第20話 悲しみと誘惑の狭間で、新たな決意を胸に
アイラが自らを犠牲にし、封印を完成させた。その光景が目に焼き付いたまま、アルノたちは遺跡を後にした。彼女の最後の言葉、「また会える日が来る」と告げられたものの、アルノたちにとってその言葉は希望でありながらも、遥か遠い未来の出来事のように感じられた。
アルノたちは近くの村に一時的に宿を借り、一晩休息を取ることにした。だが、アルノは疲れてはいたが、心の重みで休むことができず、窓際に佇んでいた。窓から覗く夜空には、星が輝いていたが、彼の心はそれとは対照的に、暗く沈んでいた。
「アイラを守ることができなかった…俺はまた、大切な人を失ってしまったのか…」
彼は静かに呟きながら、拳を握りしめる。これまで何度も仲間たちを守ろうとしてきたが、今回はアイラの選択を止めることができなかった。彼女の微笑み、そして最後に告げられた言葉が、彼の心を締め付け続けていた。
その時、扉が軽くノックされ、リューナがそっと部屋に入ってきた。
「アルノ…」
彼女の声は静かで、優しく響いた。アルノの隣に腰を下ろし、彼の表情を見つめるリューナ。彼女もまた、アイラを失ったことに深い悲しみを感じていたが、アルノが感じている苦しみはそれ以上であることを理解していた。
「ずっと考えていたのね…。あなたはいつも誰かを守ろうとして、傷ついてしまう。でも、アイラだって、あなたのおかげで最後まで戦い抜けたのよ。」
彼女の手がそっとアルノの手に重ねられ、そのぬくもりが彼に伝わってきた。彼女の言葉は慰めであり、アルノの心の痛みを少しずつ和らげるように響いた。
「アイラは、あなたがいたからこそ自分の役目を全うできたのよ。だから、自分を責めないで。彼女はきっと、感謝しているわ。」
アルノはリューナの言葉に静かに頷いたが、心の奥底に残る罪悪感はまだ消えていなかった。だが、彼女の優しい声と、その手のぬくもりが彼の胸を少しずつほぐしていった。
リューナはアルノに寄り添い、彼の肩にそっと頭を預けた。彼女の体から伝わる温もりと心地よい香りが、アルノの疲れた心を包み込むように広がった。
「あなたに…もっと安らいでほしいの。いつも戦ってばかりで、休むことを忘れているわ。」
彼女の声は甘く、まるでその言葉がアルノを誘うように響く。
リューナはさらにアルノに近づき、その顔が彼の肩に触れた。彼女の柔らかな髪がアルノの頬にかすかに触れ、その感触が彼の心に温かな波を広げた。彼女の吐息が、静かに彼の耳元に届き、その心臓の鼓動が少しずつ早くなっていくのがわかる。
「私が…あなたを支えたい。今は、ただ私に甘えて…」
リューナは彼の目を見つめ、その瞳には深い愛情が込められていた。彼女はそっとアルノの首に手を回し、そのまま彼に顔を近づけていった。彼女の唇が触れそうになるその瞬間、アルノの心は激しく揺れ動いた。
アルノは自分が揺れ動いていることを感じながらも、そっとリューナの肩に手を置いた。
「リューナ、ありがとう。でも…今はもう少し、時間が欲しいんだ。」
アルノはそう言いながらも、彼女への感謝と愛情を込めて微笑んだ。彼はまだアイラを失った悲しみから立ち直れず、リューナにその気持ちを打ち明けることができなかった。
リューナは一瞬驚いたように見えたが、すぐに微笑んで頷いた。
「わかっているわ、アルノ。私はいつだって、あなたのそばにいるから。いつか、その時が来たら、私を頼ってくれると信じてる。」
彼女の声は静かで、優しかった。彼女はそっと立ち上がり、部屋を後にした。
リューナが部屋を出た直後、もう一人の影がドアの前に現れた。シルヴィアだ。彼女は、リューナが去ったことを確認すると、妖艶な微笑みを浮かべてアルノの前に現れた。
「アルノ、今夜は思いがけず、たくさんの訪問者がいるようね。」
彼女の声には、いつものように軽い挑発と誘惑が含まれていた。
「まだ悩んでいるの?そんなに自分を責めないで。あなたのしたことは正しかったわ。だからこそ、今は自分自身に少しご褒美を与えてもいいんじゃない?」
シルヴィアはアルノの隣に座り、彼の耳元にそっと囁いた。彼女の手がアルノの肩にそっと置かれ、その指が彼の首筋を軽くなぞる。彼女の甘美な声と触れ合いが、アルノを再び誘惑の渦に引き込もうとした。
「あなたが必要なら、いつでも手を貸すわ。それに、今夜くらいは少し楽しんでもいいと思うわ。」
彼女の声はさらに低く、官能的な響きを帯びていた。
だが、アルノはその誘惑を振り払い、静かに彼女を見つめた。
「ありがとう、シルヴィア。でも、今はそういう気分じゃないんだ。」
アルノの言葉に、シルヴィアは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにその挑発的な笑みを浮かべて立ち上がった。
「ふふ、わかったわ。でも、私の提案はいつでも有効よ。あなたが欲しければ、いつでも声をかけて。」
彼女はそう言い残して、部屋を後にした。
