悪役令嬢の子孫繁栄日記

九龍城砦

まずは追放から

「シャルロット・ディン・フォーゼ! 君との婚約を破棄させてもらう!」


 わたくしの目の前で、婚約者であるアルドリヒ王子が婚約破棄を宣言する。

 王侯貴族が集まる社交パーティーの場で、全員に聞こえるように叫ぶ。


「はぁ、そうですか」


 対するわたくしは、ハイそうですかと頷くだけ。

 いずれこうなると分かっていましたからね。

 アルドリヒ王子の隣におられる、黒髪の素朴な少女……チナツ様が現れた時から、この結果に至ることは必然だったのです。


「シャルロット様……」


 アルドリヒ王子の隣で、申し訳無さそうな視線を向けてくるチナツ様。


(はぁ、なんでそんなわざとらしい顔ができるのか……)


 この婚約破棄を仕組んだのは、他ならぬ貴女だと言うのに。

 崖から突き落としたり、毒を飲ませたり、婚約者の立場を狙って、散々わたくしを殺そうとしてきましたよね?

 それでも殺せなかったから、王子に取り入ってこうして婚約破棄を成立させたのでしょうけど……


(それやれるなら、最初からそうしてくれません? 崖から落とされたり、毒飲まされたりしたの、完全に無意味じゃないですか)


 まぁ、生まれつき身体が頑丈で助かりました。塔の最上階から落ちても、ドラゴンを殺す猛毒を飲んでも、まったく死にませんでしたし。

 いえ、たった今、社会的に抹殺される五秒前といったところですが。


「君には失望したよ、シャルロット! まさか君が、チナツの暗殺を目論んでいたなんてね!」


 アルドリヒ王子の告発に、会場が激しくざわつき始める。

 いえ、逆ですが。暗殺しようとしたの、むしろそっちですが。



「そんな……!? シャルロット様が、わたしを……!?」


 信じられないといった表情で、チナツ様はわたくしを見つめてきます。

 あの、だから逆なのですが。


「見ろ! コレが証拠だ!」


 懐から取り出されたのは、紫の液体が入った小瓶。見るからに禍々しい、最上級の毒物です。

 半分くらい減ってるのは、わたくしが半分盛られたからです。

 お陰で三日くらい下痢が止まりませんでした。


「コレこそが、シャルロットがチナツを暗殺しようとした何よりの証拠!」

「まさか……!」

「シャルロット様が……!」


 パーティー会場のどよめきは最高潮に達し、入口を守っていた憲兵がわたくしの腕を拘束します。

 後ろ手に組まされ、反撃はおろか、逃げることもできませんね。


「そういう訳だ、シャルロット……お前を辺境の地に追放する!」


 力強く、アルドリヒ王子は言い切りました。その影で、チナツ様が邪悪に嗤った気がしました。

 婚約破棄だけでなく、追放までされるとは……おさき真っ暗とはこの事ですか。


「連れて行け!」


 こうして、わたくしは良家の令嬢から一転、犯罪者の烙印を押されて辺境へ追放されてしまいました。

 ですが、悲観はしていません。


「あぁ……ようやくですか」


 今ここから、わたくしの物語は幕を開けるのですから。

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