第3話 先輩と〝彼〟が重なった
キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムが授業の終わりと昼休みの始まりを告げる。
私――黒月百合はチャイムがなった瞬間、教室を飛び出した。
朝、登校中にハンカチを落としてしまったみたい。
すごくお気に入りのハンカチだから、絶対に見つけたいの。
「職員室前の落とし物を集めた棚にあるかも」
登校中に落としてしまったものだから、置いてあったらいいな……なんて淡い期待だけれど。
「あー、やっぱりない……」
えーん、どうしよう。
登校中にこんなハンカチ見かけませんでしたか……と知らない生徒に話しかけるのは無理。
困った……。
「あの、君」
腕を組んでうなっていると、声をかけられた。
顔を上げると、斜め後ろに男子生徒がいた。
私より頭一つ分背が高くて、スラッとしている。
上靴を見ると、学年カラーが青色。
2年生の先輩だ。
「はい、なんでしょう」
「朝、ハンカチを落とした子だよね? これ、君のだろう」
先輩が手に持っていたのは、私のハンカチ!
わああ、救世主だぁ……!
「私のです! ありがとうございますっ!」
「いや、お礼を言われることじゃないよ」
勢いよく頭を下げると、先輩は両手を振った。
「あっ、あの! 私、黒月百合と言います! 先輩のお名前は?」
「
先輩は優しくほほ笑みながら言うと、くるりと方向を変えて階段を上がっていく。
その様子がロバートさんに重なった。
――ロバートさんというのは、今日見た夢に出てきた男性。
道に迷ったライラさんに、優しく接してくれた人。
吟遊詩人だと自己紹介して、リュートを弾いて見せてくれた。
ドキ、と胸が鳴るのを感じる。
「え、あれ、おかしいな。初対面なのに……」
私は首をかしげながら、ハンカチをポケットにしまって教室に戻った。
終礼後、私は帰り支度をしていた。
黒板の隅に貼ってあるカラーのプリントを見て思い出す。
(そういえば今日の朝、先生が軽音部のライブが放課後にあるって言ってたなぁ)
せっかくだし、見に行ってみよう。
私は体育館へ向かう。
近づくにつれて、バンドが演奏する音が大きく響いてくる。
体育館に入って、ステージを見た。
(音海先輩……!)
目を見張った。
ステージに立っていたのは3人。
向かって右側に、ギターを演奏しながら歌っている音海太陽先輩がいた。
脳裏に浮かんだのは、リュートを弾き語りするロバートさん。
どうしてだろう。
夢に出てきただけなのに。
現実に存在する人かどうかもわからないのに。
「……」
私は音海先輩を見つめる。
たったの数時間前に出会ったばかり。
名前を知ったばかりの先輩。
先輩のこと、まだ何も知らない。
それなのに――胸がドキドキして苦しいのは、いったいどうしてなの?
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