第43話 修羅場?
コンコン
「「――っ!」」
『レイ! 起きてますか!?』
ドアの向こうから焦ったシオリの声が聞こえた。
ビクッとシオンの身体が跳ね、カチと歯がぶつかり、痛さで顔を離したシオンは口に手をあて大きく目を見開く。
痛った……シオリ? え? 何があった? まさか佐藤先輩!?
『レイ! 入っても良いですか!』
シオリの声はひどく焦っているように返事を急かす。これはなにか起こっているに違いない。
「シオリ! シオンならここにいるぞ! まさか佐藤先輩が来たのか」
「レイ! 言っちゃ駄目なのです! わたし裸んぼ!」
「え? あ……」
そうだった! いや、でも、緊急事態だよ、な?
『え? シオンそこにいますの! レイ! 入りますわよ!』
俺の返事を待たず開かれたドア。パジャマ姿のシオリがドスドスと部屋に入ってくる。そして開口一番――
「シオン! ずるい! あ、で、ではなくて心配したのですよ! あのような話を聞いた後にいなくなるなんて!」
ああ、そうか、そうだよな。佐藤先輩が、ここを探しあてシオンを拐う可能性も無いわけじゃない。
「嫌な予感がして起きたら居なくなってるし! 凄く! 凄く心配したんだから! それにレイももしかしてって思って! 心配したんだから! 馬鹿シオン! 馬鹿レイ!」
そう言って抱き合っていた俺たちに飛び込んできた。
「馬鹿ぁー! 馬鹿ぁー!」
「シオリ」
「お姉ちゃん」
俺たちに抱きついたまま、しばらく泣き止まなかったシオリが静かに寝息をたて始めた。
泣きつかれたのもあるだろうけど、修行でも疲れていたのに起きたらシオンがいなかったんだもんな……。
「寝ちゃったのです。お姉ちゃん、よしよし」
俺とシオリでサンドイッチにされてるシオンが器用に手をのばし髪を掬うように撫でている。
「そうだなシオン。こんなに泣くまで心配かけちゃったね」
「はいです。ほんのちょっと反省。ちょっと残念」
それは、正直に言って俺も残念だ。それにいっぱい反省だな。
というよりあの話を聞いたあと、最初から佐藤のことが終わるまで、離れるべきではなかった。
できるだけ単独行動をしないように、ここでも学校でもだ。今夜から同じ部屋に集まって寝るべきだったと思う。
シオンとやろうとしていたこと抜きにしても。
シオンは起こさないようにモゾモゾうごき始め、器用に俺とシオリの間から抜け出し、枕で体を隠しながら立ち上がった。
「どこ行くんだシオン?」
「……このままだと……裸んぼだと風邪引いちゃうからパジャマ着てくるです」
「あ、そっか、本当はちょっとでも一人になる時間はなくした方がいいから、俺のスウェット貸してもいいけど……俺のなんか着るの嫌だよな。シオン戻ってくるよな?」
「……それはそれで魅力的なのです……でもパンツないのでやっぱり着替えてくるですよ。それまでお姉ちゃんのおっぱい触っててもいいですよ? おっきくてやわやわプリンで気持ちいいのです」
寝てるのにそんなの勝手に触らないよ! でもそんなに柔らか……っ! ダメダメ!
そんな葛藤をしているうちにシオンがドアを開けたままにして部屋からいなくなっていた。
五分もせずに戻ってきたシオンはシオリを俺とで挟むようにくっついて横になる。
「これでお姉ちゃんが起きても大丈夫なのです」
「だな。じゃあ寝るか」
「む~。仕方ないのです。お姉ちゃんのおっぱいで今日のところは我慢しておくのですよ。ほらレイも片方貸してあげます」
シオンが俺の手を取り、シオリのその豊満な、シオンとは正反対の胸を掴ませた。
うわぁ~、柔らかい。なんだこれ、シオンが言ってた通りだ。おっきくてやわやわプリンだ。ぷにぷにプリンだ。
「ぬふふふ。わたし自慢のお胸様なのですよ」
「あ、ああ。これは確かに自慢できるな。ってこの胸はシオンのものじゃないだろ」
「わたしのものはわたしもの。お姉ちゃんのものはわたしのものと言って過言ではないのだよレイ」
「いやいや過言だからね。って勝手に触ってたら怒られるからな」
ちょっと名残惜しいけどシオリのお胸様から手を離し、仰向けになって天井を見る。
……幸い住んでいるところ、学園のクラス、探索者パーティーと同一の居場所のお陰で単独行動は最小限に抑えられる。
だけど、佐藤先輩は御三家と呼ばれる権力をもった家の者だ。
それは山本先輩と聖一もだけど、佐藤先輩の拉致未遂と、聖一のスタンピード。本当ならテレビなんかで大々的にニュースになっていてもおかしくない。
……いや、ならない方がおかしいよ、佐藤先輩の方は百歩ゆずって権力を振りかざせばあるのかも知れない。けど聖一のスタンピードは違う。
……どう考えても一歩間違えれば町が壊滅していてもおかしくなかった事件だ。
……それなのに一度も報道されることがなかったのは、御三家が報道規制したと高橋さんが言ってた。納得はみんなしていなかったけど。
………………こんなこと考えていても、横で眠るシオリの体温と、シオンもあわせた二人の寝息に意識が持っていかれる。
シオンが部屋に来てからずっと激しい鼓動がうるさいくらいだ。
顔だけ動かして目の前のシオリの横顔を眺めてしまう。目じりに常夜灯のオレンジ色が反射されている涙のあとを見つけそっと指でぬぐっておいた。
もう流させたくないな。流すのは嬉し涙だけにしてあげたい。そう思うだけで体温がまた上昇するのがわかる。
………………俺……寝れるのか?
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