車でも行けるけどどうする?」


蓮が聞くと黎明が歩くと言ったので、店が多く楽そうな道を選んでゆっくり2人で歩いた。


レストランはビルの最上階の夜景が綺麗な高級そうな場所だった。黎明は今日のコーディネートを選んでくれた暁には脱帽だった。


近くで見ると猥雑な街でも、こうして夜景として見ると綺麗だから不思議だ。


「スイスで夜景を見たのを思い出すね。」


「うん、それよりずっとカラフルでキラキラしてるね」


「汚い街だからこその綺麗さって面白いな」

蓮も黎明と同じことを考えていた。


「コースでいいかい?」


「うん」照明も暗めに設定されていて、黎明は初めて大人が来る場所に踏み入れたみたいで緊張していた。


運ばれてくる料理はどれも盛り付けが一つ一つ芸術作品のように美しく食べるのがもったいないほどだった。


シャンパンのグラスからは泡が一筋に綺麗に上がっていた。落ち着いたBGMも心地よく次第に緊張もほぐれてきた。


緊張で食事が喉を通らないなんてことはなく、見た目も味も楽しみながら気付いたらドルチェの際の飲み物を聞かれていた。


蓮はドルチェが運ばれてくると、またその美しさに黎明は歓声をあげた。そして目を上げると蓮は微笑んで、一輪の赤い薔薇とそれに添えられたネックレスを手渡した。黎明は驚いて息を呑んだ。またいつの間に用意したのだろう。


「本当はプロポーズするタイミングだけど、もうしちゃったからね」

そういうと歯を見せて笑った。


「黎明、愛してるよ、どうぞこれからもよろしく」そう言ってはにかんだ。


「ありがとう。私もとっても愛してる。不束者ですがどうぞよろしくお願いします」

黎明もそう言って同じ顔ではにかんだ。


「ネックレスつけてあげるよ」そういうと蓮は席を立って黎明の後ろに周った。


「OK」蓮がネックレスを付け終えてそう言うと黎明は髪を下ろした。


ありがとう、と蓮を見上げようとするとそのまま優しくキスをされた。


顔を離した蓮を見ると瞳がきらきらと光って見えてなんて美しい人なんだろうと思った。


「とっても綺麗だよ」蓮は言った。


「綺麗なのは蓮だよ」

そう返すと


「綺麗だなんて初めて言われたよ」と蓮は笑った。


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帰り道はちょっと浮き足立っていたかもしれない。それかお酒には弱いわけではないが緊張のせいで少し酔いが回るのが早かったのかもしれない。


いつもはもっと慎重に行動していた。

子どもの頃はうっかりして危ういこともあったけれど、大人になってからはそんな失敗はしなかった。


休日になれば東京の雑踏も少しは静まる物だが、この街は休むことを知らなかった。東京は人身事故が多いが何も自殺ばかりではない。酔っ払って線路に落ちてしまう人も多くいるのだ。ホームドア設置も進んでいるがまた間に合っていない。


その男はその日、部活の練習後の飲み会で散々飲んで泥酔していた。友人たちには心配されたが「大丈夫、大丈夫」と言いながら駅に向かった。


蓮は黎明を混雑した駅の雑踏から庇うように歩いていた。


「電車が参ります!線路から離れてください!」そんな駅員の声や電子音がけたたましく鳴り響いていた。黎明はスイスから帰ってきてからしばらくはこんな音に耐えられなかったが今は慣れている。


そんなことを考えていた時だった、手前を歩く男がふらついたかと思うと足を踏み外して線路に落ちた。


電車はすでに駅に侵入してきている。誰もが「ああもうだめだ」と思い。悲鳴を上げる人もいた。


一瞬のことだった。黎明は線路に飛び込み、電車が直前にまで迫っているにも関わらず、線路に倒れている男性の身体の下に手を回すとそのままお姫様抱っこをしてその状態で垂直跳びをしてホームに男性を下ろした。


ホームでそれを見ていた人がスマホを構えるのと蓮がコートを黎明に被せるのはほぼ同時くらいだった。


「いますぐここを離れるぞ」

蓮は低い声でそういうと、コートを黎明に被せたまま急いでその場を離れた。


誰が見ているかわからないので、一度駅から出て、コートを被せたままほとんど小走りでかなり離れたところまで行った。


「ここまで来ればたぶん、どんなに好奇心旺盛なやつでも来ないだろう」


そういうと蓮は黎明にコートを被せるのをやっとやめた。


蓮がすごく険しい顔をしていたので、黎明は怖かった。


「ごめんなさい、迂闊だった。」


「そうじゃない」

蓮の声のトーンは低く、黎明は何も言えなくなった。相当怒らせてしまったと思った。


「正しい行動だった。考える暇だってなかった。一瞬のことだったから。」

蓮は黎明の目を見ずに言った。ほぼ自分に言い聞かせているかのような言い方だった。その時黎明は蓮が小刻みに震えているのに気付いた。そして自分は何てことをしてしまったのかと思った。


「君も失うかと思った。」蓮は掠れた声で絞り出すように言った。そして、その場の階段にしゃがみ込んで頭を抱えた。


「ごめんなさい!私…」黎明は蓮を抱きしめて泣いた。蓮の母はほとんど自分と同じようなことをして亡くなったのだ。黎明にとっては余裕がある状況だった、死なない確信があった。しかし、普通はそうではない。


