第2話千葉狂想曲
護衛の仕事を終えて千葉中央区中央と花川区との境にある住宅地からほど離れたプラハブ小屋に入ると白髪の少女が、にこやかに出迎えてくれた。
春日屋瑠璃、俺の妹だ。
心臓に重い病を抱えた妹は現在でも定期的な通院をしなければならない。
余命宣告を受けた上に、ドナーもいない様子中でも瑠璃は常に明るく元気だった。
王の月で汚れ仕事していたのは高額な通院とドナーの優先権を得るために他ならない。
だが、ドナーは現れず刻々と生命を蝕む病に犯されてる瑠璃は気丈であった。
自宅へ帰り、荷物をまとめると直ぐに出ていく。
指示された座標へ向かう最中、この2年間のことを思う。
語るうえで始めに話すべきはやはり、あの日に遡る。
王の月頭取、大善義景に組織への脱退を許された俺と優香は王の月入口ゲート前で後ろから発砲された。
同じ仲間でもあった戦友大善義景の息子、大善扇の手によって指示されたようだ。
風切優香のお陰で死ぬことはなく、重体だった身体をひきづり、優香を背負いながら最初に訪れたのは風霧綾音の家である。
生前、風切優香に言われていたもしものことがあれば風霧綾音を頼るとの言葉に、俺は風霧家のインターホンを押すの同時に意識を失う。
その後は綾音に保護された形で、俺は事の経緯を事細かに伝え優香を弔った後に風霧を去るつもりでいたが綾音の恩情で護衛を使わされた。
破格とも言える資金提供により瑠璃の通院を毎日行えることになった俺だが、また暗部として夜間に組織間の武力衝突に加担していた。
竜と虎。この二太刀の刀を手に取り、嫌いな筈の殺し合いへと身を投じることとなった。
ドナーを見付けるのは容易ではない。
ましてや通常の手段で心臓ともくれば恐らくは手遅れになるだろう。
風霧家には通院への資金の為に護衛を引き受け、闇医者のエゴリアムには確実なドナーを見付ける約束で裏の仕事を依頼される二重生活を送っている。
「ふぅ……」
他に敵がいなくなったのを確認した後、瓦礫に腰を降ろして小型の水筒で喉の渇きを癒やすと、夜食のジャーキーを齧りながら辺りを見渡す。
血溜まりのなかで、鉄の饐えた臭いと腐乱臭。
常人なら何かを口にすることすら遠慮するであろう光景。
冴えた頭でジャーキーを齧り続ける春日屋大河の前に黒装束の軍団が現れ、頭を垂れた。
その中でも筆頭に居る峰麗しい長髪の女性が口の装束を外して大河を見る。
「黒霧衆、大河様の下知により命を真っ当しました」
「ありがとう、黒霧衆の皆さん」
総員十名の先鋭部隊が来るとは露知らず、思い掛けないほど敵の武力鎮圧は短時間で済ませられた。
黒霧篝、彼女に依頼したお陰で事は順調に進もうとしている。
「大河様。本家たる春日の分家の一つである黒霧、馳せ参じるのは当然かと。なりより付き人の役目です」
「篝。それは春日だった時だ。今は同じ分家の春日屋の性だぞ? 許婚だって白紙にされた訳だし」
「春日の次期長になる長兄、春日流河に追放されたとしても御身には、違いありません」
黒霧衆の他の面子が目を泳がせているのを見て、手を叩いて場を静かにさせると撤退するとだけ言い、得物を持つ大河。
謀反の疑いありと判断されれば春日流河、俺の実の兄貴が容赦なく黒霧を粛清する。
この場の発言は黒霧衆にとっても芳しくない。
他の黒霧衆が去り、篝と二人だけになったこの場所で大河は向き合う。
「招集は建前だって知ってたんだろ?」
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