第9話 運命の転機



転移者たちと別れ、一人薄暗い部屋に閉じこもったサーゲイルは、懐より取り出した半透明の小さな玉に力を籠める。


玉は強く光を発し、光は徐々に人の形をとって収れんする。やがて、光は3Dホログラムのように、男の姿を空中に映し出した。金糸に彩られた深紅の豪奢なコートを身にまとい、鋭い眼光と、アンカースタイルの髭が特徴的な壮年の男だ。


「陛下、夜分にお呼びだてする無礼をお許しください。」

「よい。それより首尾を報告せよ」

「は、恐れ入ります。召喚に成功したのは7名、男が4名、女が3名にございます」

「・・・・予定より少ないな。魔術師を20名と、村を3つ潰して7名とはな」

「申し訳ございません・・・。ですが、7名のうちに女教皇(ハイプリエステス)を授かった者がございました。また、他にも大魔道(ウィザード)、聖騎士(パラディン)、白魔導士(ハイ・ヒーラー)と上級職を授かった者、魔弓士(メイジ・アーチャー)、魔剣士(ヘクスブレード)といった戦に長けた職を授かった者と、みな陛下のお役に立てるものばかりと存じます」

「女教皇を得たか・・・・。それは重畳である。しかし、一人足りんようだが」

「は、・・・・それについてですが・・・・」


サーゲイルは、陛下と呼んだ、映し出された男に対して言い淀んだ。


「申せ、サーゲイル・ロード」


男は、オールバックにしたブラウンの髪を撫でつけた後、威圧的にその先を促す。


「は、恐れながら・・・・。実は、4名の男うちの一人が、聖者(セイント)なる職を与えられております。聖者なる存在はこれまで記録されておりません。また。この男、どうやら我らの施した術が効いておらぬように見受けられます・・・・」

「なに、隷属の術が効いておらぬと。他の者はいかがしたか。」

「御心配には及びません。他の者はしっかりと我らが支配下に入っております」


サーゲイルの頭に一瞬、自分を拒絶した橘莉紗の姿がよぎったが、敢えて口に出さなかった。


「命令に従わぬようでは、使い物にならぬ」

「もちろんでございます。6名の転移者は王都に送り、改めて陛下のお役に立つべく調教を加える所存。そこで、残りの聖者の職を与えられし者ですが・・・・」


いったん言葉を切ってから、サーゲイルは男の表情を伺う。


「どうするつもりか。何か腹案でもあるのか」

「はい、ではその者は——」


サーゲイルの目が怪しい光を宿した。





■■■■■





翌日、惣治を除く6名の転移者は、王都に向かうことになった。惣治はこの神殿のような建物に一人残されることになったのだ。無論、サーゲイル・ロードの命令を受けた兵士たちによって強制されてのことだ。


惣治もかなり抵抗したが、なんの身を守る手段を持たない者が、武装した何人もの兵士に抗う術はなかった。他の6人の中で橘莉紗だけが惣治を庇い、一人だけここに残すことに強く反対した。しかし、


「あの者は、もう少しここでその能力について調べねばなりません。いかに橘様の願いでも、これは変えられません」


とサーゲイル・ロードに強く拒まれた上、他の転移者からもサーゲイルの指示に従うべきだとの発言が相次いだ。『判定の儀』以来、口をつぐんでいた金本までもが、


「俺も、この野郎は置いていくべきだと思うね」


と惣治を一人残すことに賛同する発言がでた。橘は、それでも何とか全員一緒にと粘ろうとしたが、この経緯を不安そうに見守る原野碧から、


「・・・・莉紗、もう、やめようよ」


と哀願されて引き下がらざるをえなくなった。



6人は用意された4頭引きの馬車2台に分乗し、一路、王都へと出発していった。



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