第214話 排斥 サン

「いいかげんにしろお前ら」


 凶弾を無差別にばらまく侵略者の前に、壁代わりの大樹を展開。


「チッ………」


「来たな」


 その光景を目の当たりにした『白馬』の男たちは、まるで想定内とでも言いたげな反応を見せて一度銃を収める。


「なんだその武器は………」


 上空から綺麗に着地して見せるイルは、先ほどまで繰り広げられていた光景に嫌悪感を隠さないまま男たちに視線を向ける。


「いいだろこの武器。―――力のねぇ俺らでもこうやって魔族共を殺せるんだ」


「………」


 男たちにどんな理由があって魔族を襲っているのかイルには分からない。


 もしかしたら魔族に酷い目に合わされて復讐代わりに襲い、隷属させているのかもしれない。―――反対に、何の理由もなく魔族を襲っているのかもしれない。


 だが、イルにとってはそんなことはどうでもよかった。


「………たしかにその武器は脅威だ。どんな強者でも、一撃喰らえば重傷を負うだろうな」


 イルは大木の魔剣『ヤグルージュ』と水流の魔剣『アーヤル』を静かに構えた。


「だが関係ない。―――関係ない者達を巻き込んだ落とし前………つけさせてもらう」


 零下の眼差しで、絶対零度の怒りを見せるイル。


 そんな彼女の隣に、悪魔族デーモンに扮したヨミヤが到着する。


「俺も手を貸します」


 少年も剣を片手に、魔導書を魔法で浮遊させて男達へ相対する。


「バカが………」


 そんな二人に、先頭に立つ男は余裕の笑みを崩さないまま、静かに———ハッキリと告げた。



「エクセル様、お願いします」



 刹那―――いつ間にか遥か頭上に出来上がっていた雷雲から、穿


「なっ———」


「イルさ———」


 原初に世界に火をもたらした雷撃は、二人を貫いた。


「――――――」


「ァ———」


 全身の神経を直接焼かれる痛みが駆け巡る。


 次いで、焼かれた皮膚、内臓、全てが火傷の痛みを伝え、されども神経は極大の電流に麻痺させられて、まともに身体は動かないまま地面へひれ伏す。


「なんでも射程距離最大の『雷の魔法』だってよ。―――準備が手間だが、射程・威力共に優れている魔法らしい」


 右手で銃をもてあそびながら、先頭にいた男はヨミヤとイルの前へしゃがみ込んだ。


「安心しろよ。―――エクセル様はだ。今は俺らがお前らを連れてくるのを待っている」


 下卑た笑みでイルを見下ろす男は、やがてヨミヤへ視線を向ける。


「あぁ………………男の方は要らねぇんだったなぁ?」


 そういって無造作に突き付けられる銃口。


「や………め………………ろ………!」


 痺れでまともに呂律も回らないイルが、必死に声をあげるが、男が耳を貸すことはない。


「………」


 一方、ヨミヤは全身が麻痺していてまともに口を開くことすら出来ない。


—――クソ………こんなあっさり………何も………守れないまま………クソっ………クソ………!


 吐きたくても吐くことが出来ない悔恨を胸の内で繰り返し、歯を食いしばる。


「じゃあな」


 そして―――



「一応、ここ『魔族領』なんだよねぇ」



 次の瞬間、男の中心から


「ぁ………ぇ………?」


 否、正確には、男の背中から剣が貫通していた。


「ぅ………がぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 痛みの絶叫が木霊する。


「だからさ、は少しくらい想像しなきゃ」


 男を背後から串刺しにしたのは、病的に青白い肌に、こめかみから二本の角を生やした悪魔族デーモン


—――こ、コイツは………!?


 忘れもしない。


 ヨミヤに魔族の恐怖を思い知らせた男。


「んー………なんで居るのか分からないけど………」


 第一階級魔族アスタロト・ビジョンは、ヨミヤとイルを見下ろして———


「とりあえず害虫から殺してしまおうか」


 その隈のある目を『白馬』の男達に向けた。


「や、やべぇ………え、エクセル様!! お願いします!!」


 まさかの魔王軍の幹部登場に動揺を隠せない男たちは、慌ててエクセルへ援護を要請するが、


「………君たち、見捨てられたね」


 落雷魔法がいつまでも来ない事を察した男たちの顔面が、みるみるうちに青ざめていく。


「―――じゃっ、殺すから」


「く、クソォ………!! 撃てぇ!! 撃て撃て撃てェ!!!!」


 自棄を起こした男たちは、アスタロトへ向けて銃を乱射し始める。


「うーん………避けられないかぁ」


 今の立ち位置的に、ヨミヤとイルはアスタロトの後ろに居る。


 よって、アスタロトにとっては守るべき者が控えているため、困ったようにそう呟いたのだ。


 だが、


「しょうがない。―――かぁ」


 次の瞬間、アスタロトは迫る凶弾。―――その全てを剣で打ち落とした。


「………は?」


 意味不明な光景に、男たちは驚愕で動けないでいた。


「う~ん、ちゃんとたくさん剣を持ってきてたらもっと楽だったかな」


 アスタロトは自分の不手際を嘆くような言葉を漏らしたあと———かき消えた。


「じゃあ、まずは君から」


 否―――姿が眩むほどのスピードで移動したのだ。


「やっやめ———」


「ダメだよ」


 そして、一人の首を容赦なく落として見せる。


「はい二人目」


 続く二人目は、人間の反応速度を超越した速度で上半身と下半身を泣き別れにされて、自分が死んだことも知覚できぬまま絶命する。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!! これでも………くらぇぇェェ!!!」


 悪あがきのように、男は先ほど鬼頭族オーガの男性を跡形もなく消し去った大口径の銃をアスタロト目掛けてぶっ放す。


「………」


 アストロとはその弾に直撃し―――


「やっ、やった………?」


「ざーんねん」


 黒煙の中からアスタロトが現れる。


「なっ………ぁ………」


「俺以外の幹部なら殺せてかもね?」


 そうして、男の持っていた大口径の銃を———大砲のようなその銃身をバラバラに切り裂くと、アスタロトは背後から男の心臓に刃を突き立てて絶命させる。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 残り一人になった男は、あまりの恐怖に逃げ出すが———


「罪のない魔族を殺して———生きて帰れると思うなよ」


 大きく跳躍したアスタロトは、そのまま男に刃を突き立てた。


「グぇ———」


 潰れたカエルのような声をあげて、罪人たる『白馬』の男達は死に絡めとられた。

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