第4話 選択の扉
レコード店を出て、自宅に戻ると、やはり現実世界は何事もなかったかのように続いていた。父はまだ仕事から帰っておらず、家の中は静まり返っている。俺は部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした。
「一体、どうなってるんだ…」
あの男の言う「選ばれた」という言葉が頭の中でぐるぐると回る。選ばれて過去の記憶に触れ、母の若い頃の姿を見た。それだけでなく、彼女が何かを探しているような雰囲気だった。それが何なのかはまだ分からないが、俺には知るべきことがあるのだろう。
だが、その「代償」とは一体何なのか? それを考えると、胸の奥がざわついた。
「もう一度、レコードをかけてみるか…?」
俺は部屋の隅にあるレコードプレーヤーに目を向けた。レコードはそこに置かれている。もう一度あの音楽を聴けば、さらに過去に触れることができるかもしれない。だが、それは同時に危険を伴うことも意味していた。
逡巡していると、突然電話のベルが鳴り響いた。父からだ。
「晴か? 今夜は少し遅くなる。夕食は何か適当に済ませてくれ。」
いつもの父の声。特に変わった様子もなく、日常が続いている。俺は電話を切り、再びレコードに目を向けた。
「もう、進むしかないんだろうな…」
意を決して、俺は再びレコードをプレーヤーにセットし、針を落とした。音楽が流れ出し、ゆっくりと意識が遠のいていく。また、あの世界へ――。
気がつくと、俺は再びあの町「松葉町」に戻っていた。だが、今回は前回とは少し様子が違っていた。町はどこか陰りを帯び、人々もいつもの活気を失っているように見える。
「どうなってるんだ…?」
俺は町を歩き回り、様子を探ろうとした。すると、先ほど会った男が再び現れた。
「戻ってきたか。前回とは少し状況が違っているようだな。」
男は淡々と言いながら、俺に近づいてきた。
「この町は、お前が選択することで変わる。未来のために何を選ぶか、それがこの場所に直接影響を与えるんだ。」
「俺の選択が…町に影響する?」
俺は信じられない気持ちで男を見つめた。だが、彼の表情は真剣だ。
「そうだ。お前の選択によって、母親の過去も、そしてこの町の運命も変わる。そして、その選択には必ず代償が伴う。」
「代償って一体何なんだよ! 何かを選ぶたびに、俺は何を失うんだ?」
俺は感情を抑えきれずに男に問い詰めた。だが、彼は静かに首を振るだけだった。
「それはまだお前が知るべき時ではない。だが、覚悟を持って進め。選択を避けることはできないのだから。」
その言葉を聞いた瞬間、突然、周囲の景色が一変した。目の前には、また別の光景が広がっていた。
俺は今度は、広い野原に立っていた。遠くに、何か建物のようなものが見える。それは、一軒の古びた家だった。俺は何かに導かれるようにその家に向かって歩き出した。
家の中に入ると、そこには誰もいなかった。だが、机の上に一枚の紙が置かれているのを見つけた。近づいてその紙を手に取ると、それは手書きの楽譜だった。そこには、母の名前が書かれていた。
「この楽譜…母さんが書いたものなのか?」
俺はその楽譜をじっと見つめた。何の曲なのかはわからないが、母が書いたものだということは間違いなさそうだ。そして、その下には短いメッセージが書かれていた。
「このメロディは、すべての始まりであり、すべての終わり。選びなさい、晴――」
「選びなさい、って…」
俺はその言葉に戸惑った。何を選べばいいのか、まだ何もわからない。だが、母がこのメロディに何かを託していたことは確かだ。
突然、背後から足音が聞こえた。振り返ると、そこにはまたしてもあの男が立っていた。
「どうやら、次の手がかりを見つけたようだな。」
「この楽譜…母が書いたものなんだろうか? これに何か意味があるのか?」
俺は男に問い詰めたが、彼は静かに頷くだけだった。
「そのメロディが、お前の運命を決めることになる。だが、全てを知るためには、さらに深く過去に遡らなければならない。」
「もっと…過去に?」
男は静かに近づいてきて、俺の肩に手を置いた。
「そうだ。お前が真実を知り、選択をするためには、さらに大きな代償を払うことになるだろう。だが、その覚悟があるなら、進め。進むことでしか、運命を変えることはできない。」
俺はその言葉を聞きながら、再びレコードに目を向けた。そこに刻まれたメロディが、俺をさらに深い過去へと導いていく――。
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