ゾンビだらけのアポカリプスな世界になったけど、頑張って生き延びようと思います!
園業公起
第1話 世界が毀れた日
今でも覚えている真っ赤な血の色、錆びた匂い。
そこから逃げ出して、普通を手にしたはずだった。
世界が壊れるその日までは。
【ワールド・コンセプシオン】
日常は退屈であればあるほどいい。俺はそう信じてる。
「で、今日も遅刻ギリギリなのか?五百旗頭」
校門前で張っていた生徒会会長の御手洗
「ぎりぎりだからいいでしょ」
「よくない。お前の成績はいいんだ。こんなことで内申点を傷つけるな。東京の大学に進めなくなるぞ」
「べつに地元から出るつもりないんで」
「男子であるならばもっと志を高く持つべきじゃないのか?」
「俺は模範的な農民様になるって決めてるんです」
「んんむぅ。まったく。はぁ」
先輩に解放されて俺は教室に向かう。席についてノートを広げる。予習はばっちりしておくのが俺の主義だ。
「よぉよそもん。なに真面目にやってんの?おらぁ!」
教室の一軍男子に机を蹴飛ばされる。せっかく勉強してたのに邪魔が入った。後ろで一軍男子たちがげらげらと笑っている。女子たちはオロオロとしているが。
「もう転校してきて半年もたつんだけど、まだ俺はよそ者かい?ここに家も買ったんだけど?」
「おめぇみてぇな陰キャはうち街にはいらねぇんだよ!」
一軍男子は俺の胸倉を掴み睨みつけてくる。くだらない。精一杯強がっているみたいだけど、そこに本物の殺意はなかった。こんな目で見られても本気も出せない。俺はじっと相手を睨み返す。
「…なんでビビんねぇんだよお前」
「君がビビってるのを見ると我に返るんだよ。殴る勇気もないくせに」
「ちっ!」
一軍男子は僕から手を放した。僕は机を元に戻して席につく。一軍女子たちは俺の方を申し訳なさそうに見ている。今日も一日退屈な日常を過ごせる。それはきっと尊いことだと信じて。
昼休みに屋上で後輩の市村
「御手洗先輩ってどうしてキーキー煩いんでしょうね」
「生徒会長はそんなもんでしょ」
「私に県の科学コンクールに出ろ出ろって圧かけてくるんですよ」
「出ればいいじゃん」
「嫌ですよ!あんなど素人どもの自由研究なんかに付き合いきれません!私は査読論文のファーストオーサー20本も出してるんですよ!いまさら素人の場に出て俺TUEEEなんてやってらんないですって!」
「ほんとは恥ずかしいだけだろ。今日で保健室登校何日目だよ」
「ううわーん!それ言うの無しですって!結斗先輩マジ鬼畜!」
「むかしいじめられたのはわかるけど、人間なんて弾丸一発でぶっ壊れるような脆いもんだよ。ビビる意味ある?」
「たとえが怖くないですか!?せんぱい帰国子女なのはわかるけどどこの国から帰ってきたんですか?」
「うん?まあ陽気な国だったよ」
「ほんとですかー?」
「まじまじ」
こうやって後輩ともじゃれる日々は尊い。俺はそれを疑ったりしない。
それは午後の授業中に起きた。窓から見える校庭にフラフラと歩くおばさんが見えた。
「なんだ?あれ?」
おばさんは体育中の生徒に近づいていき。男子生徒に突然嚙みついたのだ。
「なんだ?!ジャンキーか?!」
俺は慌てて身構える。自然と腰の方に右手が伸びていた。昔の癖が抜けていない。
「まあ気の毒だけど先生たちがなんとかするか」
そう思っていた。だが噛まれた男子生徒もまたフラフラとし始めて、近くにいる別の生徒に噛みついたのだ。
「はぁ?!なんだよそれ?!」
明らかに異常事態だ。そしてその噛みつきはどんどん連鎖していき、気がつけば校庭にいる生徒と先生たちはみんなフラフラと歩き回るジャンキーもどきになった。そしてそいつらはそのままフラフラと校舎の方へと入って行ったのだ。
