第12話 はじめてのたたかい

 住み慣れた村を「この世界を見てみたい」という理由から旅立ったフォルスとニュイ。

 その先で、早速フォルスはこの世界に存在する、動物や猛獣と一線を画す、魔物と呼ばれる存在と遭遇する。


 以前追われた熊型の魔物であるフォレストベアとは違う、魔力溜まりと呼ばれる淀みから生まれた正真正銘の異物。

 ゼリー状の体を持ち、人間相手であろうと戦う術を持たない幼い子供や力の弱い女性や老人を襲って捕食するスライムと呼ばれる黄緑色の怪物。


 それが薮の中から現れた。


 そんなスライムに対抗するために、ニュイはフォルスの手元に、ある物を構築する。


「剣とかじゃないのか」


「近接がお望みかい?」


「いや、今はこれで良いや。格好いいし」


 ニュイがフォルスに渡したのは、両手で構えるタイプの長銃。

 シルエットだけ見れば猟銃にも見えるだろうが、その銃身からグリップ、ストックに至るまで鈍く光る黒い金属色で、間違いなくこの世界に似つかわしくない見た目をしている。


「ビームライフルみたいじゃん。弾出るの?」


「玩具を作ったわけではないさ」


 銃刀法があるわけでなく、狩猟免許が必要というわけでもない。

 フォルスは銃口を数メートルほど離れた場所に位置するスライムに合わせると、前世で子供の頃に遊んだエアガンの引き金を引くくらいの軽い気持ちで、ニュイが作り出した銃の引き金を引いた。


 すると、銃口から銃弾ではなく、直径にして一メートルほどの熱線が銃口の先に集まった光から放たれ、スライムを跡形もなく消し飛ばして、その後ろの木々すら薙ぎ倒してしまう。


「お前なんてもん渡してんの⁉︎ ビーム出たんですけど⁉︎」


「ふふん。これならマスターも戦えるだろう?」


 フォルスの言葉にニュイは何故か鼻高々といった様子。


「やり過ぎい! こんな物騒なもん使えねえよ、向こうに人がいたらどうすんの⁉︎」


「ふむ、威力が強すぎるか。分かったもう少し出力を絞るとしよう」


「怖くて持ってらんねえよ。剣とかにしてくれ、頑張って鍛えるから」


「マスターが願うなら仕方ない。ビームの刃に高周波ブレード、回転刃、どんなのが好みだ?」


 ニュイの提示した剣の種類にニュイを作った転生者の趣味を感じ、肩をすくめてため息を吐くと、フォルスは「まずは普通のショートソードにしてくれ」と呟くと、道の先で跡形もなく消し飛んだ、スライムがいたはずの方向を見て冷や汗を浮かべた。


「ニュイを作った先輩はとんでもない野郎だったんだなあ」  


「まあな。だが一つ間違っているぞマスター」


「なにが?」


 ニュイに銃を返し、再び歩き出したフォルス。

 その横で、銃を異層空間に片付けたニュイが自分を作った人間のことを思い出していた。


「私の創造主は野郎ではない」


「女性だったってことか。なんとまあ趣味が合いそうな。生きてる間に会ってみたかったな」


 もう会えない故人がニュイと接する姿を想像しながら、フォルスは人の気配がしない森の田舎道を歩いていく。


 その背後、村を挟んで逆方向の森に不審な影があるとも知らずに。


 フォルスが村を旅立ったその日、その村から離れた川の付近で、白いローブを身に纏った数人が、馬に乗って何かを探すようにうろうろとしていた。


遺物レリックの粒子放出反応はここで途切れています。森の方にも微量ながら粒子を検出しておりますので、ここから川に入ったのか、川から森に向かったのかは、分かりかねます」


 馬に乗っている者の中で一番大柄な男が、低い声で耳打ちするように、数人の中では一番小柄で線の細い、ローブから伸びる細腕から女性と分かる人物に声を掛けた。


「異常な反応を検出してこんな森までやって来たのに成果無しとは。歯痒いですね」


 男に声を掛けられて、白いローブのフードを目深く被った女性が残念そうに呟く。


「本当にレリックが起動したのでしょうか。国庫のレリックはどれ一つとして起動しなかったというのに」


「それを確認しにきたのです。もしレリックが誰かの手に渡り、起動したというのなら、その誰かとレリックは確保しなくては」


「世界を壊すため、ですか」


「人類と、それに連なる種族たちを新たな未来に連れていくためです」


 男の言葉に呟いて、女性は馬の上から急な流れの川の水面を眺める。


 その流れに何を思うか、女性は眉をひそめると馬の手綱を引き、仲間たちと合流するために元きた道を戻ろうとした。


 その時、大柄の男とは別の、目元に傷のある男が女性の元へと馬を寄せてくる。


「我が主よ。部下から報告がありました。この先に村があるようです。小さな村ですが、そちらに拠点を移してはいかがでしょうか」


「今の拠点より近いならそちらの方が良さそうですね。調査に来るにも楽ですし。もしかしたらレリックについて何か聞けるかも知れません。分かりました、伺いましょう。くれぐれも村民に害なきように」


「了解致しました。案内致します、こちらへ。他の者には部下を伝令に向かわせます」


 そう言って、目元に傷がある男は馬の腹を軽く蹴って足を進めさせる。

 その後ろを女性と大柄の男が追従していくのだった。



 

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