第21話 学園祭③
「大丈夫か!」
「ギャレット」
ジュストとナディアが慌てて駆け寄る。
「ギャレット?」
尻餅と共に後ろに手をついた僕は、ぶつかった相手を見た。
淡い金髪が陽の光を浴びてキラキラと輝く。
自分も金髪だが、彼女の金髪は月光を編んだように綺麗だった。
「オハイエ嬢」
「モヒナートさん」
間違いない、彼女が
朧気になりつつあった前世の記憶。しかし小説の内容だけは時折断片的に蘇る。
表紙にあったステファンに迫られ、蕩けた微笑みを浮かべた可憐な小説の主人公、レーヌ=オハイエが尻餅をついて、目の前にいた。
「ギャレット、大丈夫か?」
「う、うん…僕よりあの人」
ジュストはレーヌを無視して、僕を先に助け起こしに来た。
普通、あっちの方を先に助けない?
「お前のほうが小さいんだから、気にするのは当然だ。大丈夫か、オハイエ嬢」
「え、ええ」
一応ジュストも彼女に手を差し伸べ、彼女はその手を掴んで立ち上がった。
「ジュスト、こちらの方はもしかして」
ナディアがレーヌについて尋ねる。
「レーヌ=オハイエ伯爵令嬢です」
「まあ、じゃあ、ステファンやジュストたちと一緒に特進に入ったというお嬢様ね」
「あ、はい、あの、私のことご存知なのですか」
名前を聞いたナディアの反応を見て、彼女はジュストを見る。
自分のことを噂されていたことに嫌な気持ちになったのかと思ったが、ジュストが自分のことを家族に話していたことを嬉しく思っている様子だった。
ん、これは、ジュストの反応が気になっているってこと?
「別に大した話はしていない。一緒に特進に入った人について話しただけだ」
そしてチラリとギャレットを見た。
「弟が色々聞いてくるから」
「弟さん?」
「ギャレット=モヒナートです。兄がいつもお世話になっています」
「こんにちは、レーヌ=オハイエです」
柔らかくレーヌが微笑む。それは小説でジュストやステファンを魅力した儚げな微笑み。さすがヒロイン。
「お世話なんかされていない」
ジュストが無愛想に呟く。小さい声だったので後ろにいるナディアには聞こえなかったようだ。
「ギャレットったら、いつの間にそんな挨拶が出来るようになったの」
ギャレットの挨拶を聞いて、子供が思った以上に成長していることに、母親が驚いている。
「弟さん、おいくつですか?」
ジュストの塩対応に傷ついたのか、ぎこちない笑みで此方に問いかける。
「きゅ」
「九歳だ」
言いかけたギャレットに被せるようにして、ジュストが答えた。
「そう、私も妹がいるの今年七歳なの」
それは彼女の義母が生んだ異母妹ー確かミュリエルだったかーのことだ。
小説の中で、彼女を母親共々虐めていると書かれていた。
「そう」
これまたまったく興味ない口調で、ジュストが相槌を打つ。
「弟さん、かわいいわね。利発そうだし、お兄様なこと、とても慕ってらっしゃるのがわかるわ」
「当たり前だ。ギャレットは俺の自慢で、大事な存在だ。世界一かわいい」
当然と言わんばかりに喰い気味に答える。さっきまでとはまったく違って、周りの人まで振り向く大きな声で答えた。
「ちょ、兄上、声が大きい」
注目を浴びて恥ずかしくなる。
「まあ、ジュストったら、兄弟仲がよくて、弟は兄を殊更に尊敬しているし、兄も弟をとても可愛がってくれているの」
「そのようですね。羨ましいです。うちもそうだと良かったのですが」
彼女が寂しげに言った。
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