第30話 さあ~お風呂回ですわ~~♡

 第一軍団との死闘から一夜が明けた。


 ベッドから降りると……なんか体が痛い。

 うん、これ筋肉痛だわ。


 今回はそこまで打撃を受けたわけではないが、魔力を今までで一番使った。

 なにせ戦車一個大隊を召喚したうえに、縦横無尽に暴れ回ったのだ。


 おっさんの体を限界まで酷使してしまった。


 今日は休日である。



 ということで―――おっさん、今日はダラダラします!



 人間休みを取らないといけない。これは絶対だ。

 身体を休めるという意味もあるが、心も休めないといけない。


 会社でも同じだ。


 たまに中途採用の新人さんがやる気ギンギンで、入社から飛ばしすぎて半年で辞めるのをよく見たからな。

 ここは大人だからちゃんと調整せんといかんのだ。頑張るのは微笑ましいが、さじ加減を間違ったらダメである。



 だから―――おっさん、ダラダラしまくります!!



 脳内で、今日2回目のダラダラ宣言を掲げた俺は、再度ベッドにダイブしようとした。が……なんとドアがコンコンとノックされるではないか。


「ショウタさま~~♪」


 ルーナだ。


 俺の給料出してくれる人。


 やだ、うちの上司たら休日も連絡とってきちゃうじゃないの。


 そういうの、いけないと思うな。


 そんな俺の思いに関係なく、ドアが開け放たれてルンルンステップで入ってきた美少女お姫様。


「さあ~~ショウタさま~~行きますわよ~~!」

「え?行くって?どこへ?」

「精霊温泉ですわぁあ♪」


 なにそれ?


「最近王都に出来たお店ですの」

「すっごい流行っているらしいですよ、ショウタさん。楽しみですぅ!」

「あんた、とりあえず寝癖をなおしなさいよ」


 シオリちゃんとリンカも行くらしい。

 そして後ろには、無理やり連れて来られた感満載のハヤト君もいた。

 なるほど、君も休日出勤というわけだ。



「さあさあ~~予言書(ラノベ)の温泉回ですわ~~♪」



 なるほど、ということは俺にラッキースケベが起こるのか?


 いや、そんなことよりダラダラしたかった気もするが。


 ――――――温泉か。


 ちょっと楽しそうだ。




 ◇◇◇




 俺たちは王都繁華街から少し離れた場所にある「精霊の湯」なる温泉施設についた。


「けっこうデカい建物だな。にしても他のお客さんはいないのかな」

「今日は午前中のみ貸し切りにしてもらいましたわ~~♪」


 マジかよ……さすが王女。

 まあ、そもそも王女が一般客と一緒に風呂は入らんか。


「はい、そもそも当店午前中は営業しておりませんし、なにより王女様と勇者さまたちが入ったとなれば、さらに当店の人気が上がる事間違いなしですから」


 受付の女性がにっこり笑顔で教えてくれた。


 なるほど、まあ宣伝効果は抜群だろうな。

 この温泉だが、魔王軍との戦闘が激化する中で、疲弊の色が出始めた国民たちの癒しの場になっているらしい。そこへ勇者が利用したとなれば、なおさら人気が出そうだ。


 にしてもこんな王都に温泉とは?


「これ、お湯はどうなってんですか?地面を掘ったのかな?」

「当店のお湯は、湯の精霊石によって施設内の水を精霊湯に変えております」


 なるほど、良く分からんがさすが異世界。いかにもそれっぽい仕組みだ。


「ちなみに精霊湯ってなんですか?」


「はい、当店の使用している精霊石は癒しの精霊です。なので、一般的な温泉よりも魔力回復、治癒効能、疲労回復効果が非常に高いです。あとは、若返り&美容効能も多少あります」



「「―――若返り美容!?」」



 シオリちゃんとリンカが反応する。

 いや、君たちは十分に若いから不要だろうに。でもちょくちょく肌の手入れがどうのとか言ってたな。やはり異世界だと色々勝手が違うんだろうか。


「それから、当店はマッサージ設備も備えております」


 店員さんが手をポンっと叩くと、後方にあったカーテンが開いた。


「「うぉおお……」」


 今度は俺とハヤト君男性陣から声が漏れた。


 ほのかにアロマの香りが漂ってきたと思えば、スタイル抜群で艶やかな笑顔を浮かべた数人の女性たちが並んで立っている。彼女たちは深い切れ込みの入ったチャイナドレスのような服をまとい、客を迎える準備を整えていた。



 ―――なんだこれは!?