「私は絶対にいなくならないわ。ずっと蓮のそばにいる。ずっと離れない。」


蓮の震えがようやく収まると黎明を抱いて、

「君が本当に強いし、身体能力が普通じゃないのもわかってる。今回だってきっと君には余裕があったと思う。でもどうか、無理はしないで。不死身じゃないんだ。」

黎明は自分の肩のあたりに涙が落ちたのを感じた。


「ごめんなさい。また同じことがあったら身体が動いてしまうかもしれない、でも絶対に死なないわ。必ず蓮のところに戻ってくるわ。」


「うん、そうしてくれ。君は人の命を救ったんだ。立派な行動だった。」

そう言って蓮はしばらく黎明を離さなかった。


「そろそろ最終電車だ。戻ろうか。」蓮が静かに言った。


「うん」

2人は静かに歩き始めた。


「動画、撮られたかな」黎明は言った。


「男が落ちた時からカメラを構えるような人でなしがいない限りはたぶん大丈夫なはず」


そう言いながら、SNSでタグを探して蓮はチェックしていた。写真が上がっていたが、幸い2人とも顔は写っていなかった。しかし、「#超人」というタグを見つけて顔をしかめた。特定されることだけは何が何でも避けたい。そして残念ながら男性の顔が写ってしまっている動画は複数出てきた。


「ただ、防犯カメラに映っている可能性がある。親父は管轄外だから何もできない。ちょっと気が引けるけど暁に頼むしかないと思う。」

ちょっと非合法に処理するということだ。


「私からすぐに頼むわ」そういうと黎明は暁に電話をかけると、今夜中に家で何とかできるから問題ないと言われた。てっきり駅に侵入させることになると思っていたので拍子抜けといえばそうだった。その回答に安心していられないのは蓮だった。セキュリティの甘さに助けられつつ頭を抱えることになった。


駅まで歩くと、蓮は

「やっぱりタクシーで帰ろう」と言った。


「そこまでしなくても大丈夫じゃない?」

と、黎明は言ったが、


「世の中には、暇な奴がいるもんだ。そして誰が見ていたかわからない。最寄り駅まで特定される可能性だってある。念には念を。」と、言うとタクシーで黎明の家に帰った。


そして玄関のドアに着くまで、過剰なくらいに蓮は周囲を警戒していた。黎明がもうここまできたら大丈夫だよと笑ったが、蓮は本気だった。


「黎明、あの時ものすごく目立ってたんだよ。そして、黎明自体歩いているだけで目立つんだ。あの時天使か何かが助けたと思った人がいたかもしれないよ。」と本気で言うものだから、


「大袈裟だよ」と黎明は笑った。


「でも、俺みたいな仕事してるとほんとにとんでもない話を聞くこともあるんだ。現代は写真の解像度も上がってるし、写真で検索することだってできる。ほんの些細な特徴から、住所や学校、職場を割り出しすようなことをする奴は少なくないんだ。」


そこまで言われると黎明も不安になった。


「だから、しばらくは気をつけて。何かあったらすぐに知らせて。あと、できるだけ暁と一緒に行動して。」


「うん、わかった。マスクとか付けとく。」


「うん、それがいい。」


そして、蓮は黎明を強く抱きしめた。

「とにかく無事でよかった。」

そういうと、口付けた。いつもより長く。黎明は匂いや温度から蓮が心配していて、そして今までになく心細い気持ちでいることが伝わってきて心が痛んだ。


黎明は蓮を抱きしめると背中を優しく叩いた。

身体を離すとすごく蓮が寂しげだった。今までそんな姿を見たことがなかった。


「じゃあ…」といいかけた蓮に黎明は、口を開こうとした。しかしそれより、先に蓮が


「わがままを言っていいかな。もう少し一緒にいたい。」そう言った。


間違っても「泊まっていく?」なんてこのタイミングで黎明に言わせるものかと思った。


「うん、私もそう思っていた」と黎明は微笑んだ。


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「温かいお茶を淹れるね」

黎明は、そういうとノンカフェインのカモミールティーを淹れた。


「ありがとう」


時刻は深夜1時を過ぎていた。


「お疲れ様」黎明は何を言えばいいか分からずそう言った。


「ああ、お互いにね」蓮が言った。


「明日、仕事だよね。」


「ああ」


「お風呂お湯入れる?」


「いや、いいよ始発で帰るから」


「今日たくさん外歩いたし、シャワーだけでよければ遠慮せず使って。暁の服でよければあるから。」


「ありがとう」


風呂を上がると黎明が布団を敷いてくれていた。黎明の家に泊まったことは一度もない。さっき帰らない選択をした時にこうなることはわかっていたがうやむやにしてしまっていた。


黎明が風呂を出てからも、当たり障りのない会話をしていたが、蓮は駅での出来事からまだあまり切り替えができていない上、なし崩しに泊まってしまったことで、なんとも言えない落ち着かない気持ちだった。


黎明も落ち着かなかったが、時刻はもう3時近くになっていたので、


「そろそろ寝ようか」と言った。


「そうだね、おやすみ」と言って2人は眠ろうとした。


しかし、黎明は自分と同じシャンプーやボディーソープの匂いに混ざり、蓮の不安と心細い匂いが変わっていないことが気がかりだった。


「蓮、起きてる?」電気を消して真っ暗な中黎明は名前を呼んだ。蓮から返事はなかったが起きているのがわかった。


「私はずっと蓮の側にいるからね。」黎明は豹になると蓮のが寝ている布団の隣に伏せた。蓮は少しずれる黎明の場所を空けた。豹になるとかなり大きかったので1人と1匹には布団は小さ過ぎたが、蓮は豹に腕を回して抱くと、

「ありがとう」と言って、すぐに眠りについた。安心している匂いに変わったのがわかると黎明も眠りについた。




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