第19話 引き裂かれる心、囁く闇の誘惑

アルノたちは新たな敵を倒し、一息つく間もなく、次なる試練の扉に立っていた。アイラの覚醒した力に助けられたが、まだ遺跡の奥には謎が隠されており、さらなる危機が待ち受けていることは明らかだった。彼らは一度休息を取ることに決めたが、その静寂の中で、アルノを巡る乙女たちの感情が再び揺れ動き始める。


夜の静けさが周囲を包む中、アルノはひとり遺跡の外れで考え込んでいた。戦いが続く中で、彼は自分が背負っている責任の重さを感じ、心が揺れていた。そこへ、アイラがそっと近づいてきた。


「アルノ…」

彼女の声は囁くように柔らかく、どこか甘く誘うような響きがあった。アイラは静かにアルノの隣に座り、その瞳はまるで彼の心の奥底を覗き込むように真っ直ぐだった。


「あなたはいつもみんなのために戦っている。でも、もっと自分を大事にしてもいいのよ。」

彼女の言葉には、優しさと共に、何か引き寄せるような力が含まれていた。アイラはゆっくりとアルノの肩に手を置き、その肌に軽く触れる。その瞬間、アルノは一瞬、彼女の心地よい温もりに包まれる。


「私があなたのそばにいるわ。だから、もっと私に頼って。」

アイラの声はさらに低く、甘美な囁きとなってアルノの耳に響き渡る。彼女の顔が近づき、息遣いが耳元に触れるたびに、アルノの心が揺れた。


その時、リューナが物陰からその光景を見ていた。彼女は思わず声を上げる前に立ち止まり、アイラがアルノに近づく様子を目にして、胸の奥にわずかな嫉妬を感じていた。


「アルノ…」

リューナは静かにアルノに近づき、アイラの手をそっと外すように優しく腕を引っ張った。

「今は休むべき時よ。明日のために…」

リューナはアルノを見つめながら、その瞳にはアイラへの対抗心が潜んでいた。


「ありがとう、リューナ。でも、大丈夫だよ。」

アルノは穏やかに答え、二人に微笑みを向けた。


その静寂を破るように、シルヴィアが現れた。彼女は特有の艶やかな微笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩み寄る。

「ふふ、アルノ。あなた、本当に人気者ね。」

彼女の声には皮肉が混じっていたが、どこか甘く誘惑的だった。


「でも、私は他の誰とも違うわ。あなたに教えてあげるのは、もっと深い快楽よ。」

シルヴィアはアルノに近づき、彼の首筋にそっと指を滑らせた。その触れ方は、まるで彼を挑発するかのように軽やかで、彼の心を揺らすものだった。


アルノは、その誘惑に抗おうとしたが、シルヴィアの強烈な色香に一瞬心が奪われそうになる。しかし、彼はぐっと堪え、目を閉じて深呼吸した。


「俺は…みんなを守るためにここにいる。だから、惑わされてはいけない。」

アルノは決意を新たにし、再び冷静さを取り戻した。


アルノたちはついに遺跡の最奥に到達した。封印が施された大きな扉が目の前に立ちはだかり、その先には「真なる力」が眠っていることを、彼ら全員が感じ取っていた。扉の前には、いくつもの古代文字が刻まれており、それが封印の鍵であることは明らかだった。だが、その先に待つものが何であれ、もう後戻りはできない。


アイラは一歩前に出て、封印の扉を見つめた。

「この扉の向こうには、かつて私を封印した闇の力が眠っている。私が解放されれば、再びこの世界が危険に晒されることになる。でも、今は…その力をもう一度封印しなくてはならない。」

彼女の声には決意がこもっていたが、その瞳の奥には一抹の不安が感じられた。


リューナはそっとアイラに近づき、優しく彼女の肩に手を置いた。

「アイラ、あなた一人で背負わないで。私たちみんなでこの試練に立ち向かうの。だから、無理をしないで。」

リューナの言葉に、アイラは少し笑みを浮かべ、彼女の手を握り返した。


「ありがとう、リューナ。でも、これは私にしかできないことなの。」

アイラは静かに目を閉じ、封印の鍵を操作し始めた。


封印が解かれる瞬間、周囲の空気が一気に重くなり、遺跡全体が揺れ始めた。突如として、扉の奥から黒い霧が噴き出し、その闇の力がアルノたちを包み込んだ。


「気をつけろ!何かが来る!」

アルノは剣を構え、闇の中に現れた巨大な影に目を凝らした。その姿は、かつて見たどの敵よりも圧倒的で、明らかに力の次元が違っていた。


「これが…封印されていた真の力…?」

リリーが驚愕の表情で呟いた。だが、次の瞬間、闇の中から一つの声が響いた。


「私を封印しようとしても無駄だ。すべてを飲み込み、すべてを支配するのはこの私だ。」

その声は重く、威圧的であり、アルノたちの心に恐怖を植え付けるものだった。


「やるしかない…みんな、力を合わせよう!」

アルノが叫ぶと、乙女たちはすぐに戦闘態勢に入った。リューナは光の魔法で闇を払おうとし、シルヴィアは敵の弱点を狙い、魔法の矢を放った。リリーとカレンもそれぞれ剣を構え、敵の隙を狙って攻撃を繰り出す。


「アルノ、私たちが守るから、あなたは前に進んで!」

リューナの言葉に、アルノは頷き、前進しようとしたその時、アイラが彼の前に立ちふさがった。


「アルノ、待って。この闇の力は私が封印しなければならない。あなたの力だけでは、この力を完全に抑えることはできないの。」

アイラの声には迷いがなかったが、その表情には深い悲しみが感じられた。


「私はこの力を再び封印するためにここにいる。そして、そのためには…私自身を犠牲にするしかない。」

アイラの言葉に、アルノたちは驚愕する。リューナがすぐにアイラの手を掴み、反対する声を上げた。


「そんな…そんなこと、あなたが犠牲になる必要はないわ!みんなで戦えば、きっと…」

リューナの声は震えていたが、アイラは静かに首を振った。


「これは私にしかできないこと。そして、私が選んだ道なの。」

アイラは涙を堪えながら、封印の力を使い始めた。彼女の体から光が放たれ、再び封印が施される準備が整ったが、その光は次第にアイラ自身を包み込み、彼女の存在を飲み込んでいく。


「そんなことさせない!俺は…君を守るためにここにいるんだ!」

アルノは必死に手を伸ばすが、アイラは静かに微笑んで首を振った。

「ありがとう、アルノ。あなたがいてくれたから、私はここまで来れたの。でも、これが私の役目なの。」

アイラの声が静かに消えていく中、封印は再び強固に施され、闇の力は完全に封じられた。


封印が成功したものの、アイラはその代償として姿を消す。しかし、彼女の最後の言葉は「また会える日が来る」と、希望の残るものだった。アルノたちはその言葉を胸に、さらなる試練と新たな旅路に向かう決意を固める。次回、アイラの再来を信じてアルノたちは次なる冒険に挑む——。

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