03-1 森を往く狩人と、そこに住まう若き魔女の話 その1
王都の門を抜けた先には、いくつもの森が点在している。王国は土地が肥沃で恵みある地であり、森の恵みもまた豊かだった。その森の中を行くのは一人の若き狩人だった。二十歳を過ぎた頃の短く揃えた黒髪が印象的な、弓を引くのに適した長身大柄の男である。左手に弓、腰には矢筒、動きやすそうな軽装に弓使い用の防具を付け、彫りの深い顔を険しくしながら木々を縫って奥へと進んで行く。
今日は普段あまり寄り付かない森の深くに足を踏み入れた。狩場にしている森の浅い所では獲物が少ないのだ。深くに入れば獲った鹿も猪も運ぶのに手間取るから、狩人はあまり森の深くには入らない。また地面も草木で埋め尽くされている場所が多く、引きずるのにも適さなかった。そのため深くに入って獲物を追い、浅い所で仕留めて持ち帰ろうと、狩人は考えていた。
とは言え鹿や猪はもちろん、リスやモモンガといった小動物すら見かけない。おかしいなと思い更に奥へと進むと、そこはまるで夜が降りてきたような深い木々の下だった。さすがに深くまで来すぎたか、少し戻るか。大きな樹木を避けた所で、突然正面から猪と出くわした。成獣であるが何やら興奮気味で、襲い掛かって来そうだがこちらを睨みながら前脚を地面にゴリゴリと擦り付けている。落ち着いて弓を構え、射貫くとそれはドサッという音を立てて横へ倒れた。
「ふう」
とりあえず獲物は狩ったものの、こんな草木の茂った所から町まで運ぶのは骨が折れる。どうにかして運ぶ方法は無いものかと思案していた所、
「なー」
と、森ではあまり聞き慣れない声を聞いた。猫である。暗い森に身を隠すように毛は黒かった。黄色の瞳で闇から見つめられる。
ここは本来『魔女の森』と呼ばれている。森に入る狩人でも知っている者は少ないが、古株の同業者から聞いたことがあった。こんな所にいる猫ならきっと魔女の使い魔に違いない。使い魔と言っても魔物ではなくただの賢い猫なのだが、ひょっとしたら主である魔女が台車か何かを持っているかもしれない。
「お前、ご主人の所へ連れて行ってくれないか?」
もう一度「なー」と鳴くと狩人に尻を向け、そのままちょこちょこと歩き出す。ロープで縛った獲物を引きずりながらそれに着いていった。
(その2へつづく)
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