ニューワールド・ファンタズム
神成幸之助
第一部・アースリア編
無限とも思える程果てがない迷宮と、それぞれの文化がある国々。
過去、神々が現れ、目を覚ました迷宮。モンスターが跋扈し、宝があふれる暗闇。
それが、《俺達》が生きる世界の全てだ。
少年が剣を手に、英雄を夢見て走る世界。想いの力が世界そのものを作り変える。
戦う誰もが努力し、剣の腕を上げていく…………。目先の物だけに囚われ、死んでいく者も大勢いたが、現在の世界は平穏だった。
ここは、血濡れた現実。本物の笑顔がある。偽物など何一つ存在しない。
「ふーっ…………」
呼吸を整え、両刃片手剣の剣先を《敵》に向ける。構えた瞬間、刀身を赤い光が覆う。
低く、速く。赤い光を帯びながら走る剣は敵、レベル九十二モンスター《ウルフナイトエース》の肩を鎧ごと抉った。
これが《剣技》。《俺達》に与えられた戦闘スキル。魔法以上の確実性と剣術以上の殺傷力を持つ必殺技。動作があらかじめ決まっているため、使用者が技の動きに逆らわないように加速してやれば更に威力は向上する。
「ぐるうあああっ!」
狼騎士は反撃の為に両手剣を正中線に構え、上段斬りを放ってきた。両手剣単発重突進技、《ライトクラッシュ》。黄色い光を帯びた剣が俺の目の前に現れる。
この技は単純故に威力が高い。上位剣技として申し分ない技だ。それに対して俺は
「…………………せやっ!」
連撃で一撃を受け止め、押し返す。狼が硬直した瞬間に、俺は蹴りをお見舞いする。
距離が開き、互いに大技の余裕ができる。
「………………」
「ぐぅううう…………」
互いに睨み、気配を読み合う。
俺の片手剣より、狼の両手剣の方が一撃の威力は高い。それに俺は片手剣の防御手段である盾を装備していないため、守りに入るとこっちが不利だ。
「はーっ…………ッ」
同時にスキルを起動し、ライトベールが刀身を覆う。
――――――ダッ。同時に走り出した。
「ぐがああああっ!」
ウルフナイトエースが放ったのは、両手剣三連撃、《グラム・リープ》。
初撃。顔ギリギリに来た刀身の側面に刃を当てる。俺が放ったのは片手単発突進技、《ソニックリード》。上位剣技と中位剣技がぶつかる。すると、狼の両手剣を覆っていた黄色の光が何度か点滅した後、消えた。無論技は終了していない。これは《スキルブレイク》という対人専型種族用の規格外スキルだ。規格外とはそのままの意味で、世界に組み込まれたシステム以外の、効果を持った技という意味。《スキルブレイク》は相手のスキルと自身のスキルを互いの剣の中心で衝突させることで相殺するというもの。
連続技は発動途中にスキルを停止されると硬直時間を課せられるが、単発技はそもそも放ち終わった後のため、硬直の隙をつくらないで済む。
それに、中位剣技は上位剣技と比べて威力が物足りない分、硬直時間も短い。
俺は硬直した狼人間に向けて新たな技を放つ。
「う、おおおおおッ‼」
一瞬のタメにより剣速をフルブースト。放つのは片手三連撃、《イーグル・ウィング》。
精密さを求められる上位剣技。初撃は垂直の振り下ろし、二撃目は水平左斬り。そしてラストアタック。三撃目、水平右斬り。
「ぐううがああああ!」
獣の断末魔が尾を引いて響く。
―――これが誰の過去なのか、未来なのか、まだ分からない―――――――――――。
《神生大戦》最終決戦・最高神ゼウス。
「愚かで傲慢な人間よ、貴様等は何故抗う?お前たちがこの地球を穢しているのだぞ」
そんな最高神ゼウスの言葉に
「俺達が生きている。それ以外にあるか?物事を考えて話せ下郎!」
そう叫ぶ《ギルガメッシュ》。そして静かにゼウスは雷撃を放つ。
「消え失せろ《雷光》」
「チッ……〝ソニックアクセル〟!」
《武技》。近接種族が使う戦闘方法。最も効果が出る力の込め方を昇華させたもの。《アクセル》は速度特化。
「人魔剣、竜技〝竜牙突撃(ドラグストライカー)〟!」
強力な力を持つ神々に対抗する為、あらゆる種族が協力して作り出した
「貴様…!死ね!」
更に大きな雷撃……。しかしギルガメッシュは《クリムゾン・エア》で雷撃をかき消した。
「なっ……」
「知らぬだろう?この剣を。貴様等に抗うために作られた、種族を越えた剣だ!……《百花繚乱》!」
小さい雷撃を高速の剣技で切り伏せる。その時最高神は思い知った。この傲慢な男の力は、全種族の技術全てなのだと。
「……消えろ!」
《雷撃演歌》!
多数の雷撃がギルガメッシュを襲う。
「笑止!〝飛天〟!」
闘気の斬撃が雷撃を叩き斬った。
「終わらせるぞ下郎!民が吉報を待っている!〝竜魂剣装〟!」
現れた闘気の竜が天に掲げた《クリムゾン・エア》に宿り、刀身が黄金に輝く。
『其方を虐げる者がいるのなら、我は祖奴を叩き潰そう……理不尽は俺の剣が叩き切る!』
「これが貴様等神々に送る、俺達の《お返し》だ!」
「ふざけるな!《神滅雷熱殺(ライジングサンライト)》!」
「竜技〝神滅竜断罪(シン・ドラグパニッシャー)〟!」
それから時代は進み……神と生命が共に暮らす時代。
「あ、あ、ああああっ!」
逃げているのは普通の
いつも通り山に山菜を取りに来ていた僕の前に現れたのは、ゴブリン。冒険者なら簡単に討伐してしまう下級モンスターだが、僕にそんな力は無い。だから逃げるしかない。走り続けた。そして今は僕以外に誰も住んでいない家に辿り着く。
「なにか、なにか武器は………そうだ」
ある。あるぞ……たった一本の武器が……。
「ごめん、父さん。」
壁にある鍵穴に鍵を刺すと、一本の刀が出てきた。紺色の鞘に入った《封印剣・神威》。昔、父が持って帰ってきたこの刀は抜くことを許されなかった。だけど、今は。
「お願い……力を貸して!」
刀を引き抜き、外に来たゴブリンに相対する。
「キシャシャ!」
「せいっ!」
掛け声と共に振った刀は、ゴブリンを一刀両断した。
「すごい………!」
ガサッ、草むらからもう一つ、影が現れる。それは
「ホブゴブリン⁉」
ゴブリンの上位種。……勝てるわけない。
「グルアアッ!」
拳を刀身に受ける――。しかし受けきれずに大きく吹き飛ばされた。
「逃げなきゃ……」
『愚か者!』
「えっ?」
その声と共に僕の身体から黄金の炎が溢れ出る。
「なに……これ……?」
(……知らないのに、使い方が分かる。まるで、昔使ったことがあるような感覚――)
「………こうかな」
掲げた刀身に炎が宿る。両手で握り、走り出し、踏み込み、振り下ろす。
「うおおおおお!」
その攻撃はゴブリンの脳天に直撃して、ゴブリンは灰になった。
「倒せた………!」
刀を鞘に戻すと炎は消えた。
「これが……《神威》……」
(これが、戦う感覚……!)
なりたい。そんな気持ちが溢れてきた。冒険者になりたい。
「善は急げだ!」
僕は修行を開始した。神威と炎を扱う練習。刀を振る感覚が馴染んでいく。そして剣術をやってみることにした。父と祖父の技術が書かれた《剣術指南書》を読み込み、実戦していく。剣術で大切なのが《闘気》。自身の生命力や活力を練り、力を生む。その《闘気》を使い剣術は鋭く、速く、重くなる。そして炎に関しては学ぶ方法が無い為、試していくしか方法が無い。炎を神威に集中させ放つ斬撃、《飛剣》と名付けた。振り払うと炎が斬撃の形で飛んでいくためそう付けた。
「よし!」
家にあった灰色のおんぼろコートを着て、最低限の鎧を着ける。荷物を持って、出発だ。
四人で撮った写真に向かって
「行ってきます!」
家から飛び出し、街を目指す。
一日目の夕方、小さな村に辿り着いた。
そこには小さな宿屋があり、そこに泊まる。
「宿泊代は十リルです」
「十か……」
家にあったお金は二十五万。まだ余裕はあるが、これからのことを考えると少し心配だ。早く冒険者になって稼ごう。簡易ベッドにランプ。辺境の安い宿屋なので、それ以上を求めてはいけない。次の日、村の外の森に出る。
「あの子は――」
村の外で歩いている時、怪我をした女の子を見つけた。
「どうしたんだ、君は――」
「たすけて、おにいちゃん!」
泣きながら女の子は話し始めた。母親と散歩に出ていた時、シルバーウルフに遭遇してしまったという。その名の通り銀色の狼、爪と牙は鋭く、素早く、群れで活動するモンスター。
ダンジョンから出たモンスターは各地に広がり、暮らしている。
「―――分かった。……お兄ちゃんに任せとけ」
「おねがい……ままを、たすけて……」
村に戻り女の子を預け、事情を説明する。
ある者は狼を恐れ、ある者は狼の怒りを買ったと騒ぎ、またある者は、武器を取った。
「いいんですか?正面から戦おうなんて……」
村のおじさんが剣を握りながら。
「ここは俺達の村だからな、余所者にだけ任せるわけにはいかんのよ」
その男は昔、冒険者だったが才能のなさを思い知り、村に戻ってきたらしい。
「来たぞ、銀狼だ」
白銀の毛に覆われた獣。それに対し、おじさんは片手剣を手に取った。
「盾は……」
「いらん、反応速度と剣速が鈍る」
「…………行きましょう」
神威を引き抜く。武器を見た狼はこっちに突進を仕掛けてくる。
「先陣は俺が切ろう」
男が剣を斜めに振り下ろすと、狼の首が地面に落ちた。
「すごい……」
「まだ来るぞ」
神威を構えて、皮籠手に峰をあててどっしりと構える。
「〝流水絶閃〟」
狼の爪を受け流し、その力を利用して獣を切り裂く。
「やるな、君」
そう言いながら男は右手の剣に力を込める。
「お、おおおおおおッ!」
三体もの狼を薙ぎ払った。すごい……冒険者は、こんなに強いのか……。
二十体程倒した後、大きな影が現れた。
「でかい……!」
「こいつは……《キングシルバーウルフ》……⁉」
大きい。全長六Ⅿぐらいあるんじゃないか……?
「俺が引きつける、そのうちに側面から!」
「任せてください!」
「うおらああああッ!」
神威〝鉄鎚〟!
上段からの全体重を乗せた一撃。
「久しぶりだが、やってやるぞ……!」
おじさんは全身から《闘気》を吹き出した。生命力の塊を剣に乗せて放つ。
「〝剛剣〟!」
「僕も……」
「まだだ……!」
「もう少し……あっ!」
狼の後ろで倒れている女性――あの子の母親か。
「この人は、僕が守る!」
その時、僕の中から闘気が溢れ出た。凄まじい勢いで。
闘気を、剣先に集中――。父さん、使うよ。
〝竜技〟《竜牙突撃(ドラグストライカー)》
父さんの得意とした闘気の剣術。膨大な量の闘気を剣先の一点に集中。今の僕では全ての闘気を込めなければ使用できない。練りあがった闘気の渦。
竜の闘気を身に纏い、そのままキングシルバーウルフの心臓を貫いた。
「君、本当に行くのか?せめて夜が明けてから……」
「いえ、余計に止まれなくなったので、急ぎます」
「そうか、あの子には俺から伝えておこう」
「お願いします」
僕はまた、進みだした。夜の中、暗い暗い、夜の中。
「わぁ……!」
村を出て数日、冒険者の
「ギルドはっと……」
しばらく歩いていると、そこにあった。
「ここが、ギルド……」
「いらっしゃいませ。本日はどんなご用件でしょうか?」
受付の女性は営業スマイルで問いかけてくる。
「冒険者登録を」
「分かりました。それではこの用紙に記入をお願いします。」
差し出された紙には名前、年齢、主武器、戦闘方法の記入欄があった。アルタイル・アリエル、十四歳、刀、剣術、炎。
「ありがとうございます。この炎というのは?魔法でしょうか?」
「まあ、そんな感じです」
実際のところ僕にも分からない。炎を出す魔剣では無いのに、金の炎を放出する。そもそもこの神威はモンスターを倒すことでその命を吸収し、その強度と切れ味を向上させるという、対モンスター用の魔剣なのだ。
「それではこのカードに闘気、もしくは魔力を通して下さい」
俺は闘気を通す。そしてそのカードに文字が刻まれていく。
「うおっ……」
「登録完了です。あちらの掲示板に依頼が貼ってあります。ダンジョンに潜られる場合はダン
ジョン入口の係員にカードを見せていただければ大丈夫です」
「ありがとうございました!」
僕は早速ダンジョンに入ってみた。
「暗いな……」
「ガウッ!」
現れたのはシルバーウルフ五匹。二十七層のモンスター。
「修行の成果を試してみるか!」
神威は宿に置いてきたので、武器屋で買った黒い
「ふ~っ」
呼吸で落ち着き、足に力を込める。《アクセル》。素早く接近する。そして、
「せあっ!」
片手剣上段斜め斬り《スラスト》。《剣技》。神が人間全員に与えた力。特定動作のブースト。
「まずは一体、次!」
今度は突進しながらの左薙ぎ。片手剣水平斬り《リオ・イクス》。一気に三体を吹き飛ばし、
残り一体。この個体は……。
「リーダー個体………」
それは群れの中で一番強い個体。これは……一撃では倒せそうにない。
(それなら)
剣を右後ろに構え、腰を少し低くする。
「ガウッ!ガアアッ!」
「ハアッ!」
向かってくる狼の胸に一撃、一回転し首の後ろに一撃、左側面に一撃、そして最後にジャンプしたウルフの下に入り、掻っ捌く。計四連撃の
「ふぅ……」
パチパチパチ……誰かが手を叩いている。
「誰⁉」
そこには水色長髪の男?女?が立っていた。
「いやぁ、いいもの見せてもらったよ。新人にも希望はあるもんだなぁ」
「あなたは?」
「俺?俺はアース。《マティリス・クラン》の剣士さ」
「マティリス・クラン……」
この街でも有数の、最高峰クランの一つ。その剣士はこんなことを言い出した。
「俺の弟子にならないか?」
「えっ?」
「君、中々見どころがある。Lv1にしてはなかなかの動きだったよ」
「はあ…………」
「それで、君に損はさせない。俺の《流水剣》を教えよう」
「流水剣?」
「ちょっと打ち込んでみ」
「分かりました。セアッ!」
「よっと」
僕の剣は簡単に受け流された。かなり強めに振ったのに。
「これが流水剣。受け流し、反撃する。カウンターに最も効果を発揮する剣術さ」
(凄い。あんな無防備な状況から剣を抜き、間に合わせた……。それにあの剣筋、ゆっくりだった)
「ご指導、よろしくお願いします!」
「うむ」
それから指導が始まった。流水剣の基本。緩急を付け相手を翻弄させ、神速の斬撃を叩き込む。
流水剣に合う剣技もいくつか教えてもらった。
「この剣を見ておいてくれ」
腰に剣を納めた状態から引き抜き、岩を斬った。――反応できる気がしない。
「今のは?」
「抜刀術。本来は刀でやるものなんだけど」
――――神威でなら――。
「お前はどこのクランに入る予定なんだ?」
「まだ決めてません」
「それならうちの試験を受けてみろ。登録はしといてやる」
「いつですか?」
「明日だ」
俺はマティリス・クランの前に立っていた。
「でか……」
本拠地が大きすぎる。ここの試験を受けるのか。
中に入るとすぐに説明がされた。試験の内容は試験官相手に一本をとれば合格。ルールは決闘方式。いわゆるデュエル。
「あなたは一番最後です」
三十六人の最後。時間がかかるな。と思っていたその矢先。
「始め!」
最初の試験が始まる。受験者は鎧を装備した騎士。そして相手は《閃光》、《アリス・フリューレ》。それは一瞬だった。そのレイピアの先端は、騎士の顔数センチで止まっていた。
「勝負あり!失格!」
騎士はトボトボと去っていく。他には格闘家、魔法使い、戦士、弓使い等々の新人が全員失格となった。そして僕の番。
「お願いします!」
「うん」
「始め!」
さっきまでの人達と同じ様に、その細剣は顔の前に接近する。しかし
「⁉」
「防いだ⁉」
咄嗟の反応で防御が間に合った。そして僕は剣を緩めに下段に構える。女剣士は中段に構える。
「アアッ!」
「セイッ!」
その剣撃はぶつかり、お互いに弾かれる。僕は《エクシア》の構えを取る。そして駆け出す。
空中に飛び上がり、エクシアではなく、上段垂直斬りを発動。《グランツ》。
「……」
バックステップで躱された。
「誰かに似てると思ったらアースの剣筋にそっくり」
「まあ、教えてもらいましたから」
「やっぱり。それなら少し本気でいくよ」
黄金の髪が揺らぎ、青い瞳が一層光を強める。彼女は突進技を放ってきた。そして僕は受け止めきれずに吹っ飛ぶ。何とか剣を地面に突き刺して体制を整える。
「くっ……」
「―――――諦めたら?」
彼女の何気ない一言。僕の中に何かが走る。
僕は昔から冒険者になりたかった。父と祖父の冒険譚の読み聞かせ。
そして俺は……英雄に憧れた。諦めてたまるか。――これは、俺の物語だ。
「う…………おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ‼」
身体から闘気が吹き荒れる。〝闘気覚醒〟《生命解放・限界突破》。
「なに……この圧――」
「来い……〝神威〟!」
ソニックブームを起こしながら扉を通り、廊下を通り、それは俺の前に現れた。
「弱者が覚悟を決めたのだ………強者に敗れる筋合いはない…………行くぞ、第二ラウンドだ」
炎を発動した状態で神威を引き抜く。赤炎を纏い、更に闘気を練る。
「――――――――〝飛剣纏い〟」
刀から溢れ出る炎を刃に集め、そのまま剣技を発動。炎の内側で刀身が水色に輝く。
「う、らあッ!」
「セアッ!」
刀の特徴は、その切れ味!
「セアアアアアアッ!」
熱で脆くなった量産品の細剣を叩き切り、首に刃を突き付ける。
「勝負あり!勝者、アルタイル・アリエル!」
「……あれ?」
緊張の糸が切れた俺は、地面に倒れてしまった。
これは……夢?
女性に手を引かれて森を歩く……貴方は――――――――!
