第55話 修行開始

 高橋さんを連れて社務所へ帰ってきたんだけど、見たこと無い女の子が増えていた。


 ミクとお揃いの黒髪黒目、前髪ぱっつんで赤い着物を着てる。日本人形っぽい色白な女の子、そう小学生の低学年くらいの子だ。


「レイ、帰ってきたか。たかぴーも久しぶりじゃな、ゆっくりしていくと良いぞ」


 そう言ってニヤリと笑顔を高橋さんに向けるタマちゃん。高橋さんを見ると、やっぱりまた顔がひきつっている……頑張ろうね。


「お、お久しぶりですタマさん。お招きいただき、ありがとうございます」


 なんとか挨拶はできたみたい。っとそれも気になるが、それより誰なんだろう。


「う、ん、ただいま。なんだけど、その子は……どちら様?」


 座布団に座るミクの横でキレイな正座をしている女の子から目が離せず、なぜか片言になってしまった。


「こやつか? こやつはえんじゅと言っての、いわゆる座敷わらしじゃ。悪いヤツではないから安心せい」


 座敷わらしってことだ聞いたことあるぞ! 妖怪で、座敷わらしがいる家は栄えるってその座敷わらしさん?


「そうなのお兄ちゃん。エンちゃんは私が寝ていた間、ずっと頭の中でお話相手になってくれてたの。だから安心していいわよ」


「お兄ちゃん。はじめまして。槐と言います」


 正座のまま向きを俺に向け、畳に指をついてお辞儀してくれた。


 ……お兄ちゃん? あ、いや、今はそれどころじゃない。


 俺も慌てて槐さんと向かい合わせに正座して、自己紹介をする。


「あ、こ、これはご丁寧に。ミクの兄のレイと言います。ミクの話し相手になってくれてありがとうございます」


「長らく目を覚まさなかったのは、ミクちゃんの心の傷が大き過ぎ、幼い魂では耐えきれなかったからでございます」


 見た目に反して大人顔負けの丁寧な話し方なので驚きだけど、座敷わらしさんだから長く生きてるってことか。


「そ、うなんだ」


「はい。あの事故の時、槐の力及ばず、ミクちゃんだけしか守れなかったこと、お詫び申し上げます」


 そういって今度は畳に頭がつくほど頭を下げた。


「っ! 頭を上げてください! 槐さんはミクだけでも助けてくれた恩人なんです! 頭は俺が下げなきゃ駄目なんです!」


 そう言って槐さんの肩を手で押し上げ、かわりに俺が頭を下げた。


「槐さん。ミクを助けてくれてありがとうございます! 父さんと母さんのことは辛いけど、ミクを助けてくれたことにはかわりないです!」


「そう、なのですか? 私は許されるのですか……お兄ちゃん」


「うん。それから、これからもミクと、いや、俺とも仲良くしてくれるかな? その、寝てる間、どんな話ししてたとか気になるし、俺がやってたことで嫌だったこととか痛かったりしたこととか、嬉しかったことも、それでどんなお話してたのか知りたいんだ」


「エンちゃん、だから言ったでしょ? お兄ちゃんならこう言うって」


「はい。ミクちゃんの言ったとおりでした」


「うむ。善き哉。さて、前鬼と後鬼にあわせて槐が来てくれたのは助かるのう。槐よ、お主もこのレイ、シオン、シオリにたかぴーを鍛える手助けをせい」


宇迦之御魂神うかのみたまのかみ様? 槐は闘いは苦手でございますよ?」


 うか……なんだ? タマちゃんの本名か?


「これ、その名は堅苦しゅうていかん。タマでよい」


「はい。ではタマ様、槐は守ることしかできませんよ? それで良ければ手助けさせていただきますが」


 そうか、座敷わらしは闘うイメージじゃないもんな。


「……いや、お主……ま、まあ防御も大事なのでな、今はそれで良い」


「タマちゃん、私も闘い教えてよ、仲間ハズレはやだもん」


「むぅ。ミクはのう……槐よ、ミクの素質はどうなのじゃ? わらわにはミクの素質が見えんのじゃが」


「ミクちゃんはまだ覚醒していませんから見えなくて当然です」


 そうだ。ミクはまだ黒髪黒目。俺は覚醒して両方灰色になったもんな。


 そういえばシオンも黒髪、黒目だけどしっかり覚醒済みだし、シオリはもっとわかりやすい。スキルをたくさん持っている人に良くある二色。白髪赤目でカッコいいとひそかに思っている。


「ならば覚醒を待たねばならんな。その前に自在に身体を動かせるようにならんと話にもならんが」


「ぶぅー、わ か り ま し た。リハビリして、すぐ追い付くんだから!」


「そうだな。本当は闘わなくても大丈夫だったら一番いいんだけど、ちょっとゴタゴタしてるから、ミクにも頑張ってもらわないといけない時が来るかもしれない」


「うん。私、頑張るよ」


「うん。一緒に頑張ろうな」


 力こぶをみんなに見せるように力を入れているようだけど、まったく力が入っているように見えないのはご愛嬌としておこう。


 そしてミクの髪の毛をすくうように撫でると、なぜか槐さんがソワソワし始めた。


「あ、お兄ちゃん、エンちゃんにもナデナデしてあげてね、結構お気に入りだから」


「そ、そうなの?」


「はい。ミクちゃんの中に入っていましたので、いつも撫でてくれるお兄ちゃんの手は気に入っております」


 あ、そうなんだ……。空いてる手をミクの横にいる槐さんに伸ばし、同じように撫でておいた。


 あと、やっぱり俺のことはお兄ちゃん呼びなのかな……まあ、いいけど。妹が増えたと思っておこう。


「ふぁあ。……直接…………いい。お兄ちゃん、槐のことはエンちゃんと呼んでください」


「ほらね。エンちゃんのお気に入りなの」


「あ、ああ。そのようだねって、シオンもシオリもなんでミクとエンちゃんの横に並んでるの」


「わたしもなでなで」


「いえ、その、できれば……」


「くはははは! かの槐がほんに幼子のようではないか。ところでたかぴー、お主のことじゃ、色々と持ってきてるのであろ?」


「はい。モンスターハウス前までは持ってきてありますよ。ですが運ぶ……はい、運んできます……」


「くくっ、こやつらのいちゃいちゃが終われば手伝いに行かせるのじゃ。それまでは前鬼、後鬼を連れて行ってくるが良かろ」


 社務所から、まだ座ってもいなかった高橋さんが前鬼さんと後鬼さんを連れて出て行った。


 ミクはまだ見ていなかったのか、前鬼さんと後鬼さんを見て、『鬼さん!』と何年かぶりに驚く顔も見れた。


 結局、四人の頭を順番に撫で続けているうちに荷物は全て運び込まれ、ミクのリハビリと、高橋さんを含む俺たちの修行が始まった。

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