私の声が聞こえますか ~眉目秀麗または容姿端麗な子供のつくり方を教えます~

シュンスケ

第1話 私の声が聞こえますか


 虚無の森に棲む魔獣を知っていますか。


 虚無の森なんて不穏な名前で呼ばれていますが、実際はこの森は生命にあふれています。


 この森には首を切り落とされても生きている魔獣が存在します。


 胴体から切り離された頭は干からびてしまうけれど、身体は生き続けるのです。


 腕を切り落とすと腕だけが、足を切り落とすと足だけが生きています。


 頭以外は延々と再生を続けます。


 貴族たちはその魔獣を血眼になって探し求めています。


 部位を問わず、1000億ゴールドの賞金が支払われます。


 魔獣を何に使うのかは、一切知らされていません。


 臓器を移植するためだとか、手足を取り換えるためだとか、いろいろ噂されていますが、真実を確認した者は一人もいないのです。




 しかし、私は知っています。


 貴族たちが虚無の森に棲む魔獣をどうのような用途で使用しているのかを、詳らかに知っています。


 けれど、そのことを話すことも紙に記すこともできません。もしそうすれば速やかな死が訪れるよう魔法契約で縛られているからです。



 なので、そのことを私は自分の心の中に記そうと思います。

  

 私が今、虚無の森の中にいるという事実と、ここへ来るに至ったいきさつの全てを心の中に記します。


 私の心の声は誰にも届かないかもしれません。この後、魔獣に襲われて命を落としてしまうかもしれません。



 不思議と恐怖は感じませんでした。


 小さなバックパックをひとつだけ背負い、武器も持たずに森の中を歩いているにもかかわらず、何も恐くありませんでした。


 理由は分かっています。


 どうしても虚無の森に来なければならなかったこと、それになにより、私は一人ではなかったからです。

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