「……ここは……」
「目が覚めたか」
「アースさん……」
「立てるか?」
「はい……」
「行くぞ」
「……どこに……?」
「主神のところへ」
部屋に入るとそこには女剣士、審判二人、そして
「来たか。……単刀直入に聞こう。アルタイル・アリエル、君は何者だ」
「質問の意味が分かりません」
「それでは質問を変えよう。君の炎は一体なんだ?」
「それはこの刀の能力ですけど……」
「そうか。それでは結果を発表しよう。不合格だ」
「そうですか」
「失礼しました」
俺はその部屋を出て、本拠地を出る。その後の部屋では。
「アイナ、彼のステータスは見れたか」
「ああ、見えた」
アイナと呼ばれた審判の女性。
「彼のスキルは三つ。《剣技》。《闘気》。……そして、《英雄の炎(リオネルフレイム)》」
「まずは彼の闘気だが、あの威圧感だな」
「うん、気圧されるところだった」
アリスがコクッ、と頷く。
「そしてその総量は想像もつかない。」
「それに彼の炎、あれは武器の能力などではない。確かに刀がトリガーとなっているが発動しているのは彼自身のスキルだ」
「《ユニークスキル》……か」
「それにどっかの誰かさんが教えた剣術」
「うっ……」
(それにあの魂……)
それから数か月が経った。
俺は他のクランの入団試験に何度も挑んでいた。
しかしどれだけ試験で結果を出しても面接で落とされて――。そしてあまりにも落とされ続けたことで〝神々に嫌われた男〟などという不名誉極まりない異名を付けられた。
俺はもうクランに入るのは諦めてソロでダンジョンに潜ることにした。
冒険者は八段階の階級で分けられる。それはレベルと呼ばれ、下から1、2、3、4、5となっている。アリスならLv6。アースさんならLv7。
現在の俺のレベルは一番下のLv1。ダンジョンは全百階層となっており、現在は七十六階層まで解放されている。次の階層に進むためにはそれぞれの階層に一体しかいないボスを倒すことで道が開かれる。
俺は今十六階層に立っている。片手剣水平斬り《エリア》。
対象の間合いに滑り込み一刀で叩き斬る。闘気を纏った剣術。
「それにしても、なんでこんな使いやすい剣が売れ残っていたんだろう……」
そう、俺が使っている
ドシン、ドシン、大きな足音が聞こえる。
「こいつは……《ミノタウロス》…………」
本来、冒険者がパーティーで戦うものだが……。
「グモオオォォォオオオ!」
ソロではそんなこと言ってられない。
「……っ」
左側に剣を構え、左手で剣を触れる。そのまま走り出し、胴体に斬りかかる。
腹に一文字の傷を与える。
「モォオオオオオオオッ!」
しかし牛の動きは止まらない。牛は大剣を振り上げ、俺に向かってくる。
「はっ……せあっ……」
後ろに飛び、大剣を躱す。
「せいっ……」
上段垂直斬り《スラスト》。そして奴の回転斬り。流水剣。剣を受け流し、そして。
「せあっ……」
灰となった奴は紫の魔石を落とす。それを拾い、袋に入れる。そして剣を振り払い背中の鞘に剣を収める。
「ふぅ」
カサカサ。そう動くのは大きなネズミ。《キングラット》の群れ。
「これはチッとばかしキツそうだな」
そう言って俺はもう一度剣を抜く。
「ああっ、流石に多かったな」
ネズミの群れを切り伏せた俺は冒険者ギルドに戻った。
「お願いします」
魔石をカウンターに出すとお金に換金してくれる。
「はい、三万五千○○リルです。」
「ありがとうございます」
(結構金になったな)
「……家宝の試し斬り?」
掲示板に貼ってあった一枚の依頼。
その詳細は書かれていなかったが妙に気になった俺はその依頼を受けることにした。
その紙を受付に提出。冒険者ギルドを出て、馬を借りて目的地に向かう。目的地の村はここから近くて馬車では一時間ぐらいで着く。その間武器の手入れをしようと剣を抜く。今俺が使っている剣は、思ったよりも上物らしく、アリスさん達最前線組が持っている武器と遜色ないらしい。名前通り夜のような美しく黒い刀身の片手剣。もっとも現在は武器と防具、実力が伴っていないのだが。背中の剣帯に納刀して周囲の景色を見る。もはや見慣れてしまったこの景色。しかしどこか好奇心をそそる。しかし今回の依頼である試し斬り、何かある……。普通冒険者ギルドに来る依頼はモンスター関連や遺跡調査など危険な依頼ばかりだ。なので今回のような依頼は衛兵や便利屋の仕事のはずだ。
(やっぱ、なんかあるよな)
ギルドがこの依頼を認可しているということは、その武器が余程のいわくつきか、余程の業物かだが、そんな物を小さな村が持っているのか?という疑問もあり、
「ま、行けばわかることか」しばらく馬車に揺られ。
「えっと、ここかな」
ドアをノックすると、美しい栗色の髪をした少女が出てきた。
「あ、えっと、冒険者の者です」
ぎこちない挨拶をすると少女が
「依頼を受けて頂いてありがとうございます。さ、家に上がって下さい」
「あ、どうも。お邪魔します」
対面のソファーに座り、少女が話し始める。
「お願いしたい武器がこちらになります」
そして机の上に刀を置く。
「これは?」
「その名を《アメノハバキリ》。我が家に伝わる家宝で、伝承では『その刃は天を切り裂き、全てを切り伏せる』と、言い伝えられています」
「全てを……」
「私の先祖はこの刀を使って、この村を救ったと言われています。しかし今では一族は早死にして、残ったのはわたしだけ。刀の技も学んではいるのですが、実戦経験はなく……お願いできますか?」
少女の問いに
「わかりました。引き受けましょう」
依頼されたからにはちゃんと応える。
その
庭に出て用意された巨大な丸太の前に立ち、刀を抜く。
「……綺麗だな」
正直な感想だ。その刃にある刃紋もそうだが、刀自身に何か吸い込まれそうな魅力がある。この刀がどうして試し斬りなどしなければいけないかもわからないほど、切れ味は刃を見て分かる。だが、依頼は依頼。やるだけだ。刀術の指南書を読ませてもらったが、剣と同じ様に扱ってはいけないと解った。剣は叩き切る。刀は切り裂く。というように、刀はその薄さから力を込める向きを固定しなければならないそうだ。
「行きます」
右斜めからの一太刀。まるでライトベールのように光を連れた刃は丸太は真っ二つにする。
「想像以上だな」
「……」
少女はその結果を見て、嬉しそうな、後悔してるような、心を押し込んでいるような……。
そんな表情をしていた。そしてこうも言う。
「やっぱり、こんな武器を私が持っているだけでいいのかな……」
「えっ」
俺は彼女の顔を見つめる。彼女は申し訳なさそうに刀を見つめている。
「戦いもしない私が持っていても、それこそ宝の持ち腐れです」
「……」
俺は何も言えない、言ってはいけないのだ。俺が口出しすることじゃない……なのに。
「……よかったら、この刀をもらってはくれませんか?」
「……え?」
「私が持てるものではないので」
俺は……
(この子は、俺と同じなんだ。先祖の重圧に潰され、心を押し殺している)
その時ふと刀を見ると、その刀身に光が走る。その光は少女を指す。
「……」
この子の為に、この子の先祖の想いを。
「……貰えません」
「どうして…?」
「きっと貴女の先祖は俺なんかよりも、貴女に持って欲しいと思います。期待じゃなくて、ただ自分の子供に自分の武器を持って欲しいんじゃないかな、生き抜くすべを持ってほしいのは期待じゃなくて、長生きしてほしいから…かな」
その言葉に少女は言葉を詰まらせる。
「…でもっ」
少女が言いかけた時、ゴーン、ゴーン、と鐘の音がする。そして少女がその音の意味を理解した時、顔から血の気が引く。
「……どうした?」
そしてその意味を答える。
「モンスターの襲撃……」
アルタイルは周囲を見渡す。
「抜け穴か!」
抜け穴とは、ダンジョンに空いた穴で、そこからモンスターが出現する。
ダンジョンは半径一○○㎞はある。この村も余裕で範囲内だ。
その時、村の反対側でズパーン!と爆音がして俺はそっちに走る。
俊敏度を最大限発動して全力疾走する。そこには巨大な獣武者と四人の冒険者が。
「加勢する!」
俺は剣を抜いて武者の前に入り
「ハアァァァァ!!!」
一文字の光が残る。
「私たちが引き付ける!その間に攻撃を!」
矢が武者に直撃して武者は弓使いを標的に定める。武者は大剣を肩に乗せるように構える。
弓使いに急接して来た武者の攻撃をタンクが受け止める、が
「うわああぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁ!!」
タンクはそのまま吹き飛ばされる。
「なっ――」
俺は驚愕した。アリスの上位剣技を受けた時の俺でさえ、あそこまで飛ばなかった。
タンクはそのまま木に直撃して気絶してしまう。
「……っ」
背中に直撃するが傷を与えた程。
「連携技行けるか!」
俺の問いに二人の盾持ち剣士がおう、と答える。
両手剣水平技との連携。
二種類の技三撃が直撃して、武者がよろめく。この隙を逃さないように俺はスキルを発動する。
武者の右横腹を抉る。すると武者が全身に力を込めていた。俺はそれに気付き、防御態勢に入る。一瞬のタメのあと武者はその大剣を全力で突き出してきた。
「……っ!」
足、腰、肩、腕、剣を連動させ、固定することでその重量を弾く。しかし余りに重く俺の右手が痺れてしまう。
「ぐ……っ」
無理矢理手を握りしめて構える。そして俺は驚愕した。武者の口の中から炎系虫モンスターの《フリント》が這い出てきた。あれは全身から炎を吹き出す害虫。
あの虫が炎を吹き出した先は武者の大剣。剣に炎を纏わせ、片手で構える。それを振り払うと炎という形を持った斬撃が俺たちに押し寄せてくる。俺達は体制を低くして回避するが、俺達の後ろにあった森が燃えてしまう。あの美しい森を傷つけた奴に対する怒りを剣に込めて俺は俊敏度を全開にして接近、すぐさま連撃を叩き込む。
《エクシア》は武者の巨躯にヒットする。そして俺は後ろに回り込み、右膝の裏を斬りつける。俺の想定通り武者は膝を付く。このチャンスは逃さない。
通常の六連撃技の《パーティクル》の派生技。
連撃で一点を攻撃。胴体に隙が生まれる。これが狙いだ。片手剣二連撃技《スラット・リン
ク》で胴体を掻っ捌く。武者は呻き声一つ上げずに死んだ。そこには炎に侵略された森と、武者の魔石だけが残った。
私、刀の一族の生き残り《シーナ・アインハルト》は森で戦いを見ていた。そして《彼》を見た。黒き剣を振るう黒髪黒目の少年。四つのスキルを発動してとどめを刺した瞬間、彼の軽装備な灰色のコートが黒いロングコートに変化してすぐに戻った。それを表すなら、黒き剣士。
私は事後の報告書の最後に《黒き剣士》の名前を書いた《アルタイル・アリエル》。
次の日、ダンジョンから帰った後。
「よっと……」
いつもお世話になっている宿の部屋に戻りベッドに座る。
「修行に行くか」
ダンジョンの後には修行。これが一日のルーティンになっている。
外壁の外で素振り千本。型の調整。
「おい、貴様!」
誰かに声を掛けられる。そいつは白銀の鎧を身に纏った騎士。そして胸には薔薇のエンブレム。
「《ロゼラリア・クラン》の団員が何の用だ」
「我らが主神、ロゼラリア様がお呼びだ。一緒に来てもらおう」
「……ふぅん」
「貴様!何故剣を振り続けている!早く来んか!」
「断る」
「なっ……クソ。どうやら力ずくで連れていくしかないらしいな!」
その男は腰の剣を引き抜く。俺はため息をつきながらナイト・プレートを鞘になおして地面に置いていた量産型の片手剣を手に取り剣を騎士に向ける。
「貴様、その武器はどういうつもりだ!」
「どうもこうも、あんたにあの剣を使うのはもったいなくてな。今はこれしか無いから」
「この……主に会わせる前にその口、切り裂いてやるわ!」
そう言って男は冒険者カードを取り出し、それをタップする。俺のカードは『クラデオルに決闘を申し込まれました。承認しますか?』と空中に映し出した。ため息をつきながら、それのOKボタンをタップ。そして条件は『一撃決着条件』。一つの技で全てを決める。
空中に十秒のカウントダウンが表示される。お互いに剣を構え、集中。
3、2、1、GO!
俺は一瞬早く走り出し、剣技を発動させる。クラデオルは
単発突進技――《ソニックスラスト》
俺は剣を鞘に収め、
「あんたの主神に伝えておきな。俺は……〝アンタ等に嫌われている〟ってな」
騎士は膝を付いたまま黙っている。俺はその場を去った。
そしてその決闘を見ていた者がいた。
「アリオス様、彼は一体何ですか?主神の加護もなく、レベルアップすらしていないのにあ
の強さ……」
それに神が答える。
「う~ん……彼は特別なんだ。その特別さに俺達、神も恐れている。それに……彼の魂を気に入っている爺さん婆さんがいるからなあ……」
(けど、ロゼラリアがあの子を求めているということは………彼が……)
「運命ってのは不思議だ……神ですらわからないものが突如現れる」
「ま、見てれば面白いと思うよ」
ダンジョンの中、俺は紫色の液体――回復ポーションを飲み、傷を治す。
「……帰るか」
ポーションを使いながら一対一の戦いを続ける。これがソロで最も効率の良い戦い方だ。
功績、というか実力が認められた俺は最前線の下層に潜ることが許され、今いるのは七十六層。本当の死地といえる。
「きゃあああああ⁉」
(なんだ⁉)
声の下に走るとそこには八人ほどのパーティーが。その中にいる女性。その子がスケルトンに襲われていた。
(……っ)
俺は躊躇った。ここで助けてどうなるかを考えてしまった。だけど、俺は何の為に冒険者になった。英雄になる為だ。
「ハァッ!」
スケルトンの頭、胸、股にかけて真っ二つにする。周りにいる他の個体は三十秒程で仕留めた。
「無事か⁉」
「あ、ありがとうございます!」
「助かった……」
「本当にありがとう」
「君は……」
「俺は、アルタイル・アリエル」
彼らは《クラリン・クラン》の団員らしい。数はこれだけのようでかなり小規模。しかしこの階層に潜ってこられるだけの実力はあるみたいただな。
「アルタイル……どこかで聞いたような……」
ギリギリ記憶の外らしい。
彼らと俺が安堵したその時、真の地獄が襲う。
「ワォォォォォォォ!!」
狼にも似たその声が大きな足跡で近づいてくる。
「……なんだ……あれ……」
ゾクッ、俺達に悪寒が走った。それは、《絶望》だった。
姿は真っ白の巨人。大剣と盾を持った巨人はこっちに向かってくる。
「う、うわあああああ!!」
団員の一人が恐怖で逃げ出した。俺達もそれに続こうとする。しかし、俺達がそっちを向いた
その瞬間。その男の首から上が無かった。
そう、消えていた。俺達がそれに気付いた時、その巨人は死者と俺達の間に立っていた。
「嘘だろ…」
そして四人。一人。死んでいった。
「くっ……」
(やるしかない!)
「ハアアアアアア!」
俺は剣技を無数に繰り出す。
しかしそれは触れる前に叩き落とされ、その斬撃は俺の前に現れた。剣を身体で支え、無理矢理抑える……俺は吹き飛ばされ、壁にぶつかった。
そしてまた一人。
「助けて……お願い……助けて……!たすけ……」
俺がさっき助けた女の子の首は、消え去った。
(……俺の身体、もってくれよ……!)
『これは、俺の未来。俺の時間は全てを置き去る。その時俺は』
詠唱中にも大剣は俺を襲う。それを躱しながら、傷つきながら、詠唱し続ける。
『神に追いつく。人は、それを、黒き者と呼ぶ。俺の時よ、進め。』
「《ブーストアクセル》!」
武技は神の力でスキルに統合された。そしてあらゆるスキルは詠唱を行うことによって最大限の効果を発揮する。
そしてこれが今の奥の手。意識を一千倍に加速させる技。しかし万能ではなく脳にかなりの負担をかける。
「届いてくれ……!」
〝我が血肉を喰らいて走れ、天の欠片〟
「……ッ!」
奴は心象領域とでもいうべきか。禍々しい領域を広げる。そこにたった一粒の雫が落ちる……。
――――ピチョン。
剣圧。剣が押し出す空間そのものを刃に纏い、次元を切り裂く。その刃は――――――――
――――――――――〝飛天〟
「……アア、アアアアアアアッ‼」
黒剣と大剣がぶつかった瞬間。なにかが起きた。質量が圧倒的に大きいはずの大剣が、まるで元々無かったかのように、消え去った。
「うおおおお……アアッ!……アアアアアッ‼」
そのまま奴の体を切り裂き、上半身を吹き飛ばす。
俺は彼らが残した剣を、槍を、斧を、弓を、杖を全て持ち上げダンジョンから緊急脱出する為
のクリスタルを取り出し、叫ぶ。
「テレポート…冒険者ギルド!」
神々のもたらした道具。使わせてもらうぞ。
「君は……」
「一体その武器はどうしたんだ!」
「あ、ああ、ああああ……!」
一人の神が涙を浮かべながらこっちを向いている。
「それは、うちの子の、僕の、家族の物だ……」
「彼らは、死にました……」
その神は膝を突き、泣き崩れる。
「……何があったか説明してもらえるかな」
そう言ったのはマティリス。
「それは……本当かい……⁉」
説明した後、ギルドに激震が走る。
「俺のせいです……俺が、助けられなかった……」
「いや、君は戦い抜いた。誇るべきことだ。それに、彼ら勇者の武器をこうして持ち帰って来てくれたじゃないか。」
「ああ、ありがとう……うちの子を、ありがどう……」
「くっ……うあああああああ!!」
その声は街中に響き渡った。後に《神の泣き声》と呼ばれるそれは、この物語の始まりだった。
あの事件の後、俺は《黒き剣士》の異名を与えられた。
これほど俺に似合った名前はないだろう。〝死神〟〝神々に嫌われた男〟に相応しい名だ。
あの巨人の正体はまだ分かっていない。ギルドからコードネーム《ホワイトディザスター》を付けられたその個体。神々の知識にもなかったその巨人は、冒険者の心に闇を落とした。
そしてこの悲劇はまだ、終わらない。
「せあっ……」
技をぶつけたリザードマンを切り裂き、そして次の個体。リザードマンエンペラー。片手長剣にバックラーを持った帝王。
「グルアッ!」
振り下ろされた剣を弾き――。
「……〝リバーサルカウンター〟」
俺のオリジナル技。相手の剣を弾き爆音をぶつける《リバーサル》と空間を切り裂く斬撃〝飛天〟を合わせた技。相手の攻撃の隙。硬直時間を狙って爆音と〝飛天〟をぶつける。
長剣ごと体を吹き飛ばし、竜剣士は灰となる。
「……」
剣を鞘に入れて歩き出す。
道中のモンスターも全て殺し、気が付くとそこは……
「ボスの部屋……」
禍々しい巨大な扉。そこから溢れる黒い気配。
「……」
俺はそこに入った。
ここで死ぬのもアリだと思ったからだ。最後くらい華々しく……一人で散りたい。
「……」
無言で剣を構え、敵を待つ。すると奥からソイツが出てきた。それは二足歩行の豚のようなデカブツ。第七十六階層ボスモンスター《グレフリオ・レッド》
「……」
走り出した俺に反応し、そいつも走り出す。
「ブルルッ!」
片刃の大剣を振り回したそいつに密着し、
「……アアッ!」
片手剣上位技、十連撃。《プロミネンス》
「……吹っ飛びやがれ」
豚は大きく後ろに吹っ飛んだ。そして俺は更なる攻撃を……。
「グガアアアアア!!」
しかし大豚は大剣を高速で振り回し、反撃を始めた。
「……っ」
(速い……)
図体に対して動きが俊敏だ。
「ぐっ……」
捌ききれずに攻撃をもろに受けてしまう。だけど俺は立ち上がる。自分でも何故立てるのか分からない。けれど、俺の魂が生きているのなら。
「う、うおおおお!」
俺の剣は動き続ける。死ぬまで……。
まだだ…まだ、終わってねぇ……!
(動け、動き続けろ!こいつを、殺すまで……!未来に……つなげ―――)
「アルタイル!」
「やめて!」
「やめるんだ!」
誰か……喋っている…?
そんなことはどうでもいい……。剣を握れ。命を込めろ……魂を、燃やせ!
「アアアアアアアアアアッ!」
俺の身体から闘気と炎が溢れ出る。神威は持っていない。英雄になる資格のない俺が持つべき武器ではないから……。なのに。
ガッ……。
俺の動きが止まる。何かに掴まれた――?
「……⁉」
「何やってんだ師匠……アリス!」
「何って、弟子の馬鹿を止めない師匠が何処にいるんだよ!」
「悲しそうな目、しないで……アナタまで、そうならないで……アナタの目は……輝いていた、あの時のアナタの心は……」
「!」
「二人とも、炎が!」
「へっ、こんなのポーションでどうとでもなる……」
「私達を信じて……!」
「……!」
そうだ……身体はとっくに思い出していたんだ。俺は、英雄に!
「英雄になるんだろ!アルタイル!」
「アル!」
「……ッ!」
俺の中で何かが変わった。
いや、変わったというより、進んだというべきか。俺の闇が晴れて世界がハッキリとする。
「ここは私たちが守る。君たちは体勢を整えてくれ」
「ああ、頼むぜ《団長》!」
長剣と大盾を操る銀髪の人間。マティリス・クラン
「アルテイシア!」
「任せろ!」
『我の声を聞いた炎の精霊よ。ここに力の軌跡を記し給え……』
「《フレイムロード》!」
魔法で放たれた炎の軌跡。
「これを飲め」
師匠が取り出したハイ・ポーションを飲み干し、俺達は剣を握る。
「いくぞ!」
「応ッ!」
「ええ!」
「ハアッ!」
流水剣・第六秘剣〝天叢雲剣〟!
「イヤアアアアア!」
「せあっ!」
神約八連撃スキル《メテオストライク》
「ハアアアアアアッ!」
片手剣七連撃技。《エクシオン》
「……っ」
まだだ、まだ速く……!
背中にある《アイアンブレード》の持ち手を握り、抜剣。
「グガアアアアアッ!」
「……せあああああっ!」
左の剣で大剣を弾き、連撃を繰り出す。右、左、右、左。
神の加護もない。ただの連撃は流星群のように輝き、加速し続ける。
その時、《アイアンブレード》が吹き飛ばされる。そして俺は………覚悟を決め、名を呼ぶ。
「……神威!」
俺の背中の空間が輝き、それは姿を現す。アイアンブレードの鞘が地面に落ち、入れ替わるように現れた刀を引き抜き、左手に握る。
「せあああああああああッ!―――――――〝飛神〟!」
神威で放つ〝飛天〟時空を切り裂き、その刃で押し出す。世界を斬る技。
今度の連撃は炎、闘気の全てを乗せ、更に詠唱省略の《ブーストアクセル》を発動。
二十連撃を超えるであろうその剣撃の後。《ナイトプレート》と神威を突き刺す。
ディオン、師匠、アリス、《マティリス・クラン》のみんなの声。
「「いけえええ!」」
「アルタイル!」
「アル!」
「……ぁぁあああああああ‼」
真相解放。武器の蓄積した思い、経験。性質を解放する。《ナイトプレート》は俺の暗い夜のような想いを。神威は英雄になりたいという俺の願いを。黒い光と黄金の光が螺旋に重なる。――――竜の力!魂を喰らえ、砕け、ブッ壊せ―――――――――――‼
「……竜王の術――〝竜牙旋喰(ドラグリープ・イーター)〟!」
螺旋となった竜王の顎はボスの身体を内側から吹き飛ばした。
「うおおおおおおおおおおおお‼」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――get.
