第19話 皆でお買い物
1日目の模擬戦闘試験終了後、私達はヒスイさんのアドバイス通り産業区でホテルを探し、南東区中央駅周辺でちょうど3人部屋(正確には4人部屋だが)で手ごろな宿を見つけたのでそこで一夜を明かすことになった。
最初、『値段の割にはきれいだがその分手狭だ』と聞いていたので少し不安はあったが、仮の宿として一夜を明かすには十分な広さがあり、提供された晩ご飯も朝ごはんのビュッフェも結構美味しかったのでアドバイスをくれたヒスイさんたちには感謝しかない。
そして次の日の朝、私達は8時半頃には宿を出発すると待ち合わせ場所であるセントラルステーション、その中央広場にある時計塔(塔と言っても3mほどの小さな物だが)に9時過ぎぐらいには到着した。
一応慣れない土地なので遅れてはいけないと早めに出てはいたのだが、予想以上にスムーズに到着してしまったのでしばらく待つことになるかと覚悟を決めていたが、私達が到着して5分後にはヒスイさんたちも早めにやって来たのでそれほど待つ必要はなかった。
「あら、結構早く来てたのね」
「慣れない土地だったので遅れてはいけないと思って。それに、ヒスイさんたちの方こそ十分早いと思いますけど」
「僕たちが住んでいるのは北区の外れで、ここまで来るのにモノレールを使うよりもバスを使った方が安く済むから運行時間を考えるとどうしてもこの時間になってしまうだけなんだよ」
苦笑いを浮かべながらそう教えてくれるコハクさんに、マリアが「なるほど、そのような理由があったのじゃな」と返事を返した後、私は9時10分ごろを指し示す時計へと視線を移して「それでは、予定よりも早いですけど出発しますか?」と尋ねる。
「うーん、今から行っても店が開く時間より若干早く着きそうだけど……まあ、せっかくだから少し手前の駅で降りて歩きながら商業区の案内でもしようかしら。それで良い?」
ヒスイさんにそう尋ねられ、私達親子は同時に肯定の返事を返す。
そしてそれから私達はモノレールのセントラルステーション南口乗り場まで移動し、ちょうどよいタイミングでやって来た便に乗って私達は商業区へと移動する。
それから私達は商業施設の多く集まる南区中央駅ではなく、その手前の南区北側駅で降りるとヒスイさんたちの先導で商業施設が集中する中央付近に向けて歩き出した。
「基本的に、商業区と言っても商業施設が集中しているのは中央付近だけでここら辺の少し外れた場所になると住宅地とかも多いのよ」
「だけど、ここら辺はこの都市の中でもそれなりに地価が高い場所だからここに住んでいるのはそれなりに上流階級の人達が多いし、商業区の南側なんかは貴族の別荘もそこそこ建っているから余計な面倒ごとに巻き込まれないように任務以外ではあまり近づかないの方が良いかもね」
そんな会話を交わしながら私達5人は綺麗に整備された住宅街を進み、遠くの方に見える中央部を目指して歩いて行く。
その途中、ダンジョン探索で必要なアイテムを揃えるならどの店が良いかや、上質な武具を取り扱ってる店、よく利用されるダンジョンについての情報を扱っている情報屋のおすすめなどいろいろな情報を教えてくれた。
正直、ここまでいろいろと教えてもらってはほぼ試験を手伝ってもらっているのと変わらない気もするが、それでも実際に今回挑むダンジョンでどのような魔物が出てくるかは教えてくれても、その魔物に対抗するためにどういった装備を揃えた方が良いかまでは教えなかったので、これらの情報を基に私達がどのようなアイテムや装備を揃えるかを考えろ、と言うことなのだろう。
因みに、今回探索するダンジョンはまだまだ駆け出しで十分な実力がない初級ハンターが腕試しや魔核回収による小遣い稼ぎに利用するダンジョンのようで、1階層などで出現する魔物はゴブリンやブルースライム、ダークバットのような一般人でも十分対処可能なレベルの魔物だということなので、私とマリアの実力であればほとんど装備なしでも苦戦しない程度の魔物ばかりだという話だった。
