第48話 待ちぶせ
「――連絡事項は以上です。ダンジョンに行くものも、帰るものも気を付けてな」
いつも通りやる気が一切感じられない帰りのホームルームが終わり、解散となる。
柊先生はどうなるんだろ……ま、考えても仕方がないか。それより……おお!
今日は佐藤先輩の動きを心配することはなさそうだ。終わってほんの数秒でお昼休みの再現が起こっている。うん。アレでは動けるわけがない。
クラスメイトに周囲をぐるりと囲まれた佐藤先輩。笑ってるけど、顔、ひきつってるし。
こんなときは、まったく関わってこなかったクラスメイトでも、感謝だな。でも俺だって……。
「……今日は大丈夫そうだな」
「はいなのです。……レイ、そんなに羨ましそうに見なくても、わたしたちがいるのです。よしよし」
「そうですわ。レイはこの先、修行を通して実力をつけていけば、みんなの目の色も態度も、嫌でも変わりますわ。『なぜ仲良くしてこなかったんだろう』とね」
シオリはそっと手を握ってくれた。
シオン、シオリ……。
「っ。ありがとう二人とも」
「どいたまなのです」
「ふふ。さあ、件の方はあの様子ですと、しばらく身動きできないでしょうから、私たちは私たちでやらないといけないことに集中しましょう」
「うん。早ければ明日からクラスも変わるだろうしな。でも、油断はしないように。よし行こう」
クラスメイトたちに取り囲まれた佐藤先輩を置いて教室を後にした。
二日目の修行も身体作りが主体で、ヘトヘトになってから組手、休憩。そしてまた身体作りを繰り返す。
昨日と同じ五回目で、今日ももう動きたくなくなったのに六回目が始まったときにはタマちゃんたちが鬼に見えてきた。
あ、前鬼さんと後鬼さんは元々鬼でしたね。
なんとか七回目までこなした。組手相手の前鬼さんには勝てる気がしない。マジで強すぎるだろ。
全部攻撃はさばかれ避けられ、いくらフェイントを入れても、ニヤリと笑う余裕すらあるんだもんなぁ。
ぷるぷる震える手で湯呑みを持ち上げていると――
「ふむ、そろそろ時間じゃな、今日のところはこのあたりで終いのようじゃ」
「あ、もうそんな時間か、帰らなきゃ」
「うむ。明日は一日休みを取るのじゃ。じゃが身体の柔らかさは筋力や体力のように目に見えて高まらんからの、柔軟はやるのじゃぞ」
「うん。わかった」
「むぐむぐ」
「ふう。昨日に増してハードでしたわね。でも、身体の動かし方が少し矯正されるだけで、こうまで動けるようになるとは目から鱗ですわ」
「ああ、それわかる。昨日の組手は『来る!』ってわかっても確実に当たってたけど、今日はだいぶ避けられるようになったもんな」
「蒸しパンうまー」
……確かに前鬼さんと後鬼さんの作った蒸しパン美味しいけどね。
そういえば前のカステラも手作りだったそうだし、多才だよホントに。
……今度教えてもらおうかな、そうしたら家でも作れるし。よく見たらシオリも笑顔で食べているし、覚えて作ってあげたくなってきた。
お茶をのみ終わり、お菓子作りも教えてもらう約束を取り付け、ダンジョンの三階層モンスターハウス前に戻ってきた。
俺たちは、ついでにと思いモンスターハウスで経験値稼ぎをサクっと済ませた。もちろんスキルオーブはでなかったけどな。
だけどゴブリンの動きが今まで見えてた動きとまったく違うように見えた。最小限の動きで攻撃を避け、まだだるさの残る腕で剣を振るう。
それが無駄な力が抜けた攻撃が、面白いように決まり、シオンはもちろん、魔法を使わず杖術で戦うシオリもまったく危なそうな場面もなく倒していく。
たった二日でここまで劇的に変わるとは二人も思っていなかったようで、魔石を広いながら――
『わたしつよつよになってるです。さすがタマちゃん』
『私も体術にはそこそこ自信はあったのですが、こんなに変わるなんて、タマさんたちの教えは素晴らしいですわ』
――と大絶賛だった。
モンスターハウスの余韻を残しながら少しテンションの上がった状態で三階層から二階層へ。二階層から一階層にまで戻ってきた。
「出口まで競争です! よーい、どん!」
「あっ、こらシオン待て!」
「シオン駄目です! 待ちなさい!」
そして一階層、最後の直線に入る角を曲がったとたんに走り出すシオン。
誰もいないことを確認してから身体凶化まで使い加速していく。
「あの馬鹿! レイ、お願い!」
「わかった!」
シオンを追いかけてシオリを一人にしたら意味がない。こんなときはお姫様だっこだ!
「きゃ! レ、レイ! な、何を!」
「任せて! しっかり掴まっててね! 行くよっ! 身体強化!」
ドンと石畳の床を蹴り加速する。
「ひゃあ! 早いですわぁあ!」
シオンも加速しているがシオリを抱っこしたままでも俺の方がずっと早い。
「にょわ! 追い付かれるのですよ! 負けないのです! ぬぁあああー!」
最後の悪あがきか、もっと加速しようとしているがさすがの凶化でも今以上の加速はできなかった。
横にならんで直線が終わり、後は階段だ。
「負 け な い の で す!」
「うおっ、すげえ五段、いや、七段飛ばしで上ってるぞ!」
「だから待ちなさいシオン!」
シオリも少しスピードになれたのか、しっかり首には抱きついているけど、シオンのこともしっかり見ているようだ。
「なら俺も、八段飛ばしで!」
「ひゃあ! レイまでぇえええ!」
思ったより負けず嫌いだったようだ。シオンに数歩で追い付き、その勢いのまま――出口を飛び出した。
物理的に斜め上へ。
「あーい きゃーん ふらーい」
「おわっ!」「きゃぁぁああ!」
地面から十メートル近く飛び上がった俺たちの下で、俺たちを見上げるリバティの四人と、佐藤先輩が見えた。
待ちぶせかよ……。
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