後に聞いた話によるとマティリス・クランは元々部屋の前にいたらしい。俺はそれに気付かずに扉を開けたみたいだ。何度呼びかけても反応せず、ボロボロになった俺を見ていられなくなったということだ。
俺は師匠、アリスに滅茶苦茶怒られた。ポーションを飲んだ後正座させられ、大体お前は、とか。無茶して、とか。まあ心配してくれたのだから、むしろ感謝だ。
そして冒険者ギルドに戻った俺達は歓声に包まれた。
活躍した俺達には新たな二つ名を名乗ることが許される。しかし俺が
「俺は今のままでいいです」
と告げたとき。みんなからどよめきが上がった。ホントにそのまま?とか、いいのか?とか色々言われたが、俺はもう少しこの名前を背負ってみることにする。因みにアリスは二つ名を《閃光》から《剣聖》に変更した。
しかし俺達の前にもう一つの絶望。そして希望が現れる。
俺は買った家に帰り、ベッドに飛び込む。
黒き剣士
ある日、
「アル」
俺に声をかけたのはアリス。なんか後ろに強そうな人たちがいるんだけど。
「アルタイル君」
アリスさんの後ろにいる騎士が俺の名前を呼ぶ。
「あなたは……」
その騎士が名乗る。
「私は《マティリス・クラン》の団長、《ディオン・クリンス》だ」
「あの時の…」
前に助けてもらった。《聖騎士》。
「で、そんな方が俺に何か用ですか」
俺の質問にディオンは笑みを浮かべて答える。
「単刀直入に言う、私のクランに入ってくれ」
「え?」
最高峰のクランに俺が……?だが。
「誘ってもらって申し訳ないんですが……お断りします」
「……アル」
アリスは顔を曇らせる。俺は少し心がキツイが。
「何故かね?」
ディオンの問いに俺は笑って答える。
「人との関わりは疲れるんです。冒険者みたいに命をかけて戦う仕事で、大切な仲間や人をつくりたくないんです。傷付きたくないんです。もう、二度と」
《マティリス・クラン》の人達は何かを察したのか、言葉が出なくなる。
「……なら、自分の自由は、自分の剣でつかみたまえ」
「…は?」
「私、ディオン・クリンスは、貴殿、アルタイル・アリエルに決闘を申し込む」
宿の中で驚きの声が上がる。しかしクランメンバーは何も驚いている様子はなかった。アリスに関しては満面の笑みになっている。
「決闘は明日の午後二時、準備してくれたまえ」
「ちょっ」
立ち去るのを止められなかった。
「……どうしよう」
俺は剣を持ち、とある店に出掛けた。《ベリアス鍛冶屋》
「いらっしゃせー!」
扉を開けて店に入ると
「あら、アル……今日はどうしたの?」
「急いで装備がいる。用意できてるか?」
「……任せなさい」
ベリアスが裏から大きな木箱を持って来る。
「これが……注文の品よ」
その中には二本の剣が入っていた。一本の剣は《ナイトプレート》。
そしてもう一本は《アイアンブレード》。量産型の剣。
「あんた、ホントにあんな戦法を使うつもりなの?」
「ああ」
「そ……、あんたの戦略も分かるけど、戦いの中でそこまで頭回る?」
「何とかするさ」
「二刀流ねぇ……」
「加護の効果もなしに《新約》を破れるの?」
「……」
そう、この決闘で最も重要な要素、ユニークスキル《新約》。ディオンがこの街最強――。いや、冒険者最強を誇る理由。攻防一体の剣技。今まで決闘を全勝。しかも一撃も喰らっていないという。大盾とロングソードを自在に操る無敵の存在。そんな規格外には、《規格外》で立ち向かうしかない。店で武器を受け取り、近くの森で剣を振るう。二刀流十二連撃。大木に切りかかると、木に大きな切れ目が入った。
「…………いけそうだな」
圧倒的な防御力には圧倒的なスピードと火力をぶつける、そんな単純な発想から生まれた戦術。
ただ、これしかないんだ。…………全力を。
俺は徹夜で二刀流を練習。片手剣技も修練を積んだことで熟練度は七○○を超えた。
今まで使ったことのない技も習得して、準備完了。
決闘場に行くと大量の観客が待機していた。ディオンが戦うということで、一目見たいのだろう。俺が待機室で準備していると、アリスが中に入ってきた。
「アル」
「どうした?」
「こんな手段でアルをクランに入れることになるなんてね」
アリスは前々から俺を誘っていた。念願なのだろう。しかし俺も負けるわけにはいかない。切り札の二刀流を使うんだ。ディオンの守りを破れるのは、それしかないんだ。
「俺は負けません」
「…………団長が待ってる」
会場の中央にその男はいた。白髪に銀色の眼。鎧を身にまとった騎士は、大盾と長剣を手に黒き剣士を待っている。
「始めよう」
「ああ」
「《最終決着条件》で構わないかい?」
「構わない」
この条件はどちらかが気絶、もしくは戦闘不能になった場合に決着する。
俺は《ナイトプレート》を引き抜き相対する。周りからは《アイアンブレード》は予備の武器だと思われているはずだ。
(まずは片手剣で様子を見る…………)
ディオンは攻撃する気配がない。俺は
通常、発動した剣技に途中から動き始めて追いつくことはないはずなのだが、奴は盾で簡単に止めて見せた。
「なんで追いつけるんだよ……!」
俺は思わず、ディオンに聞いてしまった。
「私の《新約》は今の人体学でも解明されているものだ。私の秘密は《脊髄反射》さ。」
「なるほどな…………」
脊髄反射、要するに目で見ての動作ではなく、脳を通さない即時対応をしているわけか。それに奴の重心が全然ブレない、つまり…………。
(奴の存在自体が最高の守りの根幹!)
スキルだけならまだ希望があったのだが……俺の全てをぶつけるッ!
(あの武者もこれには耐えられなかったぞ!)
「確かにアリスが推薦するだけはあるな。最初に君の話を聞いたときは耳を疑ったがね……、彼女がレベル1の剣士に一本取られたというのだからな。しかし今なら彼女の気持ちが理解できる。君が欲しい、アルタイル・アリエル君」
この人が言っていることはとても魅力的だ。最高のクランに入って悪いことはないだろう。だけど。
「……俺は、クランに入るつもりはない」
「何故かね?」
昨日もこんな会話だった気がする。けど、俺は別の言葉を述べる。
「俺は、俺自身の力で強くなりたい。そう……」
いつも読んでいる、俺の、始まりの英雄のように。
「俺は、英雄になりたい……」
小さく呟いた言葉を聞き取ったのかディオンは、そうか、と優しい笑みを浮かべる。この男は、俺と同じなんだ。ただ自分の存在を見せるために、戦って、戦って、戦って。最強を手に入れてからも鍛錬を続けて、周囲を引っ張っているんだ。これが、俺が目指したものではないのか。俺は……いや、違う。俺とこの男は違う。魂に刻まれたたった一つの違いは、他人を信じられない。いや、その資格がないんだ。名も知らぬ同業者すら助けられなかった俺には、孤独がお似合いだ。それでも、この憧れは消えない。世界の英雄になれなくても、たった一人を守れる英雄に、俺はなりたい。
「あんたの言うように俺の夢は、俺が掴んでみるさ。この剣で」
「さあ、やろうか。これが俺だ。抗うことしか知らない未熟者の進む道だ」
あいつは俺の答えに納得したのか知らないが笑っている俺を見て、どこか心の底から楽しんでいるように感じた。ディオンは初めて剣を構える。盾で体を隠しながら攻撃を仕掛けてくる。
俺はサイドステップで回避を試みるが、盾で殴られ、剣が俺の寸前に現れる。俺は
「あんたは大岩かよ……!」
ディオンは上段突進技の構えを取る。
(これを待っていた!)
二刀流を使うまでの布石。思っていたよりも時間がかかってしまったが。
「ハアァァァァ!!」
「セァアアア!」
二刀流で十六連撃を打ち込む。これには驚いたようで思わずディオンは体勢を崩す。
(…………行くぜ)
右、左、右、左。剣を振るう体にスキルの補正はない。しかしその剣には俺の想いが乗っている。そして十八連撃。ディオンが俺に答える。
「ああ、やろう……《黒き剣士》!」
最後の攻防となる次の手に、ディオンは腰を落として、どっしりと構える。俺はその騎士に向かって走り出した。
「せぁああああああああ!!!!」
俺は全身全霊の二刀流十四連撃を放つ。そして
(目覚めろッ!《ナイトプレート》!《アイアンブレード》!)
俺の意思に答えるように、剣撃のスピードが上がり、ディオンの防御を突き破る。
「これが、俺の意思だ!」
右手に握る《ナイトプレート》を《アイアンブレード》で押し出し、ディオンの左肩に直撃する。しかし、ディオンは踏ん張り、剣を握ったままの拳で、俺の腹を殴る。
「ぬおおおお!!」
「がっ…」
俺は地面に倒れてしまった。
次に目が覚めると、冒険者ギルドの医務室だった。
「……負けたのか」
俺は悔しかった。いくら命を賭けていない決闘といえ、負けるのは悔しい。そこにディオンが現れる。
「アルタイル君」
「ディオン……」
「君の意思は見せてもらった。どうだろう、クランに入らずに、我々との協力関係を築いてくれないだろうか?」
「……えっ?」
―――俺は……負けたのに?
「確かに君は素晴らしい人材だ。実に欲しい。喉から手が出る程にね、しかし……私は君がどんな力を持つのか見てみたい、どうだろう?」
「本当に、いいのか?」
「まあ、アリスを説得するのは大変だったけどね。だから条件として協力することになった場合は君とアリスと君をコンビにすることを提示して何とか説得できたのさ」
「は?」
……………………なんで?
俺に会いに来た後、ディオンはギルドの外で、ボーっとして考えていた。
(……君は気付かなかっただろうが、今も肩が痛むよ……。しかし、《俺は英雄になりたい》か)
「面白いじゃないか」
第零時・プロローグ《〝神々に嫌われた男〟》
ゴーン、ゴーン。七時の鐘が鳴り響く。それで目を覚まし、簡単な朝食を食べる。
「おはようございまーす――」
冒険者ギルドに顔を出すと
「アンタ……!」
「げっ……」
ベリアス――。彼女は俺の首元を掴み
「また無茶して!武器だけで良かったけど、あんた死ぬところだったらしいじゃない!」
「うぐっ……」
「《アイアンブレード》を寄こしなさい!」
「…………はい」
背中の鞘に入れているアイアンブレードをベリアスに手渡すと
「あらー見事にボロボロ…」
「すまん」
「いいわよ別に、カモがまた来たみたいなもんだし」
「あ、鍛冶場借りるわよ」
冒険者は大体がベリアスに世話になっているため、ギルドは断れない。どうぞどうぞと道を開ける。
「相変わらず使われないくせに設備だけはいいのね。ここ」
「まあ、中央ギルドだからな」
「それより、さっき言ったこと、本気なんでしょうね」
「…………ああ、頼む」
ベリアスはただ、分かったわ。とだけ言い、アイアンブレードとそれを取り出す。それは《ホワイトディザスター》の魔石。俺はこいつの罪を。後悔を背負う。それが名も知らないあの人達へのせめてもの贖罪だ。
彼女は魔石を剣に押し付け、炎で熱する。それにより刃は溶けて、混ざっていく。そして金槌で叩く。千回ほど叩き、水で冷却。その刀身はただの魔法鉱石だった頃と違いエメラルドグリーンとホワイトに輝いている。
「これが…………」
「それが、その剣の新しい姿、《ベールリオン》。意味は…………《獅子の布》」
「ベール、リオン……」
「その剣はアンタの魂の鏡。あんたの願いを、後悔を、未来を切り開く剣」
「べリアス。ありがとな」
「いいわよ別に。お得意さんなんだから」
「……ああ」
《ホワイトディザスター》の負の力。俺の願いの力が宿ったその剣を背中の鞘に入れる。
「二刀流。似合ってるじゃない」
「だろ?」
「…………ふふっ」
穏やかな時間。しかしこういう時に限って、悪いことは起こるもんだ。
スキルは神の加護の一つだ。しかしスキルには普通の技と違う点が四つある。一つは威力だ。発動すれば体が半ば自動的に動き出し、そこに力を込めることで威力が上昇する。二つ目はスキル発動中に急に違う動きをしてはいけないこと。これを破ると三つめの特徴である硬直が課せられて、一瞬動けなくなる。戦闘中に隙を作るのは命取りだ。なので常に頭を動かし続けることが必要となる。そしてこれが最も大きな違い、スキルはあらゆる法則より優先されるということだ。四Ⅿジャンプするスキルの時は重力よりそのスキルが優先されるため使用者は重力を受けずに跳躍できる。といった感じにスキルは冒険者の生命線となる技術だ。
しかし、この世界には《ユニークスキル》と呼ばれる唯一無二のスキルが存在する。ディオンの《新約》や俺の《英雄の炎》がいい例だろう。そしてこの街にはもう一人、ユニークスキルを持った人物がいる。
その女性の名は、《セナ》。冒険者登録はしているが戦闘はせずに最近流行している《歌手》というものをやっているらしい。しかもその人気は凄く、何万人ものファンがいるという。
そんな彼女のユニークスキルは、《奇跡》。彼女の歌声を聞いたものは心に安らぎを得て、戦うものは心が鼓舞される。そんな能力は《新約》と違って戦闘向きではなく、戦闘の補助として輝く能力。しかし彼女は人々の心を照らすために歌っている。そんな彼女の二つ名は《天使》。
そんな天使様に近づきたい男などごまんといる。今、目の前に座って飯を食ってる冒険者のオッサン、《カイン》もその一人だ。こいつとは冒険者になった頃に出会ってから、たまに協力したりしている。
「おまえ、そろそろじゃないのか?」
「やべっ、速く食い終わらせないと!」
俺の指摘にこいつは飯を頬張る。こいつがこんなに急いでいる理由は簡単、それは。
「急がねえとセナちゃんのライブに遅れるぜ!」
飯を食い終わって会計を済ませた男は全力で走り出した。
「そんなにハマるもんかなぁ……」
俺は男の背中を見ながら呆れるように呟く。もうカインは見えなくなっているが、あいつ、どんだけ急いでるんだよ……。あいつあんなに俊敏度上げてたっけ……?ま、馬鹿だからだろう。
そんな事を考えつつ、俺も店を後にする。
俺は飲み場と化した宿に戻り、《ベールリオン》を見つめる。そして《ナイトプレート》を見つめる。俺はこいつらの真価を発揮できていない。武器の力を最大限解放する
「……」
俺は背中の鞘に納刀し、宿にあるポスターを見つめる。
《大人気歌い手セナの二周年ライブが今日から明日まで!》
という大々的な宣伝がある。しかも冒険者ギルドの署名付きときたもんだ。ギルドの事だからこういう戦力は匿っておきたいもんだと思うのだが。そんな事を考えていると。
「どうしたんだいアル、もしかしてあんたもセナのファンなのかい?」
「ガイナさん、そんなわけないでしょ」
「ま、それもそうだね。そうだアル、ギルドから手紙が届いてたよ。」
「手紙?」
「ほれ。」
ガイナさんから渡された手紙を開けて、中身を読むと。
《貴殿、アルタイル・アリエル殿に《天使》セナ様の護衛を依頼したい。回答のため、冒険者ギルドに来るように。》
「「はぁ?」」
俺とガイナさんの驚きは当然だろう。しかも当の本人である歌姫はライブ中だぞ。どう護衛するんだよ。
(ま、適当に断るか)
「断りますかね……」
「そうだねぇ。強制依頼じゃないんだろう?なら好きにすればいいじゃないか」
「そうしますか……」
俺は冒険者ギルドに向かう。ライブの事もあってか街はお祭り騒ぎだ。
「なんで俺が――…」
ギルドの受付に行き。
「アルタイル・アリエルです」
「確認しました。依頼の件ですね。それで、受けてくださりますか?」
「お断りします」
「そうですか。了解しました。」
「それでは」
俺は冒険者ギルドから外に出て、道を歩く。
(ったく、今日はゆっくりしようと思っていたのに)
それにしても、俺の所には変な依頼ばっかり来るもんだ。
(そういえば……)
俺は《黒き剣士》の代名詞である黒いコートのポケットを漁り、一枚の紙を取り出す。カインから貰ったセナのライブチケットだ。俺は断ったのだが、来たかったら来い!と渡された。
(確か会場はここら辺だよな……)
俺がどでかいドームを見上げると。
うおおおおおお!と歓声が上がって、俺は思わずビックリしてしまった。
(どんだけ人数いるんだよ……)
ポスターには一万人ドームと書いてあったが……そんなまさかな。
「ウソだろ……」
俺のカンは当たっていた。満員以上に入っていた。そこの中央のステージには金髪の歌姫。いや、幼さが残った天使というべき女性が歌っている。彼女がセナか。
そして俺はとあることに気付く。ドームの中に暖かい金色の光が漂っていた。俺は試しにその光に触れてみると、過去の記憶がフラッシュバックした。あの時守れなかった者達……彼ら彼女らは俺を恨んでいるだろう……。なのに記憶の中に現れた六人は笑顔でこっちに手を振っていた。そして彼らの口が動く。
が ん ば れ よ。
だ い じ ょ う ぶ だ。
き に す る な。
あ り が と う。
最後に聞いた少女の言葉に、俺は涙を流した。
…………俺こそ、ありがとう。
涙を拭い、俺は今の状況を確認する。これが歌姫のユニークスキル、《希望》か。
ただ俺には《慈愛》にも感じるよ。そしてこの光の正体は《心象転写》。自身の心を世界の一部にユニークスキルを通して転写する力。つまりこれが、彼女の心か。
これが人気の秘密。いや、これが心を集めない訳がない。
「……」
俺のカン、いやスキルが何かを感知する。俺は単独冒険者(ソロ)としての最低限の能力として基本スキル《索敵》、《気配察知》を習得している。そして、そのどちらもが反応している。俺はスキル精度を限界まで集中させて、一万の人をかき分ける。どこだ。
この気配は殺気。しかも相手の武器は弓、そして狙いは歌姫本人。こんな状況どうすれば……。いや、思い出せ、父さんが言っていたことを。
いいか?アルタイル、これから先困っている人がいたら迷わず助けるんだ。
(助ける……細かい人物は分からない、気配だけじゃ姿まではわからないんだ。なら弓を放った瞬間に投剣スキルで)
俺は腰から二本の投擲針を取り出し、左右の手に一本握る。集中。そして歌姫の顔に向けて矢が放たれる。ここ、投剣スキル《ショット》
「そこか」
俺は弓が放たれた場所に向けてもう一本の針を投げる。ギャアァァァァ!と弓使いの声が聞こえてその後、歌姫の足元に弓矢が転がる。
「えっ……」
私の目の前に矢が転がった。ライブ中、歌っていた最中にそれは落ちてきた。私を狙ったであろうその凶器は、狙いが外れたのか分からないけど、直撃はしなかった。私は観客席を見つめる。そこには何かを投げた後の体勢をしている黒い人影を見つけた。さっき聞こえた何かがぶつかったような小さな音。恐らく彼が弓の軌道をずらしてくれたのだろう。驚いたが私もプロ。ファンの為に歌わなければ、私は歌い続ける。暗くなった時まで歌っていた。そして今日最後の
「ふう……」
私は休憩室にあるベッドに飛び込み。
(助けてくれたあの人、誰なんだろう。黒い人だったなぁ)
俺は彼女を狙った矢をずらした後、妙に疲れて家に帰っていた。冒険者として稼いだお金で買った一軒家だ。大分高かったぞ。その額、一千万リル。普通の量産型の剣が五千リルなのに高すぎだろ。フカフカベッドに座り、自分のステータスプレートに記されたスキルロットを確認する。《片手剣》《索敵》《気配察知》《投剣》《隠蔽》《英雄の炎》《反撃》《闘気》の八つ。
ソロは一人でどんな状況でも対応しなければいけないため、これを使い、生き残らなければいけない。そのために俺は普通の冒険者が四つ程のスキルロットを持っているのに対して、その倍のスキルを習得している。緊急事態には二刀流も使うが基本はこれらのスキルでやり繰りしている。眠気に襲われた俺は、眠った。
「ふぁ…」
起きた俺は朝食を取った後、装備を整えて家を出る。平和な日常。
「おーい!」
俺を呼ぶそれはカインだった。
「どうした?」
慌てているカインを見て俺は、呆れたような声で聞くと。
「それがよ!今朝セナちゃんからの発表があったんだけどよ…………」
「それがどうかしたのか?」
カインが叫ぶように言う。
「だからよ、セナちゃんが《黒き剣士》を探して欲しいっていう依頼を出したんだよ!」
「はぁ?」
「そんな事しなくても、ギルドを通じて呼び出してくれれば顔を出すのに」
「だろ?なんか変なんだよ」
「それで、その捜索の条件は?」
「……………《捕獲許可》」
「……っ」
思わず息を呑む。《捕獲許可》とは犯罪者などに適用される。要するに強制連行を許可する条件。俺が自ら冒険者ギルドに行けば話は解決するのだが………。
「……ここからギルドまで結構距離があるな」
「多分それがセナちゃんの目的なんだと思うぜ。」
「どういうことだ?」
カインから出てきた言葉は驚くものだった。
「情報系の冒険者に聞いてみたんだけどよ。何故か冒険者にギルドの周囲に囲むよう指示が出ているらしいぜ」
「まさか………ギルドの上層部は何を考えているんだ」
「さあな、だけど、その冒険者が言うにはまるで、お前を試すような陣形が組まれているんだと」
「試す……」
「…………カイン」
「どうした?」
「自分で聞いて確かめたい、力を貸してくれ」
オッサンは俺の背中を叩き、任せろ、と言った
「相手は完全武装だと思うけどよ、どうすんだ?」
「正面突破だ」
「…………面白れぇ!」
カインはズボンの中から赤いマフラーを取り出し、首に巻く。そして腰から飾り気のない直剣を引き抜く。赤い鞘に赤い持ち手の鉄剣。路地を出ると早速冒険者が出てくる。
「見つけたぞ!」
こっちに切りかかってくる。完全に捕縛する気だな。
「どりゃあ!!」
「殺すなよ?」
「手加減はしてるっての」
こいつは二つ
今度は重騎士が構えていた。俺は全力で走り出しスキルを発動。
「おめぇこそ手加減というものを知らねえのか?」
「?」
その時俺らは何かを察知してステップでよける。
「……アリス!」
そこにはレイピアを構えたアリスが立っていた。
「アル、何をしたの?」
アリスはかなり怖い顔をしている。
「何もしてません誤解です!」
「そう………けど、依頼だから」
「……アルよう、……ここは任せろ」
「……すまない」
俺はギルドに向かって駆け出す。カインは直剣を構えて
「さあ、お嬢ちゃん。俺と遊ぼうぜ?」
「はっ、はっ……」
走っている俺の目の前にまた一人、大盾を持った騎士が。
「っ、せ、ああああああ!」
「行きたまえ」
「ああ」
騎士は俺に道を繋いでくれた。進む。最後の壁を破り、ただ進んでいた。まだ、進め!
カインと騎士に繋いでもらったこの道。たどり着いて見せる!