 もうヤバイんすよ。色気が凝縮されすぎて頭がパーになりそうですわ。



「ふふ、殿方には温泉よりこちらの方がよろしいでしょうか。マッサージを受けられますか?」



「う、うけ……」



 回答する前に俺の両耳が引っ張られて、グーっと伸びた。


 痛いっ!


「私達は今日、温泉にきたんですよね!ショウタさん!」

「そうよ!寄り道しないでさっさと行くわよ、ショウタ!」


 シオリちゃんとリンカが、とんでもない形相で俺の顔に肉薄する。

 怖いっ!視線が怖すぎる!!


「あ、はい!お、温泉行きます!行くです!行くから引っ張らないで!」


 この子達、勇者パワーで引っ張ってんじゃなかろうか……耳がちぎれる!!



 そしてなんだかんだとひと悶着あったあと、俺とハヤト君は男湯にどっぷりとつかっていた。


「ふあぁ……気持ちいい」

「ですね。ショウタさん」


 なんというのだろうか、身体の芯からジワリと温まってきて代謝が促進されていくような。

 まあ、そもそも日本でも温泉になんかほとんど行ったことなかったけど。


 とにかく、気持ちいいの一言だ。


「わぁ~~ルーナさま~このお湯凄いですよ~」

「あらあら、そうですわね。王城のお風呂も精霊石を設置しましょうかしら」


 向こう側から女子たちの声が聞こえてくる。


 ちなみにお風呂回特有の男風呂と思われていた湯に美少女たちが入って来るという、いわゆるラッキースケベは発生しなかった。


 いや、普通発生しないよな、そりゃあ。


 変な事は考えずに、今は純粋にお風呂を楽しもう。


 しばしぼーっと水面を見つめていると……


 あれ?


「なあ……ハヤト君」

「ええ……ショウタさん、あれって」


 なんかいるんですけど……


〈うそっ!あたいが見えるの!?〉


 青色の髪に、青い目。体はなんだか透き通っているというか透けてるというか。

 そして……草のビキニ。


 ひ、人じゃなさそうだな……


「え~っと……」


〈ねえ!本当に見えてるんだ!〉


「いや……だからですね」


〈すごいすごい!久しぶりぃ!あたいは水の精霊なの~~〉


 うん、わかった。だけどな……



「「――――――ここ男湯なんすよ!!」」



 精霊という彼女に性別があるのかは知らんけど。見た目が完全に女性だから。

 俺とハヤト君は一致団結して訴えた。


〈そっかそっか~~見えるんだぁ~~んん?あんたたちこの世界の人間じゃないわね?だから見えるのかな~~〉


 いや、まったく人の話を聞かないぞこの子。

 男湯なんだよ、ここ! 草のあやういビキニで色々見えそうなんですけど!


〈この湯につかるってことは若返りが目的なの?〉


「い、いや。べつにそう言うわけじゃ……」


〈じゃあさ、じゃあさ!もっと若返らせてあげる~~だからあたいの願いを聞いてよ~~〉


「ちょっと、落ち着け。まずは湯から出てくれ、話はそれか……へぁ!!」


 あれ? なんかまわりの視界が見えなくなって……うお、溺れる。と思ったら精霊にすくいあげられたようだ。

 向かいに見えるハヤト君は、なんか固まっている。


〈どう~~凄いでしょ~~あたいの本気力~~〉



「ばぶ~~」



 え? 俺何言ってんの?


「ばぶ(ハヤト君!)あばぶうぅ(俺どうなってんの?)」


 固まっていたハヤト君が口を開き始める。



「―――しょ、ショウタさんが赤ちゃんになったぁあああああ!!!」



 ハヤト君の叫びが温泉中に響いた。


 マジかよ……この中盤で赤ちゃんスタートとか、どうすんだよこれ。





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