第12話 おっさん、そろそろ兵器召喚の時間です

 ダンジョンに入って2日目。

 俺たちは3階層に足を踏み入れていた。


 ちなみに、朝起きたら美少女たちに抱きつかれているというイベントは発生しなかった。

 そう、おっさんはまったくもって抱き着かれていなかったのだ。



 いや、普通に考えて当たりまえの話だけどね……



『マスター、斬られなくて良かったデスネ』


「そりゃそうだろ」


 年齢も倍違うし。てかおっさんやし。彼女たちが抱き着く要素が皆無である。


 この子たちマジで美少女だからな。

 顔面偏差値が高すぎるし、スタイル良いし。ノーマルおっさんにはまぶしすぎる。


 隣を歩くリンカさんは、例の日本刀を腰のベルトにさしていた。


 日本刀が似合うな。凛としている佇まいも相まって和風美少女だ。

 ファンタジー世界に刀って、なんかいいんだよな。


「な、なによ。さっきからジロジロと」


 おっと、見すぎてしまったか。

 でも、昨日までのようなキツイ感じがそこまでしない。


「あ、いや刀が似合うなと思っただけだよ。すまんちょっと見惚れてしまった」

「み、みほれ……って。ま、まあいいわ」


 フンと言いつつも、少し口角が上がっている。

 ちょっとは笑ってくれるようになったようだ。良かった。


 と、脳内で美少女たちを堪能していると。前方から気配が。



「魔物ですわ~~みなさん油断なきよう」


 ルーナの声で、3人とも戦闘態勢を取る。


 のしのしと現れたのは。人型の魔物、オークだ。


「ギヒヒヒ~~」


 オークたちが気持ち悪い声を発する。その視線の先はルーナとリンカさん。

 まあ、オークが姫や女剣士を好むというのは定番の流れなのだろう。


 その下卑た目線と声に、嫌悪感を露わにする美少女2人。


「気持ちわるいわね! 剣技―――閃光瞬花せんこうしゅんか!」


「リンカさんに同感ですわ―――ハッ!」


 美少女2人の攻撃に数体のオークが倒れる。


 さらに奥から複数のオークと、骨の兵士スケルトンが出て来た。

 さすが三階層、魔物にもバリエーションが出て来たぞ。


「よし、俺もやるぞ! ―――【三流召喚魔法】!」


 召喚したたわしを掴んで、ピッチングマシーンにセット……んん?


 パンツかよぉおお。


 こればかりはガチャ召喚だからしょうがない。


 だが手数で勝負だ!


 俺は【三流召喚魔法】を連発する。


 魔力はまだまだ余裕があるしな!

 バンバンいくぞ!


「おかしいですわ……」


 華麗にレイピアをふるいながら、ルーナが呟く。


「うん、おかしい。今日はパンツしか出ない……たわしどうしたんだ?」

『マスター、パンツやたわしではなくアタリを求めるベキデハ?』


 たしかに……。


「いえ、ショウタさま」


 ルーナが珍しく真剣な視線を俺に送る。


「スケルトンは次の4階層の魔物のはずですわ。なぜこの3階層にいるのでしょう?」

「そうなのか? 単に迷って3階層に上がって来たんじゃないのか?」

「いいえ、ダンジョンの魔物は他の階層に行くと存在を維持できなくなりますの」

「え? ってことはあのスケルトンたちは―――」


「ショウタ!ルーナ様! 骸骨の魔物たちが!?」


 リンカが叫んだ先を見ると。スケルトンたちが消えていく。


「うお……消えてくぞ。じゃあ、なんでこの階層に来たんだ?」

「可能性としてはイレギュラーが発生したのかもしれませんわ」


 なんだその不穏なワード。ヤバい奴が突然変異とかで出てきたってか。


 そこへ美少女の悲鳴が響いた。


「キャアアアアア!」


 リンカが彼女らしからぬ声をあげて、ダッシュでこっちに戻って来る。


 ぴったりと俺の後ろにつく剣の勇者。


「え? どうしたんだ……?」


 彼女は答えずに、ダンジョンの奥を指さした。


 なんだ? その先に―――


 なんかいる!?


 黒い影が蠢いている。しかも大量に。


「「「グギャァアア……」」」


 黒い影はあっという間にオークたちを蝕んで、さらにこちらに迫って来た。



 ちょっと待て。なんか既視感あるやつきた。



「ルーナ? あれ魔物なのか?」

「いえ……ちょっと見たことがないですわ……ショウタさま、気持ち悪いですわ……」


 6本の足。長い2本の触覚、黒光りするボディ。


 いやこれ限りなく「G」じゃないか……


 まったく同一ではないのだが、見ただけでめっちゃゾクゾクする。


 しかもサイズがデカすぎる。成人男性と同じぐらいあるぞ。


 先程まで勇敢に戦っていたリンカは、俺の背中をギューと掴んでガクガクしている。

「G」がダメってのもあるだろうが、たぶん虫そのものが苦手なのかもしれない。


 ルーナまで俺の袖をグッと掴み出した。やはり奴は異世界だろうが共通で恐怖の対象らしい。


 奥から溢れんばかりに、黒い影は増え続ける。

 ダンジョンフロア中にカサカサという独特の不気味な音が響く。


 これはヤバい!


 現状リンカとルーナは強い精神攻撃を受けている。俺で踏ん張るしかない。


 とにかく弾であるたわしだけでも召喚しないと!