シルヴィアが去った後、アルノは一人静かに窓の外を見つめた。アイラを失った悲しみ、そして仲間たちの気持ちが彼の中で渦巻いていた。だが、彼はその中で、自分の心の奥底にある新たな決意を感じ始めていた。
「俺は…前に進まなければならない。アイラのためにも、みんなのためにも。」
彼は深く息を吸い込み、剣を握りしめた。彼にはまだやるべきことがあり、そのために自分自身を再び奮い立たせる必要があった。
「明日は新たな試練が待っている…そのために、俺は強くならなければならない。」
アルノの心には、新たな覚悟と決意が満ちていた。彼はアイラの言葉を胸に刻み、次なる戦いに向けて動き出すことを決意したのだった。
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翌朝、アルノたちは新たな冒険に向けて旅の準備をしていた。アイラを失った悲しみはまだ彼らの心に影を落としていたが、それでも彼らは進むべき道を決め、次なる試練に挑む決意を新たにしていた。だが、その夜は、さらに多くの感情と揺れ動く心が交錯する夜となる。
リリーは、自分の部屋で一人剣の手入れをしていた。彼女の心の中には、アイラの犠牲に対する怒りと、自分自身の無力さへの苛立ちが渦巻いていた。何度も自分の剣を見つめ、彼女は思わず剣を握りしめる。
「私もあの時…もっと何かできたはず…」
リリーはそう呟きながら、ふとアルノの姿を思い浮かべた。彼もまたアイラを守れなかったことに苦しんでいるはずだと、彼女は知っていた。
「でも、だからって…リューナやシルヴィアばかりが慰めるなんて…」
彼女の心には、微妙な嫉妬と、アルノへの複雑な感情が交錯していた。彼女はアルノに対して素直になれず、いつもツンデレな態度を取ってしまうが、心の奥底では彼に対する強い思いを抱いていた。
リリーは立ち上がり、決意を新たにした。
「次の試練では、絶対にあいつを守る。それが…私の役目だから。」
彼女は剣を鞘に納め、アルノに会いに行こうと部屋を出た。
一方、カレンは遺跡の近くで一人静かに瞑想していた。彼女は、他の乙女たちとは異なり、感情をあまり表に出さない。だが、その心の中では、彼女もまたアルノに対する強い感情と、自分自身の使命について考えていた。
「俺は…アルノを守るためにここにいる。それだけは絶対に変わらない。」
彼女の声は静かでありながらも、力強かった。カレンはいつも自分を冷静に保ち、他人に頼らず自分の力で全てを解決しようとする傾向がある。しかし、最近、アルノとの絆が深まるにつれ、彼女は少しずつその頑なな姿勢を変えつつあった。
「皆がアルノを支えたいと思っているのはわかる。でも、俺は違う…俺は、彼が一人で背負わないように、常にその背後で支え続けるんだ。」
彼女は剣を握りしめ、再び静かに目を閉じた。カレンにとって、アルノは守るべき存在であり、彼の背後に立って支えることが彼女の誇りだった。
遺跡に向かう途中で、リリーはカレンと偶然出会った。二人はしばらく黙ったままだったが、リリーが口を開いた。
「カレン、あんたもアルノのことを考えてるんでしょ?」
リリーの声は少し尖っていたが、そこには彼女の本心が込められていた。
カレンは静かに頷いた。
「もちろんだ。アルノがいなければ、俺たちはここまで来ることもできなかった。」
カレンの冷静な言葉に、リリーは少し苛立ったように感じた。
「でも、あいつ一人に全部背負わせるなんて…無理よ。私たちだって、もっとできることがあるはずなのに…」
リリーの言葉に、カレンは一瞬考え込んだが、すぐに答えた。
「そうだな。でも、俺は…彼が背負うべきものを背負わせる。それが俺の役目だ。彼を守るために、いつでも彼の後ろに立つ。それが、俺の選んだ道だ。」
カレンの言葉に、リリーは少し驚きながらも、その真剣な表情に共感を覚えた。
「…そうか。あんたはそういうやり方なんだね。でも、私もあいつを守りたい。それだけは、変わらないんだから。」
リリーは決意を新たにし、二人は共にアルノのもとへと向かった。
アルノは宿の外で星空を見上げていた。アイラを失った悲しみはまだ消えていなかったが、彼は次なる試練に向けて新たな決意を固めていた。そこへ、リリーとカレンが現れた。
「アルノ…」
リリーは少し照れくさそうにしながらも、彼に声をかけた。
「もう、あんた一人で全部背負わないでよ。私たちも、ちゃんと力を貸すからさ。」
アルノは驚きながらも、彼女の言葉に微笑みを浮かべた。
「ありがとう、リリー。俺も、みんなの力を頼りにしている。これからも、共に戦おう。」
カレンも静かに頷き、アルノに向けて強く握りしめた拳を見せた。
「俺もお前を守る。それだけは絶対に変わらない。」
アルノはその言葉に感謝の意を込めて微笑んだ。そして三人は、次なる試練に向けて心を一つにし、その夜を共に過ごした。
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