生命と邪悪のアルカディア

Dr.醤油煎餅

第1話 プロローグ

 現代よりも少し科学が発展した未来。VR技術が進化して、新型VRゲーム機への性能向上へつながっていた。


「かぁー!! バンデット、討伐完了!」


 そんな現代に生きる中年男性もその恩恵にあずかっていた。男性は田舎の戸建てに住んでいて、森もほど近いため誰にも邪魔されずにゲームに集中できる男の城だ。

 巨大なサーバーと巨大なカプセルベットが繋がってその中から出てきた男は、のそりと出てきて台所の方へ向かう。冷蔵庫へ向かい適当な食材を引っ張り出してガブガブと腹の中にしまう。


「げふっ、運動するか」


 男はそういうと少し着替えて運動するため外に出ていった。

 男は数年前までそれなりの企業に勤めていて、そこそこの役職にもついていたが、手酷い裏切りと気分転換に買った宝くじが当たったため、会社を辞めて、居を移し、株や雑事で生計を立てながら、当てた宝くじで趣味と自衛のための設備を整えた。

 そんなこんなで男が帰って来ると今度はパソコンに向かって記事を書き始める。ゲームの攻略記事で割と人気が高い。


「こんなもんか。明日はいよいよ、βテスターの参加権を賭けたイベントだな」


 男は独り言を呟きながら、明日のイベントに向けて睡眠をとり始める。

 次の日、男が目を覚まし、朝食をとって、ゲーム機に入ってログインする。男の視界が少し暗転し、再び光が差し込むと、そこには荒野が表れていた。既に何人ものプレイヤーが表れていて、付近を探索したり、モンスターに対してちょっかい賭けていた。


「おーい、【創造神】。久しぶりだな」

「うるせぇな。それより湖はどうだったんだ。いいもんは出たか?」

「いーや。やっぱガセかもな」


 男ーー、【創造神】と呼ばれたプレイヤーはフレンドと話しながらイベントが始まるまで待っていた。


 ここでこのゲームーー、ダンジョンアタックメモリアル~全ての奇跡を掴み取れ~はダンメモの愛称で世に広く広まっているゲームであり。新型VRで初めて販売されたゲームソフトであり、ゲーム開発会社がゲーム機も同時に出して、学者の間ではVR技術をこれ一種で、100年は進めたといわれるほどの傑作で、当時は無名のゲーム会社が出したため見向きもされなかったが、男の様な人間が熱狂的にハマり布教も行ったため瞬く間に広がっていった。

 ゲームのストーリーは現代にダンジョンができた日本を舞台にしてダンジョンを冒険する学生を主人公に冒険を進めていく、RPGだ。富や名声を求めて欲望蠢くダンジョン学園を勇敢な主人公が頼りになる相棒や可愛いヒロイン達と共にダンジョン学園での難題や背後に隠れる黒幕たちの野望を止めるために、奮闘していく日々を描いていく物語であり。公式が発売している追加コンテンツを入れていく事で、色々楽しめるようになっている。現在では、ストーリーよりもダンジョン探索がメインのコンテンツとなっている。


