第2話 家がなくなっててワロタいやワロエナイ


 妹の紗季とは連絡が取れないが多分家にいるだろう。


「帰ったらまず紗季の生活圏以外の大掃除からだな」


 木造二階建ての狭い家だが、家族全員が揃っていて幸せだった頃の記憶のある場所で俺にとっては何よりもかけがえのない場所だ。

 借金のことが発覚した当初両親のことを恨んだし忌々しくも思ったが、ダンジョン探索で借金の方で飛ばされてくる人たちから話を聞いて、自分の力ではどうにかできるものでもないとわかって許せた。

 借金と人間性は必ずしも結びつかない。

 借金は作っても俺の両親は親として恥じいるような人でも道徳心にかける人でもなかったのだから。


「流石に2年立つと変わってるな」


 前まであった古い居酒屋が百円ショップになっている。

 家の近くにあった空き地も家が立ってもしかしたらお隣さんができているかもしれない。

 そうなったら挨拶に行かなきゃな。

 懐かしいような新鮮な気分のなんとも言えない気分で行くと家の目の前に来た。


「は?」


 何もない。

 更地になっている。

 訳がわからないが家が取り壊されて、土地が誰かに売られている。

 信じたくはないが、妹の紗季以外にはありえない。


「紗季はどこだ?」


 携帯に電話はかける。

 近くから呼び出し音が聞こえた。

 どうやら近くに来ていたようだ。

 呼び出し音が聞こえる方を見ると姫カットの女が歩いてきた。

 一瞬髪型は変わっており、化粧をしているのでわからなかったが顔を見ると確かに紗季だ。


「久しぶりお兄。ごめんさっき彼氏と電話してて気づかなかった」


「紗季か。家はどうしたんだ?」


「彼氏の夢でお金必要でさ。土地ごと売っちゃった。ついでに報告だけど貯金も全部使っちゃった」


 彼氏のことも気になったがとりあえず家のことを聞くと予想だにしない返事が返ってきた。

 夢に使った?

 貯金は三億近くあったはずだ。

 三億と家売った金使っても叶えられない夢ってなんだ。


「なんだその夢って? どうしてそんな金がいるんだ?」


「いや、彼氏の夢、ダンジョン配信者として有名になることとホストでNO.1になることでさ。必要なお金に上限がないっていうか」


 上限がない。

 ホスト。

 絶対だめだその彼氏。


「別れろ」


「はあ? いきなり何? 2年ぶりに会ってあたしの彼氏否定? マジ最悪なんだけど」


「否定とかじゃない。人格以前の問題だ。ホストを養えるほどウチは裕福じゃない」


「ホストだからって否定して毛嫌いしてるじゃん! 健太君は悪いホストじゃないし! 他のホストと一括りしないでくれる! ホストを始めたのも健太君が底辺ダンジョン配信者で苦労してて仕方なくだし、ホストの仕事もお店の人のために中途半端したくないって頑張ってるんだよ! それに健太君はあたしが危ない時にダンジョンで助けてくれたし! それなのにあたしが応援してあげないなんてありえないよ!」


「応援するって言っても家売って自分の身崩してたら意味ないだろ。応援するにしてもお金以外にしないと不健全だ」


「お金が必要だって言ってるのに! お金以外って意味わかんないよ! あたし学校やめて働いてるのにお兄は協力してくれないの!」


「学校辞めた? 今何て言った? なんのために今まで──」


「お兄には関係ないじゃん! もう家族でもなんでもないから! これ返す!」


 学校を辞めたことに関して問いただそうと思うと金切り声をあげてクレジットカードと銀行カードと通帳をこちらに向けて順繰りに投げてきた。

 紗季は涙を流すと元来た道を走り始める。


 ここで引き留めなければいけないんだが、唯一の肉親に当然裏切られたような気分で足が動かなかった。

 精神的余裕がない。

 自分一人の気持ちの整理だけで手一杯だった。


「帰ったら大事なもの全部なくなるって何なんだよ。めちゃくちゃだ」


 気持ちだけで言えば借金の方にダンジョンという死地に送られた時よりも酷い。

 夢なら夢だと言ってほしい気分だ。

 思考がどんよりした方に沈みたくなるが、ダンジョンの時の癖できつい時ほど現実的な方に向く。

 自分がつけた癖だが思考をねげ曲げられているようで何度味わっても気持ちが悪い。


「ホストを再起不能にして、妹が稼げないようにしないと現状回復不可能か」


 クレジットと銀行のカード、通帳を拾うと体が思考とつられて動き始める。


    ───


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