第2話 昔の街と不思議な出会い



「ここは…一体どこなんだ?」


目の前に広がる光景を眺めながら、俺はひたすら混乱していた。学校からの帰り道、あの古びたレコード店に立ち寄り、受け取ったレコードを再生した瞬間に、こんな場所に来てしまうなんて。信じられないが、目の前の光景は紛れもなく現実のものだ。


「どうして…」


目に映るのは、古い町並み。まるで時代劇に出てくるような江戸時代のような風景だ。着物を着た人々が行き交い、商店や屋台がずらりと並んでいる。その賑やかさと、俺が知っている現代とは全く違う光景に、思わず呆然としてしまう。


そして、先ほど声をかけてきた和装の男は、俺を訝しげに見つめながらじっと立っていた。どうやら、この時代の人にとって俺の存在はかなり異様らしい。まあ、当然だろう。俺は現代の服装のまま、この場所に放り込まれたんだから。


「おい、何をぼんやりしている? 迷ったのか? それとも何か目的があってこの町に来たのか?」


その男の声に、俺は我に返る。とりあえず、今は混乱していることを隠さなければならない。下手なことを言えば、余計な疑いを招くかもしれないし、ここでパニックになっても仕方ない。


「えっと、ちょっと迷ってしまって…この町は、初めて来るもので。」


嘘ではない。実際に俺はこの場所を知らないし、どうやってここに来たのかもわからない。男は少し眉をひそめたが、俺の言葉を信じたのか、安心した様子で息をついた。


「なるほど、それなら仕方ないな。この辺りは入り組んでいて、よく迷子が出る。ついてこい、案内してやる。」


男は俺にそう言って、歩き出した。何も知らない俺は、その後をついていくしかなかった。


しばらく歩いていると、俺たちは小さな茶屋にたどり着いた。茶屋の店先には、湯気を立てる湯のみが並び、人々が談笑しながら座っている。男は俺を案内すると、そのまま茶屋の中に入った。


「お前も中で休んでいけ。ここで少し一息ついてから、どこに行くか決めるといい。」


男は優しく微笑み、俺に座るよう促した。俺は彼の言葉に従い、静かに席に着いた。茶屋の中は落ち着いた雰囲気で、まるで違う世界に迷い込んだような感覚に包まれる。


「なあ、お前、どうしてこんなところに来たんだ? この町のことは全く知らないんだろう?」


突然、男が尋ねてきた。俺は一瞬言葉に詰まる。正直に「レコードを再生したらタイムスリップしたんだ」なんて話しても信じてもらえるわけがない。だが、なんとか誤魔化さなければならない。


「実は…その、ちょっとした事情があって、旅をしているんです。母が昔、こういう場所で暮らしていたと聞いて、それで訪れてみたんですが、予想以上に広くて迷ってしまいました。」


半分は本当だ。母が生きていた頃、家ではよく昔の音楽や、古い街並みの話をしていたことがあった。だから、この時代の町に迷い込んだのも、何か母に関係があるんじゃないかと考えてしまう。


「そうか…母親の思い出か。それは良い旅だな。」


男は少し感慨深げに頷き、俺に湯のみを差し出した。


「さあ、飲むといい。温まるぞ。」


俺はお礼を言い、湯のみを受け取った。口に運ぶと、じんわりと体が温かくなっていく。なんだか懐かしい味がする、そんな気がした。


その後も男は俺にいろいろと町のことを教えてくれた。この町は「松葉町」という名で、商人や職人たちが集まり、活気に満ちているらしい。俺はひたすら彼の話を聞きながら、自分がなぜここに来たのかを考え続けていた。


「それにしても、どこかお前には見覚えがあるような気がするんだが…」


男がぽつりと漏らした言葉に、俺は驚いた。見覚えがある? 俺がこの町に来たのは初めてのはずだ。俺は男の顔をじっと見つめるが、彼に見覚えはなかった。


「もしかして、お前の母親…いや、すまん。気のせいだろうな。」


男は首を振り、すぐにその話題を打ち切った。だが、俺の中には一つの疑念が残った。母のことを話したとき、男は何かを知っているような反応を見せた。もしかして、この町と母には何か関係があるのか?


その答えを知るには、もっとこの町を探索する必要がありそうだ。俺は決心した。せっかくタイムスリップしてしまったのだから、ただ戸惑っているだけではなく、この町で何が起こっているのかを突き止めようと。


その日の夕方、男と別れた俺は、一人で町を歩き回っていた。商店街を見て回りながら、母の話にあった「特別な場所」を探すつもりだった。母が生前に話していたのは、どこかで聴いた懐かしいメロディと、ある街での記憶。もしかすると、この場所で何か手がかりが見つかるかもしれない。


そして、その瞬間、あるものが目に飛び込んできた。小さな店先に、見覚えのあるものがあったのだ。


それは、レコードだった。


「どうして…こんな時代に?」


俺はその店に足を踏み入れた。そこは、先ほどのレコード店とは全く異なるが、何か引き寄せられるような不思議な空間だった。レコードが並ぶ棚の前で、店主がこちらに向かって微笑んでいる。


「探していたものが見つかったかい?」


店主の問いかけに、俺は戸惑いながらも頷いた。だが、次の瞬間、背後から誰かが近づいてきた気配を感じた。


「ようやく来たな。お前の旅は、まだ始まったばかりだぞ。」


振り返ると、そこにはあの男が立っていた。


こうして、晴のタイムスリップ先での冒険はさらに深まっていく。母の過去に繋がる謎と、レコードに隠された秘密。晴は、この旅がただの偶然ではないことに気づき始めるのだった。

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