天音 碧 短編小説集

天音碧

僕の人生は彼女の快演で終わりを迎える。


 シーツの擦り切れる布の音に合わせて体躯を小さく魅せて整えると、左手で掴んだシルクの毛布を胸元まで隠し、シャンデリア照明で透き通り輝く陶磁器の素肌を隠す。


「見て……」


 彼女は背中寄りでベッドに触れた右手に身を預けると……


「可愛いでしょ? 君が求めている理想的な彼女。あたしはいつだって君の思う理想に近づけてきたよ」

「綺麗だ」


 ベッドの上で横たわる彼女の前に立つ男に賞賛を受け、彼女は恍惚とした表情になり。


「綺麗だ……じゃないんでしょ? 本当はあたしのことを殺したくて仕方がないくせに……」

「君がいけないんだ。僕をこんな思いにさせて。衝動的にさせて君の……いや……魔女である君に僕は身も心も全て奪われてしまったのだから……」

「殺すの?」

「そうしたいんだ……君との関係はもう終わりしたい……」


 彼の怨嗟する声すら、彼女には子供の戯言だと感じているようで妖艶に笑う。


「ダメよ……君にはもっとあたしのことを愛してくれないといけないでしょ?」

「やめろ……僕をこれ以上に惑わせるな……!!」

「あら。そう言いながらあたしの肩に手を触れるのね。意地っ張りな君に……胸がドキドキしちゃう……」

「お前の首に手をかけるかけるために触れただけだ」

「いいのよ。このままあたしと獣欲の赴くままにいち夜を過ごして……それで満足したら……殺してくれてもいいの……それが君の望む理想的な彼女のあるべき姿なら……あたしは生きている喜びを感じるままに死ねるから……」


 彼女はこれから命を奪おうとする相手に手を回し肌を重ね合わせると。


「ねえ……一緒に気持ちのいいこと……しよ?」


 お互いに顔が重なり合うと。


『カット! オッケーです!』

「おつかれさまー♪」

「あ、はい……お疲れ様でした……」


 僕の演劇は偽る彼女の笑顔と共に幕を閉じるのであった。

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