「どりゃああああああ!!」
冒険者ギルド支部長室のドアを蹴破る。
「お、来た来た」
「さあ、聞かせてもらおうか。なんでこんな事をした。支部長!天使!」
「いやぁ、俺の権限じゃ断れなくてね……本当にすまなかった」
頼りなさそうなオッサンの謝罪を聞いた後。
「ごめんね。君の実力を確かめたくてこんな依頼を出したんだけど……」
「流石にやりすぎだよね」
「ああ、やりすぎだ。ギルドに慰謝料は請求するからな」
「あはは……」
「で、なんでやった?」
「えっとね。昨日のライブで弓矢の軌道を変えて、助けてくれたのは君なんでしょ?」
「どうして分かった」
あの投擲針には《隠蔽》の効果を付与していたはずだ。鑑定スキルでもそう簡単には……。
「ウチにはお抱えの鑑定士がいるからね」
「……はあ」
専門家の目は誤魔化せないか。
「なんで探してたんだ?」
「えっと、私の依頼を断った件について聞きたくて」
「え?ただただ、めんどくさかっただけだけど」
「え?」
「え?」
「は?」
支部長、天使、護衛の騎士の三人が、ふざけてる?という反応だったので俺は、
「いや、ホントにめんどくさくて。しかも昨日休日申請してたし」
「そう…………なら、私の眼を見て」
「?」
「いいから」
「……分かった」
言われた通りに俺は彼女の眼を見る。すると彼女の眼が薄い紫の光を纏う。俺は危機を感じてバックステップしようとしたが今は座っていて動けない。
「《私の騎士になって》」
俺の中に何かが入り込んで……魅惑の光が俺の心に入ってくる。鎖が、俺を縛る。これはまさか……《魔眼》。ユニークスキルとは違った、派生したスキル。意識が……塗りつぶされて……。コツ、コツ、俺の中で誰かが歩いている。その男は俺にそっくりな姿をしている。黒いロングコートに二本の片手剣。その男は二刀流の構えを起こしてこっちを見る。キイィィィンとスキルの起動音。《二刀流スキル》。
「……」
技名を言ったらしいが俺には聞こえなかった。二刀流の連撃。その剣は俺を縛る鎖を断ち切る。
「うら、ああああああ!!」
俺は自身の意思を立ち上げ、立ち直る。
「うっそぉ……」
「なんと!」
「何をした……!」
俺の怒りが籠った問いに彼女は
「いやぁ、わたしの《恋成眼》で護衛になってもらおうかなって」
「ほうほう、ま、これで用はないんだよな?……それじゃあな」
俺はソファーから立ち上がり、部屋を出る。
(疲れた。後でカインに礼を言っておかないとな。)
後で聞いた話によるとカインはアリスさんの攻撃に耐え、倒れなかったという。
あいつすごいやつなんだな……。アリスはなんで強い人は一人がいいんだろう……って俺に聞いてきた。いやディオン団長じゃん!というツッコミはやめておいたが。
「疲れた」
マジで休めねぇんだけど。しかもカインは明日のライブに行くつもりらしい。
よくそんな体力あるよな、バカだからだろうか。あいつ今頃くしゃみしてんのかな。しかし天使とはいえあんなことするんだな…………。
「…………眠い」
ふと自分のステータスカードを見ると、
「なんだこれ?」
習得スキル一覧に《■■■》と文字化けして読めない物が表示されていた。
「こんなの初めてだな……」
三文字?なんかあったっけ?まあ、不具合だろうからすぐに直るだろう。それにしても、平和だな。これが続くといいんだけど。しっかし、まだ気になる事がある。なんで今更冒険者の護衛が求められたのか。天使の護衛には《騎士団》から精鋭が選抜されると聞いているんだが。普通それで十分のはずなのだ。他に冒険者の護衛は要らない。なのに、天使は魔眼まで使って俺を護衛にしようとした。なんでだ。こんなこと気にしてもなんもならないのは分かっている。だけど、何故か引っかかる。俺は家に帰る。
「…………なんなんだよ、…………疲れた……」
休みだったのに。俺は家のベッドに寝転がる。もう暗くなっているので、俺は眠った。
次の朝俺は、家から出たくなかった。しかしドアをノックされ、俺は起き上がる。
「…………どちらさま……」
「やべぇぞ!アル!」
「カイン……朝からうるさい」
「いや、それどころじゃないんだって!」
「?」
「いいから、早く装備を着てこい!」
「あ、ああ……」
とんでもなく焦っていたカインを見て、俺は急いで準備をする。
「どうしたんだ?」
「ついてこい!」
走り出し、しばらくすると二日前に来た場所に来る。
「…………普通のライブじゃないか」
「よく見ろ!」
歌っているセナの周りには騎士達が殺陣を行っている。けどなんだ、この違和感。
「…………死んでいるのか?」
「《隠蔽》で傷も血も見えないんだが、ピクリとも動かねぇんだ」
「急いで止めるぞ」
「おう!」
俺達はそれぞれ得物を引き抜き走り出す。観客席を飛び下り、ライブステージに突撃する。
「オリャあああああ!」
先にカインが
「《黒き剣士》に《旅月》⁉」
「おう、ライブを殺戮に変えんじゃねえよ」
カインは楽しみを潰されたことに怒り、半ギレ状態だ。
「悪ぃが、手加減なしだ」
マフラーの剣士はそう言いつつ、剣を敵に向け
「継承展開、《孤月》」
その言葉の後、カインの剣と鞘をライトベールが覆う。しかし、普通と違うものが。通常のライトベールは刃そのものが発光したように見えるのに対してそれは、まるで青い炎のように剣を覆い、揺らいでいた。
「孤月壱式」
「《夕刻》」
神速の抜剣術。刃が触れる前にライトベールがぶつかり、その直後、剣が敵の鎧に直撃した。
これがカインの一族に伝わるエクストラスキル《孤月》。広げたライトベールに斬撃を付与する能力を持つ。
「貴様ぁああ!」
騎士の一人がカインに切りかかる。
「《残影孤月》」
「ガッ……」
設置された斬撃に当たった騎士も倒れていく。
「次はどいつだ!」
「来ねぇなら、こっちから行くぜぇぇぇぇ!!!」
「俺も混ぜてくれよ」
「へっ、好きにしな!」
カインは筋力と技術で攻めるタイプなので、敵からしたらキツイ筈だ。
案の定騎士は倒れる。俺も負けないように剣を振るう。
「何故気付いた…………《隠蔽》はどうした!」
「悪いけど、《索敵》持ちなもんでな」
「クソがああああ!!!」
騎士にあるまじき言動と行為だな。
「お前達、偽物だろ」
「チッ……」
そう、こいつらは《弱すぎる》。本物の騎士なら、こんな芸みたいなことに紛れて殺し合いをしない。こいつらは《犯罪者クラン》だろう。冒険者ギルドに属さない法外組織集団。殺しや窃盗、破壊工作などを行い、モンスターの次に冒険者の敵となる勢力。
「この野郎ッ!!死にやがれェ!!」
偽騎士は両手剣垂直斬りを放ってくる。しかし、本物の騎士より圧倒的に遅い。本来はナイフや短剣を扱っているのだろうその相手の剣を避けて俺は
「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「悪いがごめんだな。」
「セアアアァァァァ!!!!!」
奴は剣を止めて盾を構えている。しかし、
「カイン!」
「おうよ!」
(こんな状況を見てなんで平気で歌っているんだ……)
まさか…………。
俺の予感は的中していた。彼女に声を掛けると、セナは倒れてしまった。……決まりだ。
これは《洗脳スキル》によるもの。
「おい!しっかりしろ!」
俺の声に反応しない。
この症状は《特定付呪品》で発動しているタイプ。どこかにあるそれを壊さなければこの呪いは解除されない。
「やあ、これを探しているのかな?」
「あんたは……」
そこには眼鏡をかけた若者が笑って立っていた。その手には土偶。間違いないだろう。こいつがセナに呪いをかけた張本人!
「僕は《クリスハイト》。犯罪者クランのトップをやっている者さ」
「そんなお前がなんでこんなことを!」
「なんでだって?それは《依頼》だからさ」
「依頼だと……」
「そ、君たちも誰かの依頼で働いているんだろう?それと同じさ。僕達が受けた依頼は彼女の信用を無くすこと。のはずだったんだけど、君たちが気付いちゃったからそれも出来なくなってしまったよ」
「なら……」
俺が意見を言う前に奴が叫ぶ。
「だけどね。もう一つ依頼は残っているのさ!」
「彼女を殺すという依頼がね!……やれ」
ドゴーン!という爆音と共にステージが割れて何かが這い上がってくる。そう、モンスターが。この街に侵略してくる。
「誰か!冒険者を!」
「助けて!」
「子供がまだあそこに!」
「キャアァァァァァァァァ!」
「死にたくない!」
「うわあああああ!」
モンスターが侵略してきて三十分が経過した。俺達は今、前線で戦っている。いや、生きている。
今、運命が進み始める。モンスターを押し返し始めたその時、後ろから大きな影が現れる。それは……あの武者が子供のように思えてくる巨人だった。
俺はクリスハイトと名乗る男に切りかかる。
(巨人の方に行きたいのに、こいつ)
魔眼持ちか。能力は……。
「ハッ!」
奴の眼が金色に光り、黒いひし形の模様が四つ入った様な眼になる。
「ソードフェイク・サード」
男の手元に剣が三本現れ、こっちに向かってくる。
「せやっ!」
俺は二刀流を使い、それを叩き落す。こいつの能力は《剣を生み出し、それを操る能力》だろう。
「へえ、僕の《擬剣眼》をここまで防いだのは君が初めてだよ。いや、一人いたか。けどこれならどうかな?」
「ソードフェイク・フィフス」
五本の剣がこっちに来る。同時には防げないので、回避しながら叩き落す。
(大体分かってきた)
こいつが生み出せる剣はおそらく《見たことのある剣》のみ。そして剣には追尾性能があるが、叩き落せば操作不能。
「うーん、流石にこれ程とは予想してなかったなあ」
「ソードフェイク・ハンドレット」
「は?」
今度は百本。
「せっ、ふっ、てやああ!ハアア!」
防ぎきれない!
「下がってな」
「…………えっ」
俺の前に現れたのは、狐の仮面を着けた男。
「……」
その男の眼は、アインハルトと逆の色をした魔眼だった。
「セイバー・オン」
同じく百本の剣が百の殺意を弾いた。アインハルトは呆れたように
「やはりゼオン、君の《剣滅眼》は」
「「セイバー・オン」」
「近接の方が良さそうだ」
「俺もそうする」
アインハルトはサーベルを。ゼオンと呼ばれる者は片刃曲刀を握り、接近する。
「ふんっ!」
「せいっ!」
キン、と音がした後、またその音が鳴る。連撃同士の衝突。しかしそれは言うなら……。
凡人の剣。才能のない普通の剣筋。努力の結晶。
「「セイバー・オン!」」
手持ちの剣が壊れるとほぼ同時に剣を複製する。……何故だろう。手が出せない。この二人自身がやらなければいけない戦いな気がしてならないんだ。見守るしかないのか…………?
「セイバー・オン、対の
「セイバー・オン、
「「エッセンスト・リバレーション!」」
「なっ……」
真相解放……
「リード・オブ・セイバー!」
「カウンターセイバー・セット」
「ファイア!」
高く飛んだアインハルトの後ろから数え切れない剣が絶え間なく降り注ぐ。それに対しゼオンは手に持った黄金の剣を構える。
「ストライクカウンター」
最初の一本を弾くと、他の剣が塵となって消えてしまった。――黄金の剣も。
「…………アンティス、代償の反撃か……」
「ご名答」
「セイバー・オン!」
また片刃曲刀を作り出す。
「せやっ!」
そこにサーベルの一撃。曲刀で防ぐ。
「油断しちゃダメだよ!」
「そっちこそ」
「リードカリバー・エクステンション!」
アインハルトのサーベルが伸びて、刺突。
「破ッ!」
曲刀でサーベルを地面に叩き付け、てこのようにアインハルトが吹っ飛ぶ。
「うわっ⁉」
ゼオンは追い打ちをかけるように
「同時展開(セイバー・セット)」
片刃曲刀を両肩、両腰に一本ずつ複製する。
四本を発射し、アインハルトの気を逸らす。そして高く跳躍し、アインハルトの懐に接近する。
「これは……やばいね」
「遅い」
「〝菊斬六連〟」
手に持った剣で上段斬り、そして下段からの切り上げ。ザン、と切り裂いた音で倒れたのは先程俺が気絶させた偽騎士だった。その男は腹に二連撃を浴びたことにより絶命。
「なっ……」
おそらく地面から剣で運んだのだろう。そしてもう一本の剣にはセナ。するとアインハルトは
「ちょっと分が悪いね。細工も済んだし、撤退!」
剣を掴むと浮かび上がり、立ち去ってしまう。
「逃がすか!」
ゼオンも同じく飛び去る。
「一体何だったんだ。そうだ、巨人は!」
外を見るとまだ巨人が暴れている。俺は巨人の元に走った。
「せやっ!」
二刀流状態ではスキルが使えない。隙を見せない限り、二刀流の単純火力で討伐するしかない。
…………これが、アインハルトが言った「細工」。巨人が片刃の大剣を持ち、振り上げる。
知能のない巨人が大剣を振れるはずがない。振れるまで調教したのだろう。
「グオオオオオオ!!!」
バックステップで回避するが、風が吹き荒れる。
「こんの……セァアアアアアア!!」
十六連撃を放つが、傷は付かない。硬すぎる。ありがたいことに住人はみんな避難しているようだ。全身全霊でこいつを、倒す!
「頼む。力を貸してくれ!」
俺は二本の剣を見つめる。必ず剣は答えてくれる筈だ。
(行くぞ!)
「せ、あああああ!」
二十連撃。ライトベールも纏っていない、ただの斬撃。しかし俺の魂、いや、《俺達》の魂が乗ったその剣はあまりの速さにライトベールの残像のように光を残す。右、左、右、左、右。交互に振り、同時に振り、突き刺す。脳が焼き切れるかのように、ただ剣を振るう。
巨人の剣を弾き、回避。斬撃。
「お、おおおおおお!!!」
「グルアアアアア!」
三本の剣が衝突し、お互いに吹っ飛ぶ。俺の筋力パラメータでは本来、大剣を弾き返すことなど不可能。俺は今、限界を超えるとともに成長している。
「ガッ!」
巨人は大剣を両手で振り下ろす。
俺はゼオンの戦い方を思い出す。奴の動きを二刀流でトレースする。
「せあっ!」
バックステップで避けた後、巨人の大剣を二刀の剣で地面に叩き付ける。流石に浮き上がったりしないが、奴の体が一瞬硬直する。俺は駆け出し、大剣を走り抜ける。腕を斬り、胸を斬り、首に二刀流同時単発技とでも言うべきものを繰り出す。俺は剣が触れた瞬間に雄叫びを上げた。
「ウ、オ、オオオオオ!!」
「グガアアアアア!!!」
巨人は最後の方向を上げ、死んでいった。
「ハア、ハア……」
俺は慣れた動作で二本の剣を払い、背中の鞘に納める。周囲を見渡しても誰もいない。逃げ切ったのだろうか。カインは救助に間に合ったのか。
「……っ」
俺は《ナイトプレート》を引き抜き、走り出す。
「え?」
ドームを出て、俺を待っていたのは。
「アリス!」
「アル!探したんだよ!中で何が……」
「実は」
俺は全てを説明した。セナに呪いがかけられたこと。アインハルトと名乗る犯罪者クランのトップ。それに敵対するゼオン。その最中セナが攫われたこと。
「なんてこと……」
「会議を行う。来てくれ」
ディオンに案内されたのは元、冒険者ギルドアースリア支部。半壊状態だがまだ使えるそうだ。
「役割分担しよう。私、アリス、アルタイル君の三名で《天使》の奪還を行う。リーフィアは
「了解!」
「分かった」
「早速動こう。そうだ。ギルドマスター。依頼主の情報を洗ってくれ」
「あー、はいはい。任せてよ。俺にはそれしかできそうにないからね」
「頼む」
「各自、配置につけ」
俺は今、《索敵》スキルを発動しセナの捜索にあたっている。
「見つけた!」
「どこだ」
「西門近くの一軒家。なんだ、こいつ……」
「どうした?」
「何かがいる……モンスターか……?」
「仕方ない、行こう」
俺、アリス、ディオンでその家に突撃する。この家では狭すぎて二刀流が使えない。片手剣も突進技が使用不可。通常技で対抗するしかない。俺達がその家に突撃すると中には椅子に縛り付けられたセナと土偶が。そして。
「《喰人》(グール)!」
「やっかいな……」
「けど、やるしかない」
「ギギギギギギ、グルァ!」
喰人とはつまり元人間。死体が動き出し人々を喰らう。特徴は意識消失と
「せあっ!」
「ふんっ!」
「ハア!」
体から生えている触手。しかも硬い。
「アリス、スイッチ!」
「了解!」
見事に直撃。しかし、すぐに再生してしまった。これが一番の問題点だ。再生能力を上回る火力をぶつけるしかないのだが。
「ディオン、頼む!」
「任せたまえ」
ディオンが触手を防ぎ、俺は
「これではジリ貧だな……」
シュッ!という音で触手が飛んでくる。
「こんの、野郎!」
片手剣水平斬り《エンタス》。
スキルを繋げて連続攻撃。再生速度が鈍る。
「今だ!」
「セアアアアアアア!」
「破!」
「ハアアアアアア!」
(イメージしろ……俺が知る最強の一撃を!)
父さんが見せてくれた――擬似
「〝竜牙穿月(リュウガセンゲツ)〟!」
本来は命を削る秘剣だが、効果まで再現されている訳ではないので勿論俺は何ともない。しかし意志力とでも言うのだろうか。闘気を纏った俺の剣は加速し、家ごとグールを叩き切った。
「今のはまさか、《勇者》の……」
ディオンの呟きに気付かなかった俺は剣を鞘に戻し、家を出る。
「うわぁ……」
やっちった。家を斬っちゃった。弁償だよなぁ。土偶も一緒に斬れたみたいだけど。
「家のことは気にしなくていいよ。元々誰も住んでいなかったし、補填もギルドがやってくれるから」
「ほ、本当ですか……?」
「うん」
「よかったぁ」
事件後、犯罪者クランに依頼したのは貴族階級の婦人だということが判明。その者の判決も出され、刑務所にぶち込まれた。
しかし動機がハッキリしない。最初は『あの女が悪いんだ。あの者が戦争の引き金になる。』とか言っていたのだが、後になると『何も知らない』と本当に忘れたかのように否定しだした。
まるで、操られていたのがいきなり自由になったような……。
これはなにかの始まりなのか……それとも、もう始まっているのか……。
俺が街を歩いている時だった。その時、俺の身体から赤炎が溢れ出す。もちろん神威は持っていないし、金庫に入れたので誰かが抜いたというのもない。これは、何かに反応しているのか?
「やあ、ギルガメッシュ」
「は?」
長い黒髪の女性。しかし今なんと?俺がギルガメッシュだって?冗談じゃない。
「あんた誰だ」
「おや、まだ記憶が戻っていないのかい?う~ん困ったなぁ。ロゼラリアがそろそろ黙っていないと思うし。名前だけ名乗っておくよ。僕の名前は《エンキドゥ》。君のお嫁さんだ」
「はあ⁉」
「じゃあね」
そう言って彼女は姿を消した。俺の炎も静かに消える。
「何だったんだ。一体」
ピコン、ピコン、その音は冒険者カードから鳴っていた。その部分をタップすると
『今すぐ冒険者ギルドに来るように』
と表示された。内心戸惑いつつもギルドに向かう。
「アルタイルさん、こちらへ」
職員に案内され、入ったのはギルドマスターの部屋
「《黒き剣士》よ。君に強制任務が発令された」
「え?」
マスターから言われたのは意味不明の言葉だった。強制任務、つまり拒否権なし。
「一体誰から……」
「愛と平和の女神。《ロゼラリア》」
「ロゼラリア……」
あの騎士の主神。
「依頼内容は《ブリタニア王国》の救出」
「ブリタニア王国っていったら……」
「ああ、神の加護を受けず、《科学》で国防を行っている自衛国」
「そんなところで一体何を」
「ブリタニア王国は未だに奴隷制を行っている唯一の国。国防も彼らに一任されている」
「無茶なことを……」
「そしてそれを勧めている者こそが、ロゼラリアなのさ」
平和と愛の女神が奴隷制度を?――マジで?
「第一、 そんな国なら俺は何をしろって……」
「戦線に加われとのこと」
「……はあ?」
次の日俺は《アースリア》を出る。
王国北部戦線第一戦団隊長。
「コードゼロワンより各機。間もなく接敵。戦闘準備」
『二番隊了解』
『三番隊了解』
『《ブレイバー》、今回の敵は?』
「大型モンスター《レッドドラゴン》」
『そうか。…総員神経接続開始』
二番隊隊長コードネーム《ブライト》。俺を含む全員が首の後ろにある装置を座席の装置に繋げる。
『神経接続完了。網膜投影開始。……完了。機体OS起動。PS -68《セルウス》。起動。』
「起動コードPZAX7」
『認証。』機械からの音声。
「王国北部戦線第一戦団隊長。コードネーム《ブレイバー》。」
『起動完了』
「エイル・ローグ、《セルウス》、出る」
王国所属人型歩行戦闘機PS-68《セルウス》。モンスターに対抗するために人間が造ったもう一つのモンスター。神経接続システムにより思った通りの動きを補助する。
しかし鉄で造られた巨人は余りにも複雑。そして脆い。速度を活かす為に削った装甲。
そこで王国の女たちは
「……ふざけるなよ」
操縦桿を握り締め、背部エンジンの出力を上げる。
「AZ-67振動長刀起動」
背部に格納された長刀を機械の腕が握る。
「……せあっ」
竜の首を斬り飛ばす。
そこには竜の首以外にも他の《セルウス》や小型機動兵器PS-67《ロディオン》の残骸が横たわっていた。俺が到着するまでに死んだ仲間の分だろう。絶命三十二。重傷六十七。
「……」
俺は王国機構大隊中佐。コードネーム《ブレイバー》。
「ここが、ブリタニア王国………」
この世界の技術力は国によって大きく異なる。とはいえこの国には機械というものまであるらしい。そんなことを考えていえると、バシッと俺の背中が叩かれる。
「よ、アルタイル」
「師匠、それにアリスも」
「他にも《マティリス・クラン》の人は来てるよ」
「ようこそ。王国へってな」
師匠が笑ったその矢先。
「さっさと歩きなさい!」
まるで言うことを聞かないペットを躾けているようだが。その首輪が付いているのは――人間だ。
「あんた、何を……」
俺が止めようとした時、肩が掴まれる。
「なんで止め……」
「これがこの国のルールだ。俺達が首を突っ込むことじゃない。」
「なっ……」
「……分かってくれ」
「アル」
「ふざけるな……!それが、人が人を踏みにじっていい理由に、それを正当化していい理由には、ならないだろうが!」
「……すまない」
「………それでなんで俺がここに呼ばれたんだ」
「それはすぐ分かる」
「?」
戦争に負けたスレイブ。つまり男『黒種』(ブラック)それを虐げる女『帝王種』(ロード)
そんなことが正当化されていい理由が、あってたまるか。
「よく来たわね《黒き剣士》」
師匠に案内された王城の女王の間。そこには王座の上にもう一つの椅子……そこに座っていたのが。
「私が《ロゼラリア》よ」
「あんた、なんで俺を呼んだ」
「それはね、救ってほしいからよ。貴方も知っているでしょう?この国は神の恩恵を受けていない。だから自分達の科学力で守るしかない。そこで現れたのが貴方。恩恵を受けずに恩恵を超えた男。貴方がこの国を救う勇者になるのよ《黒き剣士》」
「いいだろう。」
「そう、よかったわ」
「ただし、俺が救うのはこの国ではなく、スレイブ達だ」
「……どういうつもりかしら?」
「どうもこうも、愛と平和の女神様が奴隷制度を推進しているって情報を聞いてな?俺は前々からこの国が嫌いだった。人間を扱う権利は、誰も持っちゃいない!」
「……残念ね」
ロゼラリアが手を振ると騎士たちが現れる。王宮のじゃない、《ロゼラリア・クラン》のだ。
「やりなさい」
騎士たちは襲い掛かってくる。
「お前らはすっこんでろ!」
俺の闘気に気圧された騎士たちはバタバタと倒れていく。
「じゃあな。支配と差別の女神さんよ」
そう言って窓から飛び降りる。体術スキルで受け身を取り、ダメージはない。
「……」
先に調べておいて正解だったな。俺が行くべき場所は。
(最前線、北部!)
