第27話お花を買ってください③
(あの青年の後をつけて分かったことがひとつある)
強く金銭を要求するわけではない。けれど、どうしても大金が必要なのだろう、折角眠りから醒めた人たちがお金を払えないと分かるや、また眠りの底に突き落としている。
(どうしてこんな回りくどいことを…)
お爺さんが震える手で、孫のために家中からかき集めたお金を渡している。
「じゅ…十万ゴールド、です…」
「確かに頂戴しました」
踵を返して立ち去る回復師を見送る老人は、複雑そうな表情を浮かべた。
それでも目覚めた安堵から、少年は泣き続けている。
「じいちゃん!!うわあああん!!」
「モアレ、良かった…良かったな…」
「でも、あのお金…使って良かったの?お店の修繕に使うはずじゃあ…」
「お前は気にしなくて良い」
「…じいちゃん、折角新しい竈になるって喜んでたのに…今のオンボロじゃ…」
「あのオンボロ竈には思い入れがあるから良いんだ…」
「そんな…新しい竈で焼くじいちゃんのピザ、楽しみにしてたのに…俺のせいで、ごめん…」
「これで良かったんだよ」
少年の頭を撫でた老人は、何度も「気にするな」と繰り返した。
(ただでさえ数が減っている回復師が、偶然この混乱の最中に現れた…もしこれが仮に仕組まれたことだとしたら…)
急に肩にポンと手が置かれて飛び上がった。
「ぴっ!!!?」
「うわ!すまない、そんなに驚くとは思わなくて」
「あ、あなたは」
それは妻が眠りから醒めなくなってしまったという、あの中年男性だった。その名をレノンと教えてくれた。
レノンの妻は、回復師によって一度眠りから目覚めるも、要求された金銭が払えず、再び眠りについてしまった。
本人の意思とは関係なく崩れ落ちる身体。あの狂気の光景を思い出す度に背筋が寒くなる。
「それでよ、言われた通り近所中聞いて回ったんだが…。眠っちまった連中の部屋にはやっぱり黒く変色した百合が置いてあったと…」
(やっぱり!)
「みんなが口を揃えて言うには、その百合ってのが、初めは白百合だったってのと、どうやら花売りの女の子から買ったんだそうだから、何か因果関係はありそうだ」
「その女の子の特徴は何か聞いていますか?どこに住んでるか、とか…」
「いや…見たことのない顔だったって言うからこの街のモンじゃないと思うがね…。母親が買ってるのを見たらしい子供が言うには、空き家から出てくるのを見たと…」
「!それは本当ですか!?その子のところに連れて行ってください!」
「あ、お、おう。分かったよ、こっちだ」
レノンが走るとガシャガシャ音がするので、まさかと思い問いただした。
「待ってください、レノンさん…まさかとは思いますけれど…お金…」
「近所回るついでに少しで良いからって借りて回った。家にあるのを足せば十万ゴールドになるだろう。さっきの回復師を探して、目を覚まして貰う」
(…今頃、お金が払えなかった人たちは、レノンさんと同じようにお金をかき集めて……)
そうか、と思う。結局回復師を頼るしかないのだ。回りくどいようで、結局お金を払わざるを得ない。
「これが仕組まれたことなら、絶対に許せないわね」
私たちは花売りの少女の居所を突き止めるため、走った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
窓辺に飾られた百合は黒く変色し、遂に最後の花びらが一つ落ちた瞬間、朽ちていった。
「…アンタたち、早く起きておくれよ…メイリーちゃん一人で走り回ってるよ」
深い深い眠りの底に落ちた三人は、寝返りひとつせず、微かな寝息だけが聞こえていた。
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