第23話 まあ!筒に車輪がついてますわ~~! はい、T34中戦車です

「まあまあまあ!なんですのっ!それ!!」

「ふぁあああ、しょ、ショウタさん!それって!?」


 女子2人が驚きの声をあげる。


 俺が召喚したのは鋼の猛獣。T34/76中型戦車だ。


 これプラモで作ったことがある。その特徴ともいえる前面の傾斜装甲に、根元が独特の76.2ミリ戦車砲。


「前に召喚した鉄の筒に似てますわぁ~~でも今回のは車輪がたくさんですわ~~もしかして~もしかして~~~動くんですの~?」


 もうお姫様の興奮ぶりが半端ない。


 でもちょっとかわいいので、少しだけ前進させてみた。


「まあ~~~キュラキュラと動きましたわぁ~~引く馬もいないのに動いてますわぁああ~~」


 想像通りに驚いてくれるお姫様。なんかおっさんも嬉しい。


 シオリちゃんはこれを戦車と認識しているが、ルーナはこちらの世界の住人だ。こんな鉄の塊が動き出すだけでも驚嘆するのは当たり前だ。


 と、おふざけはここまでにしてと。


 俺は魔族グリアーチとケルベロスに視線を向ける。

 グリアーチは突如として現れたT34(戦車)に警戒してか、先ほどまでのゲスな笑みは消えていた。



「な、なんじゃその動く鉄の箱は……ゴーレムか?鉄の精霊か?

 じゃが所詮はおっさんが召喚したもの! ケルベロス!食いちぎれぇええ!」



〖――――――グルァアアアア!〗



 ケルベロスが3つの頭を揺らしながら、全速力でこちらへ突っ込んでくる。



 3つの頭が一斉にガブリとT34に嚙みついたが―――


〖ギャワンッッ~~~!!〗

〖あぎゃっう!〗

〖硬ってぇ……!?〗 



 そりゃそうだろ……鋼鉄だぞ。


 想像以上に硬かったのか、少し怯んで後ずさるケルベロス。



「―――よし、機銃掃射だ!」


了解! 機関銃、射撃ぃ―――はじめ!!イェースチ! プーレミョート、アゴン!



 副兵装である7.62ミリDT機関銃が、ダダダダと強烈な音を鳴らしながら火をふく。


〖ギャワワワ~~!!〗

〖ふぎゃっ!!〗

〖痛いぃいい……!?〗


「な、なんじゃぁ!この魔法はぁああ!」


 魔法じゃなくて機関銃の発砲なんだが、まあ細かい事はいい。

 ケルベロスは素早く右へ左へと避けていたが、所詮は獣の速度。機銃掃射の連弾をかわし切れるはずもなく、数か所に命中してその動きを鈍らせていく。


〖グウェ……なんだこの鉄ぅ〗

〖これでも食らえぇ!〗


〖――――――グルァアアアア!〗


 衝撃波か!


 俺たちはT34(戦車)の背後に回る。

 ケルベロスの放つ衝撃波がT34に直撃して激しい衝撃が走る。だが、分厚い装甲がすべてを受け止め、揺るぎない姿勢を保った鋼鉄の猛獣は何事もなかったかのように前を向いていた。


「さすが戦車。犬の咆哮ぐらいではビクともしないな」

「まあまあ~これ凄いですわね~~♪硬くて頼もしいですわ~~♪」

「ふわぁ……やっぱりショウタさん凄い」


 ケルベロスは機銃掃射がこたえたのか、距離を取って近づこうとしない。

 そして時折、衝撃波を放ってくる。


 すっかりビビってしまったようだ。


 さて、ではお待ちかねの……


「主砲をぶち込むぞ!」


了解! 砲塔旋回!―――戦車砲用意!!イェースチ! バシニャパヴァローチ! タンクーヴァヤ プーシュカ ゴトーフ!


 T34の砲塔がゆっくりと旋回、ケルベルスに標準を合わせる。


『マスター、戦車砲の発射準備完了デス』


「よし! ぶっ放せぇ!!」



戦車砲!――――――発射っ!!タンクーヴァヤ プーシュカ! アゴン!



 発射の号令と共に、戦車砲が轟音を立てて火を噴いた。

 ケルベロスの正面で爆音が響き、直後爆炎に包まれる。


〖ヒギャアアアア~~!!〗

〖グハァアア~~!!〗


 ケルベロスの頭のひとつが完全に吹き飛んでいる。

 正面から76.2ミリ砲を喰らったようだ。


「ぬぎぃいい……なんじゃあれは? 珍妙な魔道具を使いおって……」


 魔族グリアーチが歯ぎしりする。


 よし、俺の召喚兵器は十分通用するぞ。

 このまま一気に畳み込もうと号令をかけようとした時だった―――



 ギギギギギ……



「……なんの音ですの?」

「る、ルーナさま!ショウタさん!あれ!!」


【地獄の門】が……さらに開いている?

