第5話 アストリアの誘惑、アルノの揺れる心
夜の森は静寂に包まれ、三人の女性がアルノを囲むように立っていた。正面にはアストリア、その背後にエリシアとリリーがいる。彼を巡るこの状況は、まさに信頼と裏切りの狭間にあるかのようだった。
アストリアは優雅に微笑みながら、アルノにそっと手を差し出す。その指先は滑らかで白く、まるで誘うような魅惑が漂っていた。
「アルノ、私はあなたに力を与えられるわ。その力を持てば、誰もあなたに逆らうことはできない。すべてがあなたの思い通りになるのよ。」
その言葉にアルノは一瞬心が揺れた。彼を追放し、見下した者たちに「ざまぁ」と言わせたいという欲望が再び蘇る。だが、そんな彼の心を遮るように、エリシアが強い口調で叫んだ。
「アルノ!彼女に惑わされてはだめ。彼女の力は確かに強大かもしれないけど、それは危険なものよ。私たちの力を信じて。私はあなたを信じてる…。」
その言葉に、アルノの胸が熱くなった。エリシアの瞳には決して揺るがない信頼が宿っている。彼女はこれまで彼を何度も助けてくれた。そして、リリーもまた剣を握りしめ、アルノに向かって鋭い言葉を投げかける。
「アンタ、そんな甘い誘惑に乗るような奴じゃないだろう!何があっても、私はアンタを信じてるし、守るから!だから、そっちの危険な女に近づかないで!」
リリーのツンデレな言葉に、アルノは笑みをこぼしそうになる。しかし、彼はそれ以上にこの瞬間、重大な決断を迫られていることを痛感していた。アストリアの力は魅力的だ。デスグリモワールの真の力を解き放てば、自分が望む復讐も、成り上がりも一瞬で手に入れることができる。だが、その代償が何であるかを考えると、彼は心の中で葛藤していた。
アストリアは冷たい微笑みを浮かべ、さらに言葉を続けた。
「エリシア、リリー…あなたたちの言葉には力がないわ。アルノ、あなたもわかっているでしょう?復讐を成し遂げ、すべてを手に入れるには、この力が必要なのよ。誰もがあなたを認めざるを得なくなる…。」
彼女の言葉は甘く、誘惑的だった。アルノはその声に誘われ、思わずアストリアに手を差し出しかけた。しかし、その瞬間、エリシアが彼の手を掴む。彼女の手は温かく、アルノを引き戻そうとするかのように強く握っていた。
「アルノ、私たちには時間があるわ。あなたが成り上がるために、私たちが力になる。でも、そのためには信じ合わなければならないの。アストリアの力は一時的なものよ。」
エリシアの言葉に、アルノは再び自分の心を取り戻した。彼には今、信頼できる仲間がいる。エリシアも、リリーも、彼を信じ、支えてくれている。アストリアの魅惑的な力は一時的なものかもしれないが、彼女たちとの絆はそれ以上に強固なものだと感じた。
アルノは深く息を吸い込み、ゆっくりと手を引いた。そして、デスグリモワールをしっかりと握り直し、アストリアに向き直る。
「アストリア、確かに君の言うことには魅力がある。けど、俺は信頼できる仲間たちと一緒に、この力を使っていきたいんだ。君の力を借りるわけにはいかない。」
その言葉に、エリシアとリリーは安堵の表情を浮かべた。リリーがすかさずアルノに向かって拳を突き出す。
「それでいいのよ、アンタはアンタらしく、やればいいの!」
彼女の言葉には、彼への深い信頼と愛情が込められていた。
一方、アストリアは少し残念そうな表情を浮かべたが、すぐに微笑を浮かべ直した。
「ふふ、そう…なら、あなたがどこまでその力を使いこなせるのか、私も見させてもらうわ。私が必要な時が来たら、またいつでも呼んでちょうだい。」
アストリアはゆっくりと背を向け、闇の中へと消えていった。彼女の言葉はまるで呪いのようにアルノの心に残り続けたが、今はエリシアとリリーがそばにいる。それが彼にとって最大の支えだった。
アストリアが去った後、アルノはエリシアとリリーと共に歩き出す。彼の心には新たな決意が芽生えていたが、同時にアストリアの言葉が胸に引っかかる。「デスグリモワールの真の力」とは一体何なのか?そして、それを解き放つ時が訪れたとき、彼はどのような選択をするのか。
次回、アルノと仲間たちが向かうのは新たな冒険の舞台——古代遺跡で待ち受ける運命とは?そして、デスグリモワールに隠されたさらなる秘密が明かされる!
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