第19話 子供の成長
朝日が眩しくて目を開いた。
手に小さなぬくもりが感じられる。
その先には小さく丸まって規則正しい寝息を立てているミリア。
このひとときが俺の心を温かくし、心を浄化していってくれる気がする。
天井を見ながらぼんやり考える。
今日は何をしようか。
まともにミリアと遊んだ記憶はない。
どこかへ行ってみようか。
そんなことを考えてみたが、少し考えて無駄だと悟った。
ミリアに聞くのが一番だと気が付いたからだ。
この異世界の朝も、鳥がさえずっている。
ニワトリのような声も遠くで聞こえる。
似たような鳥がいるのだろう。
まぁ、鶏肉も仕入れることができるくらいだからな。そんな鳥もいるのだろう。俺がよく知らないだけだと思う。
「あれ? リューちゃん。おはよう」
「おはよう。ミリア、今日はどこかいきたいところとかあるか? 休みだから、どこにでも連れて行くぞ?」
目を瞑って少し考えているようだ。
眉をハの字にしながら「ウーン」と唸っている。
別にどこでもいいのだが、行きたいところがないのだろうか。
まぁ、地球のようにテーマパークがあるわけではないし。
子供が楽しめる何かがあるかと言われれば、俺も知らないのだけど。
子供達も、たまにはスイーツが食べたいだろうか。
そんなことを考えていたら。
ミリアが目を見開いた。
「リューちゃんのごはんがたべたい!」
「いつも食べているだろう?」
「でも、たべたいのー」
ここにばかりいるとつまらないだろう。
だったら、困っている人がいないかの情報収集がてらに街を散策しながら新しい食材でも探すか。
「それなら、新しい食材を探しに行くから、ついてきてもらっていいか?」
「いいよぉ」
ついでに、アッシュさんの奥さんに教えてもらったパフェでも食べるか。
イワンとリツも連れて行こうか。
布団を畳み、朝飯を作りに厨房へと足を踏み入れる。
今日はゆっくりしてしまったようで、いつも起きる時間より日が少し高い。
みそ汁を作っていたら、引き戸が開いた。
「あー! リューちゃん。おはよー!」
「リュウさーん。おはようございます」
元気に中へ入ってきたのはリツだった。その後に、イワンが挨拶しながら入ってくる。
アオイ、サクヤも続いて入ってきた。
「おう。来たか。デザートを食べに行く前だが、朝飯食ってけよ」
「わぁ! ありがとうございます!」
サクヤが飛んで喜ぶ。
「あー! みんなきた!」
ミリアも奥からやってきた。
一緒にテーブルへと座っている。
朝だからサブの塩焼きにするか。
丁寧に骨を抜いて下処理をしていたサバに似た、サブの切り身を網の上で焼いていく。
いつも使う、炎の出る魔導コンロを使う。
魔石の仕入れの値段もバカにならない。
そのへんもどうにかしたいなぁなどと考えていたら焼けていた。香ばしい魚の焼ける香りが厨房を彩る。
魚の皮目がいい焦げ目だったので、皿へと取り上げる。
「持っていきますね!」
「あぁ。ありがとう。でもよ、休みなんだ。座っててもいいんだぞ?」
「そういうわけにもいかないですよ! リュウさんは働いているじゃないですか!」
「俺が好きでやってることだからよぉ」
料理を作るのは、俺からしたら日課のようなものだ。
苦になるようなことじゃない。
それぞれのテーブルに配ってくれたサクヤとアオイ。
このメンツはもう家族のようなものだ。
一緒に食卓を囲む瞬間が幸せでしょうがない。
自分も席へと着き、昨日の余ったコメを鍋で熱したものを配っていく。これのいいところは、おいしいオコゲが多くできるというところ。
「わーい。オコゲいっぱーい!」
リツが嬉しそうに口へと米を運ぶ。
幸せそうな顔が俺の心を温めていく。
夢中になって食べているのを眺めながらも、俺もサブの身を頬張る。
後片付けをすると、アオイとサクヤはそわそわしている。
「二人とも、気を使うな。行ってこい」
アオイとサクヤはこちらを申し訳なさそうに見ながら頭を下げた。
「「お願いします!」」
手を上げて二人を見送ると、イワンとリツは厨房へやってきた。ここもこの子達からしたら、遊び場のようなものなんだろう。刃物は出していないし。コンロには近づかないあたりが偉いなと感心する。
「リューちゃん。今日はずっと一緒なの?」
リツがウキウキで聞いてきた。
「そうだぞぉ。今日は、俺が新しい食材を探しに行くんだ。ミリアとイワンとリツの三人は、俺と一緒に仕入れへ行くんだ。手伝ってくれるか?」
「えー! いくいくぅ!」
ノリノリのリツ。
奥から改めてやってきたミリアは顔をしっかり洗ってきたようだ。
店の魔法錠を閉めて街へと繰り出す。
市場は街の外れにあるため、メインの通りからは外れていく。
住宅街とは逆の方向だ。
だから、油断していた。
まさか、リツとイワンを知っている子供がいるとは。
「わー! いろんなお店があるー!」
リツが走っていくのを追ってイワンが駆けていく。
ゆっくり後から付いていくと、なにやら大声で何か言われている。
「おまえー! 親がいないんだろう⁉ だから、ビンボーなんだろう? 母上がいっていたぞぉ!」
綺麗な身なりをした子供がリツに怒鳴っている。
リツは委縮して縮こまっていた。
これは、許すことができないな。
自分が出て行こうと、そう思ったが。
グイッとリツを自分の後ろへと隠したイワン。
その子供の前へと立ちふさがる。
「今はサクヤ姉さん、アオイ姉さんが親です。あなたには関係ないでしょう」
冷静にイワンが反論した。
「そのお姉さん達も、親がいないんだろう? 母上がいっていたぞぉ!」
なんだあの子供は。言いすぎだ。
体が一歩前へと踏み出した。
助けに入ろうとしたが、イワンは手を広げてその身綺麗な子供の前へと踏み出した。
「おまえに関係ない! 誰が何と言おうと! アオイ姉さんと、サクヤ姉さんが僕たちの親だ!」
その勢いにたじろいだ子供は、「フンッ」と戸惑いながらどこかへと去っていった。
俺は、込み上げる気持ちを飲み込むのに必死だった。
まだ小さいのに、しっかりと兄という自覚を持ちながら生きている。
弟を守る存在だと認識し、実行する。それが、どんなに難しいことだろうか。
後ろから歩み寄ると、イワンの頭にポンッと手を置き、ワシャワシャとなでてやった。
「カッコよかったぞ。イワン」
照れくさそうにハニカミながらニコッと笑う。
最初合った時から、強い目をしていたのを覚えている。ただ、小さくなって申し訳なさそうにしていたイワンは、もうどこにもいなかった。
子供というのは、誰に言われなくても成長するのだろう。
それを身をもって感じた瞬間だった。
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