しかし、当然ながらダンジョンは下層に降りれば降りるほど出現する魔物も手強くなっていき、最下層(今回のダンジョンは5階層が最終)にはダンジョンボスが出現し、出現するのはレッサードラゴンと呼ばれるドランに近い見た目をした魔物(分類的にはドラゴンタイプではなくトカゲなどの爬虫類タイプに分類される)で、このレッサードラゴンの討伐推奨階級は6級(つまり中級)からとされているのでそれなりの実力を持っていなければ最下層までは辿り着けてもダンジョン踏破は難しい難易度となっているのだ。(それに加え、稀に魔物の大量発生や普段とは違う強力な魔物が出現する場合もあるので、どんな状況でも油断は禁物なのだ。)
それに、5階層と比較的浅いうえにそれぞれの階層もそれほど広くない(このダンジョンは人工的な遺跡タイプで、フロアのどこかに設置された階段を降りることで次の階層に迎え、ダンジョン踏破以外で戻る時は元来た道をまっすぐ戻ればいい)ので半日もあれば踏破できる規模の比較的小さなダンジョンなのだ。
因みに、現在確認されているダンジョンの中で最も大規模なものになると【カラーズ】と呼ばれる難易度の高いダンジョンの一つで、《黒の迷宮》と呼ばれるダンジョンだと言われており、このダンジョンを踏破するために大規模な探索隊が結成され1月掛かりで探索が行われたらしいが、50階層まで到達した時点で物資の補給等も困難となったために捜索が打ち切られて未だ未踏破のダンジョンとなっている。(そもそも、【カラーズ】で攻略されたダンジョンは赤と青、それに緑の3つでそれ以外の黒、白、黄、紫の4つは未だ攻略されていないらしいのだが。)
それからしばらく歩いたところで中央部へと辿り着くころにはちょうどお店が開店する10時を過ぎており、変わらずヒスイさんとコハクさんの2人に案内されながら様々な店舗を回ることにした。
正直、今迄見たこともないようなお店や商品が多数立ち並んでおり、1軒1軒ゆっくりと見て回りたかったのだがさすがにそんな時間はないのでどこにどのようなお店があるのか確認するだけに止め、まずは今回の目的を最優先に買い物を済ませてしまうことに決める。
もっとも、今回私達が買おうと思っているのは保存と空間拡張の魔術が施されていて一定期間ある程度の食料を持ち運ぶことができるアイテムポーチをアイテム用と食料用で1つずつ(既に私もマリアも1つは持っているのだが、こちらの方はかなり容量が大きいので予備の武具を入れるのに使って取り出すときに困らないよう用途別にいくつか欲しいと考えたのだ)と、半日どころか状況によっては1日がかりの探索となる可能性もあるので相応の水と食料、それにスタミナ回復のポーションや軽い傷の手当てができるようにいくつか薬だけなのだが。
そして、ある程度どこにどのようなお店があるかを把握した後は私とマリア、それにヒスイさんとコハクさんの4人は共に必要な資材が被るので一緒に行動を続けることになり、一人特にすることもないママはブラブラとその辺を見て回ると告げて昼前には一度合流することを決めて私達とは別行動となった。
それから私達はコハクさんの紹介で安くて品質のいいアイテムポーチを取り扱っている店を教えてもらい、その後はヒスイさんからも比較的手ごろで美味しい携帯食料を取り扱っている店を教えてもらってそこで1日分(より少し買い過ぎた気もするが)の食糧を調達し、水は最悪私の魔術で確保できるので必要最低限の補給をしたところで準備が完了する。
その後、ちょうどよい時間になったのでママと合流してコハクさんおすすめのお店(ヒスイさん曰く、コハクさんはどこで情報を仕入れてくるのかこういった美味しいお店をいろいろと知っているらしい)で昼食を済ませ、時間に余裕があったのでその後もいろいろなお店を回って1日を過ごすこととなった。
そして夕方になって本日の宿を探すこととなるのだが、明日は北門に4時半には集合なのでモノレールの始発の時間より前に出発しないといけないため、ヒスイさんたちの好意によりその日は2人の家に泊めてもらうことになった。
なんでも、ヒスイさんたちはお爺さんが北区に持っている別邸があるのでそこを借りて生活しているらしく、一軒家なので部屋にも余裕があるので一泊くらいなら気にせず使って欲しいとのことだったので遠慮なくご厚意に甘えることにした。
それから私達は泊めてもらうお礼として夕食の準備を申し出て、必要な食材を買い揃えるとヒスイさんたちと共に北区の外れにある2人の住居へと向かったのだった。
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