第17話 おっさん、癒しの勇者(シオリ)に獄炎を要求する

 ダンジョン探索から1週間がたった。


 俺は訓練用ゴーレム覚醒君との朝練から、とにかく魔力がつきるまで召喚しまくるといういつものルーティンを終える。


 まあ剣の素振りみたいなものだ。

 俺にとっては剣が【三流召喚魔法】ってことになる。


 それにしても随分と魔力量は増えて来た気がする。

 ダンジョンでの戦闘も無駄ではなかった。


 今日はたわしがいっぱい出たので、ついでにピッチングマシーンの腕も磨くことにした。

 これはこれで案外難しい。



 たわしを撃ちまくっていると騎士が数人、訓練場に出て来た。


 たまに見る人たちだ。名前は知らんけど、シオリちゃんたち勇者の訓練でよく見る人だ。ここで訓練をやるのだろうか。ならば俺は隅に移動しようかなと思っていると。


「あのう……さっきから何をやっているのですか?」


 騎士の1人が声をかけてきた。


「たわしを撃つ訓練ですよ」


「た、たわし……ですか?」


 この人、言葉は丁寧だが少し呆れた顔をしているな。

 初日にあった魔族来襲の現場にいなかった騎士は沢山いるし、普段の俺は基本的にたわしやパンツばかり召喚している。だから、姫に連れていかれた変なおっさんというイメージを持っている人は、ある程度いるのだろう。


「その……たわしで魔物を倒せるのでしょうか?」

「まあ致命傷は無理かもですが、足止め程度にはなりますよ」


「おいおい、なにそんなおっさんと話してるんだ!」


 別の騎士さんも来て、ちょっとメンドクサクなってきた。

 興味本位というよりは、少し蔑んだ目でニヤついている。まあ、たわし飛ばしているおっさんを少しからかいたかっただけだろう。


 場所を移動しようと、ピッチングマシーンを運ぼうとしたが、後から来た騎士の次の一言で気が変わった。


「たく……たわしがなんの役に立つってんだ」


「体験してみます?」


 俺はその威力を実際に味わってもらう事にした。

 立派な鎧を着こんでいるので、ケガはしないだろう。が、念のために球速は少し落とす。


「じゃ、いきま~す」


 ――――――ビシュ!!


「―――ふぉ!!」

「あ痛ぁあ! けっこう痛い! 想像以上にくる!」


「もっといきますか?」


「「い、いえ。もう結構です!」」


 騎士さんたちは退散していった。

 お二人さん。たわしをバカにしゃいけないよ。


 まあこれ以上やる気は無かったけどね。

 王国はここ2年の魔王軍との戦いで、多くの人材を失っているとルーナが言っていた。


 だから、騎士も全体的に質が低下しているのだそうだ。


 なんとか現状を打破しようと行われたのが、勇者召喚なんだろう。



「ショウタさ~~ん」


 お、その勇者の登場か。

 シオリちゃんがトテトテと走って来た。


「んぎゅ……っ!」


 そしてコケる。


「今日はここで訓練なのかな?」

「はい、魔法の訓練なんです!」


 元気と溢れんばかりの笑顔が眩しい。

 そしてコケたことを無かったことにするのは、もはや日常シーンと化していた。


 しかし、彼女たちも1カ月以上訓練を積んでいるんだな。

 おそらく大規模な魔族の侵攻が始まれば、前線にも出るのだろう。


「ショウタさんも一緒にやりましょう!」


「お誘いはありがたいけど、遠慮しておくよ」


 実は俺は自身のスキルである【三流召喚魔法】以外の魔法は使えない。


 色々と試したがダメだった。


 俺の言葉を聞き、明らかにしょぼんとした感じになるシオリちゃん。


 そんな顔されたら、できなくても参加したくなっちゃうじゃないか。


「そ、そうですよね。ショウタさんにはショウタさんの予定があるでしょうし」

「ああ、気にしなくていいよ」


 だがここは大人として自制しなければ。彼女たちは各自の性質に合わせて訓練するのだろうし。

 あまり邪魔しちゃいけない。


 でも……魔法かあ。


 転移した初日に多少は見たけど。それ以降はあまり見てないんだよな。


 魔法ってやはりカッコいいよな。それこそ、前の世界ではラノベを通じて想像したり、アニメの発動シーンに心躍らせたものだった。


 俺の【三流召喚魔法】は素晴らしいスキルだけど、基本は何かを召喚するというビジュアルしかない。

 炎が出てくるわけでもなければ、凍てつく吹雪を出せるものでもない。


「今日は回復系魔法の訓練かな?」


「いえ、今日は攻撃魔法の訓練ですよ。私、リンカちゃんみたな剣を使ったり、体術が得意じゃないから。少しづつ覚えて、今ではけっこう使えるようになったんですよ~~ショウタさんに見せたかったな~」


 なに? 攻撃魔法とな。


 そうか、シオリちゃんは癒しに特化しているといっても、基本スペックは勇者だ。

 攻撃魔法も一通りはこなせるのだろう。



 ヤバイ……ちょっとだけでいいから見たい……



「見たいですか? ショウタさん」


 そんな俺の思いを見透かしたのか、なぜか上目遣いで俺をじっと見つめてくるシオリちゃん。

 両手を前でキュッと握っているために、巨大な2つがギュッと両腕からこぼれ落ちそうになっている。


「み、見たい……」


 え、これ魔法のことだよね? 


