父親のこと
かびごんべ
第1話
Xで馬につけた義足のポストを見て、父親のことを思い出しました。
私の父親は、両足とも踵から先を事故で失くして義足でした。私が一歳半の頃の事故でした。
父は実家の建設業の仕事をしていたのですが、ある日、ショベルカーを坂道に停めていて、ブレーキが甘かったのか、坂を下ってきてしまって。
その方向には、一緒に働いていた人がいて、その人が、
「◯◯さん!」
と父を呼んで。
父はショベルカーを停めようと動いている車体に飛び乗ろうとして、キャタピラー部分に巻き込まれてしまいました。
母が言うには、その時間に私が急に泣き出して、あやしても全く泣き止まなかったそうです。
当時父は32か33歳。大学時代はラグビー部だった父には、もう二度と自分の足では歩くことも走ることもできなくなるのはつらかったと思います。
父は死ぬまで、事故に遭った時の話を私たち子供に話したことはありませんでしたが、母から聞くには、幻肢痛がひどくて母は頻繁に足をさすっていたそうです。
2011年の冬、父の臨終の時、母が必死に父の足をさすっていたのは、この時のことが頭にあったのかも知れません。仲の良い夫婦ではなかったのですけれどもね。
家業は倒産寸前で、借金取りが来るような状態だったそうですが、父の姿を見て、借金取りの人は来なくなったらしいです。あまりにも気の毒だと。父の保険で、後から借金は払えたみたいです。
父の母親私にとっての祖母は、夫、私から見れば祖父の浮気に悩み苦しみ、三人いた子供のうち一番下の息子を連れて入水自殺しました。一歳半くらいだったかと思います。
父は当時9歳。母親大好きな子供だったので、入水した母親の遺体を見るのは本当につらかったと思います。
大好きな母親に置いていかれた、当時から76歳で死ぬまで、父の心の中には置き石のようにその思いがあったのではないでしょうか。
母親は死ぬ前、父の顔を水たまりの水で濡らした手拭いで拭ったり、ちょっとおかしくなっていたそうです。夫がすぐ近所の女性と不倫していたら、追い詰められるのも無理ないかと思います。
祖父の気持ちはよくわからないのですが、祖父はそれからさほど経たずに再婚しました。
浮気相手ではなく、離れた場所に住んでいた離婚歴のある女性と。
当時は戦争が終わってすぐの頃。男性は少なかったので、祖父のような訳ありでも再婚できたのかも知れないですね。
継母とうまくいくはずもなく、父は高校から下宿という形で地元を離れ、大学は東京に。
それから母と結婚するまで、何をしていたのかはわからないのですよねえ。
遊んで暮らしていたのではないかしら。
父親のこと かびごんべ @mappi
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