第15話 手伝わせて
ミリアの腹痛がよくなって翌日。
アオイへ前日の給金を払ったのだが、夜営業をしてないのにこんなに貰えないといって次の日もアオイが続けて出てくれることになった。
アオイとサクヤしか従業員はいないため、いいのだが。
ずっと働くわけにもいかないし。
休みの日もつくらなければなぁと思っていた。
一応この世界にも一週間のようなサイクルの概念がある。
だから、そのうちの一日はお休みしようと思う。
こども食堂を休むわけにはいかないが。
続けてアオイの昼シフトだった。
「おっ! 今日も青いねぇちゃんか。おやっさん、あんまりこき使うなよぉ?」
開店当初から来てくれている常連さんとかしたおっさんが声をかけてきた。
まだ三日目だけど、あんまり毎日働くという習慣がこの世界ではないのかもしれない。
「はははっ。本来はサクヤってピンクの髪の子と交互なんですけどね」
「昨日、夜やってなかったからか?」
「そうなんですよぉ」
そのおやっさん、今日はホッホー鳥の塩焼き定食だった。
毎日違うメニューを頼んでいる。偏りがないので、こちらとしては有難いことだ。
鳥の焼ける香ばしい香りを放っている肉に塩をかけて蓋をする。
少し蒸すことで柔らかくなる。
「もってってちょうだーい」
アオイはヒラリとカウンターの前に立つとお盆を運んでいく。なめらかな動作はあいかわらずである。どこかのレストランのような所作だ。
「あっ! 今日も綺麗系美少女!」
二人をナンパした強者の冒険者が現れた。
毎日来るけど、冒険者とはひまなのだろうか?
だが、昨日は助けられたからな。
「昨日は、どうも!」
「いやー。ちびっ子が元気になってよかったっすわ!」
声が聞こえたのか、奥からミリアがやってきた。
「おにーちゃん、きのうはありがとー」
「おう! あのくらい、どうってことないよ! お腹治ってよかったね!」
「うん! いっぱいでた!」
ミリアは無邪気に昨日出た便の話をしてしまった。
「ミリア、お食事中にその話はしないの。なっ?」
「そうなの? はぁーい」
手を上げて返事をするミリア。
その姿に食事中のお客さんもにこやかだ。
もう既にこの店のマスコットキャラクターとなっている。
剣士が仲間と席へとつくと、アオイが注文をとる。
「おやっさん、ここって無料で食事を提供しているの?」
「そうです。身寄りのない子供達や、温かい食事を食べられなくて困っている人たち。本当は、店に来られない、食事ができないような人を助けてあげたいんです」
食事を作りながら、自分のやりたいとおもっていることをその剣士に説明した。
腕組みをして、目を瞑り。
少し何かを考えているようだ。
「おやっさん、トロッタ煮、一つ追加していいかな?」
「?……へい」
もう一人来るのだろうかと思いながらトロッタ煮を作る。誰か来るのなら、温かいうちに食べてほしいものだが、大丈夫だろうか。
アオイも首を傾げているが、剣士の考えていることが読めない。
不思議に思っていると、剣士はミリアへと話しかけた。
「ミリアちゃん、お昼ご飯食べたぁ?」
「ううん。まだだよ?」
俺も質問の意図が分からず、首を傾げる。
「すみません。昼営業終わったらあげてるんで……」
俺は慌てて説明する。
もしかして、ミリアへの扱いで何か言いたいことがあるのかもしれないな。
そんなことを勘ぐってしまった。
「できましたけど……」
アオイができたトロッタ煮を剣士のテーブルへと持っていく。
「隣空いてるから、置いてもらえる?」
言われた通りに、アオイは隣の席へとお盆を置いた。
「ミリアちゃん、お昼ご飯どうぞ」
「「えっ?」」
俺とアオイが思わず変な声を出してしまった。
「ちょっ。すみません。そんなことしてもらわなくても!」
「おやっさん、オレは少しでも子供のために何かしたいんです。好きでやってるんです。どうか、ミリアちゃんに食べさせてあげてください」
なんでこの店に来る人は、こんなにいい人ばっかりなんだ。
「リューちゃん、たべていいの?」
「……お礼を言って、もらいな」
「おにいちゃん、ありがとー」
剣士を見て笑顔でお礼を言うミリア。
嬉しそうに頭をなでてくれていた。
可愛がってくれているようで有難い。
周りのお客さんもそれを見て微笑んでいる。
すると、それを見ていた紳士風の壮年の男性がお会計時に声をかけてきた。
「ホッホッホッ。素晴らしい人が集まる店じゃのぉ」
「ふふふっ。そうですわね。リュウさんがいい人だからだと思いますわ」
「お嬢さんも、食事をもらっているのかの?」
「?……はい。昼営業を終わってからの一食分はもらっています」
「そうかい。リュウさんといったね。このお金を、子供達への食事代にしてくれませんか?」
厨房にいる俺へと声をかけながら、アオイへと布袋を渡している。
中身を確認して驚いている様子が見て取れる。
「リューさん、全部大硬貨ですわ」
あの布袋の膨らみ具合を見ると、五十枚くらいあるのではないだろうか。
アオイが重そうにカウンターへと置いた。
「こんなにもらえませんよ!」
「いいんじゃ。老い先短い私の心を温かくしてくれたこの食堂には感謝しとるんじゃ。ここへ来れば孫と会った気分になる。嬉しいもんじゃ」
何か事情があってお孫さんと会えないのだろうか。
「おじいさん。感謝いたしますわ。お孫さんに会えるといいですわね」
「それはかなわん。一昨年のスタンピードで犠牲になったのじゃ」
「兵士をしていた私の両親と同じですわ」
「お嬢さん、辛かったのぉ。よく立ち直った。これからの未来を担っていくのは、お嬢さんたちのような若い人たちだ。ワシのお金を若い人たちに使いたい。また持ってくるからのぉ」
そういうと、お爺さんは店を後にした。
昼営業は、お客様へと感謝する時間となった。
本当に有難い。恵まれているな。
そんなことを考えながら、昼営業は終わりを迎えた。
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