 魔法じゃなかったとしても見たい……


 魅惑的な表情から一転、ぱあっと明るい笑顔になるシオリちゃん。


「やった~~! じゃあ奥の魔法訓練場に行きましょう!」


 うむ、見せてくれるのは魔法らしい。

 まあ、当たり前か。


 俺は頭を搔きながらシオリちゃんと訓練場へ向かった。



「どんな魔法がいいですか~~」


 ブンブンと小さな両手を振って、準備運動らしきものをするシオリちゃん。

 ちょっと小動物ぽくてかわいらしい。



 どんな魔法が見たいか……ここはやはり。



「そうだな~辺り一面を焦土と化すやつ! 連発で!!」


「そんな地獄魔法みたいなの使えませんよ!?」


「え? そうなんだ……連発は無理なのか……じゃあ単発で」


「連発の問題じゃなくて、そもそも使えないです! 使えたとしてもダメですよ!?」


 そっかあ、魔法といえばド派手な獄炎撃ちまくりとかが見たかったんだが。

 訓練を重ねた勇者チート能力ならできるのかなぁなんて思ってたが、違うようだ。



 その後シオリちゃんは風魔法と氷魔法を見せてくれた。


 訓練場の奥にある的に綺麗に命中する風の刃や、氷の矢。

 おお、これはこれで良い!普通にカッコイイ!


「いいなぁ……」


 羨ましそうな顔をする俺を見て、シオリちゃんが何かを思いついたように口を開いた。


「そうだ、ショウタさんの召喚魔法てなんでも召喚できるんですよね?だったら炎を召喚すればいいじゃないですか!」


「そっか! たしかにそれは試してみる価値はあるかもな!」


 なるほど。考えもつかなかったが、ガチャで引ければ炎そのものを召喚できるかもしれない。


 よ~~し。


 俺は心躍らせて早速召喚魔法を唱える。


「――――――【三流召喚魔法】!」


 さあ!いでよ! 獄炎のブレス!!


 が、出たのはパンツだった……


 だが、今の俺はこんなのわかっている。


「安心してくれシオリちゃん。いつも特訓で脳汁ドバドバ状態で連続召喚しているから!たまに気づいたらベッドにいる程度の負荷しかかけてないし!いつかはアタリ出るから!」


「その言葉に安心の要素が一切ありませんよ!?」


「ハハッ、心配性だなシオリちゃんは」


「ふわぁ!ショウタさん!雑談しながらも無意識に召喚しまくってますよ! もう危険な精神状態ですよ、それ!」


「さすが癒しの勇者だ。人一倍体には気遣ってくれるんだな」


「勇者に関係なく誰でも気遣うレベルなんです……やっぱりショウタさんの訓練は常軌を逸していると思います……」


 俺の事を心配してくれるシオリちゃん。ええ子やなぁと思っていると―――



「お―――なんか出た」



 シオリちゃんと楽しく雑談していると、なにやら違うものが召喚された。


「あれ……これってショウタさん」

「うん、そうだなシオリちゃん」


 思わず目を合わせた俺とシオリちゃん。召喚されたのは、俺たちには馴染みのある物だったからだ。


 黒い鉄板に、温度調整のつまみ。そして上にかぶさるガラスの蓋。


「これ、ホットプレートだよな」

「そうですね、ホットプレートですね」

『はい、マスター。ホットプレート(召喚制限なし)デス』


 たしかに炎つながりかもしれんが。


 俺はホットプレートを見てちょっと微妙な感じになっていると、騎士さんたちが集まり出した。

 おっと、シオリちゃんの訓練が始まるみたいだ。


「さて、俺は行くよ。魔法を見せてくれてありがとう。……シオリちゃん?」


 どうしたんだろう?なにやら一人でウンウン頷いているぞ。

 そして彼女はホットプレートを見て、少し口角が上がったような。


「ショウタさん……」

「え? はい、なに?」



「ショウタさん疲れているみたいだから、明日はシオリの部屋に来てください」


 ええぇ……何言ってんの?



 俺が女子高生の部屋に行くだと……陰キャおっさんにしてはハードルがクソ高いイベント発生したぞ。





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