「……《ソニックアクセル》!」
身体の最高速度を引き出す。
走ったその先にあったのは。
「なんだこれ、扉?」
首都から約三時間。高さ数十Ⅿの、鋼鉄の。
「でかすぎんだろ」
その時スピーカーから
『こちら、北部戦線第一戦団。貴官の所属を名乗れ。』
「こちら冒険者ギルドアースリア支部所属第一級冒険者。アルタイル・アリエル…………
貴官達を救出に参上した。」
『この基地には軍人以外の者は侵入出来ない。それに、本当に僕達を助けてくれるの?』
最後の声は震えていた。恐怖に怯える子供の声。
「ああ、任せろ。」
『この扉は厚さ五Ⅿあるんだよ。壊せるわけがない』
「修行の成果を見せてやるさ」
俺の最近の特訓は神威を抜かずに炎を扱う練習。あの時、豚を倒した時のイメージを。
「フーッ…………」
腰を落とし、どっしりと構え、そして武術の〝掌〟の構えを取る。炎を掌に集めて。
「〝炎掌〟‼」
そこから炎を一点解放。
「ハアアアアアア!」
扉を吹き飛ばす。地面ごと抉り飛ばし跡形もなくなる。
「これでいいだろ?」
『……ありがとう。冒険者』
「……ああ」
中に入るとみんなから剣に興味を持たれた。この国の剣といえばロボットの大剣のみ。人が持つ剣など昔のものになっているらしい。しかも、その大剣を振るうのは大隊長ただ一人という。
「俺は二番隊隊長、レングだ」
「おーい。カイ、エイルを呼んでくれ!」
「はいはーい」
「……」
しばらくすると無表情な少年がやってきた。
「こいつが俺達の大隊長、エイルだ」
「……よろしく」
「ああ」
「ごめんねー無愛想でしょ」
「あはは……」
「本題に入りたい」
エイルと呼ばれた少年は話を切り出す。
「本当に俺達を助けるつもりか?」
「ああ、そうだ」
「…………なら、俺達も動き出すか」
「……?」
「俺達も一週間後に革命を起こすつもりだったのさ」
レングが笑いながら話す。
「あの悪女共の顔面に一発ぶち込まないと気が済まないからな!」
レングの声に周りの少年達もそれに頷く。
「それなら話は早い」
「俺達の戦力は大型が百六○機、小型が八十八機。……そして」
『儂達だ』
半透明の男たちが音もなく現れる。
「あんたたちは……?」
「この人たちは僕たちの先祖。死んだ黒種の人達の魂だよ」
「死んだ……魂……」
「そう、そして俺達黒種には能力がある。……死者を身に宿しそれをトレースする能力〝英霊憑依〟」
「凄い能力だな……」
「神の加護がない俺達の力だ」
「……俺と同じか」
「え?」
「俺にも加護はないんだ」
「それであの力を……⁉」
「どうして俺にこんな力が宿ったのかは分からない。それに俺は二年前、刀を引き抜くまで自分のステータスすら見ようとしてなかった。冒険者になってステータスを見れるようになってもそれを人に見せようとは思えない。ただ、俺は俺だ。神の加護を受けない純粋な俺の力。それはあの女神がいうように、君達への希望になるのかな?」
「……ああ、お前は俺達の希望だ」
「そうだぞ。」
「一緒にあいつらを叩く」
「おう!」
首都からここまで約三時間。この基地から戦士が飛び出す。
「行くぞおおおおおおお!」
俺たちが向かったのは王城の裏側。城壁の警備が最も薄い場所。警備しているのは《ロゼラリア・クラン》と警備兵のみ。この大扉を破壊するのは俺の仕事だ。
「炎術〝炎波〟!」
両手から溢れ出る炎が扉を溶かす。そしてそれを合図に全方位から侵入する。
「一番隊、出る。」
『了解!』
『野郎共!終わらせるぞ!』
『押忍!』
「ああ、決着をつけよう」
これが俺達の革命となる。そしてこれは、神破りとなる。
ガシュン、大きな足音と駆動音。これは俺たちのものでは無い。
「あれは……」
王国の首都防衛兵器。それは《セルウス》によく似た二足歩行の機体。
それは味方などではない。……敵だ。機関銃を互いに向け乱射する。
『俺が先陣を切る』
そう言ってエイルの《セルウス》が敵に向かう。振動ロングソードを手に。
『道を開けろ!』
俺は兵器相手に戦うことがないので全て任せてしまっている。
「……大丈夫か?」
『問題ない。燃料も弾薬も残っている。……気付いたか?』
「ああ、死体も確認した。黒種じゃない。帝王種……女だ」
『奴らが前線に出てくるとはな……てっきり男を乗せると思っていたが。』
『同感だな』
『ああ』
『だけど、遠慮なくやれるってことだろ?』
その一言にパイロット達はニッ、と笑い、操縦桿を強く握る。
「……来たぞ。」
騎士。ここは俺の戦場だ。
「……せあっ」
範囲内の敵を薙ぎ払う高位剣技だ。そして俺達が向かうのは勿論、王城。
「待て!」
その声は木霊する。それは、一人の女性騎士だった。
「私たちがここを守る!」
騎士から闘気が噴き出す。そのオーラは徐々に形を作っていく――闘気の巨人。
『こいつは俺がやる』
「エイル……」
『任せたぞ、大隊長。』
『任せろ』
俺達は先に向かう。
『さあ、やろうか』
「目覚めろ!闘気の騎士(オーラ・ガーディアン)!」
『《セルウス》!』
互いに巨大な剣を構え、走り出す。
『〝英霊憑依〟!〝魂〟(ソウル)〝融合〟(オン)!』
〝アーサー・ペンドラゴン〟
「愛する女神よ!我に力を!」
『セアッ!』
「ハアアアアアア!」
鍔迫り合いにもつれ込んだ。互いに一歩も譲れないこの戦い。
「女神に、勝利を……!」
『俺達だって……ここで負けられないんだ!』
幼い頃。俺の目の前で母が父を射殺した。それは子供だった俺に深い傷を負わせた。心の傷。
何故母は引き金を引いたのか。それは簡単だ。その頃女が革命を起こしたから。それを引き起こしたのが……。
『ロゼラリア……あいつは……殺す……!』
「させるかぁああ!」
英霊の動きをトレース。王の剣術。それに対し騎士はスキルを発動させ、向かってくる。
「〝光の大剣〟!」
騎士の剣を打ち破り剣士を追いかける。
「ウソだろ……」
その頃俺達の前には……。
「上位竜だ……!」
先日エイルが討伐したのは中位竜のレッドドラゴン。こいつは炎属性の《ファイアドラゴン》。
「なんでこいつが……いや、ロゼラリアが呼び寄せたのか……」
『なんにしてもやるしかない!』
『止まるなよ!』
戦闘機のコックピットにあるパネルを操作する。
『神経接続システム最大感度。シンクロ率百パーセント。最大稼働状態!』
『全員……進撃!』
《セルウス》の全身から蒸気が溢れ、赤く光る。更に英霊憑依も乗せた。
『人機一体!』
ドラゴンに向けてサブマシンガンやライフルが掃射される。弾幕によりドラゴンは動けず徐々に削れていく。
「後は俺に任せろ……行くぞ神威、ベールリオン!」
『明日へ導く小鬼斬り。子供斬りて明日を導く』
神威を炎で覆い、大きな刀を創る。戦闘機のイメージを基に右腕に機械的なアーマーが装着され、それで太刀を握る。左手にベールリオンを。これが神威とベールリオンの一段階目の解放。
「〝解放宣言〟《小鬼殺ノ太刀(ゴブリンスレイヤー)》!」
「行くぞ……《竜牙突撃》!」
竜の形をした炎を身に纏い竜に突撃する。俺の刃はドラゴンの心臓に深く突き刺さる。
「トレース…〝陽炎〟!」
竜の内側から炎が溢れ出て、その身体を吹き飛ばす。
「先を急ぐぞ」
『おう…』
これは革命の進撃となる。この先、地獄が待っているとしても。俺は進み続ける。
「…あんたは」
俺達の前に現れた騎士。俺はそいつを知っていた。
ロゼラリアが俺を呼ぶために寄こした騎士。クラデオル。
「私が相手だ」
「みんな、先に行ってくれ」
一番隊のみんなは城に向かう。
「よう、久しぶりだな。騎士様」
「あの時は世話になったな。《黒き剣士》」
俺達は互いに太刀と両手剣を向けあう。
「《竜牙突撃》!」
「女神よ我に力を………《神の閃き》!」
刺突と斬撃はぶつかり合い、互いに後ろに吹き飛ぶ。
「〝飛剣〟!」
炎の斬撃を飛ばす。そして機械の腕に炎を集中。その炎は小さい爆発を生む。
「〝爆炎斬〟!」
腕から出た爆発の直後、太刀で切りつける。
「《小鬼殺ノ太刀》、真の力を見せろ!」
太刀と腕から溢れ出るのは闘気。刃を闘気の波が覆う。
「〝飛天・残影〟!〝十文字斬り〟!」
十文字の光の軌跡。それが騎士の剣と衝突。
「女神に勝利を、我に勝利を与えたまえ!」
そう言って騎士の剣から闘気が溢れ出る。それは加護の力を最大限に発動させた。
「《女神の制裁》!」
闘気の斬撃をサイドステップで躱すが地面が大きく抉れる。前に戦った時にはここまでの力は無かったはず。いや、こいつはあの時闘気を使っていない。俺達はスキル同士で決着を付けた。けれどこいつの本来の戦い方は、剣術士。闘気を使った戦闘法。
これが奴の本当の強さ!
「すまなかったな。あの時は闘気を使わなかった……剣士として詫びよう」
「いや、いいさ。だけど今、決着を付けようぜ」
「……いいだろう。闘気全解放!」
「トレース……アリス!」
俺が新たに学んだのは今まで出会った人の戦い方。それを自身の身体でトレースする。この国の言い方で名付けるなら。
「〝英雄憑依〟!モデル・アリス!」
「《ロゼラリア・クラン》の騎士よ!私に力を託してくれ!」
「《ストライカー》!」
「《裁きの一閃》!」
神速の攻撃の衝突。太刀と両手剣が限界まで速く動き出す。
「モデル・カイン!〝飛天残影〟!」
空間を抉りそれを太刀に纏わせる。
「〝飛天纏い〟〝次元斬り〟!」
残した斬撃を飛ぶ斬撃で押し出す。
「〝飛天十裂衝〟!」
「《光の裁き》!」
「ハアアアアアア!」
「セアアアアアア!」
光と光のぶつかり合い。鍔迫り合いに持ち込む。
「そろそろ終わらせようか……!」
「いいだろう……」
俺はとある疑問をぶつける。
「あんたは何故あの女神に従う?」
「……難しい事を……私はあの方に救われた。だから従う。いや、私も本心では抗っているのかもしれないな。私は神を守る騎士として戦う。……騎士は民を守るものだろうに……」
最後に奴が言った言葉は確かに俺の耳に届いた。
「……迷いは捨てねば……」
「……行くぞ」
「来い!」
「《小鬼殺ノ太刀》……」
「《光の軌跡》!」
斬撃が触れ合った瞬間。叫ぶ。
「〝絶撃〟(ブレイク)!」
騎士の剣を叩き折り、俺は腰の鞘に刀を納める。
「あんたの負けだ。クラデオル。」
「……騎士として負けを認めよう。こんな事を言える立場ではないことは分かっている…………しかし一つ。一つだけ頼みを聞いてくれないだろうか…………」
一呼吸。
「あの悪女を、倒してくれ…………!」
「…………任せろ」
ガチャン、と神威から音が鳴る。そしてあの時と同じように頭の中にイメージが……。
(これは俺の力…………英雄の炎よ。力強く、燃え上れ!)
「炎よ、俺の…スレイブ達の翼となれ!…………〝自由の翼〟!」
俺の背に炎の翼が現れる。その翼は羽ばたき、俺は空を飛ぶ。
空を飛び全速力で城に向かう。しかし俺を待っていたのは。
「なんだよ、これ……」
「お、やっと来たな。アルタイル」
「アル、遅かったね。」
「二人共、何やって………」
「何って奴隷達の制圧さ。ロゼラリアが出した依頼でな」
「アルは違うの?」
「俺は……奴隷を解放する為に戦っている」
「なんだって…」
「アル、正気⁉」
「正気さ、俺達は、自由だ!」
そう言って俺の翼は現れ、一瞬で消える。
「お前、今の翼は…!」
「そこをどいてくれ」
「俺達だって冒険者だ。」
「うん」
アリスと師匠は剣を構え、俺と相対する。
「二人が相手だと手加減できないぞ…!」
「手加減?いつの間にお前がそう言えるようになった!アルタイル!」
「……ッ」
(英雄の炎、全解放……)
『龍を斬りて夜明けなり。竜を殺して革命なり。――――未来に導く死神葬』
「〝解放宣言〟《竜殺ノ剣(ドラゴンスレイヤー)》」
先程よりも大きなアーマーで両腕を覆い、そのままの大きさの神威とベールリオンを握る。
「アリス、アルタイルを止めるぞ」
「分かった」
『危機迎えて好機となる。薙ぎ払われし草原。時打ちの刃』
『思い人目指して星となる。星を目指し共に生きることあり。あの人が歩いた道』
「「〝解放宣言〟!」」
「《草薙の剣》!」
「《星歩軌跡(スターロード)》」
師匠の解放術は剣の周りに葉っぱが飛んでいる。そしてアリスのは光が羽根の形で細剣を覆っている。
「…行くぞ」
「流水剣。剛ノ剣、〝流牙閃〟!」
闘気を使った突進技。
「スター・ショット!」
アリスは刺突の風圧を飛ばしてくる。不可視の攻撃。
「〝飛天〟〝残影〟!」
斬撃と刺突を防ぎ、その空間を。
「〝次元〟〝十文字斬り〟!」
「〝飛天纏い〟!」
俺の周囲には闘気と暴風が吹き荒れる。そしてそれは紫電を生み、神威に集中する。
「《竜牙衝撃(ドラグブレイカー)》!」
竜の形になったそれは剣の先にいる二人を襲う。
「流水剣・柔ノ剣〝河川敷〟!」
師匠がそれを受け流す。しかし竜は街の建物を噛み砕き、破壊する。
「なんて威力…」
「こっちも加減できないな……」
「真相解放…全開。〝星砕きの流星群(スターロード)〟〝王(レクス)〟!」
「草薙の剣。流水剣第六秘剣〝天叢雲剣〟!」
二つの強大な力が俺に向かっている。しかし俺自身は何もしない。この先に起きることを仕組んでおいたから。
〝全防御(フルガード)〟
あらかじめに設定しておいた行動に対して炎が自動的に俺の身体から溢れ出て二人を迎撃する。これが俺の炎と《反撃》を合わせた防衛手段。
「炎⁉」
「貫けない…!」
その時、一発の弾丸が俺達の間に当たる。
『どういう状況だこれは』
「エイル!」
『あいつらは敵なのか?』
「いやちょっと違う。みんなは生きている。彼らの目的はあくまで無力化だ」
『加減できる相手か?』
「できないな」
『了解。〝英霊武装〟振動ブレード・融合(オン)!〝エクスカリバー・進〟!』
「いくぞ!」
エイルの機体はブースターを限界まで稼働させて最高速度を生む。
「連携!」
『任せろ』
「「〝双王の太刀〟!」」
そして俺はすかさず両掌に炎を集中。
「〝双炎〟!」
〝炎掌〟のざっと倍の威力だ。
しかし二人はこれで倒れるような人達じゃない。一対一の方が良かったな。
「アルタイル、一つ聞いていいか……?」
「なんですか?」
「お前はなぜ、《勇者》の剣技を使っている……?」
「…?」
「お前の使う《竜技》…ドラグシリーズ……誰に習った…?」
「祖父と父の剣術ですけど……」
「その二人の名前は!」
「二人の旧姓は………《シリウス・コスモスター》と《シン・コスモスター》」
「…ハハッ、なるほどな。お前の強さも納得がいく……」
「アース、どういうこと?」
「アルタイルの親たちの正体は、《勇者》だ。」
「⁉」
(爺ちゃんと父さんが、《勇者》⁉)
「そういうことなら色々説明がつく。世界で一人のはずの《勇者》の剣技をなぜ扱えるのか。親から受け継いだものだったんだな。」
勇者はこの時代にもう存在している。勇者の証である《力》。継承したものだったのか。
「お前の父は竜技の中でも刺突系を得意としていた。それはお前もそうじゃないか?」
確かに俺は《竜牙突撃》を最も得意としている。扱いやすく、隙も少ない。
お父さんが見せてくれた技の大体が刺突系だったな。
「まったく、あいつらしいな…」
「師匠、父さんのこと知って……」
「俺は二代目勇者パーティーの剣士、アタッカーだったんだ。」
「父さんの仲間……」
「勇者パーティーの底力、見せてやる!」
「なら……」
俺は真相解放を解除。二本を直してナイトプレートを引き抜き。ローブの中からとある物を取り出す。
「それは……魔石?」
「ああ、さっき倒したファイアドラゴンの魔石だ」
「それで何する気だ?」
「お楽しみってことで」
「なら、こっちも刺突系で決めるか」
「へえ、《勇者》の一撃を超えると?」
「お前は《勇者》じゃないだろ?」
「じゃあ…………行きます!」
「〝流水剣〟!」
草薙の剣を覆う木の葉が刃に宿り、刃が緑色に輝く。
「第一秘剣!〝布都御魂剣〟!」
突進刺突技。しかも闘気を足から噴射して推進力を得ているのか……。この国の戦闘機と同じ考え方だな。
対する俺は手のひらサイズの魔石を空中に放り投げる。そしてそれを。
「〝人魔剣〟〝竜技〟《竜牙突撃(ドラグストライカー)》!」
ナイトプレートで魔石を突いて押し出す。加速した魔石は師匠めがけて飛んでいく。
そして魔石の周りに闘気と魔力が螺旋を描き竜の形を形成する。それに魔石が反応して更に力を増す。この技は普通のとは違う。いつものは発動速度を重視しているのに対して、今回の技は威力重視。それを竜の魔石でブースト。
「くっ、なんだこの重さ……!」
師匠と技がぶつかり合う。
「吹っ飛べ……!」
俺の言葉に呼応するかのように竜の力は増し、師匠の剣に喰らいつく。
師匠が大きく後ろに飛ぶ。しかし師匠は上手く身体を捻り衝撃を最小限に抑える。竜は地面を
抉り、城の一部を砕く。
「ハア……ハア……凄まじいな、アルタイル……」
「……まだ奥義が残ってますよね」
「チッ……、見せたのは失敗だったか」
「もう発動条件は揃ってるはずですけど」
「……やる気なのか?」
「俺は本気です」
「……やめとくよ」
「……?」
「俺も奴隷制には嫌悪感を持っているが……必要悪だと思っている」
『……』
《セルウス》の足から駆動音が聞こえる。
「やめろエイル。必要悪だといいましたね。……そんなこと言ってるから魔王なんて生まれたんだろうが…………」
「……ッ………」
魔王――人間がモンスターに進化した存在。魔物を操る力を持ち、勇者と同等の力を持つ存在。人間が大きすぎる負の感情を背負った時、稀に覚醒する。
魔王が生まれた理由……それこそ、元奴隷の覚醒。とある国で虐げられていた部族の青年が、最愛の人を目の前で殺されたことをキッカケに魔王として覚醒した。そして二代目、それは半魔王だった。魔王になりきれず、苦悩のまま戦った。
ようやくわかった。俺が奴隷制度を嫌っていた理由。性格的な話だけではなく、親の記憶を心の奥底で知っていたから……?
「……分かったよ。降参だ」
「アース、いいの?」
「これ以上やったらどっちか死ななければいけないからな。……それは嫌だろ?主にアルタイルに対して」
「うん……やだ」
『話は纏まったか?』
「おうよ!」
『よかった』
「ところでアル、その人?は……」
「ああ、紹介するよ。大隊長のエイルだ」
「どうも」
「こちらこそ」
「すまなかったな。君の仲間を傷つけて」
「いや、気絶に抑えてくれたんだ。それに、そちらの事情も理解しているつもりだ」
コックピットを開けて話すエイル。
「俺達も協力するよ」
「うん」
「いいのか?依頼が……」
「依頼以前の問題だ。解放しようぜ!」
「師匠……」
「私も頑張る」
「アリス……」
『おいおい、俺達も忘れてもらっちゃ困るねえ』
そこには起き上がった一番隊。二番隊、三番隊も……。
「みんな行こう!」
城には誰もいない。――人間は。
「来たわね。反逆者」
「ああ、来たぜ……女神!」
俺はナイトプレートを背中から引き抜き、
「神に勝てると思っているのかしら?」
「思ってるさ……エイル!」
「ハアッ!」
エイルは機体から降りてベールリオンを手に殺意を込める。
「〝王の剣〟!」
これも防がれる。
「エイル!受け取れ!」
「こっちも!」
俺は神威を投げてエイルはベールリオンを投げる。
そして俺は炎を発動。神威と俺の身体に同時に炎が宿る。
「「〝双炎〟!」」
二刀流の炎、そして刀の炎。二つの炎の力。
「「ハアアアアアア!」」
光の壁を打ち破る。理不尽は……俺達の剣が砕く!
(カイン、力貸せ!)
「〝陽炎〟!」
三点から炎を解放する。
「吹っ飛べえええええ!」
炎でロゼラリアが後ろに飛ぶ。
「こんなものかしら?」
(傷一つないのかよ!)
「んな訳ねえだろ!」
神威を俺に、ベールリオンをエイルに。
「神威!〝炎我突撃(フレイムストライカー)〟!」
炎の渦を身に纏い突進する《竜牙突撃》の炎版。それを攻撃の瞬間に剣先に集中。
「うおりゃあ!せいっ!」
〝我突・六連〟
超高速の連撃。しかしこれでも奴は無傷。
「無駄よ」
女神が手を振ると突風が巻き起こり、王の間は吹き飛ぶ。そして俺達も外に飛ばされる。
「ぐっ……」
「まだだ。お前だけは、絶対に……許さない!」
エイルの気迫が強くなる。
「アーサー!感度上げろ!」
『よかろう』
「うおおおおおおお‼」
融合深度百%!英霊覚醒!