 【創造神】がフレンドと話していると、後ろから攻撃が飛んできた。

 が、彼はそれを振り返ることなく弾き、正面に向かってアイテムを投げる。すると、話していたフレンドを飛び越えて爆発が起こった。


「随分な返礼じゃない。殺す気? デスぺナでイベントに参加できなくなる所だったじゃん」

「お前に言われたくはないね。【死神】野郎」

「可愛くないあだ名で呼ばないでよ。それに、野郎じゃないしね」

「俺を巻き込まないでくれよ」

「ああ、いたの。【創造神】見てたから気づかなかった」

「ひでぇな」


 【創造神】のフレンドは少し距離をとって【創造神】と【死神】の邪魔をしないように離れていく。

 【創造神】は内心、【死神】に目を付けられないように逃げたなと悟る。それをとがめる気はないが、素材位は融通してもらおうと頭の中で計算する。


「それで、イベントの確認にでも来たの?」

「似たようなものかな? 【武神】が来てるかなぁって思って、貴方に声を掛けたんだけど」

「PvPのイベントじゃないのに彼奴が来ることはないと思うが。なに、来るって言ってた?」

「いや、テスター権を賭けたのならあれも来るかと思ったんだけど。来ないみたいね、あの対戦狂い」


 その後は、二人でイベントの内容について議論しながら、暇をつぶしていると、アナウンスが入る。

 始まったイベント内容は、地獄そのものだった。


 イベント開始と同時に出現した八首のドラゴン。初撃のブレスはオールレンジの広範囲攻撃かつ、速射と連射が可能。しかも、外皮は途轍もなく硬く、オートカウンター持ち。しかも、定期的に全方位を巻き込んだ攻撃をしてくるため、逃げ場等ない。

 が、そこは長くダンメモを遊んできたプレイヤー達、防御や回復を行い体制を立て直して突撃していく。未知のモンスター相手でも臆することなく、挑んでいく。

 そうした大激戦を経て、漸くドラゴンを討伐する。開始時点からプレイヤーの数は約半分になっていた。

 すると、ドラゴンが討伐されると足元に魔法陣が表れる。全員、回避行動もとれずに次のステージへ進む。

 魔法陣が移動させた場所は大穴の最下層であった。飛ばされた瞬間、勘の良い者は全員近くの洞窟へ走る。瞬間、大穴に大火力の爆炎が放出され、最下層に残っていたプレイヤーは纏めて焼き殺された。余波が入り込んできて洞窟も安全ではないが、生き残りたちは突き進んでいくと、モンスターが立ちふさがる。しかも、かなりの強敵。無視できないのだけを処理して進んでいく。途中には罠もあり、経験と知識で潜り抜けなければいけない。しかも、爆炎が後ろから追いかけてくる、同時に触れたら一撃で死亡するというオマケつき。

 つまり、上を目指しながらの高難易度マップの踏破、時間制限を添えてだ。

 そんなクソゲーを乗り越えた先には、魔法陣があった。最終的に到着したプレイヤーは50人前後。

 そして、魔法陣が光り輝き、次のステージへ飛ばされる。

 次のステージは、理不尽の権化ともいうべき、上半身だけの人型の機械仕掛けのモンスターと残りのプレイヤーとの総力戦であった。舞台はだだっ広いだけの平面。

 飛び交う、武器、爆破、衝撃波、レーザー、拳、そして魔法。あまたの経験と知識を結集させて、強敵を討ち果たした。

 そして、イベント終了のファンファーレと共に、イベント完了を示すアイテムが届けられると、プレイヤーはお互いの顔をみないまま、それぞれ別の場所へ飛ばされてイベントは終了となった。

 プレイヤーの中には【創造神】や【死神】等の名立たるメンツが揃っていたが、誰も最後にそれを確認することはなかった。


*  *  *


 イベントが終了し数日経った頃、ゲーム内で身辺整理をしていた所、テスター用の最終準備が整ったという事で制作会社本社の方に呼ばれたので、本社の方に向かった。交通費も出してくれるという懐の深さに【創造神】は感激していた。


「いや、この歳で交通費に感激する日が来るとは」


 テスター達同士で顔を合わせる事は厳禁らしく、【創造神】は水、食料、簡易トイレに加え、カプセル型のVR機器も完備した個室に案内された。彼はそこで全員が揃うまで飲み物を飲んだり、ネットで情報を拾ったりしながら時間を潰していた。

 ネットで調べると意外なことにテスター参加の話は広まっていない。【創造神】は積極的に広める方ではないが、【死神】の様な承認欲求が高い人間だと喋りそうだが、口止めされているらしい。それに今回のゲームは相手も知らない方が盛り上がり、プレイヤーの中で上から下まで格付けしていくというコンセプトらしい。

 という事で、テスターについての情報は広がっていない。【創造神】も予想しているだけで、それが事実かは確認もしていない状況である。

 そんな感じで時間を潰しつつ、始まりまで待っていると、アナウンスがかかってきてカプセルに入る様支持される。カプセル内にはモニターが設置されていた。


『七つの悪を淘汰し、新しき世界で白き大樹を育てよ』


 モニターには謎の文章が表示されていた。

 【創造神】は何の事だと理解する間も無く、意識を失ってゲームの世界にログインする。

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