第30話 勝負の行方①

 ジュストの次の相手は上級生らしく、相手の方にも応援団がいた。

 白銀の長髪を三つ編みにしていて、遠くから一瞬女性に見えた。


「ナタリアお姉さまぁ~」

「すてきぃ~」


 と思っていたら本当に女性だった。


「あれはパスケル伯爵家のご令嬢ね。あそこは女性でも幼い頃から剣を習うと聞くわ」


 ナディアがジュストの対戦相手について、教えてくれる。

 所謂「○○○○のばら」の主人公。その熱狂ぶりは○○ラジェンヌのファンのようだ。

 ジュストの応援団とは嗜好が異なるため、そのファン層にダブリはないからか、応援団の間にも火花が散っている気がする。

 凛々しいお姉さまに憧れる女子。男性がいるのも見える。

 あんな登場人物は小説には出てこなかった。多分モブなんだろうけど、別の小説の主人公に成りうる感じだ。


「兄上~頑張れぇ~」


 ともすれば応援団の声に掻き消されてしまいそうな中で、声を張り上げると、ジュストが相変わらずの笑顔でこちらに手を振ってくれた。


 それからすぐに試合が始まった。


 今度の相手は、これまでの相手とは違い強敵だった。

 力では負けないだろうが、その分相手はすばしこく技術もかなりのものだ。

 しかし、女性相手でもジュストは手を抜かない。

 彼女はジュストに振り回されて尻もちをついて、試合はジュストの勝利で終わった。


「きゃ~」


 悲鳴が響き渡り、審判がジュストの勝利を宣言する声もよく聞こえなかったが、ジュストが手を伸ばして彼女を立たせたのが見えた。


 彼女とお互いに礼をして、ジュストはこちらに手を振った。それに対して両手で手を振り返した。


「あの子もああいうことをするくらいの気遣いはあったのね」

「兄上は優しいです。負けた相手を気遣うくらいできます」

「私が言っているのは女性に対してよ」

「あれはどうみても、対戦相手に対する礼儀にしか見えないですけど」

「あなた、お兄様の婚約者を見つけたいのでしょ。さっきオハイエ嬢のことを話していたじゃない」

「それは、彼女だからで」


 きとんとした主人公のレーヌ=オハイエだから、ジュストを任せてもいいと思った。

 モブキャラは違う。


 大事なジュストを任せるのだ。相手もそれなりのクラスでないと。


 その後、もう一度ステファンとジュストが対戦を勝利で終え、王太子殿下もようやく登場し、勝利を収めた。

 剣術大会は大詰めを迎え、準々決勝となった。


「いよいよ準々決勝ね」


 次の試合でお互いに勝てば、ジュストとステファンが対決する。


「こっちが緊張してきたわ」


 ジュストの相手は、同じ特進の現騎士団長の息子メリビルだ。


「王太子殿下以外で最も強敵なのは彼でしょうね」


 ここで大番狂わせがあった。

 ステファンが負けたのだ。

 まさか主人公補整が効かなかった。


「負けてしまいました」


 敗退したステファンがこちらへ合流した。


「頑張りましたね」


 ナディアが彼の健闘を讃えた。


「ここからはジュストの応援に専念します」

「でも、兄上の相手も強敵らしいですね」

「ああ、だが、練習では三本に一本はジュストも勝てていたから、どうなるかわからない」

「『勝負は時の運』というヤツ?」

「そんな不確かなものじゃなく、勝つという気概だ。ジュストの場合は『勝つ』ことより、ギャレットに良いところを見せたいという気持ちが大きい。対して対戦相手のメリビルは、家名を背負ってるから必死だ」


 弟に良いところを見せたいだけのジュストと、家のために負けられないメリビル。どっちが勝つか。


 準々決勝、ジュストの対戦が始まった。

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