『エイル。命を賭ける覚悟はあるか?』
「当たり前の事を聞くな……」
『……分かった。では仲間を呼ぶとしよう。』
「仲間?」
『儂の生前の配下だ。しかし天にいる魂を呼び寄せるためかなり負担が掛かるぞ?』
「構わない、やってくれ。」
『了解した。……我に忠誠を誓う者よ。我の呼びかけに応え、天の壁を打ち破れ。魂の限界を超えて我の前に現れよ!配下召喚!』
それは過去、女神に抗った『円卓の騎士』アルタイル・アリエルと同じ様に加護を持たずに加護を超えた者達。その中には女もいた。
〝賢者〟マーリン。〝王妃〟ジェニファー。〝王の右腕〟ランスロット。〝太陽の騎士〟ガウェイン。〝隠し子〟モルドレッド。〝悪の姉〟モルゴース。〝弓聖〟トリスタン。
〝聖杯の導き〟パーシヴァル。
他にもいるはずだが、これが限界か。
『我が配下よ。力を貸してくれ』
『喜んで!』
『十年前のお返しだ!』
マーリンは無詠唱でいくつもの火球を生み出してそれを放つ。
『僕も行くよ!』
パーシヴァルの槍。
『父上と我が弟に、この一撃を捧げます!〝エクスカリバー〟……〝ルプス〟!』
聖剣の継承。
『王の剣!これが我が魂!〝アロンダイト〟!』
守護騎士の一撃。
『私の夫に何してんのよ!あんた!〝乙女の戒撃〟!』
王の妻の鉄拳。
『我が妹の罪〝悔花〟』
戒めの姉。
『太陽の願いを王に!サンブレイク!』
太陽の騎士の願い。
『王よ!私達が道を開きます!その隙に!』
『トリスタン……』
『フェイルノート・カーテナ!』
剣を矢として放つ。その剣に配下の技が収束し一つとなる。
『王のために!我らが残せる最後の力!』
「『〝貴方に出会えた運命に感謝を〟(キャメロット・デスティニー)!』」
魂の最後を全てぶつける。人間の魂が最も美しくなる時、魂の消失。
『お前たち、まさか……』
『ええ、王よ。私達はこれで終わりです。最後にまた会えて良かった』
彼らは手を振り、光がエイルに当たる。
「『今までありがとうございました!』」
「アーサー……」
『あの馬鹿どもめ、負ける訳にはいかなくなったではないか……』
その目には確かに涙が浮かぶ。
『エイル!やるぞ』
「ああ」
ベールリオンにアーサーを宿らせる。
『くっ……こんなに頑固な武器があるのか。硬すぎる……。』
「負けるな!俺がいる!」
「『はあああああ!』」
「『エクスカリバー・ルプスレクス!』」
〝狼王の聖剣〟
「ロゼラリアああああああ!」
これでも神は殺せない。なら。
「今だ……みんな!」
『了解!』
『総員掃射!』
「アリス、やるぞ!」
「わかった!」
〝流星群の極地〟(スターロード・エクス)
「第六秘剣・最・〝草原真天叢雲剣(ソウゲンマコト・アマノムラクモノツルギ)〟!」
その中でも大きすぎる光を放つもの。
「
魔と気の究極。かつて英雄王が最高神を倒すために使ったとされる奥義。
「あははは!私は神よ!」
『あれは女神などではない!あれは、化け物だ……!』
アーサーの評価は正しい。昔の民が信じた神とはあんなものでは無い。人が届かない強大な力を持ちながらそれを民の為に使う者。人はそれを、神と呼ぶ。
「神は死なない!故に無駄!」
《愛の光》!
桃色のレーザーが戦士達を襲う。それは追尾性能を持ち、何体もの戦闘機が破壊される。
「殺しはしないわ。大切な戦力ですもの。」
「戦力だと……⁉」
「ええ、男が他国を支配し、それを女が支配する!それこそが真理!」
「神ってのはぶっ飛んだ考えしてねぇと生きてけねぇのかよ!」
「『エクスカリバー・ルプス!』」
光の狼が走り出し、女神に向かう。しかしそれはレーザーによって消滅。
(クソ……やるしかないのか!)
俺の〝炎〟の最終奥義。しかしこれはみんなを巻き込む可能性が……。
「みんな!ここを離れろ!」
しかし俺の言葉にみんな首を横に振る。
「何してんだ!早く……」
しかし、彼らは自身の武器を構える。
「みんな……」
(……奥義の前の布石を打つ!)
「……〝灯火(ヴェーロス)〟……!」
右手の人差し指と中指に炎を灯し。それを左手で引っ張ると炎は弓矢の形になる。それを放つと女神に一直線に向かう。レーザーを打ち消しながら進み続ける。
それはまた光の壁に防がれる。
「だよなぁ!」
(なら……)
俺の身体の中で闘気と魔力を練り合わせる。そしてそれをユニークスキル《英雄の炎》に流し込む。炎は体外にも溢れ出て、周りの世界を変えていく―――。
『我が魂の欠片よ。炎の形、剣の形となりて全てを薙ぎ払え。其方の魂すら焼き尽くす熱さの剣なり。剣戟のままに切り裂き、焼きつくせ。…………始まりは根源の欠片!』
「〝心象転写〟」
神威を地面に突き刺し、地面から炎が溢れる。そして闘気と魔力が半径一㎢の半円の形になり全てを閉じ込める。
「この炎が俺の領域だ。―――〝魂剣煉獄(アマノレンゴク)〟!」
ユニークスキルを通して世界を改変する技。〝心象転写〟。《英雄の炎》を使った領域。
「〝魂剣(ソウルソード)〟」
「〝焔戟(フレイムアーツ)〟」
無数の炎の剣が空中に現れ女神に向かう。
「なに……この力……!」
女神の壁を破り、剣は女神に注がれる。
「来い」
〝転写〟〝草薙の剣〟
師匠の剣を模倣した炎が空中に浮かぶ。それを囲うように炎が筒のようになる。
「〝放射(ファイア)〟」
炎の木の葉が中で弾け、筒から〝竜〟が飛び出す。
それを見て師匠が叫んだ。
「知ってるか!この草薙の剣はな、日ノ国の神話で竜から生まれた神殺しの異名を持つ剣だ!」
竜の炎が消えて、中の剣が見える。
「〝刺突(シュート)〟」
更に剣が加速する。その剣はソニックブームを生むほど速くなっていた。しかしその剣は停止。
…………沈黙。
「あぶないわね」
ロゼラリアが手で掴んでいたのだ。音速の炎を。実体のないものを掴んでいた。
「そりゃそうだよな!神だもんなぁ!」
「⁉」
ロゼラリアの近くに人影。あれは……
「エイル……?」
彼はレーザーとは違う光の縄で縛られていた。
「何を……」
次の瞬間、ロゼラリアはエイルにキスする。
「……⁉」
「……ご馳走様」
「あがっ……」
エイルの体に何かが走る。血管一本一本まで把握できる……。
(なんだ……これは……!)
光の縄が解け、エイルの体が自由になる。しかしエイルは、ロゼラリアではなく。
俺達を狙った。
拳銃で建物の上から射撃……。
「なにしてんだ!エイル!」
「………」
エイルの眼に生気はなく、殺意に満ちている。
「ロゼラリアぁああ!何をしたぁああああああ!」
「何って、私の奴隷にしてあげただけよ。……さあ、行きなさい。終わったらたっぷり可愛がってあげるからね」
「……」
ハンドガンの引き金を引き続け、俺達に死を送る。
その姿は勇者などではなく、死神のそれだった。
「エイルやめろお!」
「目を覚ませえええ‼」
レング達の声も聞こえない。
しかし一瞬、エイルの動きが硬直する。
その頃エイルの精神世界では………。
―――ここは―――暗い――。
―――誰か――。
暗い世界の中。しかし小さな亀裂。そこからこぼれ落ちる一滴の記憶。
九年前。
「お父様!」
「おお、エイルよ……」
そこにはエイルとアーサー。モルドレッド。ジェニファー。そして母、モーガン。
「よいか、エイルよ。お主はこの国の正統後継者として民を導く運命を背負っている。それを努、忘れるでないぞ」
―――アーサー―――?
次の記憶。
「逃げて……アーサー……………………!」
母がアーサーに銃を向ける。しかしアーサーは―――――
「受け止めよう」
「アーサー!」
弾丸がアーサーの心臓を貫く。これがあの記憶。
俺は―――誰だ―――俺は―――
「エイル・ローグ・ペンドラゴン……それがこの子の名前だ」
―――俺は。
王だ。
「う……………」
「何…………?」
エイルの体に赤黒い稲妻が走る。
「エイル!」
「戻ってこい!」
「《ブレイバー》!」
「うおおおおおおお!」
身体が動く。エイルの意思で。
赤黒い稲妻の正体はエイルの闘気。それが覚醒した英雄の血族と空間のエーテル(ブリタニアが発見したこの世界に漂う力の根源)の組み合わせにより体外で暴走していた。しかし今は自身の手足のように動かせる。
「〝根源変異〟〝怪物〟」
「俺はアーサー・ペンドラゴンの息子……エイル・ローグ・ペンドラゴン……この国の王だ!」
エイルの腰の後ろに血液が流れ込み、体外で触手の形になる。
「あれはまるで…………《喰人》……?」
「ロゼラリア……お前のおかげで俺の体の使い方がよくわかった……!」
「……………………そう」
「面白い奴隷だったのに……残念」
ロゼラリアの背後に現れた無数の光球。そしてそれから放たれる裁き。
「さようなら」
一本に集まった強力なレーザー。
それに対し、エイルは腰の四本の触手を向ける。
「ふーっ……」
アーサー………いや、父さん。力を貸してくれ。
(もう父さんはいない……。これからは、俺自身の力で!)
そう、アーサーはロゼラリアの支配により危険分子として消されてしまった。
「はあああああ‼」
触手でレーザーを受け止め、触手を消して全速力で駆け出す。
(イメージしろ!自身の肉体を変えられたんだ、世界を変えることぐらい……それに、手本ならもう見た!)
「くっ……うぉああああ!」
血液をエーテルと同化。それを形作っていく。
(俺の殺意と、恨み、憎しみ……そして、希望を形に!)
未来を切り開く、希望の光。
「奪命(ヴォーパル)!」
禍々しい片刃の短剣。この国の、復讐の結晶。そして、魔剣と聖剣の二面性を持つ。
「ウオオオオオ‼」
それを右手に、女神の懐に迫る。レーザーを叩き落とし、普段以上のスピードで駆け抜ける。それはまるで、七十六階層ボスを討伐した時の、アルタイル・アリエルのように。
「なんて速さ……」
短剣を逆手に持ち、勢いのまま突き刺す。その一撃は女神の皮膚を切り裂き、一滴の血液が地面に落ちる。
「私の体に傷を……」
レーザーを躱しながら斬り続ける。
「ハアアアアアア‼」
逆手のまま渾身の一撃を叩き込んだ。
〝奪命〟!(ヴォーパル)
その斬撃は女神の喉を掻っ切る。
女神はすぐさま再生し距離をとった。
「再生できるのかよ……!」
『エイル!お届け物だぜ!』
声の方を向くと、大型トラックがとある機体を運んできていた。
「《アウェイキング》……⁉」
『おうよ!ZXPS-X001《アウェイキングセイバー》、整備バッチリだ!』
エイルが二年前に一度だけ搭乗した機体。
エースパイロット用に開発された特別機。最強のパイロットが最強の機体に乗ることをコンセプトに開発されたため、一般兵が乗ると衝撃に耐えられず、命にかかわる危険な機体。
ブリタニア王国の《戦闘機》のシステムは、人間の脳を《演算処理装置》として扱うという非人道的なものだが、このアウェイキングの情報量は常人なら一度乗っただけで廃人になる。
しかし機体性能は機動性、防御力、火力の全てで《セルウス》を大きく上回っている。
『起動完了』
『神経接続システム《加具土命》感度良好。』
「エイル・ローグ・ペンドラゴン、《アウェイキング》、出る!」
鬼神は大きな大剣を手に駆け出す。
「《セイバー》……使ってやる……だから、女神を殺す力を寄こせ!」
エイルの神経に力が流れ込んでくる。そしてエイル自身の力が、内側から弾けた。
エイルの瞳が青く発光する。
「俺も行くぞ!」
俺もナイトプレートと神威を握って近くに寄る。
俺達は同時に走り出し、女神を追いかける。
「はあああああ!」
二刀流……。
「《双竜牙突撃》(ダブルドラグストライカー)!」
両手の剣で突進技を放つ。
炎術〝炎雷ノ刃〟
神威を炎で覆い、強化する。
『うおおおおお!!』
鬼神が太刀を振り下ろす。それらが同時に炸裂し、確かなダメージを与えた。
「合わせろ!」
〝炎術〟
〝雷術〟
〝炎雷〟(ファイアボルト)!
英雄の炎と英雄の雷が融合し、膨大な力を生む。
エイルは機体に雷を纏わせ、磁力などで動きを速くする。
「とっておきも使ってやるよ!」
〝エクシードチャージ〟
ライトベールが強く輝き、倍速で攻撃が始まる。
「せあっ!」
一撃一撃が女神に食い込む。
『……エクストラバースト!』
赤い光が機体から漏れ出る。《アウェイキングセイバー》の最大稼働状態。動力源の内部機関
から《エーテル》を最大放出。
「吹っ飛べえええええ!」
「クソ女神!」
「〝奪命〟!」
〝エクシードチャージ〟
スキルを二回分発動する技〝エクシードチャージ〟偶然見つけた秘技。
「〝ファイアブレイズ〟!」
数多の炎の剣が女神に殺到する――。
「もうそれには飽きたわよ」
一瞬でかき消された。
「チッ!」
投げナイフを投げながら距離を取る。
「エイル、機体はあと何分持つ!」
『あと三十分!』
「オーケー!」
(けどどうする――。このままじゃ――。)
『変われ』
「⁉」
――意識が――遠く――。
「―――アルタイル?」
「ここまでの戦、大儀であった。」
「え?」
「我が必ず大きなダメージを与える。その間にこやつと貴様で奴を仕留めろ。」
「アルタイル、何言って――。」
その時、アルタイルの髪が黄金になり、眼が赤く輝いた。
「――ギルガメッシュ」
「エンキドゥ。いるか?」
「いるよ」
あの時の、黒髪の女性――。
「力を貸せ」
「喜んで」
『君が全を選ぶなら、俺は全を捨てよう。一を守るために。その一が君ではなく、世界の破滅だとしても、俺はこの手でやれることをしよう。全を助けることなど、出来ないことは解っている。ただ俺は君ではないかもしれない誰かを守る。君に否定されても、この世界に否定されようとも、全てに否定されても。弱者が覚悟を決めたのだ、強者に敗れる筋合いは無い。俺という剣が折れようとも、この世界には剣が満ちている。剣を学び、人生を学んだ。それでも俺は弱い、生命を断ち、剣を握って進むのがいつかは解らない。ただし俺という一はこの世界の全を借り受ける。それが弱者の戦いだと信じて、進み続ける。〝ソード・オア・ザ・ソウル〟そこにあるのは、剣か魂か!』
〝心象転写〟
〝ソード・オア・ザ・ソウル〟
アルタイルの領域が消え去り、新たな領域が広がった。暗い夜に黄金の光が散る。
「「ファースト・レディ」」
「〝黄金剣〟」
「〝天の鎖〟」
「「ファイア」」
黄金の大剣と数多の鎖が女神に向かった。それは女神を拘束し、剣が腹を貫いた。
「がはっ……くっ――ハアアアアアア!」
女神は身体を変えて、醜い姿へと変身した。
「女神などではなく、ただの怪物だな。」
「「セカンド・レディ」」
「「エア・マキシマ」」
「「〝ワールド・オブ・ザ・ブレイク〟」」
「「ファイア」」
女神はボロボロの姿へと――。
「女神は――死なない――!」
「試してみるか?」
そう言ってギルガメシュは両手に剣を持つ。
「《二刀流》は王の証。両の手で数多の武器を操る〝才能〟だ。」
「このっ――」
女神が避けられない程の斬撃を叩き込み続ける。エイルの眼には残像が見えたほど。
速すぎる――。
「〝百花繚乱〟!」
スキルが終わった後でも、硬直もなしに動き続けている。
「〝ブーストアクセル〟〝ソニックアクセル〟――。武技〝奈落〟!」
女神が隙を見て放った光球も突如現れた円盾で防ぎ、剣で追い打ちをかける。
「何なの、剣が消えたり、盾が出たり――!」
「王は全てを統べる者なり――」
「死ね!死ね!死ねええええええ‼」
怪物から放たれる光線を弾き、炎の斬撃を放つ。
「この身体は面白い事を考えるな……使わせてもらうぞ。〝英雄憑依〟ギルガメッシュ!」
剣が加速し、空間を熱する。星屑のように輝き、切り裂くものは進む。
「おお、動きやすい!まさか我自身を模倣することになろうとはな!」
「武技〝双撃〟‼」
同時に上段から振り下ろし――。
「神威よ、しばらくぶりだな。」
刀を手に、抜刀術の構えを取る。
「かつて、人間の剣聖がつくった最速の剣術……それが、鞘の中で刃を加速させる刀の奥義、〝抜刀術〟そしてその中でも古代、世界に認められた技……見せてやろう」
――銀河天文流――。
怪物の光線が迫ってくる――。
「……………………セアッッ!」
〝奥義〟
爆音、ソニックブームを引きながら王の刃は怪物に接近する。
「グッ……」
怪物によって刃が止まる――が。
「ハ、ァァアアアアアア‼」
刃が止まっても、進み続ける。それにより、刃が喰い込む。
――――止まるな――――。
「うおおおおおお‼」
そのまま、怪物の首を斬り飛ばした。神速を超えた一閃。
〝王牙天翔〟
「ガハッ……………」
「トドメは刺さん。それはこやつの役目だ。だが、トドメを刺せるぐらいには弱らせておく」
「嫌………嫌!」
女神に戻った女を見下ろしながら、亜空間から一本の剣を取り出す。
「これはあらゆる種族の英知と技術が集まって出来た始まりの剣だ。―――――〝解放宣言〟」
《オリジン・オブ・ソード》
始まりの剣は、全てを斬れるほど大きくなった。そしてそれを天に向け――――――
〝気〟を宿した超巨大な斬撃を放つ。
「星を両断する聖剣、〝神を絶つは我が命の閃き〟(ゴッドエンド・ジ・アース)!」
世界を断つ、王の斬撃。それは、偽女の身体を切り裂いた。
「……………………今だ」光を天空に放つ。
「合図!」
アースは王の合図を見て、〝草薙の剣〟を地面に突き刺す――。
「〝解〟!」
〝草薙の剣〟の能力――それは、あらかじめ叩き込んでおいた攻撃を、好きなタイミングで炸裂させる――。アースは機体の弾丸や、アルタイル達の剣に闘気を仕込んでいた。
今までの攻撃を同時に炸裂――。
「ブッ飛べぇえええ‼」
そしてそれを皮切りに、皆が攻撃を打ち込む。
「〝星砕きの流星群〟・〝超新星〟(ノヴァ)!」
『総員掃射!』
「流水剣第三秘剣・抜刀術――」
鞘の中で闘気を加速させる――。
「〝修羅・抜刀〟!」
練り上げられた闘気が放たれる。全てが混ざり合い、女を襲う――。
「キャあああああああ⁉」
「後は貴様だ。我が未来よ」
俺は、過去の記憶を見ていた。祖父の言葉を。
―――泣いてもいい。負けてもいい。ただ立ち止まるな。明日たくさん笑えるように、何度でも立ち上がれ!進み続けろ、魂が燃え尽きるその時まで――
父の言葉を。
―――誰かのために戦えるようになれ、友も仲間も、必ず共に進んでくれる……。そして知らない人でも、困っている人がいたら迷わず助けるんだ。そうすればいつか、困ったときに助けてもらえるはずだ。皆がお前を助けたいと思えるように――
母の言葉を。
―――弱くても諦めたらいけないの。諦めずに生きていたら死なない限り挑める。何度も何度も。ただ、がむしゃらに挑んでみて、そうすればこの世界に『有り得ない』を起こせるの――。
―――進んだ者を、
―――そう思わせられる者を、
―――『有り得ない』を現実に出来た人を、人は―――
―――英雄と呼ぶ。
「……………………!」
目を閉じ、もう一度開いたとき、髪は黒く、眼は蒼に染まる――。
「銀河天文流――。〝龍撃閃〟!」
刀の四連撃。そして
「闘拳・〝重撃〟!」
闘気を使った格闘術。その基本技。踏み込みの力を拳に直接伝え、そこに闘気を乗せる。
拳が触れた瞬間、そこから放出する闘気。そしてそこに炎を上乗せした――。
「〝重撃・改〟!」
心臓に打ち込んだ一撃。後ろに飛んだ女に追い打ちをかける。
神威を地面に突き刺してベールリオン、ナイトプレートを手に取る。
「終わりだあああああ‼」
「こっちも忘れるなよ!」
巨大な大剣の殺神剣。
「〝奪命〟(ヴォーパル)‼」
心臓を穿つ刺突。
(何故だろう、今、身体の使い方が分かった)
「………ぁぁぁあああああああ‼」
流れ星のような軌跡を描き、幾重もの斬撃を重ねる。
左右の剣を神速で振るい、女神を刻む。その時、女の記憶が流れ込んできた。
昔、この国が戦争に巻き込まれたとき、多くの女性が旅立つ男性に言った言葉――。
『あなたは私のものなんだから、死んだら許さないから。生きて帰ってきて、私の為に生きて』
そしてその後、夫、弟、兄、彼氏の死を聞いた時の悲しみが、『愛』と『戦争』の女神に降り注いだ。それが、暴走の原因である。
「悲しかったな…………今、楽にしてやる…………ぁぁああああああ‼」
十三連撃目の左刺突。心臓を貫いた。
「まだ、まだ終われないのよ……!」
「⁉」
女神から光が漏れ出て、それが空に浮かぶ。それは巨大な球体へと姿を変えた。
「全て、終わりなさい……!」
「……………………ッ」
「させるかああああああ‼」
飛び出したのは《セイバー》。球体の中心にいる女に迫る。
「エイル!」
「この国を、俺達の家族を……………………これ以上、壊すんじゃねえ!」
「奴隷如きが………!」
「俺もいるんだよ!」
《双竜牙突撃(ダブルドラグストライカー)》!
