水谷零架にその手は通じない

蒼いロブスター(あおろぶ)

第1話 その刃は/

4月某日


「また受からなかった…」

これで4社目。

「はぁ…」

俺の名前は八坂颯太。絶賛就活中の21歳だ

今さっきお祈りメールの4通目が届いた所。

「いやぁここが無理ならどうすれば…」

今回受けたのは民間の対怪人警備会社だ。

最近巷を騒がせている怪人…噂に聞けば、とある道具を使って一般人から変化しているらしい。が、真偽は不明

この前は怪人と戦っている「レイズ」と名乗る謎のヒーローも生まれてきているとの事。

まるでフィクション。そんな怪人と戦えているこの会社ならきっと人手が足りないかもしれない…!と、危険を承知で履歴書を出した。

…のだが、結果はこの通り。


「本当に俺は就職出来るのかな…」

ここまで不合格が続くと少しネガティブになる。

大学の友人ともあまり連絡を取らなくなってきた。

「ダメだダメ!ちょっと気分を変えよう…」

少し散歩すれば気分も落ち着くだろう。

そういう考えで、お気に入りの薄緑パーカーとジーンズに着替え

近くの公園に行くことにした。


公園に着いた。

この公園は中々に綺麗で緑も多く気に入っている

この近くに家を借りたのもそれのせいだ。おかげで地味に大学からは遠かったが…

ベンチを目指して公園を進む。

その途中、颯太は衝撃的な物を目にした。

「へ…?」

道のど真ん中で女性が倒れていたのだ。

見た所20代、白のズボンに大きめの柄シャツ。金縁の丸メガネに黒色のストレートヘアをしている。

すぐに駆け寄り、声を掛けた

「大丈夫ですか!?死んでる!?」

「…失礼だな。寝ていただけなのに」

脳に響く、ダウナー系の声でそう言われた。

「あ、生きてたんですね…」

「人を勝手に死亡判定するのは辞めていただきたいね」

そう言いながら彼女はゆっくりと体を起こす

「道端で倒れてたら誰でもそう思いますよ」

「全く生きづらい世の中だ」

それは冗談なのか…?

