第5話 記憶のパズル
私――黒月百合は、下校しながら頭を抱えていた。
ううー……、なんなのよ一体……。
ロバートさんと音海先輩が重なってしまう。
まったくの別人なのに、おかしいよ。
あの夢を見始めて3ヶ月はたった。
最近は夢に入ると、私の気持ちはライラさんと一緒になっちゃってる。
私がライラさんに飲み込まれている。
目が覚めてからも、ロバートさんや音海先輩のことばかり考えて。
ちょっと待ってよ、私。
そんなの浮気みたいじゃない。
好きではないと思いたいけど……。
それにハンカチの日から、一度も音海先輩とは会ってない。
だから好きになるなんてありえない。
「……あ」
少し先にある公園のベンチに音海先輩を見つけた。
ギターを弾いているみたい。
長く見つめていたのか、音海先輩が私を見た。
しっかり目が合ってしまった。
無視するわけには、いかないよね……。
「あの、えっと……。こんにちは、音海先輩」
私は近づいて声をかける。
先輩は優しくほほ笑んだ。
「久しぶりだね、黒月さん」
私のこと覚えててくれたんだ……!
「隣、座っていいですか?」
「もちろん」
私は先輩の隣に腰を下ろす。
「何を弾いているんですか?」
「夢で弾いていた曲だよ。楽器は違うけれど、なんとなくこんな感じかな、と」
「どんな曲ですか? 聴きたいです」
「わかった」
先輩はうなずくと、鼻歌を歌いながらギターを弾く。
(あれ、この曲……)
ロバートさんが弾いてた。
毎日聴いているから歌える。
「先輩、もしかして――」
中世ヨーロッパ風の街で、女の子と吟遊詩人が出会いませんでしたか。
そう言おうとして、やめた。
変な子だって思われたくないもん。
「もしかして、何?」
「なんでもないです! すみません、帰りますねっ」
私は勢いよく立ち上がって先輩におじぎした。
先輩が止める声を聞かずに、走って家に帰った。
その日も夢を見た。
ロバートさんに「明日も必ず会いに来ます」と約束した翌朝のこと。
今までも内緒で街へ出ていたことは家族やお城で働く人たちにバレバレだったらしく、とうとう止められてしまった。
こんな大事な日に限って。
「お願いします! 行かせてください!」
「いけません、ライラ王女」
「でも、でも大切な人が旅立つ日なの。ちゃんと、さようならって言いたいの!」
メイドのソフィアに止められて、私は悲鳴のような声をあげた。
それでもお城を出ることは許されなくて。
私は部屋に引きこもった。
ベッドに横になって、枕に顔をうずめる。
「どうして……」
ポロポロと涙がこぼれて、泣くのを止められない。
「ロバート、ごめんなさい……」
約束したのに。
最後の最後で――最悪な別れ方。
「好きって、言いたかった……」
それから私は不治の病におかされ、短い生涯を終えることとなった。
目が覚めた。胸が苦しい。
あれ、枕が濡れてる……。
夢を見ながら泣いていたらしい。
「……夢、じゃない」
私は――ライラだったんだ。
証拠なんてないけど、私の身体が、記憶が、大切な想い出がそう叫んでいる。
ロバートを探さなくちゃ。
あの日、会えなくてごめんなさい。
さようならを言えずに終わってしまってごめんなさい。
そう謝らないといけない。
「でも、どこにいるの……?」
ううん、心当たりがあるじゃない。
音海先輩が、ロバートの曲を弾いていた。
先輩が彼なんだ。
音海先輩を探そう。
「頑張れ、私」
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