両手の剣で放つ最強の突進技。そして
「《スターマーク・リオネル》…………!」
今出せる最強の技。最上位剣技程ではないが、追尾性能が高い必殺。
《二刀流》。以前ステータスプレートに現れた文字化けしたスキル。二か月前、いきなりその文字が《二刀流》に切り替わった。そのスキル内容は『左右の手であらゆる武器を操るスキル。一刀状態でもスキルの能力上昇、基本能力上昇。左右の手でそれぞれ武器を装備した場合、二刀流専用技が発動する。更に二刀状態で放つ通常スキルは攻撃力が一・五倍になる。王の資格の一つ。』
「うおあああああ!」
十四撃目の右手上段斬り。身体を真っ二つにする――。しかし、奴は本能で暴れる化け物と化していた。
(クソ………SP(スキルポイント)も底をついた………)
そう、今までの戦いでスキル、炎、闘気を使い果たしてしまった。SPに関しては《二刀流》のデメリットである『通常スキル以上にSPを消費する』という点により、三分の一程残っていたSPも、三回の大技でほとんど使い切ってしまった。使えるのは、初級、下級剣技。それも恐らく数回―――。
「武技〝限界突破〟!〝ブーストアクセル〟!〝ソニックアクセル〟!〝身体把握〟!」
負担を引き換えに肉体の限界を超える。意識を一千倍に加速。身体速度を加速。全身の筋肉が隆起し、血管が浮き上がる。
(全てを込めろ、精神を!)
古代、武技を使用していた者たちが使っていたのはSPでも、闘気でも、魔力でもなかった。
それは、〝気〟と呼ばれるもの。精神力である。〝武技〟――。
〝魂気剣装〟剣に気を纏わせる武技。
二刀流武技〝激烈閃撃〟
六連撃の二刀流技。そして新たな武技を発動――。〝七連光鏡〟七連撃を全く同時に放つ技。
水平四連撃を叩き込み、身体が硬直――。
その頃。
「アリス、もう一度〝星砕きの流星群〟を撃てるか⁉」
「撃てるけど…………どうするの?」
「お前の剣に俺の闘気とSPを込める。アルタイルに力を届けるんだ!」
「―――分かった」
「はああああ……………………!」
アリスの細剣に光が宿る。そしてアリスは剣先をアルタイルに向ける―――。
「〝星砕きの流星群〟!」
「行っけえええええ‼」
「受け取れ!アルタイル!」
「!」
身体の中に、力が―――。俺の中に闘気とSPが流れ込んでくる―――。
「うおおおおおおお!」
硬直を乗り越えて、剣を振り下ろす。
セイバーと同時の攻撃。俺達の雄叫びと同時に、力が増す。
「終わりだ…………ロゼラリアぁああああ!」
これなら、撃てる――!剣を握る力が増す。そして俺は、その力が籠った文を口に出す。
『流星よ。我の剣から溢れ出し熱により、空間を熱せよ!小さき火花で世界を照らし、明日への道を切り開く、閃光を生み出す只人の必然…………。それは、革命の軌跡なり!』
一瞬のタメの直後、俺はもう一度、その技を放つ―――――――――――――――。
「スターマーク・リオネル…………!」
雄叫びと共に荒れ狂う本能。神経が焼き切れそうなほど、限界を超えた動作。
完全詠唱により最大火力を生み出す。そして今までの二刀流の経験を全て出し切る。腕を振る速度が徐々に加速していく。人間を超えた剣。
「〝奪命〟!」
「まだ動け!アウェイキングセイバー!目を覚ませ!ここで止まるんじゃ、ねえええ!」
セイバーの眼が赤く輝いた。駆動音が大きくなり、膂力が爆発的に上昇する。
「エクス……カリバー!」
「ナイトプレート!ベールリオン!力貸せ!」
硬度が増し、切れ味も向上。
(これでも……!)
斬れない。大剣でも、二刀流でも……俺は……俺は!
―――英雄に――――。
子供の頃、父さんと爺ちゃん……母さんに読んでもらった古代の……いや、最初の英雄。その名は《ギルガメシュ叙事詩》。
女神と庶民の間に生まれた男が、その国の王となり、神々に抗う物語。
「英雄になるんだよ!俺はああああああ!」
「自己顕示欲の塊ね!」
「そうだよ!俺はただ、誰かを救えればいい、それで満足する……それが、俺だあああああ!」
あと、もう少し―――。
「何なのよ、あんた達……!」
「俺は、俺だ!」
「俺達は!人間だ!」
アルタイルが金髪、赤い瞳に。そして金のオーラを吹き出した。しかし魂は、アルタイル・アリエルのまま。そして、《翼》が発動する―――――――――――。
「「うおおおああああああああああああああッ‼」」
女神を、殺した。
「やった、の、か……?」
「ああ、俺達は、勝ったんだ……俺達は……自由だ……!」
スレイブの名を捨てて、人間として生きていく。黒種ではなく、男だ。
「セイバー……よくやった……」
機体の間から蒸気が吹き出し、冷却が始まる。
「おーい!アルタイル!」
「師匠、アリス!」
「お前ら!」
「アルタイル、ギルマスから言いたいことがあるそうだ」
俺はステータスプレートを取り出し、タップ。
『やあ、アルタイル君』
「ギルマス……」
『そんなに固まらなくていいって!むしろよくやってくれたと言いたいぐらいだし!』
「え?」
『いやぁ、オジサンも昔あの女神にやられたクチだからね……そして神々の中でも、ロゼラリアはやりすぎたってことで、今回の事は不問にするそうだよ』
「……マジ?」
『マジマジ』
「よかったね、アル」
「ああ、これからどうしようかと……」
「まあ、私はそれでもついて行くけどね」
「なんて?」
「……なんでも」
小声で聞き取れなかった――。
「……………………エイル、これからどうする気だ?」
「仲間達とこの国を建て直す。まずは女との和解からだ」
「……………………そうか、頑張れよ」
「……お前もな」
俺達は笑いながら、拳をコツン、とぶつける。
「それじゃ、俺達は帰るとするよ」
「もう帰るのか?」
レングたちが戸惑いを見せる。
「俺達は《冒険者》だからな」
「……………………そうだったな」
「「じゃあな」」
帰路にてアリスが
「いいの?あんな別れで……」
「また会えるさ、それに、俺は、アルタイル・アリエル……勇者の孫であり、息子。そして…………未熟者だから」
「ふふっ……」
「面白いことを言うなぁ」
「……帰ろう、アースリアに」
この後、歌姫事件もロゼラリアの仕組んだことが発覚。そしてこの事件は《解放戦争》の終幕となった。しかし、まだ終わらない。この世界はまだ、続く。
これは、《黒き剣士》が英雄になる物語。
最も古き幻想から始まった、最も長き〝英雄譚〟。
《二刀流》を知っているのは、俺を除いてエイルのみ。
俺とエイルが師匠やアリス達と離れて戦っていたせいで、二人にはライトベールが見えなかったのだ。しかし今更言うつもりはない。《ユニークスキル》を二種類持つのは前例がなく、すぐに話題が広がるだろう。それは避けたい。
ただでさえ神殺しで悪名が立っているってのに、二つ目なんて言ったら…………考えただけで寒気がする。…………そもそも、《ユニークスキル》は分からないことが多すぎる。
カイン等が持っている最上級スキル《エクストラスキル》は出現条件が明らかになっているのに対して、《ユニークスキル》はそれ以上の力を持ちながら、出現条件は不明。世界で一人しか手にいられないスキル。
解放戦争終結、あれから半年が経った。平和、とは言い切れないが、いつもの日常。
「……………………はぁ…………」
ため息をつきながら俺は街を歩く。最近の俺は《ナイトプレート》だけを装備している。
《二刀流》スキルを無暗に発動しないようにするのはそうだが、片手剣だけの方が目立たないし…………《黒き剣士》のもう一つのシンボルとなっている二刀流スタイルは、女神殺しの象徴として嫌がられてしまっているので、最近はこうしている。
ベンチに腰をかけて、空を見上げる。
「…………あーあ、どうすっかなー…………」
「……………アル?」
一人でぼやいていると、誰かに声をかけられた。その声は、俺が一番聞きたかった声。
「…………アリス、今日は迷宮に潜ってないんだな」
「……………………私のこと、攻略しないと死ぬ人みたいに思ってない?」
彼女のムスッとした表情を見て、必死に弁解する。
「思ってない、思ってない!…………なあ、アリス…………」
俺は――――――――――――、
「なぁに?」
問いかけた。あの時一緒に戦ってくれた彼女に。
「…………俺がロゼラリアを倒したことって、本当に、正しかったのかな…………」
…………もしかしたら、違う道があったのではないか、話し合いでどうにかできなかったのか。
そう、考えてしまう。
「もちろん、あいつがエイル達にしたことは許されることじゃない。女性を操ることも、格差をつけることも、全部…………だけど、あいつの本心は違ったと思うんだ…………愛と平和を真に願い女神なら、あんなことしない…………もしかしたら、あいつも救えたんじゃって……思っちまうんだよ…………」
事実、あいつの記憶が流れてきたとき、《声》も聞こえた。『助けて』、それが奴の本心と真に会話した瞬間だった。
人は俺が正しいことをしたと言う。人は愛する女神を殺した俺を罵倒する。
「…………俺は、間違ってるのかな…………」
「アル」
優しい声。しかしどこか強さがある声。
「君は確かにあの女神を彼と殺した。だけど、それは彼らのためにやったことなんでしょう?だったら胸を張りなさい。他人の声なんて気にしない!………もし、声に耐えられなくなったら、私が慰めてあげるから…………人は間違える生き物。神様じゃない。君は人間、今この瞬間を必死に生きてる。…………この世界に、絶対なんてないんだから!」
「……………………!」
――――――――ああ、俺があの時…………師匠と出会って、入団試験を受けたのは………――――――――君に、出会うためだったのかもしれない。
だが俺は、それを口には出さない。
《剣聖》と、《黒き剣士》が釣り合うわけがない。
「………………ありがとう、アリス…………少し、気が楽になったよ」
「……………そう…………、ねえ、アル…………」
アリスは、一呼吸置いて。
「…………私と…………デート、しない?」
「……………………えっ?」
俺はたっぷり五秒ほどフリーズした。
もう一度頭を整理しよう。俺はアルタイル・アリエル。《黒き剣士》の称号を持つ、レベル一冒険者。神殺しの異名と、神を恐れさせる
対して彼女はアリス・フリューレ。《閃光》から《剣聖》へとなったカリスマ。
このアースリア一を争うほどの美貌を持ちながら、レベル七を誇る《マティリス・クラン》のエース。そのレイピアから放たれる剣戟はまさに閃光のよう。そして彼女自身も、光のようだ。
それがどうして…………こうなった。
「……………………駄目?」
(上目使い可愛い…………って、いかんいかん…………カインみたいになるところだった)
あんな大人になってたまるか、そう自制しながら…………。
「ダメじゃ…………ない」
「本当⁉」
(流石に断れないさ…………だけど、どうしようクソッタレェッ!)
二年半ソロをやっていた弊害か、最近女性と話すのがちょっとだけ苦手になってきた。
ちょっとだけだぞ、ちょっとだけ。
「それじゃあ、明日の正午にまたこの公園で!」
上機嫌でその場を去っていく彼女を見ながら、俺は思う。
(…………どうしよう)
「…………とありえず服……」
家に帰っての第一声がそれだった。
実際俺はこの黒いロングコート以外に、以前着ていた父の黒コート、あとは………爺ちゃんの灰色のコートしか持っていない。
そもそも必要なかったので、服屋にすらロクに行っていない。普段着………というか家でしか着ないような服のみ…………。
「ああ、どうしよう…………」
俺は藁にもすがるように、ある喫茶店を訪れた。そこはあいつの行きつけ。
「おっ、アル坊じゃねぇか!久しぶりだな、どうしたんだ、なんか用か?」
「よ、カイン……」
先刻、こいつみたいにはなりたくないと思った男。こいつに頼るしかない。
「……………………なるほどな…………なあ、一ついいか…………」
事情を説明し、俺が意見を待っていると。
「追いかける側の俺が、追いかけられてる奴の思いなんか分かるかぁ!」
「……………………ほぇ?」
「…………すまん、取り乱した。…………で、服がないって話だっけ?」
「お、おう………」
「今言った灰色のローブってのでいいんじゃねぇか?黒よりマシだろ」
「………………そうだなぁ…………確かに、デートで黒はマズいか…………」
俺がそう言うと、カインはうんうんと頷き、耳打ちする。
「それはそうと、お前はどうなんだよ、アリスちゃんのことは」
「はぁ?」
質問の意味が分からず、俺はアリスの印象を語る。
「どうって…………優しくて、慰めてくれて…………頼りになる…………」
「そうじゃなくて、好きなのか、アリスちゃんのこと!」
「好き…………?…………アリスの事が………好き…………、好きなのかもな…………俺」
自分で言っておきながら、心底驚く。まさか自分からこんな言葉が出るとは思っていなかった。
カインは心の中でこう思った。
(うわぁ……無自覚天然かよ……、アリスちゃんは好き好きオーラ全開だけど、こいつは別の意味で危ねぇかもな……)
「……………………俺は、アリスが、好き……なんだと思う」
カインは、そんな俺をフッと笑い。
「それでいいじゃねぇか、お前があの子の事を好きだと思ってるならあの子は、きっと答えてくれると思うぜ?」
「カイン……お前、いい奴だよな」
「な、なんだよ、俺はいつも紳士だっての!」
「ああ……紳士、な」
俺達はその後別れ、俺は一人家に帰る。
「……………………寝よう」
ベッドに飛びこんで眠りにつく。
夜が明けた。これが運命の日になるとは知らずに。
今日俺は珍しく早起きした。というか、なかなか寝れなかった。
結局寝ることが出来たのはたった三時間だけ、あとはずっとベッドでゴロゴロしていた。
柄にもなくドキドキして、待ち合わせ一時間前から公園で待っている。
「………何やってんだろ、俺…………」
アリスは今日も迷宮攻略は休みなのだろう。あいつが攻略を二日連続で休むなんて、天変地異でも起こるんじゃないだろうか。
(なんで…………俺……)
「俺なんか…………」
その時、あのパーティーを思い出す。…………俺が救えなかった、同業者。
第一種危険種に認定された《ホワイトディザスター》。あの強さは、ボスモンスターに迫るほどだった。階層中盤にいていいモンスターじゃない。
何故アイツがあそこにいたのかは不明。まったくの、〝不明〟。神々でも手がかりすら見つけられない。ロゼラリアの犯行ではないかとの話が出ていたが、いくら神でもあれほどの高ランクモンスターを操れるとは思えない。
「こんな時になに考えてんだ、シャキッとしろ、シャキッと…………」
自分の姿を見下ろす。灰色のローブを着た、みすぼらしい少年。
「……………………笑えるよな」
これからデートする相手は、あのセナに迫るほどの人気を誇る女性にして、最速の冒険者とも呼び声が高い、あのアリス・フリューレなのだから。
「…………《父さん》。あんたの言った通り、人生何があるか分からないみたいだ………は?」
俺は何を………父さんがいつ、そんなことを言った―――――――――?
たっぷり呆けていると、彼女が声をかけてくる。
「アル、お待たせ」
白い帽子をかぶり、白いワンピースを着たアリスの姿は、まさに神が創り出したかのごとぐ、美しかった。
「いや、大丈夫…………そのバスケットは?」
彼女が右手に持つバスケット。…………興味をそそられる。
「じゃーん」
アリスはバスケットの上に被せている布を取り、その中身を俺に見せつける。
「………………ホットドック…………?」
その中にあったのは、美味そうなホットドックと、二つのコップ、そして一つの水筒。
「食べる?」
アリスはホットドックの一つを手に取り、俺の顔の前に差し出す。
「…………ああ、頂きます」
ぱくっ、アリスが持っているホットドックにかぶりつく。
「……………………美味い」
口の中に濃いソースの味が広がる。
どこか、懐かしい味。
「もしかして…………手作りですか…………?」
「そ、…………気に入ってくれたみたいでよかった。…………ココア飲む?」
ホットドックにココア。俺の好みどストライクなんだよなぁ…………偶然か?
「カインさんに聞いたから」
水筒のココアをコップに注ぎながら、アリスが言う。俺は心でも読まれたのかと思った。
「…………なるほどな」
(アイツの前ではホットドックを食べていたし、攻略の時にココア使ったからなぁ……………流石にアイツでも気が付くか…………)
「…………アリス…………」
「?」
一呼吸置き、疑問に思っていることを聞いてみる。
「なんで…………俺を気にかけてくれるんだ?…………言っちゃなんだけど、俺結構な悪名ついてるし……そんな強くない―――――――――――」
「違う!」
アリスが我慢できない、と言わんばかりに頬を膨らませる。
「私は人がアルの事どう思っているかとか、アル自身がどう思っているのかどうでもいいの!私は、アルの事が好きだから、あの時、君の心が輝いて見えたから、私はこうしているの!」
一瞬の間。
「―――アリ、ス…………」
驚いた。心底驚いた。
何に驚いたって?
俺に好きだと言ってくれたアリスに?
無論それには驚いたさ。
…………だけど、俺が一番驚いたのは、
俺の目から、涙が溢れていたことだった。
「……くっ………くっ…………!」
嗚咽が漏れる。我慢。涙を止めようとしても、止まらない。感情が溢れ出た。
「…………アル…………」
アリスは、泣く俺を優しく抱きしめた。俺はアリスの胸の中で少しの間、泣いていた。
数分経っただろうか。
「…………ありがとう。アリス…………俺も、君のことが好きだ」
「…………!」
今度はアリスの目に涙が――――、しかし彼女は強く、その涙を押しとどめた。
だけど、俺たちを隔てる分厚く高い壁が、もう一枚だけ残っている。
「《マティリス・クラン》のみんなを説得しなくちゃだな」
俺がそう言うと、アリスが笑って言う。
「大丈夫、団長が、また決闘で決めようって」
「…………えっ」
どこが大丈夫なんですかと言いかけてしまった。
二年程前、クランへの入団を賭けて決闘を迫られたものだ。
そういえばあの時、なんで一度不合格を出した俺に、入団を迫ったのか、理由を聞いていなかったな。
「…………よし。分かった、リベンジマッチだ」
「…………うん!」
数時間後。闘技場の待合室で黒コートを羽織り、背中に愛剣二本を背負う。
その二本も、奴に対するリベンジを誓ったような重みを感じさせる。
俺は愛剣をなだめるように少し抜き、すぐに納めた。
「さあ、行くぞ」
二人の相棒に言いながら俺は待合室を出る。
俺がそこに出ると、大勢の観客と、そいつが待っていた。
《マティリス・クラン》団長、ディオン・クリンス。
「私を倒さなければ、アリスは渡さないよ」
「…………望むところだ」
申し込まれた決闘をカードで受諾。互いに剣を抜刀する。
空中にカウントダウンが表示される。
…………3、2、1、GO!
俺は最初から二刀流で構える。
スタートして数秒、まだどちらとも動かない。
観客も静まり、俺達は互いに気配を読み合う…………。
―――ダッ、動き出したのは、まったくの同時。
「せ、ああああっ!」
俺が発動したのは
《ヴォーパル・ブレイク》の派生スキル。あれが一点の破壊力を生むのに対して、これは衝撃を生むことに特化した技だ。
ディオンの盾に重い一撃を叩き込む。しかしディオンはぐっと耐え、連撃を放ってくる。
「ぐ、おおおおッ!」
連撃を左右の剣で捌き、左の剣で
ディオンの防御は相変わらず速く、そして正確だ。…………そして攻撃も。
(前回は、俺のエゴだった。だけど、……今回だけは、――――――――)
「――――――――――――――――――――負けられないんだ!」
負けられない理由がある。それは、前回との大きな違い。
「うぉおおお――――ッ!」
最後の四撃目。フルブーストした一撃は、ディオンの頬を掠めた。
「アルタイル君―――――――――――――!」
ディオンはニヤッと笑い、連撃を放つ。
それがただの長剣スキルではなく、《神約》スキルだということは、すぐに分かった。
明らかに威力が違う。重く、繊細な剣戟。
「はああああっ!」
ディオンの剣戟を捌き切るので精一杯。
ここからの反撃には、《二刀流》を使うしかない!
長剣の連撃を防ぎきり。
「うおおおおおおおおおおおお―――――――――――――ッ!」
俺の雄叫びに応えた二刀が、水色に発光する。
「…………!」
ディオンも、観客たちも押し黙った。
しかし三人だけ、声援を送ってくれる者たちが。
「行けアル坊、愛の力を見せてやれ―――!」
カイン。
「負けたら承知しないよ、アル!」
ベリアス。
「…………アル―――――――――!…………頑張れ―――!」
アリスの声が、微かに届いた。
《スターマーク・リオネル》。連続十四回攻撃。
空間を灼く火花より速く、その連撃は舞う。
十三撃目、左刺突はディオンの左頬を掠めた。
「…………ぁぁぁあああああああッ!」
十四撃目。渾身の右上段斬り。
三人の俺が重なり、右腕に心の力が灯る。
そしてその瞬間。三人の手が、俺の背中を押した。
「…………せ、……あああああああ――――――――――――――――――――ッ!」
ディオンの盾を両断し、更に剣も折る。
「…………負けたよ」
ウィナー、アルタイル・アリエル。
そんな声も聞こえず、俺は意識が飛びそうになる…………。
後ろに倒れそうになった時、背中に何かが当たる。
「…………アリス…………?」
アリスが後ろから俺を抱いて支えていた。
「…………勝ったよ」
「うん…………うん…………!」
ディオンに勝利した俺は、正式にアリスにプロポーズした。
「俺と………結婚してください」
「…………はい」
笑いながら瞳に涙を浮かべるアリスを見つめながら、俺は安堵する。
闘技場でのプロポーズに観客たちは口笛を鳴らしたり、拍手を送ってくれたり、歓声をくれた。
「…………あり?」
バランスがとれない…………後ろに倒れ―――
「やれやれ、大丈夫かい、アルタイル君」
俺の肩を支えたのは、ディオン。
「……ああ、すまないな…………」
「まったく。………前から思っていたのだが、君の戦闘スタイルは一対一に特化しすぎている。一戦全てに限界を注ぐと、その後が大変だぞ…………うちの神は心配性だ。前回の決闘は私の判断で行ったがね…………何故不合格にしたのか理由がわからない。……気を付けたまえ」
「忠告どうも…………けど、負ける気はしないよ」
俺の手を握るアリスを見つめ、これが現実なんだと実感した。
――――――起きてくれ、…………t――
――――――起きてよ…………テ――
――――――起きて…………兄さん!――――――――――――――――――――ザッ。
「…………?」
今、何かノイズが…………?
