第6話 今度こそ、貴方と。

 私は音海先輩を探した。

 でも学校では見つからなかった。

 帰り道、昨日と同じ時間に出たら、先輩が公園にいるかもしれない。

「諦めちゃ駄目」

 よしっ、と気合を入れる。

 公園だけ見るのではなくて、まわりの生徒に先輩が紛れていないかも要チェック。

 いない。やっぱり、公園かな……。

 ドキドキ音を立てる胸をおさえながら、公園との距離を縮める。

「いた……!」

 昨日と同じ場所に先輩がいる。

 私は走ってそばに寄る。

「黒月さん。どうしたんだい、そんなに走って」

「あのっ、先輩! 急にこんなこと言うのは、びっくりさせちゃうと思うんですけど、聞いてください」

 驚く先輩をしっかり見て、私は気持ちを落ち着けるために息を吸った。

「夢を見たんです。私はある国の王女で、お城を抜け出して道に迷ってしまった。不安な私に声をかけてくれたのは吟遊詩人でした」

 話を聞く先輩の表情が、みるみる変わっていく。

「私はライラです。あなたは、ロバートですか?」

「……ライラ? 本当に?」

 先輩の反応は、驚いたような、嬉しがっているような……色々な感情がごちゃ混ぜになっているみたいだった。

 ベンチにギターを置いて立ち上がる。

「っ、や、やっぱり先輩は……」

 私は泣き出しそうになるのをグッとこらえて、頭を下げた。

「ごめんなさい! あの日、約束の日、私お城を出られなかったの! こっそり抜け出していたのがバレてしまって……。会いたかった。最後にさようならって言いたかった。ごめんなさい、本当にごめんなさい」

 勘違いされたままでいたくない。

 私は貴方との約束が軽いものだったと、決して思っていない。

 本当は貴方に会いたくて仕方がなかったの。

「そうだったのか。約束を忘れたんじゃなかったんだね。よかった……」

 先輩は安心した笑顔を見せる。

 それを見て、私の気持ちも落ち着いてきた。

「あの……前は駄目だったけど、今度は私、貴方と一緒にいたい」

「僕もだ」

 私のお願いに先輩は大きくうなずいた。

「あ、まだ今世では知り合い程度の仲……なので、まずはお友達から始めませんか?」

「いいね、それ」

 優しくほほ笑む貴方は、太陽のように輝いていた。

 そして私を見つめる温かい瞳は、ロバートと同じ。




 ああ、神様。

 彼と再会する機会を与えてくださったのは、貴方ですか?

 それとも、この世には神様なんていなくて、私とロバートが、たまたま黒月百合と音海太陽として生まれ変わったのでしょうか。


 今度こそ、私はロバートと――黒月百合は音海太陽とともに生きていくと誓います。


 どうか、見守っていてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

想い出パズルピース〜ある日突然夢の中でだけお姫様になってしまいました。これは一体どういうことなんですか?〜 ねこしぐれ @nekoshigure0718

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