第10話 手の平ドリルヒーラー



「今日は皆さんありがとうございました」


「あいつにはトレインで殺されかけた恨みがあるからね。別にいいよ」


「うちも今回のでバズりまくってるから十分リターン貰ってるからね」


 今回現場で協力してくれたダンジョン配信者のミカさんとアカリンさんに感謝を伝えると手をひらひらふる。

 影響力のない全くない俺一人では再起不能に追い込むなどとてもできなかったので感謝しかない。

 今現在健太はSNSで大炎上しており、再起不能にすると今回の目論見は成功した。

 こちらから反撃を受けてこの場から逃げ出したが、健太の相手は現代人なら切っても切り離せないネット上の不特定多数の人たち。

 どこに逃げようが逃れることはできない。


「お兄……迷惑かけてごめん」


「紗季!」


 紗季を病院に送ろうかと思うと、紗季が倒れそうになり慌てて支える。


「熱があるしも血も」


 思ってたより傷の状態がよくない。

 最低限の応急処置で済ませてちゃんとした治療を受けてなかったかもしれない。

 万が一のことがあっては後悔しても仕切れない。

 病院から進路を変えることにする。


「すいません。妹を連れて行かなければならないので」


 一言二人に言いおくと紗季をお姫様抱っこの要領で抱えて相手の状況に関係なく全快させられる人間──俺と同じく二年SSS級ダンジョンに潜っていたヒーラーの元に向かう。

 ここと同じ都内なのでそこまでは離れてはいない。

 道路を走り抜け、目的の場所──森の中にポツンとある豪邸のインターホンを押す。


『使用人に暇を出した時になんだと思ったら快晴か。抱えてる子調子悪そうだね』


「対価はいくらでも払う。この子を助けてくれ」


『太っ腹なことを言うね。玄関のとこまで連れてきてくれるかな』


 OKをもらったので門を跳んで超えて、玄関の前まで行く。

 時を待たずしてこの館の主である優恵が玄関の扉を開けて出てきた。

 すっかりくつろいでいたようでタンクトップに短パンという格好で、至福の時間を邪魔されたせいか少し不機嫌な顔をしている。

 性格に難がある人間なので対価は法外な額になるかもしれないが紗季の命に変えられない。


「はい終了」


 手を添えて柔らかい光を放つと思うと紗季に血色が良くなり、熱が引いた。


「今いくら持ってる?」


「福岡の仕事で入ってきた15億だけだ」


「じゃあ治療の対価は15億ってことで。奥さんの命の対価としては妥当でしょ」


「この子は奥さんじゃなくて妹だよ。俺は結婚してない」


「え? 君、結婚してないの? 家族って言ってるから妻子持ちだと思ってたけどそうかあ〜。やっぱタダでいいよ」


「え?」


「いや今日はそういう気分じゃないから。妹さんはあんまり動かしてもダメだししばらくここで安静にさせとこう」


「そ、そうか。何から何まで悪いな」


「何困った時はお互い様だよ」


 いつも対立してるのでふっ掛けられると思ったがいきなり異様に親切になった。

 なんか怪しいが妹に危害を加えて優恵にメリットはないしな。

 気まぐれみたいなものか。

 その道のプロが提案することだし、素直に受け取っておくことにしよう。


    ───


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