 ケルベロスが出て来た時よりもさらに門が開き、中から複数の影が現れる。


「ギヒギヒようやくじゃなぁ」


 先刻からの焦りの表情から一転、口元を歪めてニヤリと笑う魔族グリアーチ。


「なんか出て来たぞ……あれは」

「ショウタさま、オークですわ」


 オーク、大型の人型魔物。手には大きなこん棒を持っている。

 そんなやつが、何十体と門から出て来た。


 そして、一体の魔族がオーク20体ほどを引き連れてグリアーチの前に整列する。


「グリアーチ将軍、第一軍団先発隊到着しました。さらに後続隊も順次【地獄の門】を通過予定」

「ギヒギヒ、副官か。まったく待たせよって。まあいい、先発隊は即時王城へ進軍するのじゃ。後続もそのまま続かせろ!」


「はっ!道中の人間どもはいかがいたしましょう?」

「ギヒヒヒ、皆殺しじゃ。捕虜はいらん、王城のやつらもな。この戦いで王国にわからせてやるのじゃ、我らの恐ろしさを!行け! おっと、そこのオーク20体は置いてくのじゃ」


「はっ!仰せのままに~! 先発隊~移動するぞ! 皆殺し~皆殺し~ムヒムヒ」


 副官と言われていた魔族が、門から続々と出てくる魔物たちを率いて王城の方へと姿を消していく。


 おいおい、とんでもない話を進めているぞ。


「ショウタさま、これは一大事ですわ」

「そうだな、アンナさん……無事に王城に着いて報告してくれているといいけど」

「いずれにせよ、王城の兵が準備するにはまだ時間がかかりますわ」


 ルーナの言う通りだ。

 兵がすぐに動けるとは思えないし、そもそもアンナさんの報告だって、すぐに王様に伝わるとは限らない。その頃には第一軍団が王城に攻め込んでいるかもしれないし。


「できれば俺たちで少しでも足止めして、時間稼ぎが出来ればいいんだが……」


 だがそうはさせまいと、俺たちの前には魔族グリアーチ将軍とケルベロス、さらにオーク20体が襲い掛かってきた。


 T34(戦車)やシオリちゃんの攻撃魔法でオーク数体を撃破するが、敵の攻撃も熾烈を極めた。

 一進一退の攻防だ。


「ギヒギヒ~~【結界】の内側から大軍が現れては、さしもの王国もひとたまりもないて。きゃつらの精兵も国境線上に配置されておるしのぅ~~ギヒヒ」



 そして瞬く間に、王都郊外の各所に火が上がる。

 おそらくは第一軍団の進軍とともに、周辺の民家が蹂躙されているのだろう。


「火が……しょ、ショウタさん……」


 シオリちゃんの手から緑色の光が漏れる。

 彼女は癒しの勇者だ。どちらかといえば、回復や支援に特化した能力をもつ。


「わ、私。いつも思ってたんです。なんでこんな力をもらったんだろうって。せ、戦争は嫌だけど、人が傷つくのはもっと嫌で……それを少しでも救えるなら……

 そ、それに少しの間なら簡易の【結界】を張れます! だから……」


 元々戦闘には向いていない性格。それよりは救う為に力を発揮したいんだろう。

 それに……いつものおっとりした目ではない。なんか覚悟を決めた目をしている。


「わかった、シオリちゃん。ここは俺たちに任せろ。君は現場に行って、【結界】の展開と負傷者の手当をしてくれ。ただし無茶はしちゃダメだ!」


「ふぁ……ふぁい! ショウタさん! あうぅ……」


 肝心なところで噛むのも彼女らしい。


 T34の機銃掃射で敵の動きを止めている隙に、彼女は現場に向かって走って行く。

 かなりのスピードだ。さすが勇者、基本スペックが違うぜ。


「ンフフ~~♪」

「どうしたんだルーナ?やけにニヤニヤしているけど」

「いえ、ショウタさまが主人公らしく場を仕切るお姿~~素敵ですわ♪」


 俺が主人公か……


「ギヒギヒ~~いまさら小娘勇者が1人行ったところで、どうにもならんわ~~もはや勝負ありじゃ!」


 魔族グリアーチが下卑た笑いを漏らす。


「ギヒ~~お主の奥の手には少し焦ったが、わしの方が上手じゃわい。さあ奥の手を使い切ったおっさんと姫には~~ここで惨たらしく死んでもらおうかのぅ~ギヒギヒ」


 ちょっとまてよ。


 奥の手を使い切っただと?


「さて、ルーナ。こっちもさっさと片付けて、シオリちゃんに合流するぞ。魔族ガルマの魔石はあるよな?」

「ええ~~もちろんですわ~~♪」


 ルーナがその大きな膨らみをブルンと揺らす。


 俺はルーナの膨らみ(マッジクポーチ)から取り出された魔石を砕いた。粒子が俺の体に吸い込まれていく。

 すげぇな、これが魔族の魔石か……いままで感じたことのない魔力量だ。


 さあ、試してみるか。


「どうした~~鉄の箱もたった1つではどうにもならんわい~~ギヒギヒ~」


 グリアーチはさらに20体のオークを追加して、数で圧殺しようと迫って来た。



「おい、誰が召喚は終了したと言ったんだ?

 ―――――――――【三流召喚魔法】!!」



 当たり一面に、召喚の魔法陣が大量に出現する。


 そう、俺の召喚魔法はまだ――――――召喚中なんだよ!






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