「まぁ無事なら良かったです。それでは…」

そう先に行こうとすると、彼女に呼び止められた。

「そうだ君、ここで会ったのも何かの縁だろう、これを受け取ってくれないか?」

差し出されたのは、1枚のチラシだった。

「…求人?」

「あぁそうだとも。私立探偵という物をやっていてね。最近私だけだと人手が足りなくなってきたんだ。だからこう言うのに興味ないかな〜って」

…図星だ。今は喉から手が出る程職が欲しい。

しかも意外と条件がいい

…だが即決するのは少し危険だ。ここはしっかり考えねば

「…まぁ一応もらっておきます」

「あぁ、頼んだよ?」

…何を頼まれたのかは分からないが、何かを頼まれたらしい

「それと君、名前は?」

急だな…

「えっと…八坂颯太です。」

「菜之宮瀬名だ。以後、よろしくね」

確かそんな事を言われながら、その場を後にした。



「…うーん、やっぱ気になる」

次の日、どうしても気になった俺はチラシに書いてある探偵事務所に行ってみることにした。


最寄り駅から徒歩7分。見た所築5年ほどの建物で、外壁にはツタが生い茂りなかなか雰囲気がある。

チラシによると一階は喫茶店、二階が探偵事務所だそうだ。


階段を上り、「アカツキ探偵事務所」と書かれたドアを恐る恐る開ける。

ドアベルがチリンチリンと鳴り、香水のような甘さがふわっと香る。

「いらっしゃい、颯太君」耳元から声がした。

「ギャッ!?」

驚いて後ろを振り返ると、買い物袋を持った瀬名さんが立っていた。

「人を妖怪のような目で見るね、君」

「どうして後ろに…?」

「買い出し行ってたからね、君が先に着いても不思議じゃない。さ、入りたまえ」


中に入ると、アンティークショップのような雰囲気が広がっていた。

床は元の色が見えない程カーペットが敷き詰められており、壁際には天井まで届く程の巨大な木製の本棚。仕事用だろうか、壁にも所狭しと何かの資料が貼ってある。

洋館の1室のような雰囲気を感じさせる部屋だ。

「どうだい?事務所は気に入ってくれたかな?」

「骨董屋みたいですね」

「まぁよく言われる。アールグレイでいいかい?」


「…ふぅ、それでだ颯太君。要件を聞こう」

「ここで働きたいんですけど…」

今回はいけるだろうか…

「あ~なるほどね。うちの仕事はまぁ色々やるけど、大丈夫かな?」

「色々…?」

少し引っかかった。

「そう。ぶっちゃけ命の危険がある仕事だからね、ある程度の覚悟という物が必要なのだよ。」

「それなら大丈夫です」

まぁ警備会社より危険という事は無いだろう…

「わかった。歓迎しよう颯太君、これからよろしくね」

こうして、僕は念願の職を手に入れた。




「じゃあ、早速で悪いんだけど君に1つ依頼をこなして貰おうかな。」

「分かりました」

どんな依頼なんだろうか…

「律矢大学って知っているかい?」

律矢大学は俺が通っていた大学だ。

「はい!というか俺通ってました」

瀬名さんは少し驚いた表情で言った。

「そうなのか、それなら話が早いな。君には律矢大学に行って怪しい奴を探してきてほしいんだ」

「怪しい奴…?」

妙にふわっとした内容だ。

「あぁ。実はこの前、律矢大学に襲撃予告があったんだ。大学に行って破壊の限りを尽くす。とね」

「破壊の限り…」

破壊の限り…?少し引っかかる。

破壊…となると普通に暴れるという事ではないのか?

大量に破壊出来るもの…爆弾…あるいは怪人…?

「あ、もしかして…」

「あぁ、その通りだ。君は察しが良いな、嫌いじゃない」

「私調べでは、怪人は何かを使って変身しているんだ。君は観察力が高いし、何か変身前の奴に繋がる情報を見つけられないかな?」

変身前、となると怪人と遭遇する可能性が高い…?

「だいぶ危険な仕事じゃないですか…?」

「そう言っただろう?とにかく、予告の日は明日だ。頑張ってくれたまえ」

とても幸先が不安だ…



次の日、律矢大学に来た。

大学のランクとしては中の上くらいの大学だ。

去年卒業した俺にとって、今も大学に残っている知り合いも居ない。

ひとまず、近くのベンチに座って辺りを見回す。

特に異変は見当たらない。前と変わらない光景

「一体、いつまで居ればいいんだろうか…」

そもそも本当に現れるのか?

そんな不安の中、10分ほど待っていると

「怪人探しは順調かい?颯太君」

瀬名さんに話し掛けられた。

「瀬名さんも来てたんですね」

「当たり前だろう、新人研修に立ち会わない上司など居ない」

そう言うと、ニヤリと笑いながらこちらを見てきた。

瀬名さん意外と可愛いんだよな…

「それで、何か進展はあったかい?」

「いや、全く無いですね」

「うーんそうか…そろそろ来ても良い頃なんだがな…」


20分経過…

流石に気まずくなってきた

「あの」

「何だい?」

「もう20分無言ですけど」

「そうだね。もしや気まずくなったとか?」

「…何か話題があった方が」

「そうだな、じゃあ経験人数は?」

「えっ!?!?」

あまりにも急すぎる!!

「いやまぁ…それは…ねぇ…」

「なるほど、童貞か」

「………」

何も言い返せなかった。そして瀬名さんは今日1の笑顔をしていた。


「……あれ?」

瀬名さんのアグレッシブな質問に動揺して辺りに目を泳がせていたら、とある人物が目に入った。

「(あれは確か…冴賀…?)」

柊冴賀。俺が大学で初めて出来た友達だ。

入学式の時に話し掛けられて以降、お互い見てるアニメの趣味が合うという理由で仲がいい。

白のスカジャンをいつも着ている義理堅い男よ

確か「俺はブーメランに魅入られたんだよぉ!!」

とか言って卒業してすぐ県外に引っ越したはず…

そんなやつが何故今ここに?

「…もしかして」と思う暇もなく最悪の予想は的中した。

冴賀が何か小さい箱を開けた。途端に箱から黒い煙が吹き出し、冴賀の身体を包み込む。

そして煙が晴れた頃、そこには鉄鋼に身を包んだ怪人が居た。


怪人は刃のような物を投げ、建物を破壊し、人を切り刻む。

あんなのに当たったらひとたまりもない。

「ようやくお出ましか!」

瀬名さんは目を輝かせながら言った。

「何か掴めたかい?颯太君」

「はい!あいつ俺の友達ですね。ブーメラン研究してたんで投げてくる物危険ですよ」

「彼はどうやって変身した?」

「黒い箱みたいなやつを開けてました!」

「なるほど、そうか…!でかしたぞ颯太君、いい仕事ぶりじゃないか」

やっと褒められた

というかここに居るのって危険じゃないか…?

「すぐにここから離れたほうがいいんじゃないすか!?」

「あぁそうだね、我々も離れるとしよう」

そう言った直後、瀬名さんの方に鉄の刃が飛んでくる。

「瀬名さん危ないっ!!!!」




その瞬間、空から人影が飛んできて、刃を叩き壊した。

「ギリギリセーフ…!!」

そこには人のような形をした青と黄色の怪人が立っていた。

「全く遅刻癖は治っていないようだな。遅かったじゃないか、零架君」





続く

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水谷零架にその手は通じない 蒼いロブスター(あおろぶ) @aoirobusuta

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