第20話 学園祭②

 側近になるための選定は、王宮で候補者の色々な情報を元に審議されるため、すぐには決まらないらしい。

 王太子の側近ともなれば、将来王太子の側で国の重責を担う地位に就くのだから、慎重に選ばれる。

 側近にならなくても構わないという言質をもらったからか、ジュストは肩の荷が下りたようで、意気揚々と学園に戻っていった。


 ある時、ジュストから届いた手紙に、近々開催される予定の学園行事のことが書かれていた。


 王立学園にも、日本の学校のように学園祭というものがある。

 日本人が考えた物語なので、そういう設定もありだ。


 違うのは模擬店や演劇のようなクラスやクラブ活動の出し物はなく、行われるのは剣術大会だということだ。

 男子生徒は強制参加。女子生徒は希望者のみらしい。


 その学園祭…剣術大会は一般にも公開されているので、家族で見に来てほしいという誘いだった。


「学園…学園に行ける」


 女主人公に会えるかも知れない。


 絶対見に行く、何をおいても見に行く。

 そう返事を書いた。


 学園祭が開かれるのは一ヶ月後。


 それまでもジュストは毎週末帰ってきた。

 剣術大会に向けた剣術の授業はとても厳しいらしく、帰ってくるたびにジュストの体は痣やら傷が出来ていた。


 学園祭は週末に行われる。その週はジュストは帰らず、代わりに自分たちが行くことになった。

 残念なことに父上は仕事のため行けなくて、僕は母上と共に学園に向かった。


「待っていました、母上。ギャレット、よく来たね」


 ジュストが学園の入り口まで迎えに来てくれた。


「ぎゃあああ」


 しかし、僕はジュストを見た途端悲鳴を上げてしまった。

 美しいジュストの顔に怪我を見つけたのだ。


「あ、兄上、兄上の顔に、傷が」

「そんな顔をするな。こんなの傷のうちに入らない。それにもう殆ど治っている」

「だ、だってその顔」

「というか、よく分かったな、ここに傷があるって」

「ほんとうね、私も気づかなかったわ」


 顎の辺りにうっすらと赤い筋があって、よく見なければわからない。しかもそれは下から見上げないとわからない。ジュストとほぼ同じ身長の母上は気づかなくても、下から見上げる僕だからということもあるんだろう。

 でもそれ以上にジュストのことを小さい頃から観察してきたのだから、どんな変化でも見過ごさない。


「兄上のことに関して僕の右に出る者はいないよ。ジュスト検定なら間違いなく満点を取る自信がある」


 得意気に胸を張って言うと、クスリとジュストが笑った。


「本当にギャレットはジュストのことが好きね」

「はい」


 母上に言われて元気よく答えると、言われたジュストの方が恥ずかしがっている。


「お父様が来られなくてごめんなさい」

「仕事なのですから、仕方がありません。学園祭は来年もありますから」


 ジュストの案内で学園内を案内してもらいがてら、大会になる会場へ向かった。


「懐かしいわね」


 卒業生のナディアは学園内の様子を見て懐かしむ。


「あと六年もすれば僕もここに通うんだね」


 僕も周囲を物珍しく眺め回す。


「あまりキョロキョロしていると、人にぶつかるよ」

「だって、学校なんて初めてだから」


 前世でも学校には通っていたが、その比ではないくらい、ここは広い。


 何しろ剣術大会が出来るような広い闘技場もあって、馬場もある。構内には学生寮やちょっとした買い物が出来る場所もある。大学でも購買はあったけど、貴族が通うだけあって、無茶苦茶高級感がある。


「ねえ、あっちの方には何があるの?」

「ギャレット、前!」

「わあ!」


 何か見えてそこに指を指して、後ろからついてくるジュストと母を振り返りながら歩いていると、前から来た人にぶつかった。


「きゃっ」


 互いに正面衝突して、尻もちをついてしまった。

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