「どうかしたの?」
大変うれしそうなアリスが顔を近づけてくる。
「いや…………何でもない」
「さあ、行こう!」
アリスに手を引かれ、闘技場を飛び出す。
俺達が向かったのは、役所。
婚姻届は、今すぐ出す。それは、俺達が互いに思っていたことだった。
カウンターで待っている時。
「…………一つ、聞いていいか」
「どうしたの?」
「アリスが言う………〝綺麗な心〟って、どういうことなんだ?」
あの時から………グレフリオ・レッド戦から気になっていた事だ。
「それはね、優しくて強い。私が好きな心の事だよ」
「お待たせしました」
出されたのは、たった一枚の紙。
けれどそれは、俺達を結ぶ一枚だ。
夫、アルタイル・アリエル
妻、アリス・フリューレ
人暦二〇二四年、婚姻。
終末の
アリスと結婚してから一週間が経った。
今は二人、俺の家で暮らしている(アリスは今までクランの寮で暮らしていた)。
夕食中。
紅茶を飲むアリスの、宙に流れるような美しい身体を見つめる。
アリスの左薬指に嵌めてある指輪は、決闘の次の日に送った。
来週には結婚式を予定している。幸せだ。心からそう思う。
「……どうかした?」
見つめているのに気付かれ、顔を赤める。
「何か気になるの?」
「…………明日のことさ」
「……うん…………第七十七層ボス討伐戦」
「…………早すぎやしないか?」
「そうだね……確かに、いつもなら三年に一回位だったけど…………」
七十年前、
しかし、最近の冒険者練度が上がってきているとはいえ、ここまで早いとは…………。
「もしかしたら、その分〝ボスが強い〟とかな」
「ただでさえ強いのにねー」
「…………勘弁してほしいな」
グレフリオ・レッドより強いのは確定しているのだが…………。
そんな会話をしていると。
「お届け物でーす」
とドアをノックされた。
「はーい!」
アリスが荷物を受け取る。
「封筒………?」
「誰から?」
「えっと、送り主は団長みたい………」
「ディオン?…………開けてみるか」
「うん………そうだね」
受け取った封筒を開き、中に入っている数枚の紙を取り出す。
『まずは、結婚おめでとう。式には呼んでくれたまえ?』
「ぷっ…………」
思わず笑いそうになった。しかし二枚目。
『第七十七層ボスの情報』と記されていた。
「これ、もしかして…………」
絶句するアリスに俺は答える
「ああ、ギルド調査班の報告書だな………読んでみよう」
『報告077 攻略対象、確認できず。』
「…………は?」
「え?」
―――…………ボスが…………いない?
『以後、正体不明のボスを《インヴィジブル》と呼称する。』
「…………インヴィジブル…………」
「見えない敵、か…………苦戦しそうだね……」
「……ああ、そうだな…………」
三枚目の紙には、ディオンからのメッセージ。
『この通り、現状敵の能力や外見すら分かっていない状況だ。危険だとは思うが、頼む。協力してくれ』
「そこまで言われたら…………」
「断る訳にはいかない、よね」
アリスは仕方ないなー、と言わんばかりにため息をつく。攻略の鬼姫と呼ばれたのはアリスの方なんだけどなー、と思った次の瞬間。
ビュン!
ライトベールに包まれたアリスの手刀が、俺の眼前で停止した。
「…………何か失礼なこと考えてなかった?」
雰囲気が一変したアリスに焦り、
「なにも、なにも思ってない!」
ちょっと前にしたばかりのような会話をしながら…………。
「じゃ、明日の準備しようか」
胸を張るアリスを見て、この人だけは何をしても絶対に守ろうと決心する俺なのであった。
「おう」
朝が来た。
…………夢を見ていた…………。
どこか知っている家で目覚め、家族と平和に暮らす…………そんな夢。
「起きて、アル」
「ん…………むにゃむにゃ……おはよう………アリス…………」
「さ、行くよ」
俺は頭のスイッチを切り替えて
「ああ!」
と、朝一番の元気な声で答える。
ギルドの転移ポータルで移動すると、ボス部屋前には、もう大勢の冒険者が待機していた。
「皆、覚悟はできているだろうが、引き返したいものは帰って構わない。しかし、先を見たい者は…………剣を取れ」
ディオンの言葉に、皆が真剣な眼差しを向ける。
「さあ、…………行こうか」
扉が重く、ギギギ…………と錆びた音を出す。
そして完全に開くと、暗闇が現れる。
「突撃!」
ディオンの号令で全員が中に侵入する。
しかし、何もいない。
ボスはいない。
だけど、そんなはずはない。
「アリス…………?」
ビュン。細剣の剣先が、俺の顔を襲った。
「…………ッ⁉」
ナイトプレートで防いだ。…………有り得ない。
「アリス君!」
「アリスの嬢!」
ディオンやカインも気付き、冒険者たちがざわつく。
「アリス…………いったい、どうしちまったんだ…………?」
今の攻撃、ライトベールを纏っていた…………。完全に、殺す気だ。
アリスの顔を覗くと、瞳の青が濃くなっており、表情は、まるで妖精の人形のようだった。
『驚いたかい』謎の声。しかし、何処かで…………
「 ! …………誰だ!」
『私は、この世界を創った者だ』
「…………っ、《最高神ゼウス》だっていうのか!」
俺の叫びに、一瞬の間。
『いや、ゼウスも私が創ったプログラムに過ぎない。この世界もね』
「プロ、グラム…………?」
その時、俺の頭に電流が迸る。
―――――〝俺〟は、誰だ…………俺は、俺は…………日本の、ただの高校生だ…………。
ようやく、思い出した。
俺の名前は、……〝星川鉄也〟だ。
そしてこの《世界》は…………。
『《ニューワールド・ファンタズム》。《クロノス》による始まりのフルダイブMMOさ』
「それでは………まさか…………」
ディオンのかすれた声。
『そう、アリスはNPCだったというわけさ。正式名称は、《アリス・セーフティ・リード》。アルタイル君を抑え込むシステムさ』
「俺を…………抑え込むだと…………」
『そう。気にならなかったかい?いつも助けてくれる、可憐な少女を。………君を助け、不要な成長を抑制する、それが彼女の役目さ。…………アリス・フリューレというのは、それを隠す〝偽物〟さ』
「………… ! ……貴様…………〝流川大智〟!」
俺が叫んだその名前は、このゲームの、開発責任者でもあり、原案者でもある男の名だった。
ゲーマーでは知らない者はいない、そう断言できる。フルダイブ技術の基礎理論を提唱し、更に家庭用ゲーム
『…………よく気が付いたものだよ。そして彼女は、この層のボスでもある。そうだ、彼女を倒したら私への挑戦権を与えよう。…………アルタイル君以外の武器の攻撃力をゼロにした。アルタイル君、存分に戦ってくれたまえ』
その直後、ディオン達が倒れた。麻痺、倦怠感、圧迫のデバフをくらったのだ。
「アリス………やめてくれよ…………アリス!」
俺の叫びむなしく、アリスの剣が俺を襲った。
「諦めなさい。アリス・フリューレは、もう死んだのです」
そう言うのは、〝本当のアリス〟。
「今の私は、アリス・セーフティ・リードですよ」
顔色一つ変えずに剣戟を放つ姿は、まさにプログラム。
「くっ…………」
左右の剣で捌く。しかし、一撃が重い。
そして何より、身体に力が入らない。別に麻痺毒を盛られたわけでもない。
ただ、俺の心が、戦うのを拒否しているだけだ。
―――――――――ここで死ぬのか?
…………アリスは変わらず剣を振るう。
この二年半の記憶が、一瞬で再生される。
遂にアリスの剣が俺の身体を捉え始めた。肉がどんどん削れる。…………いや、肉ではない。
ポリゴンだ。今まで血肉に見えていたそれは、赤く小さな四角片。
ここは、ゲーム。
だから…………俺は、生きて、…………《家族》のもとに、生きて帰るんだ。
「アリス……お前と…………帰るんだ!」
俺は、最初の反撃を放つ。
アリスの剣を弾いた。
「そ、こだぁあああああ!」
ベールリオンを赤い光が覆う。
鮮血を引き連れて走る剣先で、アリスの心臓部を狙う。
入った。そう、確信した。
だけど――――――――――――――――――――。
「な、んで…………」
俺の目に飛び込んできたのは、涙を流すアリスの姿だった。
剣を止めてしまった。…………世界の圧力に屈する。〇・五秒の硬直。
しかし、アリスは動かない。剣を振らない。…………その瞳には、涙が。
「…………何故、何故…………貴方を……殺せないのですか…………!」
《アリス》の悲痛な叫び。それは、《あのアリス》と重なった。
「アルタイル・アリエル…………この感情は…………この気持ちは、何なのです…………!」
「…………愛……だと思う」
《あのアリス》ならこう言っただろう。そう思い、俺は答えた。
「愛…………恋ですか…………《前の私》は、こんな気持ちを抱いていたのですね………創られた存在だというのに」
アリスは、初めて笑った。それは、《自分》を嘲笑う笑み。
それが、俺の心を動かした。
「創られた存在だろうが…………プログラムだろうが関係ないよ。俺達人間の脳から出ているのだってただの電気信号さ。入れ物が機械だろうが、生き物だろうが、本質は変わらない」
「…………そうだ…………」
言葉を繋げたのは、立ち上がったディオン。
「《君》には、何度も危機を救われた…………この四年、《君》は何の為に剣を取った!」
「ああ…………その通りだぜ、旦那」
カインもよろよろと立ち上がり、倒れそうになりながらも。
「アリスの嬢…………恋は、愛は、誰かに縛られちゃいけないものなんだ…………大切なのは、自分の〝意志〟だ。恋は自由(フリーダム)にってな」
『面白い』
そう言うのは、流川大智。
『彼女はもう君を殺せないだろう…………ならば、こうするのみだよ』
何かしらの操作をしたのだろう。
次の瞬間、アリスの体が動かされる。
「何故………身体が勝手に…………!」
細剣がライトベールに包まれ、アリスの身体が攻撃モーションを起こす。
「…………私では止められませんか…………お願いしますよ、アルタイル・アリエル。私の、愛する人よ」
「…………っ」
嗚咽を噛みしめ、その《技》を構える。
一瞬、アリスが消えたように見えた。
しかし、俺を襲ったのは、《七本の剣》。次元を超えた七撃。
「…………うぉおおおおおおお―――――――――――ッ!」
俺の身体は自分史上最も速く動いた。まるで、《ブーストアクセル》でも使っているかのように、思考が加速される。
七本の剣が、止まって見える。
「はぁああああああああ―――――――――――――ッ!」
七連撃を弾き、俺は最後の上段斬りを放った。
「…………」
剣を受け入れるアリスはナイトプレートによって切り裂かれ、ポリゴンとなって消滅した。
アリスは口を動かし、無音でこう言った。
愛してる
…………笑っていた。
笑顔を、もう一度見たい。
眼の縁に熱い雫が溜まるのを感じ、拭った。
「アリス………俺は、やるよ」
またアナウンス。
『お見事。まさか本当にアリスを倒すとはね。…………約束だ、褒美を与えようじゃないか』
俺の前にポリゴンが集まり、人の形を作っていく。
「やあ、初めまして」
栗色の髪の、若い男。確か当時二十六歳。…………間違いない。流川大智だ。
「流川………!」
殺気を剝き出しにする俺に、奴はこう言った。
「まあまあ、落ち着き給え。四十六万人を救う戦いだ、中継なしでは盛り上がらないだろう?」
そう言って奴はウィンドウを操作し、そのボタンをタップする。
「うわっ!なになに⁉」
この世界全ての国々に中継される。
「今現在生存し、記憶が戻っているのが二十七万人。彼らを絶望させないようにね」
俺は、右手の人差し指と中指を立てて、円を描く。
すると効果音と共に、メインメニューウィンドウが表示された。
「…………やっぱりな」
そこにあった名前は、《ギルガメッシュ》だった。
アルタイル・アリエルというのは、偽物の、俺なのか…………。
「…………関係ない」
《俺》は、〝俺〟なんだから。
「さあ、始めようか」
そう言って流川は全身を赤いコートで包み、白銀に輝く片手剣を装備する。
「…………ああ」
俺達の距離が急速に縮まった。
互いに上段斬りを放ち、ノックバックで後ろにとぶ。
「その剣…………何なんだ…………!」
そう、奴の剣はまさに異質。剣同士がぶつかっても、その感触が伝わってこない。ただ止まっているのが分かるだけ。
「この剣は九十七層ボスの剣でね、名は《透明剣》という」
「そうか…………よ!」
剣戟。奴は片手剣だけで俺の二刀流を防ぐ。
流石開発者というべきか。フルダイブシステムを完全に使いこなしてやがる。
また、少し距離が空いた。
「どうする?君だけでは勝ち目はないと思うが?」
「最初から分かってたことだ!」
そう叫び、左手に握るベールリオンを全力でぶん投げる。
「諦めたのか…………つまらないね」
奴はひらりと躱す。
その瞬間、俺はウィンドウを操作し、その武器を実体化する。
「その剣…………七十六層の」
ナイトプレートを左手で持ち替え、奴の言葉通りのそれを右手に武装した。
第七十六層ボス、グレフリオ・レッドの主武装であった大剣。
その名を
「輪廻剣…………!」
二本の刃が螺旋状に交わった形状のその剣を、流川に向ける。
「その剣の特性は…………《絶対貫通》」
「そうさ。ま、あの豚はそんな知能がなかったみたいだがな」
俺が構えたのは、《ヴォーパル・ブレイク》。
螺旋を赤い光が包んだ。
「…………うおおおおおおおッ!」
高速で接近し、奴の心臓を狙う。
「…………」
奴は、《絶対貫通》の効果を持つ刺突を、文字通り相殺した。二つの武器が砕ける。
「……どうして…………」
俺の驚愕に、流川はこう答えた。
「この透明剣の特性は《刀身防御》。刀身に触れた攻撃を防御する。まあ、全く同じ干渉値の効果だった為、どちらとも破壊されたがね…………君の失敗は、予備動作のある《スキル》を使ったことだよ」
「…………………っ!」
俺は焦りのままに、右手にナイトプレート、左手にベールリオンを握った。
「ぁぁああああああっ!」
「馬鹿なことを…………」
流川は二本の剣を呼び出し、左右の手で握った。
ザ・プロメテウス
まったく同じ技。
…………また、失敗した。
奴はゲームマスタ―だぞ、《二刀流》を扱えない理由がどこにある。
そして硬直時間は…………防御された方が長い。
「うおああああああああああッ!」
雄叫びと共に放った二十五撃目の左刺突も、完全に合わされた。
硬直。俺が四秒なのに対して、奴は、二秒。…………致命的な差だ。
―――――――ごめん…………ごめんよ、アリス…………
「「うぉおおおおおおおおおおッ!」」
叫んだのは、ディオンと、カイン。
走った二人は、硬直したままの流川に攻撃を繰り出す。
ディオンは《神約》の中でも最強の、盾での殴打技を。
《ガーディアン・ザ・ブレイバー》
カインは手刀の最上位貫通技を。
《アベンジャー》
攻撃は確かに炸裂した。しかし、奴はポリゴンが溢れながらも動き、二人を左右の剣で薙ぎ払った。
「がっ……!」
「ぐふっ…………!」
(カイン! ディオン!)
何とか二人は無事だった。
しかし、状況は変わらない。
―――――誰か…――――――――…!
心の中で祈った時、それは現れた。
「がはっ…………」
流川の胸を後ろから、《神威》が貫いた。
そして俺の目には、神威を握る三人の姿が見えていた。
(爺ちゃん…………!)
《初代勇者》シリウス・コスモスター。
(父さん…………!)
《二代目勇者》シン・アリエル。
(母さん…………!)
二代目勇者パーティーの《聖女》ソフィア・アリエル。
三人は微笑み、頷いた。そして、光となって消えていく――――。
「…………例え、世界が……俺の家族や、アリスが作り物だったとしても! ……俺がみんなと生きたこの思い出は、決して…………〝偽物〟なんかじゃない!」
俺は、技を放つ。
「失敗を繰り返すとは…………!」
流川はまた、同じ技を。
ザ・プロメテウス
十撃。左右同時の切り払い。
十五撃。右切り上げ。
十七撃。右刺突。
二十三撃。左上段斬り。
二十四撃。右水平斬り。
二十五撃目。左刺突。
「同じ結果になるだけだ!」
硬直する直前の流川がそう叫ぶ。
…………俺は、止まらない。――――――――――止まれないんだ!
「う、…………うぉお…………!」
僅かに、身体が動く。
(馬鹿な…………)
流川は、理解した。
自身が開発したこの《システム》には、人の想いを仮想現実にする力があるのだと。
「行きたまえ…………アルタイル君!」
《聖騎士》ディオン・クリンス。
「行け…………!」
《旅月》カイン・アーク。
「行きなさい!アル!」
《最高鍛冶師》ベリアス・ユリーナ。
「頑張って…………!」
《刀の継承者》シーナ・アインハルト。
「行くのだ、少年」
《愛の騎士》クラデオル・ローズ。
「…………行け、アルタイル」
《騎士王》エイル・ローグ・ペンドラゴン。
「いけえええええええええええっ!」
《二代目勇者パーティーの剣士》アース。
師匠の叫びに続き、目覚めているプレーヤー全員が、そう叫んだ。
そして、世界を黄金の光が満たした。
《歌姫》セナが、《希望》の
ナイトプレートを、水色の光が包む。まるで最初から、《その技》を放っていたかのように。
「――――……ぁぁぁああああああああああッ!」
《スターオーバー・エクストリーム》。二十六連撃。
―――ザン。流川の身体を、切り裂いた。
瞬間、流川の身体を中心に、世界を白が包む。
……なんか……両隣から気配を感じる……。
「「ふーっ……」」
「うわぁ⁉」
両耳に何か……息?
「やっと起きたね、アル」
「待ちくたびれましたよ」
「えっ……そんな…………アリス……?」
起き上がった俺の両隣にいたのは、二人のアリス。
「驚くことはないだろう。二人共、この世界のプログラムなのだから」
そう言ったのは、流川大智。
「…………ここは、どこなんだ……?」
真っ白い空間。俺たち以外誰もいない。
「《ニューワールド・ファンタズム》だった場所さ……君によってクリアされたため、今残っているのはワールドがあった空間だけだよ」
「…………帰れるのか……けど、それならアリスは、どうなるんだ……?」
二人のアリスは、俺の左右の腕に抱き着いた。
「ずっと、一緒だよ」
「そうです、逃がしません」
「心配はいらない、彼女たちのAIは完全に統合され、ヒューマノイドの身体に転送される」
「統合……?」
疑問に答えたのは、アリス達だった。
「私たちは元は一人、アルを奪い合うより」
「一つになって、一緒にいたいのです」
「…………そっか」
安心した。もう……会えないんじゃないかと……。
俺の感情を読み取ったのか、二人のアリスは俺を自分達で包むように抱き寄せた。
「それでは、ログアウトを始めるよ」
「…………一つ、聞かせてくれ」
アリス達から顔を離し、流川の方を向く。
「……何が目的だったんだ……?」
すると流川は笑みを浮かべ
「何故、と言われると難しいが、私は見てみたかったのだ。人が、本当に協力する姿を………」
「あの社会に、本心はなかった。しかし、異世界なら……そう思って創ったのが、このゲームだよ。……しかし、まさか君に二度もクリアされるとは思わなかったな」
一瞬何のことか分からなかったが、この世界がゲームだった頃の話だと理解する。
「ああ、ギルガメッシュ、な……」
「ゼウス討伐報酬として与えたAIをカスタマイズし、未来まで残すとはな……」
「いい考えだろ?……エンキドゥ」
「彼女は君のクロノスに保存しておこう」
「……頼む」
「《二刀流》を含む全十六種の《ユニークスキル》の中に《英雄の炎》なんて物はつくっていない。あれはいったい、何だったんだ?」
それは驚きだった。この男が組み込んでいなかったのなら、いったい誰が―――…………。
いや、今はこう考えようじゃないか。
「……案外、誰でもないのかもな。もしかしたら、プレイヤーの封じられた《心》が集まって出来たのが、あの力だったんじゃないかな…………。俺に宿ったのは、たまたまだ。だって、《この世界に偽物など存在しない》、だろ?」
それは、このゲームのキャッチコピー。
虚を突かれた顔をした奴は一呼吸置いてこう言った。
「ゲームクリアおめでとう、アルタイル君。……AIボディには人間とまったく同じ機能が搭載されているが……子供をつくるのはもっと先に頼むよ」
そう言って奴の姿が消え、世界には三人だけとなった。
「アル………本当の名前、教えてくれない?」
「知りたいのです。貴方の、あの世界での名前を」
「俺は……星川鉄也だよ」
「ホシカワ……テツヤ……」
「いい名前ですね」
「…………改めまして」
「アリス・セーフティ・リードです」
二人は声を合わせ
「「これから末永く、よろしくお願いします」」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
世界が、完全に消えた。
「…………」
目が、覚めた。
二〇三二年・一月三日。
星川鉄也の意識が、二年ぶりに起きた。
一千倍に加速された世界の外で。
「鉄也……!」
「テツ……」
「兄さん!」
家族との再会。
そんな俺の心には、ただ一つの渇望が。
「あ、り……す……」
二年ぶりに動いた舌は、途切れ途切れに言葉を発した。
アリスに会いたい。
同刻。
黄金の髪に青い瞳のヒューマノイドボディが、動き出した。
「ア、……ル……」
初めて動いたその体は、確かにそう言った。
アルタイル・アリエルに、ホシカワテツヤに会いたい。
その想いが、AIの思考を埋め尽くした。
「い、かなくちゃ……」
「行くって何処に、兄さん!」
「安静にしてなくちゃダメでしょ」
「寝てるんだ!」
「あ、アリス…………」
壁に寄りかかり、一歩、一歩ずつ、進んでいく。
「待ってて下さい……アル…………今、行きますから……」
アリスも、その人工の身体を動かし、歩み始める。
数か月後。
「起きて下さい、アル」
「ぁあ……おはよう、アリス」
「急いでください、学校に遅れますよ」
そう言って、アリスは鉄也にキスする。
星川鉄也は、立ち上がる。
物語はここから始まる。
たとえそれが戦いの地獄でも、そこに生きる者たちは諦めない。
八十億人が諦めても、一人は必ず、未来に進む。
その小さな希望が、人と人を繋いでいく。
数多の世界は〝本物〟か〝偽物〟か。
剣を持った者たちは、彼らだけではなかった。
死んでいった者。冒険の先にいた者。
全ての世界に生きるすべての人々が、誰かの英雄なのだ。
これは、その一人の物語。
新世界への幻想は、この物語から始まった。
君は何を掴むか、それは君次第だ。
無限のルートを掴むのは現か、幻か。
この世界は、無限の希望で出来ていた。
(おわり)
ニューワールド・ファンタズム 神成幸之助 @X10AFREEDOM
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