「―――【三流召喚魔法】!」

「―――【三流召喚魔法】!」

「―――【三流召喚魔法】!」


 やだ、ヒラヒラと布しか出てこない。


「ちょっと! いつまでパンツ出してんのよ!」


 リンカさん、出したくて出してんじゃないんですよ。


「くっ……あたしが2階層への道を作るわ……」


 俺の後ろから前に出るリンカ。


「道を作るって……足ガクガクじゃないか。落ちつけ!」


「あたしは勇者なの! こ、こんなぐらいなんともないわよ!」


 そう言って、俺が止める間もなく、「G」の群れに突っ込むリンカ。


 彼女は顔面蒼白になりながらも刀を振るう。

 だが、恐怖の方が優っているのかいつものキレのある動きではなく苦戦している。


「クソ、マジでシャレにならんぞ!」


 俺が再び召喚魔法を発動しようとした時―――



「はぁ~~? なんだおまえら?」


 なんか羽を生やした、黒い奴がダンジョンの奥から飛んできた。


「なあ……ルーナ。あれって」

「ええ、ショウタさま。魔族ですわ」


「おい、おまえら見たところ3人だけだが冒険者か?」


「ああ……そうだ」


 取り合えず合わせておく。魔族に勇者や姫の存在をこちらから明かす必要はない。


「ヒャハハハ~~そりゃ災難だったな。まあここから生きては帰さんがなぁ~~」


「おまえは何者だ?」

「バカが! 簡単に教えるわけないだろうが!」

「どうせ俺たちを殺すんだろ? なら聞かせてくれてもいいだろう」


「む……そうだな。そうだった。お前たちはここで死ぬんだった! なら教えてやろう!

 ―――オレ様は魔王軍ガルマ将軍が配下ゲルマさまだ! ヒャハハハ~~」


 うむ、ちょっとお頭が弱いのかもしれんこいつ。


 にしてもなんか聞いたことあるぞ? ガルマ……


「ガルマって、ショウタさまが完膚なきまでに叩き潰した魔族ですわ」


「ああ、あいつかよ……」



「はぁ? ふざけるなよ! ガルマ将軍がきさまらごときにやられるわけないだろうが!」


 ちょっと待て。こいつもしかして大将がやれたことを知らないのか?


「で、ゲルマ。おまえはこんなダンジョンでなにやってんだ?」

「バカがっ! 教えるわけないだろう! 極秘作戦を!」


「でも俺たちを殺すんだろ? なら冥途の土産に教えてくれてもいいだろ」


「お……そうだった。おまえらはこの場で俺様に惨殺されるんだった。なら教えてやろう!

 ―――俺様はガルマ将軍の命により、このダンジョンで魔虫「G」を繁殖させてるのだ! ここなら王国のやつらも気づきにくいしな! そして第一軍団が来るより前に、この魔虫で王都を占領するのだ! ヒャハハハ~~」


「なんですって。とんでもないですわ!」


 第一軍団……。おそらくは魔王軍の王国侵略部隊のことだろう。


「ならその第一軍団とやらが来るのを待てばいいだろう?」


 俺は出来る限り情報を引き出させるように、会話を続ける。


「待たないね。第一軍団は大軍だ。王都周辺の【結界】が邪魔なんだよ! ガルマ将軍1人なら入り込めるが、大軍ってなると【結界】の大部分を破壊しなきゃいけねぇ。だからまだ準備中なんだよ! そしてガルマ将軍は欲深いお方だ。他の将軍を出し抜いて、王都を占領したいんだよ。だからひよっこ勇者の討伐に自ら志願されたのだ!」


 こいつなんでも話すな。


「ルーナ、この魔虫はダンジョンの外に出られるのか?」

「ええ、ショウタさま。ダンジョンの魔物ではない以上、出られますわ」


 なるほど、このダンジョンは王都郊外にある。

 つまり【結界】の中だ。


 ガルマが奇襲で勇者を討ち取る。

 さらにここで繁殖させていた魔虫で王都を襲う。


 希望の勇者を失った直後に、あの「G」が大量になだれ込む。これはかなり効果的だ。


「ヒャハハハ~~どうだ人間ども! 絶望したかあぁあ! あとはガルマ将軍の命令まちなのだぁ! ちょっと待ちすぎて魔虫が上層階にまで溢れて来ちまったがなぁあ!」


 あ、その命令は永久に来ないから。


「むぅ……しかし一か月以上も命令が来ないとは……ガルマ将軍にしては珍しいな」


 いや、普通連絡が途絶えたら確認するだろ……


「ルーナ、こいつが抜けていて良かったな」

「ええ、この魔族がアホで助かりましたわ」


「だまれぇええ!おまえらはここで始末されるんだぁあ!まずは手前の女からか~~もう死にそうだけどなぁ!ヒャハハハ!」


 ヤバい! リンカは「G」に囲まれてグッタリしてる!


「ヒャハハハ~~おっさんごときが何をしても手遅れだぜぇ~~!」


 リンカを始末すべくワラワラと動き出す「G」たち。



「ルーナ! 例のやつ頼む!!」


「もちろんですわぁ~~ショウタさま~~

 ―――――――――【愛の鞭】ぃいい♡」


 ―――ビシぃ!!


 良しこれきたぁああああ!!

 久々のビシぃ~~~!!


 ルーナのスキルで魔力と運がアップしたはず。


 どうだ!美少女の鞭だぞ!気合入れろよ俺の【三流召喚士】ぃいい!!



「――――――【三流召喚魔法】!」



 んん? なんか違うの出た!!てかデカい!!


『マスター、アタリデス。

 ――――――GAU-8、通称アヴェンジャー、世界最強のガトリングガン』


「よっしゃ! 攻撃準備!」



『―――――了解! 30ミリ弾装填! 攻撃準備!!イエッサー サーティミリロード アタック レディ!



 ようやくきたぞ俺のターン。


 現代兵器の恐ろしさ、見せてやる。




―――――――――――――――――――


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