「感染するジャンキー?いやいや。っあ?!やばい!市村!」
市村のいる保健室は一階にある。僕は教室を飛び出して、階段を駆け下りて一回に降りる。
「うぅお…おぅおお」
「あぁっあああ…」
青ざめた顔のジャンキー共がいた。目玉はぐりぐりと変な方向に向いている。俺はすぐに物陰に隠れる。そして近くにある。消火器を持って駆けだす。
「うおおおらぁ!」
俺は消火器を思い切り振りぬいてジャンキーをぶっ飛ばす。そしてそのまま次々とジャンキーどもを殴って廊下を進む。
「市村ぁ!」
俺は保健室に入るするとそこには今にもジャンキーに襲われそうな市村がいた。
「ユイト先輩!」
「今助ける!」
俺はジャンキーに思い切りローキックをかまして姿勢を崩し、そのまま脳天に消火器を振り下ろす。
「ひっ!?」
俺に殴られたジャンキーは頭蓋骨が割れて脳みそがはみ出てしまった。久しぶりにグロいものを見てしまった。だけど動揺はない。ああ、やっぱりまだ俺の身体は非日常に染まったままなんだ。
「大丈夫か?!噛まれてないか!」
「はい。大丈夫です。でもこの人は一体…」
「わからん。それよりも外にも同じような連中がうじゃうじゃ「ぉおおぉううう」…え?」
振り向くとさっき脳みそがはみ出たはずのジャンキーがまだ動いていた。あり得ない!
「なんで動けるんだよ!くそ!」
俺はすぐに頭を消火器でガンガン叩きまくる。頭蓋骨は粉々に砕け、脳みそはぐちゃぐちゃに潰れた。そしてようやくジャンキーの動きは止まった。
「なんですか今の。絶対変ですよ!人間があんななったら動けるわけないのに!?」
「ああ。人間がこんなにタフなわけない。こんなのまるで映画のゾンビみたいじゃないか…」
市村は俺にしがみついていた。体は震えていた。彼女の頭を俺は撫でる。
「すぐに脱出しよう。どう考えてもやばい!」
俺たちは窓から校舎裏に出る。まだここら辺にはゾンビはいないようだ。
「ユイト先輩!どこに逃げるんですか?!」
校舎から悲鳴や怒号が響き渡っている。それだけじゃない。街の方を見ると煙の柱が何本ももくもくと立っていた。
「ここだけじゃないんだ。町中がきっと!!」
俺たちに逃げ場はない。そう悟ってしまった。
この日世界は壊れた。そして俺は非日常に帰ってしまったのだ。
【次回予告】
ユイトはリルカを連れて学校から逃げることを決断する。
知り合いであるナギナも連れて行こうとするが、彼女は生徒たちを守るために学校に残ることを選び道は別たれる。
安全な場所を求めて街を流離う二人。だがゾンビたちの魔の手は二人を逃してはくれない。
そしてユイトは自ら封じていた過去の力を解き放つことを選ぶ。
次回、【覚醒】
登場人物
五百旗頭結斗 いおきべゆいと
二年生。ごく普通の陰キャを気取っているけど、一軍女子たちが気を使うくらいに顔がめちゃくちゃ綺麗。過去に何かあったようで常人とはいいがたい戦闘能力を持っている。
御手洗凪奈 みたらいなぎな
三年生。大和撫子然とした超別嬪さん。居合、剣道、古流剣術を修めた剣の達人。それ以外にも各種武道を極めており滅茶苦茶強い。それだけではなく勉強もできるため将来を嘱望されている。
ユイトのことを気に入っているようだ。
市村理流花 いちむらりるか
一年生。現役の科学者。一流学術誌にすでに何本もの論文を投稿している。だが過去にその高い知能からいじめられた経験故に強い人見知りであり、恥ずかしがり屋。保健室登校を続けているが、ユイトには懐いた。
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