第33話 ダンジョンの外では……

 sideお姉さん


「何も出てきませんわね」


「ひまなのです」


 レイがダンジョンに入ってからすでに一時間。何も動きがありません。確かに何もすることができないので暇ではあるのですが……。


 シオンは少し気を抜きすぎですわね。あちらの職員は苛立っているようですが。


「くそっ! まだ来ないのか――あっ、あれはヘッドライト! 来た! やっと来やがった!」


 思ったより早い到着のようです。探索者ギルドも、スタンピードと聞いて急いでくれたのでしょうね。


 そう、思っていたのもつかの間。ダンジョン前に止まった車はどう考えても大人なら四人しか乗れないような乗用車。


 どう言うことですの? もしかしてSランクのパーティーが来てくれたのかしら。


 ですが降りてきたのは四人の男性で、おおよそ探索者の装備ではありません。


 みな同じ黒のスーツ姿で、かろうじて腰にロングソードが吊るされていることが救いであるようにさえ思える。


「こっちだ! 聖一様が入ってからもう二時間は経ってる! 急がないとまずいぞ!」


「報告ご苦労。これより聖一様の捜索と保護のため向かう。その旨成瀬家へ報告を頼む。それと――」


 あら? 何か話がおかしな方向に……


「ああ。ギルドには連絡するな、だろ? わかってるさ」


 え? ギルドに連絡するな? 


「あなたたち! ギルドへ連絡するなとはいったいどう言うことですか! ギルド職員のあなた! 先ほど連絡したのではないのですか!」


「なんだこの小娘は。邪魔だ、お前が始末しておけ。俺たちは急ぐ。行くぞ」


「任せとけ。聖一様を頼んだ」


「ちょっと待ちなさい!」


「ぬぅ。なんだか話がおかしいのです。おじさんギルドに電話してないのです?」


「ああ、そういやそうだったな。残念だがするわけ無いんだなこれが。あの時したのは成瀬家の暗部にだけだ」


 暗部とはいったい……。いえ、それを考えるのは後ですわ。今は――


「そんなことが許されるとお思いですか! スタンピードが起こるのですよ!」


「本当は秘密なんだがな、スタンピードが始まってるんだろ? ならもう言っても大丈夫だな」


 シオンも何か感じ取ったのか、鋼鉄製のメイスを構える。


 私も杖を握り、いつでも魔法が唱えられるように魔力を練り始めたその時、飛んでもないことを聞かされた。


「スタンピードが起きた? 当然だ。起こそうとしていたんだからよ。元々御三家が計画していたんだが、少々予定日が早まったってことだ」


 なんて言いましたの? スタンピードを計画していた?


 御三家といえば佐藤、山本、成瀬。その三人がうちの学園に通っていることも知っている。


「ん~、そんなことしたらたくさんのモンスターが街とか壊しちゃうのです」


「くくっ、その通りだ。家が壊れ、道が壊れれば次はなにをしなきゃならねえかわかるだろ?」


「直さなきゃ駄目なのです」


「ほほう。嬢ちゃんは賢いなぁ。褒美に好みじゃないが、死ぬ前に気持ちいいこと教えてやろう」


「ぬぅ。その言い方、えっちな感じがするのです」


「シオン。この方はそのつもりのようですわよ」


「むぅ。わたしはそんなのおじさんに教えてもらいたくないのです!」


「同感ですわ。シオン。少し、この方をこらしめなければ駄目なようです」


「こらしめるだ? こんなEランクダンジョンでレベル上げしてる奴らが? それもお前は体が不自由そうじゃないか。こう見えても俺はCランクだぞ? お前ら程度、十人いようが負けるいわれは無いんだよ」


 なんの構えもなく、無防備に近寄ってくる職員。体調が万全なら、魔法職の私でも良い勝負ができるかも知れない。そんな動きです。


 それに、今日見たシオンの実力でもまず遅れを取ることはないでしょう。


 チラとシオンを見ると、鼻の穴をすぴすぴ言わせながら、今にも飛びかかりそうです。


 ふふ。そうですね。私まで冷静さをなくせば勝てる状況もひっくり返されるかもしれませんでした。


 こんなときのシオンにはいつも助けられていますね。でしたら――


「シオン。全力で良いですわよ。そのかわり手か足にしておきなさい。胴体だと万が一があるかもしれませんし」


「お姉ちゃん、わたしに任せるです! 行くですよ! 凶化! なのですよ!」


「はは! か、なら俺も強化! できるんだよなぁ~、ほれ頑張れ、ちゃ~んと狙って来るんだぞ~。すぐにヒイヒイ言わせてやるからよ」


 さらに卑猥な顔で、シオンを手招きする職員ですが――


 ドンッ!


 踏み固められた地面が足の形に凹むほどの脚力で飛び出したシオン。


「せーのっ! 外角低め! ほーむらんっ!」


 そして土煙を上げながら野球のバットを振るしぐさで滑り込み、職員の右側で、勢いを殺さずバットを振り抜いた。


 うそっ! 速い! 職員はなんの反応もできていませんわ!


 メキョッと、あまり聞きたくない音を立て、メイスを受けた右足が曲がっては駄目な方へ曲がっていました。


「ぎゃあぁあ!」


 思い切りとか言わない方が良かったかもしれません。


 ですが、これでダンジョン前の邪魔物は消せました。次は――


「やったのです! お姉ちゃんギルドに電話なのですよ!」


 ――そうでした。


 スマホを取り出し、解約せずにいてよかった。病院での暇な時間を潰すことにも役立ちましたし。


 私はまず探索者ギルドへスタンピードの報告を済ませ、全日本技術研究所にも連絡を入れるため、アパートの管理人さんに連絡を入れたのですが。


『は? スタンピード? それでレイが突っ込んで行ったの?』


「はい。そこにいた知り合いの方がスタンピードの対応に一人で残ったため、――」


『助けに戻った、か。ほんとアイツらそっくりね。まったく。Eランクダンジョンね、わかった! こちらでも人数集めて向かうから、あなたもシオンもそこでじっとしていなさい! 良いわね!』


「は――ぃ。切れてますわ……」


「にゅ? 管理人さん来るのです?」


 私が出したロープ。分銅が付いた、たまに使う武器を使い、先ほどから痛みで気絶した職員を縛ってもらっているのですが……。


 シオン、せめて足が変な方向に曲がったままぐるぐる巻きにするのは許してあげてもよかったのですよ……。


「え、ええ。人も集めてくださるそうよ」


「おお! じゃあお姉ちゃん、おやつ……」


「そうね、飴くらいにしておきなさい」


 そういうと、にぱっと笑い、ロープの端と端を結びつけた。


「ぎゃあぁあ!!」


 あら、気絶からさめたようです。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 side管理人


「出るのが遅い! 高橋! 急いでEランクダンジョンへ行くのよ! 私も行くから向こうで合流! スタンピードだからしっかり現役思い出して来なさい!」


『は? スタンピード? ちょ、おま、何――』


 よし、高橋を巻き込めれば、スタンピードだし、良い戦力になる。それにたまには体を動かさなきゃ鈍るからね。


 さて、私も準備して急ぐとするか。

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