一般市民は推しの騎士を休ませるため闇の儀式を食い止めたい!
胡麻桜 薫
第1話 レベッカと旧友
『けっこんしました』
絵葉書には乱雑な字体でそう書かれていた。
その簡潔な文章の
一体ではなく、二体だ。
絵の中の二体はニコニコ笑顔で寄り添っており、片方のモンスターの頭には、可愛らしいリボンが乗っかっている。
上手に描かれているとは言い難いクオリティではあったが、心を込めて描かれたであろうその絵からは、二体の幸せそうな様子が伝わってきた。
「わざわざ絵葉書を送ってくるなんて、律儀なギャンデカウルテタウロスやねえ」
眼鏡をかけたミディアムヘアの女性が、長い金髪をひとつ結びにした女性──レベッカに、絵葉書を返した。
「そうよね、正直驚いちゃった。結婚の報告をされるとは思いもしなかったもの。もちろん、祝福はするけど」
レベッカは絵葉書を受け取り、優しく微笑んだ。
裏面に書かれた送り主の住所は『ギャンデカウルテタウロスの里』となっている。
暴走状態のギャンデカウルテタウロス(
どういう経緯があったのかは分からないが、あんなに荒れていたギャンデカウルテタウロス(雄)が故郷で幸せを掴んだというのなら、それは喜ばしいことである。
レベッカは丁寧な手つきで、戸棚の上の小箱に絵葉書をしまった。
とある王国の東部に位置する、リーベルメという街。
その街に、アスト地区というエリアがあった。
ここはアスト地区ラヴェンデル通りにある、レベッカの自宅。
こぢんまりとした二階建てで、一階はレベッカの両親が営む雑貨屋、そして二階が、一家の居住スペースとなっていた。
レベッカは今、二階のダイニングルームにいる。
「ところでレベッカ。ちょっと
レベッカが戸棚からテーブルの方に戻ると、向かい側に座る女性が言った。
先ほどまで絵葉書を見ていた、ミディアムヘアの女性だ。
彼女の名前はアンジェラ。レベッカと同い年の20歳で、二人は旧友の間柄である。
アンジェラは王国西部の『ロゼタルタ』という街に暮らしており、今日はレベッカに会うためリーベルメを訪れていた。
「──あんた、ロゼタルタにいた時と比べてキャラ変わってへん?」
「え、そうかしら」
「うん、変わった。えらいお
レベッカはロゼタルタの出身であり、リーベルメには両親と共に引っ越してきたのである。
変わったと指摘され、レベッカは苦笑した。
「あはは……まあ、実を言うと、ちょっと変わろうと思ったの。別に喋り方まで変える必要はなかったんだけど……なんていうか、喋り方を変えるとキャラも変えやすかったのよ」
「ふ〜ん、なんでまた変わろうなんて思ったん? あ、もしかして、例の『騎士様』が原因?」
その途端、レベッカは分かりやすく頬を赤らめた。
「ふふっ、その通りよ。リーベルメを守る、清く正しく美しいエクベルト様。あの人を見て、わたしは問題児から優等生に生まれ変わろうって決意したの!」
エクベルトはリーベルメ騎士団に所属する25歳の青年。
正義感と責任感に
レベッカは、初めてエクベルトの姿を見た時のことを思い返した。
「リーベルメに引っ越してきた次の日、わたしは近所の食堂で喧嘩を目撃したの。おじさん同士の取っ組み合いだったわ。その喧嘩を仲裁したのが、エクベルト様だったのよ」
「へえ、そうなん」
「ロゼタルタにいた時のわたしは、暴力は暴力でしか制することができないんだと思っていたわ。だけど、エクベルト様は力に頼ることなく、話術のみで問題を解決してみせた。そう、秩序で暴力を制したのよ!」
「ちょ待って? あんたの口ぶりだと、まるでロゼタルタがとんでもない場所みたいやん。なんやねん、暴力は暴力でしか制することができないって。ロゼタルタはそんな乱世みたいな環境とちゃうで。なんか気ぃ悪いわあ」
アンジェラに横槍を入れられても、レベッカは聞こえていないかのように言葉を続ける。
「わたし、冷静に問題を解決するエクベルト様の姿に感動したわ。そして決めたの。あの人をお慕いし、あの人のように秩序と調和を重んじる人間になるって!」
「で、そのエクベルト様を喜ばせるために、毎朝早起きしてこっそり街の掃除してるんだっけ? ようやるわ、ほんま」
レベッカは誇らしげに胸を張った。アンジェラはやや呆れ顔だったが、レベッカは御満悦な様子だ。
「当然のことよ。アスト地区を清潔な状態に保つのは、治安維持の一環だもの」
騎士団は毎朝、街の見回りを行なっている。
ここ、アスト地区を担当しているのは、エクベルトがリーダーを務めるチームだ。
担当区域が平和であれば、エクベルトはきっと喜んでくれる。そう考えたレベッカは、アスト地区の治安を守ろうと密かに決意したのだった。
治安維持のため、日々あれこれ奮闘するレベッカ。
早朝の掃除を含め、その活動はエクベルトには『絶対に秘密』だったのだが──。
「でも、毎朝こっそり掃除してたこと、エクベルト様にバレちゃったのよね……」
「え、バレたん? どーして?」
その時、ドタバタという足音が階段の方から聞こえてきた。
「レベッカさん! 大変です! レベッカさん!」
足音に続いて聞こえてきたのは、ひどく慌てた様子の、少年の声だった。
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