悪魔召喚の材料にされた俺は、魔神へと転生する

森林一樹

第1話 深い森の中をさまよう異形の影



薄暗い森の中を、一人の人影が進んでいく。




 森を形成する樹木は高く生い茂り、日光は僅かしか地面に届かない。そのため、下草の丈は短く、森を進む人影の歩みを妨げることはない。


人影が木々の間から漏れるわずかな木漏れ日に照らされる。


 それは特異な存在だった。外見からは、ハッキリと人間だと断定できない不可思議な特徴を持っている。


 背丈は180センチほどで全体に細く引き締まり、均整がとれている。だが、身にまとっているものは、うす汚れてズタズタに破れ、もはや衣服とは呼べない代物だ。それを抜きにすれば体つきから人間の男のようにも見える。


 しかし、特異なのは、その肌。身にまとうぼろ布からのぞく褐色の肌は、淡く黄金色に輝いている。さらにその卓絶した容貌。


背まで伸びた艶やかで長い白銀の髪が柔らかに揺れ、髪の間から覗く顔立ちは、女神を模った彫刻のごとく優美で繊細な造形をしている。


 淡く輝く肌とあわせ、およそ人間を超越した神々しさを放っている。


 その美しい容姿と、身にまとう薄汚れたぼろ布が、あまりにもアンバランスなのだ。


「くそっ、この森はどこまで続いているんだ」


 吐き捨てた独り言の声は、若い男のものだ。


「……なんで、なんでこうなった。なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ」


 薄暗い森をさまよい歩きながら、この奇妙な男のやるせない独白が続く。

これまで、この森の中を何時間さまよい歩いたのか分からない。


 だが、不思議と体は疲れを感じずにいた。体の疲れはないが、……しかし、喉が渇く。

森の出口と、水を求めて男は木々を縫うようにして更にさまよい歩き続けた。





 それからしばらくして、男は、運よく森を横切る小川を見つけた。


———あった! 川だ。 よしっ、これで森を抜けられる。


 川の流れを下流に向かって辿れば、必ず森を抜けられるはずだと考えたからだ。

木々の切れ間からようやくまとまった日の光が差した。


 すでに日は傾き、夕暮れが近づきつつあることがわかる。ともかく、これで少しだけ希望が湧いた。


 喉を潤すため、川の水に顔を近づけた時、男は体を強張らせた。


「嘘だろ、これが俺の顔……。こんなの……」


 男は、川を覗き込ながら、喉の渇きも忘れ、暫し茫然自失となる。自分の肉体の変化にはとうに気が付いていたが、容貌の変化には気づかずに、ここまで進んできたのだ。


 その後、のどの渇きを思い出し、浴びるほど川の水を飲んで一息つくと、男は夕暮れの空を見つめながら、これまでのことを思い出していた。


——どうしてこうなったんだ……。



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