第3話「裏切りの影」



剣太郎は隣国での刺客との戦いを経て、藩主大石景勝に報告するために藩へと戻っていた。襲撃を受けたこと、そして和平交渉が一筋縄ではいかないという現実が彼の胸に重くのしかかっていた。彼は一人山道を歩きながら、これまでの経緯を振り返っていた。


水野剣太郎(内心)

「織田直江は一見和平を受け入れているように見せていたが、刺客の存在がその裏に何かを隠していることを示している。藩内にも敵が潜んでいるのかもしれない…。私は何を信じればよいのだろうか?」


剣太郎は重い足取りで藩へ戻ったが、すぐに藩主への謁見を求め、報告のために大広間に案内された。大石景勝は静かに彼を迎え、剣太郎が隣国で遭遇した出来事に耳を傾けた。


大石景勝

「刺客に襲われたというのか…。和平交渉が表向きのものに過ぎない可能性は否定できぬな。」


藩主は深く眉をひそめ、静かに息を吐いた。その様子からも、この和平がどれほど不安定なものであるかがうかがえた。


水野剣太郎

「はい。しかし、隣国の大名織田直江は明確な敵意を表には出していません。彼の真意はまだつかめておりませんが、和平の道を諦めるわけにはいきません。」


剣太郎の声には強い決意が込められていたが、心の中には迷いがあった。藩主に忠誠を誓い、和平を望んでいる一方で、現実に直面するたびに、自分の信じる道が正しいのかどうかが揺らいでいた。


大石景勝

「お前の決意は評価する。しかし、この先は慎重に進める必要がある。藩内にも不穏な動きがあると聞いている。和平を望まぬ者が我々の中にいるかもしれぬ。」


藩主の言葉は剣太郎に新たな疑念を植え付けた。藩内にも裏切り者がいる可能性があるというのだ。

その晩、剣太郎は城内の廊下を歩いていた。彼の心は、隣国の刺客や藩内に潜む陰謀の影に囚われていた。藩主から聞いた「藩内の裏切り者」という言葉が頭から離れない。


水野剣太郎(内心)

「藩の中にも、戦を望む者がいる…。誰が敵で、誰が味方なのか?」


考え込む剣太郎の前に、突然現れたのは幼なじみの井上小次郎だった。小次郎は微かに笑みを浮かべていたが、その目にはいつもとは違う鋭さが感じられた。


井上小次郎

「剣太郎、何か思い詰めているようだな。隣国で何かあったのか?」


剣太郎は一瞬、小次郎に疑念を抱きそうになったが、それを振り払った。彼は何でも話せる信頼できる幼なじみであり、互いの信念を尊重し合う仲だった。


水野剣太郎

「隣国で刺客に襲われた。和平が本当に成立するかどうか…それが今、心に引っかかっている。」


剣太郎が正直に話すと、小次郎は無言で彼を見つめた。しばらく沈黙が続いたが、やがて小次郎は口を開いた。


井上小次郎

「剣太郎、お前は本当に和平を信じているのか?この乱世で、言葉だけで物事が解決すると思っているのか?」


その問いかけに、剣太郎は一瞬ためらった。小次郎の言葉には、疑問と戦への渇望が見え隠れしていた。


水野剣太郎

「俺は信じたい。戦で犠牲を出すよりも、言葉で解決できる道を模索するのが侍の務めだと。」


小次郎は少し顔を歪めて、苦笑した。


井上小次郎

「お前らしいな。だが、世の中はそんなに甘くない。戦を避けるためには、力を示す必要があるんだ。和平なんてものは、強者が弱者を支配するための口実に過ぎない。」


剣太郎はその言葉に衝撃を受けた。幼なじみであり、共に育った小次郎が、これほどまでに冷徹な現実主義者であったとは思ってもみなかった。


水野剣太郎

「小次郎、お前は…何を考えているんだ?」


小次郎は無言のまま、剣太郎をじっと見つめた。そして、ゆっくりとその場を立ち去った。剣太郎の胸には深い疑念と不安が渦巻き、誰を信じるべきか分からなくなりつつあった。

その夜、剣太郎は眠りにつけずにいた。藩内の裏切り者、そして幼なじみの小次郎との会話が頭をよぎる。彼は、誰が敵で、誰が味方なのかという疑念に苛まれ続けていた。


翌朝、剣太郎は決意を固め、藩内の裏切り者を探るために動き出した。和平交渉が進む一方で、藩内の陰謀が明るみに出るのは時間の問題だった。


剣太郎は一人、藩内の不穏な動きを探るために、暗闇に潜む敵に挑む覚悟を決めた。その先に待ち受ける真実を知らずに――。

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