第18話勝利
「随分とボロボロだわ、死竜。私の仲間の魔法は良く効いたでしょう?」
巨大を揺らすたびに、振動する大地。
『人間如きが…ッッッ!』
「残念ね、その人間如きは群れてこそ、その力を発揮するのよ。死竜、貴方は孤独だわ」
カッ!
口から光線が発せられる。一か八かで真横に切り裂くと、フェンネルの剣はその光線すら切り裂いた。
「フェンネル、どうか私に力を貸して!」
耳元で、いつか聞いた声がする。
[…ああ、千年ぶりに腕がなるなあ]
私の身体は勝手にラピの襟元を握った。それから小石を投げるみたいに聖女様を、ぶん!と放った。
「きゃあああぁぁぁあ!!!」
ラピは、弧を描いて空中を泳ぐと、レントの腕の中にすっぽりおさまった。
「レント!ラピ様を頼んだわ!!」
「お、おう…」
投げられた聖女様は、何度か噎せると「決めたわ!!絶対に王太子殿下に言いつけて、一番酷い拷問の後、処刑してあげる!!!」などと叫んだ。
光線がダメだと悟った死竜は、巨大な爪で私を払った。
私は後ろに跳んでそれを避ける。
(死竜の動きが、こんなにもゆっくり見える…ダークマターがだいぶ効いたのかしら…。それとも…本当にフェンネルが私に力を与えてくれているのだろうか)
着地と同時に足に力をこめて、前に飛び出し、その左腕を切り落とした。
『ウオオオォォォォ!!!!』
カッカッカッ!!!!
苦し紛れで放たれた三連の光線を躱す。
狙いを決めかねていたディエゴが、遂に右目を射抜くことに成功した。この巨体の中にあるごく小さな目を、よく射られたと感心する。やはりうちの弓使いは優秀だ…などと思っていると、本人もガッツポーズを決めていた。
「よおおおおっし!!!…え?」
「ディエゴ!危ない!!」
死竜の右腕がディエゴ目掛けて襲いかかった。
(間に合え!!!)
ギイィィィィイン!!!!
「くっ!!」
「メイリーちゃん!!!」
なんとか剣で爪を防いだ。
物凄い力で押し潰されそうになる。
死竜の方は、逆に潰さないように気を遣っているとでも言いたげだ。
『まるで蟻のようだ…初めから踏み潰しておけばよかったなぁ。ほら、ほら…くくく』
「ぐっ!!!!うううっ!!!!」
なんとか持ち堪えたが、奥歯を噛み砕いてしまいそうだ。地面に足がめり込んでいくのがわかる。
「はあっ…はあっ…」
『…なぜだ…なぜ諦めない』
「なぜ、ですって?諦めないのが勇者だからよ!!!」
私の決意に呼応するように、フェンネルの剣が仄かに光る。蛍の様な、かすかな光だ。
けれどそれは、死竜には眩すぎるものだったらしい。
『クッッッッ!!』
怯んだ死竜の爪を弾き返した。
右目が潰された死竜は、左目を庇って体をくねらせた。
ビュン!!!
すごいスピードで、巨大な尾が迫って来る。
(身体がついていかない!)
避けきれないと悟って、剣を盾に、瞬間的に硬直した。
「メイリー!!!」
突然、フリックが目の前に飛び出した。
(何をして…)
そう思っている間に、フリックは弾き飛ばされ、空中高く舞った。
(どうして…どうして貴方が私を庇ったの…?)
「くそっ!!!くらえ!ファイヤーレイ!!!」
宙に舞いながらフリックは詠唱した。
炎の光線が死竜の身体を灼いて、畝るような絶叫が響く。
「人間を甘く見たことを…後悔しろ…っ!」
フリックは脱力して、そのまま落下した。
「フリック…!!」
怒りに柄を握りしめ、死竜に向かい合うと、傷だらけの太い指が私の手に重なった。
[俺様の目に狂いはなかったな。お前は生まれながらに勇者だ]
それは、夢で聞こえたあの声と同じ。
[倒せるか。お前に]
「倒す。倒せなければ…死ぬだけよ」
[それでこそ、俺様が見込んだ勇者だ。行くぞ]
驚いた。フェンネルは私よりも高く跳躍できたのだろうか。
羽が生えたのだろうかと錯覚するほど、高く高く舞い上がる。
それは、一足飛びで死竜の遥か頭上を超える高さだ。
剣に聖なる光が宿る。
直感的に感じた。これは、フェンネルが放つ光だ、と。
「滅せよ!!死竜!!!」
ズン……
深く、深く、死竜の頭に剣が突き刺さる。
「!?」
『オオオォォォ…』
シュウシュウと闇のエネルギが死竜の周りを旋回した。
剣が放つ光のエネルギーと拮抗している。
「くっ!!!」
鋭利な闇のエネルギーは、私の体を切り刻んでいく。
[死竜、お前は地上を支配することも、冥界で永遠に生きることも叶わぬ。今ここで死ね]
ドン!!!!
身体が圧迫される程の強い聖なる光は、遂に闇のエネルギーを掻き消した。
それと同時に、死竜は緩やかに地上へと倒れ込んだ。
一瞬、まるでなんの音もしない世界が訪れる。
巨体が没する音もなく、断末魔さえ聞こえなかった。
パァアアァァァン……
死竜は、小さなたくさんの粒子となって、やがて霧散して消えた。
風が押し上げるように私を包んで、ゆっくりと地上に降り立つ。
自分で何が起こったのか、理解するのに時間を要する。フェンネルの剣を見つめるが、いつもと同じ。何も変わったところはない。
暫くすると、膝が震え始めたので、拳で叩いた。
「メイリー…」
茂みから呻き声が聞こえる。
それは、墜落して血を流しているフリックだった。駆け寄りつつ、ポシェットの中を探す。
「フリック、すぐにポーションを…」
「おい、止めろ」
フリックが止めるのも聞かず、二本消費したところで、腕を掴まれた。
「もういい!止めろ!」
「ごめん、ラピ様に回復してもらったほうが…」
「そうじゃない!自分をよく見ろ!」
「え?」
至る所から出血していて、自分でも良く立っていられたものだと感心した時、気が抜けて倒れ込んだ。
「ごめんごめん…あと一本、ポシェットに入ってるポーションをかけて…くれる…?」
「どこまでお人好しなんだ、馬鹿」
「馬鹿は余計だわ…」
フリックはなぜか自分の懐からポーションを三本取り出すと、私に振りかけてくれた。
三本も使うなんてと思ったけれど、それほど出血していたらしい。
「フリック、ポーション…持っていたの…?なぜ…」
「黙ってろ」
「だって…ラピ様が回復してくれるのだから、フリックは必要ないでしょう!?」
「お前が怪我をしたら、誰が回復してやるんだ…」
「え?なに?よく聞こえない…」
「絆を忘れるなと言ったはずだ」
(だって、ラピが来てから貴方達は…)
私は何かを勘違いしていたのかも知れない。
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