Odd Abyss Revengers
珠積 シオ
奈落の復讐者編
第1話 復讐のプロローグ
オレは、人間は孤独を作る生き物だと思う。
だって、最初は親の愛情だけで満足できていたはずのなのに。
母に褒められればうれしかったし、父に叱られれば死ぬほど悲しかったはずなのに。
成長すればするほど、『愛情』を求めて、『孤独』を感じてしまう。友達が居なければ寂しいし、恋人が居なければ悲しい。
でも、きっと―――『好き』という感情を………『愛情』を向けてくれる家族以外の『誰か』が居れば、人間の『孤独』を作る旅路も終わりを迎えると思う。
オレは―――千間ヨミヤは、そんな『孤独』を作る旅を終えたと思っていた。
そんな旅の先に、待ち受けるものがあるなんて知りもしなかったんだ。
※ ※ ※
「オラッ!! オラッ!!」
「グッ………うぅぅ………」
日本じゃないどこか。生憎、オレにはその程度のことしかわからない。視界に移るのは、見渡す限りの大渓谷と、その間にかかる大きな橋。
その中央でオレは、連れ―――仲間の
「なんで、テメェなんかが………
理由は、こいつの好きな女の子が、オレと付き合っているのが気に食わないらしい。
「ば、馬鹿かお前はッ………!!」
状況はそんなことをしている場合ではない。それだけは確かに理解していたオレは、蹴りつけられた足を無理やりつかんで、ヒカリを地面にひっくり返す。
オレは状況をひっくり返すように、立ち上がり、ヒカリを見下ろした。
「今はそんなことでケンカしてる場合じゃないだろ………っ!」
明らかに様子のおかしいヒカリに、それでもオレは必死に自分たちの現状を伝える。
「一秒でも早くアサヒ達のトコに帰んないと―――」
「うるっせェ!!」
「がっ………!?」
だが、必死の言葉もむなしく、ヒカリはオレの腹部に低い姿勢から蹴りを見舞う。
なんとか倒れるのだけは防ぐが、オレは激痛と衝撃で後方へのけぞる。
「どうでも………どうでもよくなんか………ねぇえだろうがァッ!!!!」
腹の底からの絶叫。憤怒の叫び。オレの言葉に激昂したヒカリ。
奴は、腰の長剣を引き抜き、空いた距離を埋めにかかる。
「マジかよ………………!!」
かつては同じ教室で勉強していた仲。交流こそなかったが、それでも、オレはヒカリのことを『いいやつ』だと思っていた。
「死ねェェェ
人間離れした速さで肉薄してきたヒカリは、これまた、肉眼では捉えることのできない速さで剣を振るう。
咄嗟に挙げてしまった右腕。銀の長剣は、人外の力で振るわれた鋭さで、あっけなくオレの腕を両断した。
赤熱したように激痛を伝える右腕。刹那―――
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
たまらず上げる激痛の絶叫。しかし、そんなオレに構うはずもなく、ヒカリはオレの頬に容赦なく拳を打ち付けた。
たったそれだけなのに、オレの体は面白いようにバウンドを繰り返し、橋の手すりに激突した。石造りの手すりがひび割れるのと同時に、オレは血の塊を口から吐き出す。
「あぁぁ………あああぁぁぁ………」
「前から目障りだったんだ………何もできない癖に、何も持ってない癖に、なんでお前がアイツの傍にいる!?
最早どこが痛いのかすらわからない。確実にわかるのは、本能が、濃厚な死のニオイをかぎ分けたということ。
なぜ、オレがこんな目に合わないといけない?
痛みに支配される脳内。その片隅でそんな疑問がわいた。
オレはただ一秒でも早く彼女に―――アサヒに会いたいだけだ。彼女に会って無事を確かめたい。ただそれだけなのに………
なんでこいつはこんな時に分けのわからない嫉妬を暴走させて、オレを殺そうとする?
なぜ、なぜ、なぜ、なんで、なぜ、なぜなんでなぜ―――
疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消え―――まるで水底からあふれ出す気泡のように浮かんで消えるを繰り返し………
やがて一つの感情が浮き上がった。
「死ねよ、千間………お前の代わりに、俺が真道を守ってやる」
「剣崎ィィィィィィィィィィィッ!!!!」
自分から出たとは思えない声が、大音響が、咆哮が、敵意が、殺意が溢れ、オレは感情が赴くまま、力を解き放った。
「死ねェッ!!!!」
俺が左手をかざすと現れるのは六つの
そのスピードは、剣崎の速さよりも、なお速い。
「ッ!!!?」
剣崎から、明らかに動揺の気配が立ち上がったと思った次の瞬間、ヤツの左の脇腹を熱線が貫いた。
「ガアァッ!?」
「誰が、誰を守るんだァ!? もう一回言ってみろッ!!?」
ヤツが悶えたスキに、オレは再び左手をかざす。
すると今度は、人間一人は簡単に飲み込めるような巨大な火球が現れる。
「オレの邪魔をするなら死ねッ!!」
オレは躊躇うことなく、当たれば必殺の火球を打ち出す。人間など、骨すら残らない大火力。
だが、それが当たる直前に、剣崎の姿が掻き消える。
「死ぬのはお前だ千間ァ!!!!」
次の瞬間、オレの心臓を狙った一突きが真横から現れる。そう、ヤツは超人的な身体能力を持ってオレの攻撃を回避して見せた。
「クッソっ………」
オレは奇跡的にその一撃を、身をよじることで、刃の刺さる位置を右肩に逸らすことができた。だが―――
「グウッ………!!」
気づけば、剣崎の掌がオレの首を捉え、ものすごい力でそのまま持ち上げられた。
「テメェ………なんだその力は………
「そ、ぞんなわけ―――」
剣崎は勝ちを確信したのか、オレの首を持ち上げたまま、オレへ言葉をぶつけ始める。
「そうやって、無能のフリをして見下すのは気持ちよかったか?」
その言葉の数々は、最早、オレの言葉を聞くつもりはないとばかりに次々と投げつけられる。
「だが、勝ったのは俺だ。お前は誰にも見つからず死ぬんだ」
下卑た笑みが浮かんだと思った次の瞬間、オレの首を絞める力が一層強くなる。
ここで、今、オレの首を折ろうとしている。だが、オレはそれでも笑って見せた。
「なにがおかしい………」
「み………や、げ………だ………ゴミ………や、ろ」
ここで、オレは握りこぶしの中に作っていた火球をそっと、剣崎の胸の前に浮かせた。
「は………ぜろッッ!!」
刹那、小さな火球からは考えられない爆発が起こり、オレと剣崎を炎が包み込んだ。
爆発に指向性を持たせていたオレは即死することはなかった。その代わり、オレの身体は、大渓谷を架ける大橋の外へ放り出された。
「ざまみろクソ野郎」
浮遊感が全身を支配し、オレは奈落の底へ落ちていった。
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