第6話 新たな関係③
だからなのか、何か話そうとする前にまず一度考える癖がついた。
「最近、少し大人になったのかしら。前みたいに慌ただしく喋ったりしなくなったわね」
そんな変化に母親が気づいた。
「お兄様の落ち着いた雰囲気を見習おうと思いました」
「まあ、偉いわ。ジュストも弟の良き見本になるように頑張ってね」
「は、はい。は、母上」
ジュストはまだ父上、母上という言い方に慣れないらしく、その部分だけ少し声が小さくなる。
彼は二人が実の両親でないことはわかっているから、よそよそしくなるのは仕方ない。
加えてギャレットの我儘ぶりが酷くて、ますます家族として溶け込めなかったんだろう。
「ギャレット、君の兄としてもっと誇りに思って貰えるよう頑張るよ」
「頼もしいです。お兄様」
ジュストにも変化はあった。
ギャレットが何でも彼を手本にしたがるから、いい兄になろうと努力してくれる。
他人から凄いと褒められれば、自然と自己肯定力も出来て、それが態度に自信として現れる。
褒めて育てろとは、こういうことなんだろう。
健全な環境で育てば、子どもは真っ直ぐスクスクと育つ。
気分は妹なのか弟なのか、それとも親戚のおばさんか。とにかくカワイイとしか言いようがない。
幼い頃からひどい目にあってきて、心に傷を抱えて生きてきただろう。
だからこそ、家族に虐げられてきたヒロインに同情から始まる偏愛を向けていったんだろう。
虐げられていた子どもを引き取って育てようとする人の良い侯爵夫妻
長い間、子ども出来なかった夫妻
もしギャレットが生まれなかったら、ジュストは何のわだかまりもなく、生きていけただろうに。
ギャレットの誕生が、彼の人生を歪ませてしまったのだとしたら、何だか申し訳ない。
「お兄様、大好きです」
でも、私が覚醒したからには、物語のようにはしない。
己の保身、命乞いでもあるが、ジュストには幸せになって欲しい。
鼻血はあれ一回きりだったが、気がつけばジュストに良く抱きついた。
人の体温が気持ちいい。
変態だなと心で思いながら、ジュストが嫌がる気配を見せないことをいいことに、触りたい放題である。
「あらあらすっかりお兄ちゃん子ね。この前まで若いメイドにばかり抱きついていたのに」
ギャレット、ませてたんだ。
けれど中身はアラサー女子になった今は、女に対して興味が無くなってしまった。
おっきい胸は憧れだけど、好きかと言われれば好きじゃない。
このままだと、ギャレットはもしかしたら…
ちょっとTLからBLにジャンルが変わりそうな予感がするが、まあ、ジュストが話の筋書きどおりレーヌに惚れてしまえば、話は勝手に動くだろう。
「失礼します、奥様、アベリー侯爵夫人とご子息がいらっしゃいました」
そう執事が告げに来たのは、わたしの記憶が蘇って三日後のこと。
(来たわね。ジュストの恋敵にして、小説のヒーロー)
小説は学園に彼らが入ってから始まる。
今はまだその序盤にも入っていない。
すでに怪我のことでジュストが責められることはなくなった。
これがこれから先の展開にどう影響していくのかわからないが、死亡エンドだけは回避したいものだ。
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